毎年7月発売号の分冊付録「CGプロダクション年鑑」と共に、年次企画として実施している「CGWORLD白書」(今年も鋭意準備中なのでお楽しみに!)。デジタルアーティストの実態調査を主とした本特集では、その年ならではのトピックも織り込んでいます。デジタルアーティストのキャリアパスも多様化してきた昨今。昨年はその一例として、デジタルアーティストからスタートして現在では作品全体の監督業にも携わるお三方に、それぞれのスタンスや業界に対しての思いなど、大いに語っていただきました!
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 204(2015年8月号)からの転載となります

INTERVIEW_ks
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
ロケーション協力_cafe terrasse verte 東京都武蔵野市中町1-14-5

<1>三者三様の監督への道のり

CGW:まずは、改めて皆さんがどのようにして監督になられたのかについて、これまでのキャリアをふり返りつつお聞かせください。

森田:学生のころから監督をやりたいと思っていて、そこにちょうどラッキーな時代が重なったんですね。具体的には、PowerMac G3の登場とLightWave 3Dとの組み合わせで、学生でも3DCG映像を制作できる環境が整った頃。今までは「こういう作品をつくりたい」というイメージがあってもどうして良いかわからなかったんですが、「3DCGだったらできるんじゃないか」と。そんなとき水崎(淳平)さんと桟敷(大祐)さんに出会って神風動画の前身になるチームが起ち上り、映像制作をしていました。ただ、当時の作品は尺も30秒とか短くて、絵コンテも用意していなかった。絵コンテも描いてつくった短編は、『MARS BRAT』(※1が最初かな。今は亡きアーサー・C・クラーク氏の原作で、神風動画で制作したんです。

※1:『MARS BRAT』(2002)アーサー・C・クラーク原作のフルCG短編。NHK衛星ハイビジョンスペシャル『火星はぼくらの惑星だ!』の1コーナーとして放映された

  • 「CGWORLD白書」特別企画・CG現場出身ディレクター座談会
  • 森田修平/Shuhei Morita
    1978年生まれ、奈良県出身。合同会社「YAMATOWORKS」代表。アニメーション監督作の代表作としてOVA『KAKURENBO』(2005)、OVA『FREEDOM』(2006~2008)、OVA『コイ☆セント』(2010)がある。2012年、オムニバス映画『SHORT PEACE』の一編として監督した『九十九』にてアヌシー国際アニメーション映画祭2012短篇部門および第86回アカデミー賞短篇アニメーション部門にノミネート。昨年3月までTVシリーズ『東 京喰種トーキョーグール』、『東京喰種トーキョーグール√A』の監督を務めた
    yamato-works.com

宮本:ああー! 観たことあります。火星でバスケするやつですよね。

森田:そうそう。大学卒業してまずSTUDIO4℃に入ったんだけど、これまでCGをやってきた自分が「監督やりたい! 世界観つくりたい!」なんて言っても、スタジオとしてはCGスタッフにせざるを得ない。そんな中、神風動画に『MARS BRAT』の話が来て、その監督をやらせてもらえることになった。それで「監督できるので辞めます」って言ってつくったのが『MARS BRAT』。その後もアニメの監督としてやっていきたいと思っていたんだけど、ある現実に気づくわけ。要は、アニメの監督というのは普通「制作進行→演出→監督」か「作画→演出→監督」といったキャリアパスを経てなるもので、CGをやってきた自分はそこから外れているなと。「あれ......今から制作進行や作画に戻ってたら、監督になれるのはいつなんだろう?」みたいな感じで、道を間違ったことに気づいた。

一同:(笑)

森田:でも、監督になる方法なんてわからなくて。で、無知だったから逆に良かったんだけど、ここは一発、先に「監督作品」と言えるものをつくっちゃえと。それでダメだったらスタジオとかに就職すればいいや、みたいな(笑)。それで500万ほど借金してスタートしたのが『KAKURENBO』。そのときにコミックスウェーブさん(※2との出会いがあったり、その後『FREEDOM』の監督に選ばれたり、という感じで監督としての仕事を増やしていきました。

