2016年7月9日(土)、全世界でシリーズ累計1億1,500万本以上の売上を誇る『FINAL FANTASY』シリーズ。その最新ナンバリングタイトル『ファイナルファンタジーXV』と同じ世界、時間、キャラクターで描かれた劇場アニメーション長編『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』が公開された。"FF"というキラーコンテンツの脱構築を目指したと言っても過言ではないチャレンジングなプロジェクトであるが、一連の制作をリードしたスクウェア・エニックス 第2ビジネスディビジョン(第2BD)がビジュアルの指針となるパイロット版を完成させたのは、2015年の夏のこと。そこからわずか1年足らずでこれほどのハイクオリティなCG表現を作りきる上では、約50もの外部パートナーたちの協力も不可欠だったという。この度、本誌が独自に着目した海外の協力プロダクション3社へのメールインタビューが実現したのでシリーズ企画としてお届けしたい。トップバッターは、インドのRIVA Animation & VFXだ。
INTERVIEW_岸本ひろゆき / Hiroyuki Kishimoto
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
Special thanks to SQUREA ENIX CO., LTD.
『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』本予告
<1>ムンバイを拠点に活動するRIVA Animation & VFX
『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV(以下、キングスグレイブ FFXV)』は、総カット数2,368(総尺約110分)で構成されている。一連のビジュアルを観れば一目瞭然のハイクオリティだが、これだけの物量を作りきる上では、海外19、国内30の計49社ものCGプロダクションが制作に参加した(下表参照)。ハイクオリティなゲームシネマティクスで知られるハンガリーのDigic Picturesであれば、序盤の見せ場となるルシス王国の辺境における戦闘シーンを、プリビズから一括して担当。逆にプリビズやパフォーマンスキャプチャなど、専門分野に特化して参加したThird FloorやImaginurimuのように、その協力形態は様々だが、ここに紹介するRIVA Animation & VFXの場合は、アニメーション、エフェクト、ライティング、そしてコンポジットとひときわ多岐にわたったという(後述)。
『キングスグレイブ FFXV』制作に参加した外部パートナーを表にまとめたもの(月刊「CGWORLD + digital video」vol.216より)
RIVA Animation & VFXは、2014年に設立されたインドのムンバイに拠点を置くCGプロダクションだ。社名の通り、CGアニメーションから実写VFXまで幅広く手がけており、同社グループとしてドバイのRIVA Digital、テーマパーク・アトラクションの企画開発を行う米RIVA Creative、そして東京で日本におけるビジネス展開を行うRIVA JAPANから成るRIVAグループの一翼をになっている。
Riva Demo 2016
RIVA Animation & VFX(以下、RIVA)が『キングスグレイブ FFXV』制作に参加したのは、2015年10月から2016年5月までの約7ヶ月間。このスケジュールに加え、エンドロールでは<ACT2 UNIT>(中盤パート)の筆頭にクレジットされていることからは、RIVAは外部パートナーの中でも第2BDとの共同制作を密に行なっていたことが窺える。今回は、そんなRIVAのクリエイティブ統括(Creative Head)を務めるMehul Hirani/メユール・ヒラニ氏に話を聞くことができた。
左から、Mehul Hirani/メユール・ヒラニ氏(クリエイティブ統括、RIVA Animation & VFX)、吉田拓哉氏(RIVA JAPAN代表)
まずは統計的な情報から。RIVAが担当した業務と、参加スタッフ数を表にまとめた(下表)。49もの国内外のプロダクションが参加している本プロジェクトにあって、アニメーションについては456ショットと、全体の2割近くのショットを担当しているなどかなり大きなボリュームを受け持っていると言える。
RIVAの担当業務
- 部門(工程)
- シークエンス数
- ショット数
- Animation
- 32
- 456
- CHF(Cloth, Hair & Fur)
- 19
- 172(734体)
- Lighting / Rendering
- 28
- 274
- Effects
- 13
- 70
- Composite
- 28
- 334
RIVAの参加スタッフ数
- 部門(職種)
- のべ人数
- Modeling
- 4
- Texturing
- 17
- Animation
- 17
- CHF(Cloth, Hair & Fur)
- 14
- Lighting / Rendering
- 7
- Effects
- 7
- Composite
- 5
- CG Supervision
- 1
- Production
- 5
- Technical
- 1
『キングスグレイブ FFXV』のCGアニメーション制作において、RIVAが担当した業務と参加スタッフ数をまとめたもの。非常に幅広い業務を担っていたことがわかる
「多くのシーケンスがRIVAにとって実にチャレンジングなものでした」と、メユール・ヒラニ氏はふり返る。ゼネラリストとして様々なCM、TVシリーズに参加し、フルCGアニメーション長編『Alpha and Omega』(2010年、Lions Gate Entertainment製作)ではクリエイティブ・ディレクターを務めるなど、業界歴20年を越えるベテランだ。
「第2BDから提供されたパイプラインに則した制作は、もちろん初めてのことでした。またこれほどハイクオリティのフォトリアルな表現に取り組むことも、RIVAにとっては大きな挑戦でした」。このプロジェクトを通して各部署が多種多様なノウハウを蓄積することができ、なかでもアニメーションチームは飛躍的な成長を遂げたという。ヒラニ氏の言葉を借りれば、プロジェクトの終盤には第2BDのスーパーバイザー(SV)からも高い評価を得ることができたそうだ。
