>   >  日本にフルCGアニメは根付くのか?:第11回:樋口真嗣(映画監督・特技監督)
第11回:樋口真嗣(映画監督・特技監督)

第11回:樋口真嗣(映画監督・特技監督)

日本におけるフル 3DCG アニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。今回は映画監督あるいは特技監督として、多彩な映像作品を発表し続けている樋口真嗣氏にご登場いただく。『ゴジラ』(1984)の怪獣造形で映画業界に入った樋口氏は、実写・特撮・VFX・アニメなどの幅広い分野で、画づくりの才能を発揮してきた。2012年には『巨神兵東京に現わる』、『のぼうの城』(共に監督)、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(絵コンテなど)といった数多くの話題作に携わった樋口氏に、映像表現における3DCGの可能性について語ってもらった。

【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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Shinji Higuchi
1965年生まれ。東京都出身の映画監督・特技監督・映像作家・装幀家。高校卒業後、『ゴジラ』(1984)の怪獣造形に携わることで映画業界へ入る。1984年、ガイナックスへ参加し『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987)にて助監督を務める。1992年、ゴンゾの設立に協力。『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)で特技監督を務め、日本アカデミー賞特別賞受賞。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007)、『破』(2009)、『Q』(2012)では絵コンテ、イメージボードなどで参加。主な監督作品は『ミニモニ。じゃムービー お菓子な大冒険!』(2002)、『ローレライ』(2005)、『日本沈没』(2006)、『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』(2008)、『巨神兵東京に現わる』(短編映画/2012年)、『のぼうの城』(2012年)など。
『のぼうの城』......「第36回日本アカデミー賞」優秀作品賞/優秀監督賞受賞
『巨神兵東京に現れる』......「VFX-JAPANアワード2013」CM、博展映像部門受賞

モデルに命を吹き込むには優秀なアニメーターが不可欠

東映アニメーション/野口光一(以下、野口):2012年は数多くの 3DCG を使った劇場用アニメが公開された一方で、「特撮博物館(※1)」 も開催され、3DCGと特撮が再注目された年だったと感じています。ただ樋口さんのように、3DCG と特撮、さらに実写も組み合わせて表現できる人は少ないですよね。特にミニチュアを使った特撮を操れる人は希有です。そんな樋口さんが 3DCG をどのように使ってきたのか、今日はお伺いしたいと思っています。

※1:特撮博物館
2012年7月10日(火)~10月8日(月・祝)に東京都現代美術館で開催された、「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」のこと。この会場で樋口氏が監督を務めた短編映画『巨神兵東京に現わる』が初公開された。その後、同作は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の公開時にも同時上映されている。なお、昨年11月下旬には国内巡回展の決定が発表され、2013年4月3日(水)~6月23日(日)の愛媛県美術館での『松山展』を皮切りに、各地での開催が予定されている

樋口真嗣(以下、樋口):確かに僕は 3DCG、ミニチュア特撮、そして実写 VFX も経験してきましたが、町場で全部を組み合わせて 1 本の映画をつくろうとすると 3 本分の予算がかかるじゃないですか(苦笑)。大泉の東映東京撮影所(※2) にはひと通りの機能が揃っていますから本当にうらやましい。ここ10年ぐらいずっと、『巨神兵東京に現わる』『のぼうの城』 の特撮の現場でも、特撮研究所 さんにお世話になってるんです。

※2:東映東京撮影所
東京都練馬区大泉学園町にある撮影スタジオで、敷地内には特撮研究所や、東映デジタルセンター、東映アニメーションなどの関連企業も隣接している

野口『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(以下、『ヱヴァQ』) で同時上映された『巨神兵東京に現わる』は、「特撮博物館」で公開されたバージョンとはちがいますよね? つくり直している箇所が数多くあったように思うのですが。

樋口:「特撮博物館」での上映じゃないので、禁止していた 3DCG を使いまくっています(笑)。巨神兵の羽は全て CG です。ほかにも 庵野秀明 さんが色々なリクエストをされましてね、一番強烈なのが爆発によって建物が崩れるカットで、建物の手前が殺風景だったので CG の電柱を追加しました。撮影段階ではピントがぼけてしまうという理由で配置しなかったのですが、後から CG の電柱を合成して、あえてミニチュア特撮に見えるオーバースケールな火花の CG エフェクトも加えています。目指した目標がフォトリアルではなく、ミニチュアワークの再現なので違和感はないはずです(笑)。