※2:コミックス・ウェーブ クリエイターのマネジメント、アニメーション映画の製作・配給などを行う。1998年設立。現「コミックス・ウェーブ・フィルム」の前身

宮本:僕は高校生のときに放送部に所属していて、実写の自主製作映画を撮ったりしてたんです。当時漫画がものすごく好きで、すでに絵を描く職に就きたいとは思っていたんですが、物 量を考えると映像・アニメの方面は絶対無理だなと思っていました。そんなときに『MARS BRAT』を観て。僕、実はあれ観て専門学校行こうと思ったんです。

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  • 宮本浩史/Hiroshi Miyamoto
    1985年生まれ。兵庫県出身。スクウェア・エニックス、Production I.Gを経て2010年東映アニメーション入社。Pythonも絵コンテも書けるアニメ監督を目指し奮闘中。東京ワンピースタワーのアトラクション映像(『ルフィのエンドレスアドベンチャー』内で上映)監督、『スマイルプリキュア!』&『ハピネスチャージプリキュア!』CGディレクション、映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』キャラクターデザインなど、リアルからセルルックまでジャンルを超えた作品づくりに挑戦している
    www.toei-anim.co.jp
    cieloblog.blog75.fc2.com

森田:ええ!?

宮本:『MARS BRAT』で、CGってこんなこともできるんだと知って、やってみたくなってCGの専門学校を探し始めました。まさか森田さんが監督だったとは(笑)

森江:すごいですね(笑)心の師弟関係じゃないですか。

宮本:それからスクウェア・エニックスProduction I.Gでモデラーとして経験を積んだんですが、その中で演出・監督への思いを募らせる出来事がいくつかあって。東映アニメーションには、入るときから「監督になるために来ました」って言っていました。そうして『スマイルプリキュア!』のエンディングディレクターや映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』のキャラクターデザインをやらせてもらったりした後、東京タワーでのイベント用に『ワンピース』の5分ほどの映像を監督させてもらいました。それが好評いただけたみたいで、今は秋に上映される劇場版プリキュアの、フルCG中編の監督をやらせていただいています。

宮本氏がキャラクターデザインを担当した映画 『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』/メイキング動画&予告編
©2014 車田正美/「聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY」製作委員会

森江:ついに映画監督デビューということですね、羨ましい! ちょっと悔しいですね。

森田:森江くんは、『FREEDOM』の頃の印象では、後半くらいから監督やりたいんだろうな、とは思ってた。

森江:...... 全然考えていなかったですね、『FREEDOM』の頃は。もともと単純にCGが好きで。僕らの中学・高校時代ってCG作品が大量に出始めたころじゃないですか。『ジュラシック・パーク』や『トイ・ストーリー』なんかのCGが好きで、CGを学ぶための学校に進みました。就職後、たまたま『FREEDOM』に参加して森田さんの下につくことになったんです。そこから、「CGが好き」がどんどん「アニメーションが好き」、「映像が好き」になっていって。それが「監督になりたい」になったのは、2009年頃からの一連のMVをつくっていた時期ですね。CGディレクターとして、監督のイメージを映像化するために地獄みたいな生活を送ってつくり上げても、基本的に脚光を浴びるのは監督です。それが悪いということではないんですが、CGばかりやっていてはスポットライトが当たることはほとんどないなと。それと「やってみたい」という衝動とがあって『Express』(※3という作品をつくり、そこからMVやCMの監督をやらせていただくようになりました。

※3:『Express feat. Silla(múm)』(2012)HIDETAKE TAKAYAMAの楽曲と共に公開された森江康太監督のMV。宮沢賢治「銀河鉄道の夜」のその後を描く

宮本:すごく共感できる話ですね。映画『ホッタラケの島 ~遥と魔法の鏡~』に参加しているときにちょうど似たようなことがあって。主人公のモデリング作業が難航していて、自分が必死に落としどころを見つけて、モデリングからフェイシャルセットアップから相当がんばったつもりではいたんですが......やはり、キャラクターデザイナーが作家であり、CGはただそれを基に作業しただけ、という空気が何となくあって。でも「これどうやって変えたらいいんだろう......」というのはわからなくて、「だったら俺がそこにいくか‼」って思ったのが、ひとつ大きな転機でしたね。