目指すクオリティ・物量を限られた期間で達成する上では、東京にいる第2BDの各SVたちとRIVAの中核スタッフはいつでもSkypeミーティングが設けられる環境を整えていたという。そして、RIVAから提出された成果物に対する第2BDのチェックが的確かつ迅速であったことも、プロジェクトを成功へと導く大きな要因だったと、メユール氏は語る。
© 2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
先述のとおり、第2BDが構築したパイプラインならびに仕様に基づき制作を進める上では、まずは第2BDから提供されたツールやアセットが正常に動作する環境をムンバイのRIVAスタジオ内に整える必要があった。そこで第2BDのテクニカルチームは、RIVAのテクニカルスタッフと緊密に連携、「言語的な問題も含め、パイプライン設置には大きな努力を要しましたが、要求される品質を満たすためにはクリアせねばならない必須の課題のひとつでした。幸い、第2BDチームの素晴らしいサポートと経験豊かなスタッフの尽力により、無事に環境を整えることができました」。
しかし、それでもレンダリングならびにコンポジットの作業負荷はすさまじいものだったそうで、本プロジェクトを完遂させるべく巨大なレンダーファームに加えて、膨大なデータを東京とムンバイ間で高速にシェアするための専用回線を新設したそうだ。「幸い、ムンバイでも適切な通信サービスとサポートを確保することができました」。
(左)RIVAが入居するビル外観/(右)ムンバイのスタジオ内観
<2>キャラクターアニメーションへのこだわり
RIVAが携わった業務は多岐にわたるが、ここからは質と量の両面において最も大きな労力求められたアニメーション制作の具体例を紹介したい。キャラクターアニメーションにおける技術的なチャレンジのひとつが『松葉杖をつくキャラクターの演技』だったと、メユール氏は語る。
「辺境の戦いで王の剣のメンバーのひとり、リベルト・オスティウム(CV:かぬか光明)は左脚を負傷してしまいます。その後、彼は大半のシーンで松葉杖を突いているのですが、松葉杖は『肩』『持ち手』『地面』という3つの要素それぞれと干渉するわけですが、ピッタリと合わさっていては不自然に見えてしまいます。しかも松葉杖に体重をかけているように見せなければならないので、その制御は非常に複雑になりました」。
中央で松葉杖を突いているのが、リベルト
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つまり、松葉杖とキャラクター、そして地面の関係が完全に固定された状態では不自然だが、体重をかけてみせる程度には緊密に連動して見えなければいけない。そこで担当アニメーターは、受け取ったモーションキャプチャデータを軸に、基本的には3点によるコンストレインでアニメーションの確度を上げつつ、演技用のリファレンスを大量にビデオ撮影し、これを参考にブラッシュアップを重ねたという。
特に、リベルトが怒りをあらわにするというストーリー上でも重要な演技では、それを表現するために微妙な手付けアクション、リップシンクや、呼吸の表現などを丁寧に付与していったそうだ。
上述したリベルトが激しい憤りを見せるシーンのチェック用QT。劇中でも印象的なシーンのひとつだ
もうひとつのアニメーションにおける技術的なチャレンジとして、前半に登場する主人公ニックス・ウリック(CV:綾野 剛)が、リベルトら同郷の「王の剣」メンバーたちと行きつけの屋台で会食するシークエンスが挙げられた。ここでは大量の小道具(料理や食器)がキャラクター間、キャラクターとテーブルを行き来し、さらに着席したままの演技に合わせたClothシミュレーションが求められたのだ。
「キャラクターたちはごく自然に日常芝居をしつつ、その中で小道具を相互に受け渡すために大量のコンストレイン制御が発生しました。また、キャラクターを座らせた上で衣装の干渉・相貫を避けつつClothを制御する必要があったため、非常に細やかなシミュレーション作業が求められました。キャラクター自身と衣類もありますが、同時に椅子とも干渉します。そこでキャラクターは椅子からごくわずかに浮いた状態を保ち、かつちゃんと座っているという説得力を得られるように、布としての自然な広がり方やシワが得られるよう、試行錯誤を繰り返しました」。
ニックスやリベルトが屋台で談笑するシーンより。こうした日常芝居ほど、繊細なアニメーションが不可欠となる
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これら技術面でのハードルのほか、クリエイティブな部分でのチャレンジもあった。代表的なのは、やはりアクションシーンだ。
「基本的には第2BDから支給された全身とフェイシャルのモーションキャプチャデータを基にアニメーション作業を行うのですが、当然ながら現実を超えたアクロバティックな動きについてはイチからキーフレームで動きをつけなければなりません」。
そうした演技については、手付けベースで動きを付けるわけだが、本作で徹底的に追求されたリアリティを損なわないよう、"Believable(信じられる)な画"になっているかどうか、細心の注意をもってアニメーション作業を行なったそうだ。また、演出がリアリティ重視であるかどうかに関わらず、揺れものや小道具類の動きは基本的に手付けベースであり、こちらも物量と相応の精度が求められるハードワークとなった。
RIVAが担当したアクションシーンの例。(上)アニメーションとしての完成形/(下)コンポジットとしての完成形(最終グレーディング前)
先述のとおり、実作業はもちろんのこと、パイプラインやインフラの整備という面でもハードルが高かったという本プロジェクト。それを完遂することができたことでRIVAのスタッフは確かな成長を遂げたと、メユール氏は自信をのぞかせる。
「『キングスグレイブ FFXV』は、われわれにとって大きな躍進を遂げる絶好の機会となりました。そして、インドのCGプロダクションが有する才能を存分に発揮させることができた最高のプロダクトだと自負しています」。
ムンバイのRIVAスタッフたち
info.
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映画『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』
10月1日(土)より、4DX & MD4X版の上映開始!
プロデューサー:田畑 端
ディレクター:野末武志
脚本:長谷川 隆
kingsglaive-jp.com