野口:3DCG と特撮が良い感じに融合して、ミニチュアっぽさが減っていました。ああいう特撮をつくれるチームは今や数少なくなりましたよね。

樋口:ミニチュア撮影ができるチームを抱えているのは、いまや特撮研究所と白組ですね。あとはその都度フリーランスのスタッフを集めることになるので、スタジオを借りる必要もあってコスト的に割高になりがちです。多くを望まなければ、CG の方がコストが抑え込めるんです。あくまでも "多くを望まない" という大前提ありきなんですけどね。

樋口真嗣ポートレイト1

 

野口:そんな 3DCG も、作画アニメからみればコストが高くて面倒くさいから、作画で良いじゃないと思われがちな気がします(苦笑)。

樋口:3DCG ならではの独自性を追求して、作画アニメのキャラクターと真っ向から戦おうとすると、分が悪いように思います。作画アニメよりも魅力的なキャラクターを要求されるわけですから。昨年ヒットした『ヱヴァQ』にしろ 『おおかみこどもの雨と雪』 にしろ、実は 3DCG を随所で使用しているわけじゃないですか。でもキャラクターだけは誰かの絵(作画)なのですよ。観客はその絵じゃないと心が動かない場合が多い。

野口:奇しくも、共に貞本義行さんの絵(キャラクターデザイン)ですね。

樋口:そこにヒントがあるように思いますね。もしかしたら、作画のキャラクターだけは守るべきなのかもしれない。そのキャラクターの背景が 3DCG だったとしても、違和感はないわけですよ。だったら、無理して一番不得意な部分に挑戦しなくても良いのではないかと思います。

野口:樋口さんがフル 3DCG アニメをほとんどつくっていない理由は、その辺にあるのでしょうか? 2002年に監督をなさった 『ミニモニ。じゃムービー お菓子な大冒険!』 の 3DCG は、当時としては良くできていて印象に残っていますよ。

樋口:ありがとうございます。ただ、興行成績は良くなかったですけどね(苦笑)。あの時CGをやった中心スタッフは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの CG に参加してますからね。

野口:非常に面白いエンターテインメント作品に仕上がっていたのですけどね。しかも CG 黎明期の勝算のない時代に、60分弱の長編をつくってのけた。僕は制作前に絵コンテを拝見していたのですが、こんな表現が本当にできるのかなって疑問に思っていたのです。でも樋口さんは 東京中の CG プロダクション(※3) の人たちを引っ張って、完成までこぎ着けた。制作を開始する以前に、どの程度の勝算をもっていたのでしょうか?

※3:東京中のCGプロダクション
『ミニモニ。じゃムービー お菓子な大冒険!』の 3DCG 制作には、小学館ミュージック&デジタル エンタテインメントオー・エル・エム デジタルシンクタツノコVCRポリゴン・ピクチュアズなど、当時東京に設けられていた多くの有力 CG プロダクションが携わった。 註:特撮研究所も 3DCG を担当

樋口:勝算なんてありませんでした(笑)。大した計画もないまま、協力してくれそうなプロダクションにカット単位でばらまいて、優秀な人たちのパワーに助けてもらったわけですよ。黎明期の無法地帯だからできたのだと思います。パイプラインの概念もない時代でしたから、画のクオリティは「誰が担当するか」で大きく左右されましたね。例えばポリゴン・ピクチュアズの場合、塩田周三さんや野口さん(※インタビュアーの野口光一氏は当時ポリゴン・ピクチュアズに所属していた)が面倒をみてくれた途端に、レイアウトもアニメーションも凄く良くなった。結局のところ、個人のセンスや才能、芸にかかっていたわけです。

野口:今も状況は変わらないような気がしますね(苦笑)。

樋口:そうだと思います。僕に限らず、演出家は「こうしてほしい」というライン以前に、「こうあって当然」というラインがあるのです。そこに届く画をつくってもらえるかどうかが、当時は凄くストレスになっていました。同じ会社のなかでも、誰にお願いするかでクオリティは変わってくるじゃないですか。何人かの優秀な個人の力が僕を助けてくれたことを今も覚えていますね。

野口:作画アニメと同様に、3DCG アニメも個人の力量に左右される部分が大きいと。

樋口:3DCG を使い始めた当初は、同じモデルデータを使えば同じクオリティの画ができるはずだから、きっと管理しやすくなるだろうって多くの人が期待したと思うんですよ。でもモデルに命を吹き込むには、ちゃんとしたキャメラポジションとレンズの選択といった画面構成と、アニメーションが必要なのです。たとえ 3DCG であっても、アニメーター個人の腕次第で、びっくりするくらい力のあるカットになる場合もあれば、そうではない場合もある。そこを平均化しつつ底上げするためには、CG アニメの制作でも作画監督のような役割の人を立てる必要があるのだろうと思います。

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