森江:僕の場合で付け加えると、CGアニメーターという立場から監督になったケースって珍しいじゃないですか。それで、とにかく自分が最初にそれになるんだ、という思いはありました。

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  • 森江康太/Kohta Morie
    トランジスタ・スタジオ所属。ディレクター/CGアニメーター。本誌にて連載中の「アニメーションスタイル」著者。CGアニメーターとして「FREEDOM-PROJECT」などに参加し、現在放送中のNHKスペシャル『生命大躍進』などでアニメーションディレクターを務める。また、ミュージックビデオやCMなどでディレクターとしても活動中。2015年は、アニメーションCMとして話題を呼んだ京都学園大学のCM第2弾がオンエア。そして、今年のはじめにはYouTubeで公開されるとたちまち100万回視聴を突破したオカモトゼロワン『恐竜篇』で注目をあつめた。 www.transistorstudio.co.jp
    cargocollective.com/KohtaMorie

宮本:実を言うと、森江くんが『Express』を発表したとき、すごく悔しかったんです。同世代に先を越された! って......いや、先を越されたのはいいにしても、僕自身が「すごく良い」と思ってしまって、ハンカチかむような気持ちで観ていました。きっと、これをつくっていたときの気持ちの懸けかたは尋常じゃないものだったろうなって強く感じて。やはりそれくらい気持ちを注ぎ込める作品に出会えるというのはすごく幸せなことだろうなと、それが悔しかった。

森江:最大の褒め言葉ですね。

宮本:いま監督している作品は自分にとってまさにそういう作品で、休みの日でも頭から離れないから、「休んでいられない、会社行こう!」となる。信頼できる仲間たちと、今しかつくれないような熱い気持ちで取り組んでいて、そういう熱量は絶対フィルムに焼きつくと思うんですよね。そういう作品に出会えたという幸せを、つくりながら実感している最中です。

CGW:森田さんはほかのお2人とちがい最近作『東京喰種トーキョーグール』まで基本的にアニメ作品を手がけておられますが、やはり"アニメの"監督を目指されていたんでしょうか?

森田:そうですね。もともとSF映画が好きなんですが、VFX大作みたいな観点でいうと日本と国外の差を考えざるを得ない。一方で、アニメは案外それに負けていない映像をつくっていると思っていたので、そういう作品をつくっていきたいなと思っていました。あとはもちろんアニメが大好きだったし、ジブリ作品の影響を受けていたというのもあります。

森田氏が監督を務めたTVアニメ『東京喰種』/Blu-rayBOX発売決定CM
©石田スイ/集英社・東京喰種製作委員会

宮本:僕も、ミーハー心もありますが宮崎 駿監督ってものすごく大きな存在だと思います。特に、インタビューやドキュメンタリーを見ていても、監督をしながら同時に現場の作業もする。ちがうと思ったら自分で直したいというスタンスの方ですよね。自分はCGでそれをやれる監督になれたらと思っています。

森江:それ、とてもよくわかります。監督もしながら実作業者としても強いというのにはある種の格好良さを感じます。『FREEDOM』の頃の森田さんもそんな感じがあって、なんだかんだでアニメーターとしても一番上手い。プロジェクト参加当初、提出したものを目の前で直されたりするんですが、直した後の方がずっと良くて。まあグウの音も出ないですよね、監督が手を動かせるというのは。

森田氏が監督を務めたアニメ『超機動街区 KASHIWA-NO-HA』/第一話『The Gate Tower』(三井不動産レジデンシャル)
©Mitsui Fudosan Residential Co.,Ltd. All Rights Reserved.

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大衆性と作家性のバランスをどう取るか

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<2>大衆性と作家性のバランスをどう取るか

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  • 「作家として取り組める作品と
     集団でつくっていく作品と
     両方の側面をもてたらいいなと」

CGW:監督業をしていて、CGの実務経験が活きたことはありますか? または、実務経験を基に、意識していることや気をつけていることなどはありますか?

