全世界でシリーズ累計1億1,500万本以上の売上を誇る『FINAL FANTASY』シリーズ。その最新ナンバリングタイトル『ファイナルファンタジーXV』と同じ世界、時間、キャラクターで描かれた劇場アニメーション長編『キングスグレイブ FFXV』が公開される。本作は、単なるゲーム中のムービーを映画の体裁に直したものではない。一歩二歩先を目指したキャラクターたちのリアルな感情表現に挑戦し、 全世界公開のため英語版をマスターとし、ゲーム本編より先に公開となる厳しいスケジュールの中で完成させるべく、約50もの国内外のCGプロダクションをパートナーに迎えている。そのねらいを野末武志ディレクターをはじめとする中核スタッフに語ってもらった。
※本記事は、2016年7月9日(土)発売予定の月刊「CGWORLD + digital video」vol.216(2016年8月号)第1特集『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』メイキングと連動しています
INTERVIEW_奥居晃二 / Kouji Okui
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』本予告
<1>なぜ、映画化なのか
なぜ今改めて『ファイナルファンタジー』(以下、FF)が映画化されるのだろうか。一連のFFXVコンテンツ制作を手がけるスクウェア・エニックス 第2ビジネス・ディビジョン(以下、第2BD)の野末武志ディレクターは次のように語る。
「『FINAL FANTASY XV(以下、FFXV)』というゲームタイトルの開発にあたり、FFというブランドがちょっと世の中に対して認知度を失っているのではないかという ことを考えました。今一度FFをAAAのタイトルにしなくてはいけないよねと。より多くのお客さんにFFというものを思い出してもらいたい。でも、しばらくゲームから遠ざかっていた人たち、そもそもゲームと縁遠い人たちにとってはハードへの初期投資というけっこう高いハードルがある。ですが、僕らには映像をつくれるという強みがある。映像はスーパーマルチプラットフォーム。劇場、携帯、テレビやPCでも観賞できます。そこから接してもらうお客さんを増やしていくための"映画化"なのです」。
野末氏には『キングスグレイブ FFXV』に対 する個人的な思いもあったという。「『FFVII』や『FFVIII』はプレイしたけど、それ以降はやっていない方に向けて、今一度FFを楽しんでも いたいという思いもありました。語弊を承知で言えば、あの頃はFF全盛期ですし、ゲームもより身近なコンテンツとして幅広い層の方に楽しんでもらえた。そこから年数が経って今、当時プレイした方たちも家庭があったり、時間がとれなくなっていたりする。そういう方々にも2時間の映画だったら観てもらえるのではないかと。そして、あの頃はFFの細かい世界観、設定よりも、新しい世界のヴィジュアル自体に驚かれた方も多かったのではと思います。本作もFFらしい、新しいヴィジュアル表現を観ていただきたいという思いでした。一番に目指したのは"感情表現をCGで描ききる"ということです」。
© 2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
しかし、スケジュール面では高いハードルが。「今回はゲームがローンチされてからの映画公開ではなく、先に公開することで、より広い層にFFXVへの興味を抱いてもらうことを目指しました。つまり、絶対に公開を遅らせることができません。そこで様々な外部のプロダクションさんに協力を求めました。僕らにとって映画化はひとつの夢であり、是が非でも実現させたかった。そこで、そのためにも 自分たちはコントロール機能に徹しようと決心もしました。より良いものをお客さんに届けたい、内製に固執するのではなくより広い視野をもって世界中のプロダクションの中からパートナーを探してくことにしました」。本プロジェクトがスタートしたのは2014年、そして一連のプリプロを経て実制作がスタートし たのは2015年夏からだったというから驚かされる。そのため最終的に国内外から49社ほど のスタッフが携わることになった。
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<2>シナリオとキャスティング
短期間で長尺を完成させるために、独特の手法がとられた。それは映画を3パートに分け、パートごとにシナリオを固めて順次制作に入ることである。まずは全体の構成に着手したというが、「とにかく構成をしっかり決めるため、新しい方法を採り入れました。脚本家の長谷川 隆さんに構成の段階から入っていただいています。1回内部で組んだ構成を長谷川さんと一緒に組み直し、さらにLAにあるスクリプトドクターHydra Entertainmentの協力も得 ました。そして構成を固めたら、その後は絶対ぶれないように気をつけました」(野末氏)。
この方法により、シナリオのクオリティを高める ことに最大限時間を割くことができたのである。完成したシナリオは社内のローカライズチームによって英語化された。「ローカライズのメンバーは細かいニュアンスも英語に反映していくことができる。そこはこれまで世界 に向けてお客さんに評価されるものをつくってきたスタッフの力を信じました。そして完成した英語版のシナリオを僕らのマスターとしたのです」。