森江:たくさんありますが、修正指示を出しやすいというのは大きいですね。CG的にどうすれば良いのかを具体的に示せますし、実際に手を動かす側が信頼してくれます。

宮本:コスト感を把握した上で指示を出せたり、もっと良い方法を示せたり、そういう見通しが利くという部分では、やはり実際やってきたことが活きていると感じます。また、やりたい内容が予算的にハマらない、でもどうしても「俺はこうしたいんだ!」というときに、自力で何とかできるというのもあります。例えば、本当はキャラクター3人しか出せないと言われているけど5人出したい! という場合に、自分で2体つくるのでやらせてください、という交渉ができます。

森田:自分に関しては、昔は2人が言った通り、自分が使えることがすごく良いと思っていました。直接作業してみせることができるので、自分の考えていることが伝わりやすい。スタッフが演出に対して「できません」と言ってきたとしても、ここをこうしたらできるじゃん! みたいなやりとりを直接することができる。

宮本:わかります、すごく。

森田:......というスタンスでやってたんだけど、最近はちょっと自分の中で別の意見もあって。要は、「監督は果たして作業者であってよいのか」という問題があって、ひとつの弊害になってしまう可能性に気づいたんです。例えば、作画出身の監督が、どうしても自分の絵に頼ってしまって、演出という面では手薄になってしまうというケースはあると思う。演出というものは、絵がヘタクソでも何でもいいから、作品をいかに面白くできるかが腕の見せどころで、そうではなく実務者として手が動かせる人というのは、自分がつくれる範疇でしかものをつくれない可能性がある。

森江:それは僕も感じますね。

森田:むしろ実務は何もできなくても「こういう風にしたいんです」ってアイデアを出して、イメージをかたちにしていくところはプロにお任せする。そういう風にしていった方が良いんじゃないかと、最近考えがシフトしてきました。

宮本:自分も、今後演出や監督に注力していきたいと思っている中で、そこはすごく悩んでいるところです。幸いにも信頼できる仲間にたくさん恵まれて、彼らと組んで作品をつくっていくのはとても楽しいのですが、ある瞬間に「直したい!」って思って自分の手を動かしたくなっちゃう。実作業ばかりやっていてはいけないと周りからも言われますし、実際ダメなんだろうなというのは、わかるんです。わかるんですけど......でも、手を動かしたくなっちゃうこの衝動をどうしよう!......みたいな。

森田:気持ちはわかるなあ。ただ、ひとつ大事なのはやはり出来上がった作品に「華」があるかどうか。自分でやろうが、人にやってもらおうが、観た人にしっかりと「好き!」と言ってもらえるような要素が表れていれば良いなと。

宮本:なるほど。

森田:だから自分としては、自分が作家として取り組める作品と、エンターテインメントとして集団でつくっていく作品と、両方の側面をもてたらいいなと。例えば今やってる作品や『九十九』は前者で、自分も現場に入ってガッツリ手を動かす。後者の作品の場合は、自分は監督・演出に徹して、それ以外の部分はしかるべき人たちに任せる。去年ずっとやっていた『東京喰種トーキョーグール』はこっち。それぞれに頭の使い方がちがって、今は両方できるのが楽しいなと思ってる。

宮本:取り組む作品によって使い分ける......自分たちもキャリアを積んでいけば、そのあたりのバランス感覚がわかってくるんでしょうか。

森江:僕個人としては、監督は独裁者であるべきだと思っていて。そうやってつくられた作品は、その人の色が全面的に出てくるんじゃないかと。

宮本:その色が、民主主義的な体制だと薄くなっちゃうんじゃないかとは思いますよね。予算の大きな作品とかは当然、意見を言う権利をもつ人も増えてくる。いろんな意見や思惑が飛び交う中で監督をしなければいけない難しさというのは、今監督している『プリキュア』(※4)や、その前の『ワンピース』でも感じるところでした。

※4:2015年10月31日(土)から全国で上映された映画『映画Go! プリンセスプリキュア Go!Go‼豪華3本立て!!!』の一編、『プリキュアとレフィのワンダーナイト!』のこと。

CGW:興味深いお話ですね。

宮本:宮崎監督であったり新海 誠監督であったり、ひとりの作家が中心になってつくる"濃さ"が感じられる作品は僕も好きなので「それってどうなんだろう......」とも思うんですが、一方、そういうようなつくり方で面白くなるものというのも、確実にあるんだなと思いました。人の話を聞きすぎるとどんどん作家性が薄れていっちゃうんですけど、聞かなさすぎると大衆性が薄れてしまう。そこのバランスは重要です。プリキュアは大衆性に加えてさらに「子供向け」という要件があって、子供に対して"悪"であってはいけないし、わかりやすいものでなくてはならない。最初に描いた絵コンテはわれながら「すごく面白いものができた!」という出来映えだったんですが、いざチェックに出してみると「これはやめて」、「プリキュアの設定ではこれはNG」みたいなのがいっぱい返ってきて。「絶対自分のアイデアのままの方が面白かったのに!」ってすごく悔しくて、くそっ! って思いながら直すんですけど、そうしてできたものをつないで観てみたら「......面白いな、これ」って。

一同:(笑)

宮本:実際とてもわかりやすくなったと思うんですよね。それが大衆性なのかなと、すごく勉強になりました。

<3>「知らないことは知らない」と認めることが大事

CGW:デジタルアーティストから監督になったとき、経験が活きた部分についてお伺いしましたが、逆に苦労した、こういうスキルが足りなかった! といった部分はありますか?

宮本:音を仕切るのって、すごく大変だなと思いました。いまやってるプリキュアで、新米監督として声優さんに指示を出すというのがちょうど先週あってですね。いま思い出してしまっているんですけど......その、緊張のあまり、吐きましたね......。

森江:うわあ......。

宮本:東映アニメーションでは伝統的に「演出担当が音響監督をやる」というスタイルで。『ワンピース』をやったときは、さすがにド新人でわからないだろうと、音響監督を立てていただいたんです。なので、ミキサーさんの横に音響監督の方に座っていただいて僕はその後ろ、という体制でした。で、今回の映画もそうなると勝手に思っていたんですが、スタジオに入ると「ここに座れ」って監督椅子を指差されて。完全に想定外で、テンパりまくってもう何も喋れない状態。空気凍りましたね。......30にもなってくると、仕事上ではどちらかというと怒られることよりも褒められることの方が増えてきていたんですが、これほど「こいつ使えねえ」扱いをされたのは久々でした(笑)

一同:(笑)

宮本氏が監督を務めた『映画Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』/予告編
©2015 映画Go!プリンセスプリキュア製作委員会

森田:僕なんかは、音に疎い分、任せちゃおうという気持ちでやっているのと、「テンションシート」というのを用意しています。「盛り上がるところ」、「静かになるところ」みたいなのをカット1から始まってずっとグラフに描いておいて、それを渡しちゃって、口頭ではわかりづらいからそれと一緒に説明する。

宮本:良いですね、今度使わせてもらいます!

森田:今はそうやって任せようとしているからいいけれど、昔は知らない範囲に踏み込んでも「知っているフリ」をしようとしていた。それがある時期しんどくなってしまって、開き直っ て知らないことは知らないですと表明するようになって。もちろん「こいつ、こんなことも知らねえの?」という感じになるんだけど、実はそれはスタートだけのこと。ちゃんと一緒にやっていくと、お互いのものづくりのスタンスがわかってくる。

宮本:そういう、未経験ゾーンに入ったときとか、経験で何とかできる範疇を超えて手に負えないことをやりはじめて、やはりしんどい、キツい......というのが今まで何度かあったんですけど、ふり返ると人間的に一番成長できたのもその頃なのかなと思います。

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「これしかやりたくない」と表現の幅を狭めるのはもったいない

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<4>「これしかやりたくない」と表現の幅を狭めるのはもったいない

  • 「CGWORLD白書」特別企画・CG現場出身ディレクター座談会
  • 「モデリングだけが
     キャラクター表現ではないと感じた」

森田:「なぜCGで作品をつくりたいのか」という質問がよくあるんだけど、確かに、今どきCGでやったから、CGを使ったからといってそれが売りになるわけではないじゃない。で、僕の中で思っているのは、作画と比べてCGを選択する理由として、演出面の幅というのがあると思っていて。例えばカメラの自由度とか。

宮本:ああ、わかります。あとは質感とかルックとかですよね。

森田:作画はどうしても手描きである以上の限界があって、演出の面ではCGと比べれば制限が大きいという側面はある。もちろんそういうときは、作画にCGを組み合わせたりとか、補助としてCGを使ったりとかして演出の幅を広げるということも行われるんだけど。

宮本:自分も、一時期CGから離れてアニメの原画を描いていた時期があったので、両者のちがいはそのとき実感しました。

森田:そうだったんですね、いつくらい?