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本作品では様々な段階でオーディションが行われた。1体のキャラクターのデザイン、 モーションキャプチャ(以下、MC)アクター、ボイスアクターのために別々の俳優が必要になるものもあった。劇中のキャラクターデザインはどのような考え方で進められたのだろうか。「人間の感情表現を突き詰めていくために、もともとあるXV用のデザインからさらにリアリティを高めています。服装や装備については、『キャラクター』ではなく、『衣装』をデザインするつもりでやってくださいとお願いしました。髪型も実際のヘアメイク・アーティストの方に実現可能か検証してもらっています」(野末氏)。その中でも重要な顔には、これ までとは異なるアプローチがとられた。「僕の中のイメージを基に、実際のモデルさんや俳優さんをオーディションし、選定した人を3Dスキャンして、そこからキャラクタライズしました」。
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本作は完全アフレコだが、ボイスアクターの決定にも時間がかけられた。「特に主 人公ニックスの声を演じていただいたAaron Paul/アーロン・ポールさんはドラマでも活躍されている売れっ子なんですが、この仕事を受けるまでにものすごい時間をかけて検討し、脚本を読んで納得した上で参加していただきました。なので、スタジオ に入った瞬間からキャラクターが出来上がっていました。あ、この人の声で本当のキャラクターになったなと」(野末氏)。
本作の表現上のテーマともいえる感情表現を担う顔の表情には、フェイシャルキャプチャが使用されているが、ここには野末氏たちのチームが長年にわたりR&Dを続けてきたノウハウが活かされた。「フェイシャルキャプチャのデータを受け止めるリグの開発に力を入れてきました。2012年頃、すごくリアルなキャラクターに、新しいリグを使用してフェイシャルキャプチャをテストしたものが決め手になりました。もうこれでいけると。それから今までデフォルメモデルが多かったので、あまり成果を披露で きていなかったのですが、その分アップデートをくり返して、今回ようやく、最大限リアルなキャラクターで自分たちのリグを活かすこと ができました」(白石 涉アニメーションSV 兼 マネージャー)。
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<3>全ての工程が同時並行という"禁じ手"
本作の演出では、野末ディレクターの下に3人のユニット・ディレクターが立ち、野末氏が掲げたストーリーテリングを具体的な画づくりへと落とし込む役割を担ったという。「今回は彼らに委ねる面が大きかったですね。3人ともプリビズアーティスト出身で、もう10年近い付き合いの中で、どういう作り方、演出理論でやっていくのかを把握しているので、信用 しています」(野末氏)。
そのひとり、三幕構成で描かれる本作の第三幕を担当した山本和仁氏は次の ようにふりかえる。「プリビズは、ストーリー ボードで固めるところもあれば、協力していただいた外部パートナーさ んと一緒に考えながら決めていくなど、様々な アプローチを使い分けていきました」。
プリビズ実制作で中核を担ったのが米The Third Floor(以下、サード・フロア)である。同社は世界最大のプリビズ・スタジオとして知られているが、どのような経緯で参加が決まった のだろうか。「まずはデモリールで目星をつけながら、様々なプロダクションにメールでオファーすることからはじめました。サード・フロアもそのうちの1社だったのですが、2年前のNYコミコンへ参加する際に野末と僕で実際に見学させてもらい、具体的な相談にのっていただいたことが決め手になりましたね」(白石 氏)。「純粋にこれまでに手がけられたプリビ ズのクオリティがハイレベルでしたし、CGの 利点を活かした表現にもなっていたことがポイントでした。本作の物量に対応できる組織 力も重要でしたが、なによりも代表のクリス・エドワーズさんの人柄も大きかったと思います」(野末氏)。サード・フロアは最終的に約4割の プリビズを担当したという(残りは第2BDやプリビズから一括して担当した外部プロダク ションなどで分担)。
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上述のとおり、約50もの外部パートナーと協業することになった本作。最終的な制作の 進め方を確立するまでには様々な試行錯誤が行われた。まず社内でパイロットフィルムが制作され、作品の方向性やテイスト、クオリティが決められ、必要な技術も洗い出された。目指したテイストはどのようなものだったのだろうか。
「どちらかというと従来までのFFらしさよりも新しいことにチャレンジしようという路線で進みました。ゲームとデザイン設定を共有しているものも多いのですが、ゲームシネマティクスとはまったく異なる画づくりを行いました。『キングスグレイブ FFXV』は、(FFXVと共通の)世界観は守るけれど、映画ならではの利点を活かして新しいことにどんどん挑戦していったので、独立したコンテンツとしても楽しんでもらえるものになったと自負しています」(野末氏)。
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そんな外部パートナーはどのように決まっていったのだろうか。「本作ではV-Rayベースの画づくりを行うことを決めていたので、まずはV-Rayに精通しているのかが大きな指針となりました。これがなかなか難しくて(苦笑)、次第にそれに固執せずに、純粋な表現力や自分たちの考えに賛同してもらえるのかが決め手になりました。また、個人 的にはゲームシネマティクスで培ってきたノウハウの下に映画をつくりたかったので、その分野の第一人者たちにぜひ協力してもらいたいという思いもありました」(野末氏)。