宮本:東映アニメーションに入る直前なので、ちょうど5年くらい前ですね。『夜桜四重奏』のOVA版第一話で、りょーちもさん(※4)が初めて監督を務めた作品です。ほんの数ヶ月の経験でしたが、あのときの経験が今すごく武器になっていると感じますね。やはり異分野を通過したことで、見えていなかったものがめちゃくちゃ見えるようになった感覚はあります。

※4 りょーちも イラストレーター、アニメーター、アニメーション監督。『夜桜四重奏~ハナノウタ~』(2013)にてTVアニメ監督デビュー

森江:それは羨ましいですね、その経験は。

宮本:そういった2D側の方々から得た知識を3Dに取り込むために、フェイシャルリグの設計も含め色々と開発を行なっています。

森田:やはり作画には独特な表現世界が広がっているよね。

宮本:3DCGには3DCGの幅があるんですけど、それを活かすにはどういう表現が良いかと考えるとき、作画が何十年も積み重ねてきたものがあるわけで、そこから吸収しない手はないと思っているんですよね。

森田:自分はそれが根底にある表現が大好きで、それまではCGを中心にやってきたけれど、何なら作画の監督もやれた方が良いと思って『東京喰種トーキョーグール』では作画を選択しました。「今回はCGの方が」、「これだったら作画の方が」という選択は、作品によって変わるなと思って。

宮本:監督としてそのあたりを使い分けられるっていうのは素敵ですよね。

森江:僕はできるだけアニメ系とかリアル系とか、作品の内容はとにかく幅のある、色々やれる状態でいたいと思っています。「あのスタジオは○○」、「あいつは○○」みたいにはなりたくないなと思って。

森江氏が監督を務めたWEB限定ムービー『アサギマダラの夢』(京都学園大学 2015年度TVCMシリーズ)
©京都学園大学 All rights reserved.

宮本:リアルからトゥーンまで、幅広く色々やっていると、あいだを取れるようになるじゃないですか。それは絶対強みになると思うんですよね。

森江:30歳になったところで、まあ、言ってもまだ30じゃないですか。一方向にまとめにいかずに、幅を広げておきたいなと。

宮本:学生さんで「モデリングしかやりたくありません」、「アニメーションしかやりたくありません」と言う人をよく見かけるんですが、もったいないなって思うんですよね。でも気持ちはすごくよくわかって、実は就職したばかりの頃の自分がまさにそうだったんです。モデリングしかやりたくなくて、漠然と「一流モデラーになるんだ!」って思っていた。で、その呪縛を解いて経験を広げていくきっかけになったのが、実は映画『アバター』なんです。上映当時、僕はアニメが大好きで大好きで、一番アニメにハマっていた時期でした。もうアニメ以外興味ないというくらいの。そんな状態で観た『アバター』ですごく衝撃的だったのが......ネイティリという青い女の子が出てくるじゃないですか。最初PVを観たときは「なんだこの青い猿、気持ち悪い......」なんて思っていたのに、劇場を出るころには「か、かわいい」って(笑)

一同:(爆笑)

森江:わかる! すごくわかる‼

宮本:そのときに気づきましたね。「あ! 演出ってこういうことか!」って。モデリングセクションとか深夜アニメとか、そういう分野を超えて感じられる何かがあるんだと気づいて、そこから、何かを1つに絞るもったいなさを感じるようになりました。

森江:同じような感じで、ピクサーの『ウォーリー』に、イヴという白いロボットが出てくるじゃないですか。

宮本:ああ! かわいいんですよね、イヴ!

森江:メチャクチャかわいいんですよ! 僕、アニメーターとしては『ウォーリー』がピクサー作品の中で一番好きなんです。『カーズ』みたいにぐにゃぐにゃさせないという強い制限の中で、ウォーリーとイヴというキャラクター性をアニメーターが最大限に引き出している。

森田:動きの制限が大きいよね。あれは演出が上手い。

森江:カメラワークも非常に巧みで好きですね。イヴのアニメーションも、途中から「かわいく」見えてくるんですよね。

宮本:女子に見えてきますよね!

森江:見事に女子ですよね。あれを表現できるアニメーターのスキルに圧倒されて、エンドロールで号泣しました。技術に感動して。

森江氏が監督を務めたTVCMオカモトコンドームズ『ゼロワン 恐竜篇』日本語版
©Okamoto Indstries, Inc. All rights reserved.
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<5>ディレクターを目指すデジタルアーティストにひとこと

  • 「CGWORLD白書」特別企画・CG現場出身ディレクター座談会
  • 「"アニメーションから入る"
     のが最もディレクターになりやすい道だと思う」

CGW:最後になりますが、将来的にディレクターを目指したいデジタルアーティスト(CGデザイナー)の方に向けて、何かアドバイスやメッセージ、これをやっておくといいよ、などあればお願いします。

森江:まず1本つくってみるというのは大事だと思います。多分そこが一番のハードルで、そこを越えてしまえば2本、3本と先に進みやすくなるのかなと。なのでまずは5分くらいの尺で1本つくってみて、力試ししてみるのが良いと思います。あと僕はアニメーター出身なのでアニメーターびいきな部分もあるかもしれませんが、「アニメーションから入る」というのが、最もディレクターになりやすい道だと思っています。普段から演出に踏み込んだり、絵コンテを読み込んだり、というのが監督としての作品づくりに直結しやすいんじゃないかなと。

宮本:実際、モデリング出身の自分から見ても同じように思います。CG作業が様々にセクション化されている中で、どこが最も監督に近いかと考えたら、それはアニメーションです。自分がモデリングに注力し続けて、アニメーションをやらずにいたら、多分監督になれていなかったと思いますね。

森田:確かにそうなんだよね、アニメーターで上手いなと思う人は、やはりそのシーンで押さえるべきポイントがわかっている。ここは目立たせよう、ここは抑えておこう、という。そういう人って、絵コンテとはちがっていても演出上はズレていない、想像していたものとはちがうけどイケてるものを出してくることがある。それは演出を読み解いて芝居を考えてくれているということで、演出・監督という仕事に一番近いんだなと思う。

宮本:あとは、僕は東映アニメーションという大きくて歴史のある会社で監督をやらせてもらっていますが、それは監督やクリエイターであるのと同時に、サラリーマンでもあるわけです。だから、上司やスタッフとの関係や筋の通し方とか、いわゆる一般社会で必要なことが、より明確に組織の中で身につけられた気がします。で、監督になると、外部とのやり取りや様々な方への挨拶など、各所との折り合いをつけないといけないこともあります。純粋に映像づくりに打ち込む以外の時間が増えたり、雑事にリソースを割かなければいけない中で、色々な感情が渦巻く瞬間もあるとは思います。それでも、よりたくさんのお客さんの心に響くものをつくるために、諦めない気持ちを大事にしてほしいと思いますね。

「CGWORLD白書」特別企画・CG現場出身ディレクター座談会



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  • 宮本浩史氏監督作品『映画Go! プリンセスプリキュア Go!Go‼豪華3本立て!!!』(『プリキュアとレフィのワンダーナイト!』)

    Blu-ray&DVD好評発売中
    発売:マーベラス
    販売:ポニーキャニオン
    製作:映画Go!プリンセスプリキュア製作委員会
    アニメーション制作:東映アニメーション
    配給:東映
    『映画Go! プリンセスプリキュア Go!Go‼豪華3本立て!!!』公式サイト
    ©2015 映画Go!プリンセスプリキュア製作委員会

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  • 月刊CGWORLD + digital video vol.204(2015年8月号)
    第1特集「3DCGの未来」
    第2特集「CGWORLD白書 2015」

    定価: 2,268円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:152
    発売日:2015年7月10日
    ASIN:B00XVN1OXU