そこで、まず白羽の矢が立ったのがDigic Picturesであった。ハンガリーに拠点をかまえる同社 は『アサシンクリード』シリーズをはじめとする数多のハイクオリティなゲームシネマティクスで知られているが、実は参加にあたっては知られざる"縁"もあった。
「共同創立者のアレックス(Rabb Sándor Alex)さんは、元スクウェア USAのメンバーなんですよ。初期の頃から『ぜひ一緒にやりたい』と言ってくれていました」(野末氏)。パートナー探しでは、第2BDのメンバーたちのこれまでのキャリアにも助けられたというが、FFシリーズというIPの存在も大きかったようだ。
「先方に熱烈なFFファン の方がいらっしゃったりすると『絶対この仕事をとってくれ!』と社内で働きかけてくださったり。こちらが修正のお願いをする前に自主的にブラッシュアップしてくださるスタジオさんがいらっしゃったりもしました。恐縮し つつも本当にありがたかったですね」(内藤 哲 チーフ・デベロップメント•マネージャー)。
野末氏をはじめ第2BDメンバーの多くは同社 ヴィジュアルワークス出身者であるが、これま でに培ってきた画づくりを外部パートナーと 実践していく上ではインハウスツールの外部への提供も行われた。「野末の方針の下、必要 に応じてインハウスツールを外部へも提供していたのですが、円滑なデータ受け渡しを行うための新たなツールもどんどん開発しました。蓄積したノウハウを提供してでも、良いものをつくるんだという決意の表れですね」(北川哲 一郎テクニカル・スーパーバイザー)。
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<4>今後にむけて
多種多様なバックグラウンドをもつ外部 パートナーとの共同制作では、柔軟な考え方が求められた。「基本的には、できるだけ先方の得意な部分を引き出すべく、最小限の指示にとどめることを心がけました。『そうきたか』みたいな面白さもあって、僕の中ではそれもFFらしいなと感じました。『FFVII』とか、ごった煮みたいな面白さがありましたよね」(山本氏)。とは言え、ルックの面では一定基準に揃える必要もある。「全シーンの最終的なグレーディングは第2BDで一括して行なっているのですが、シーンによってはコンポジット工程からこちらで引き取ったりもしています。本当にケー スバイケースでした」(野末氏)。
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海外のパートナーの下へ直接出向くことも多かったそうだ。「シミュレーションまわりの外部マネジメントを担当したのですが、現地でのパートナー探しからツールのレクチャーまで何でもやっていました(笑)」(黒田豊臣デベロップメント・マネージャー)。「インドのパートナーを訪ねたところ『水の問題でレンダリングできない』と言われました。サーバルームが漏水でもしたのかなと思ったら、インドでは水力発電が主 流で、干ばつのときには電力が供給されないことがあることがわかりました。日本での感覚 がまったく通じないことも多々ありましたね」(白石氏)。
最後に今後の展望を語ってもらった。「ここまでリアルなCGキャラクターに演技をさせるというのは、海外でもほとんど事例がないと自負しています」(山本氏)。「クラウドレンダリングを含め新たなツールや プラグインの開発、シーンの構築やデータの転送方法など、課題は尽きませんが、外部パートナーとの共同制作という面では一定の成果を出せたかなと思っています」(北川氏)。「いろいろな意味で初の試みということでオファー時の説得材料が乏しく、協力を得る際になに かと苦労しました。ですが、今後は『キングス グレイブ FFXV』があるので、ぜひ次なるプロジェクトにも挑戦していきたいですね」(鈴木岳雪デベロップメント・マネージャー)。
「アニメーション的にはけっこうやりきったとい う思いと、まだまだ伸びしろがあるなという両 方の思いがあります。今回はフェイシャルの チェックの段階でもV-Rayのレンダリングコ ストがボトルネックになってしまったので(後述)、その効率化にも取り組んでいければ」(白石氏)。
「FFシリーズの新しいコンテンツとして、まったく新しいテイストのものを提示 できたのではないかと思います。第2BDという、ゲーム開発で培ってきたハイエンドなリアルタイムCGを用いて積極的に新たなことに取 り組んでいこうという組織にいるので、映画づくりにもリアルタイム技術を採り入れたりと、今後も先進的な試みを続けていくのでご期待ください」(野末氏)。まずは本作に込められた第2BD本気の度合いを、ぜひ劇場で確かめてもらいたい。
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Management Staff
左から、川島安紀彦 ACT2 UNIT Dir./池上 周 ACT1 UNIT Dir./河田瑠衣 CASTING Pr. 兼 CHIEF PROJECT Mgr.
左から、小材龍平 PROJECT & ACCOUNTING Mgr./恩田彩虹 PROJECT ASSISTANT/高谷 亮PROJECT ASSISTANT/中野友莉 PROJECT ASSISTANT/髙田栄哉 DEVELOPMENT Mgr.
info.
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映画『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』
7月9日(土)全国ロードショー
プロデューサー:田畑 端
ディレクター:野末武志
脚本:長谷川 隆
kingsglaive-jp.com