今回は、多くの読者が強い関心を抱いているであろうキャラクター制作について解説する。ハーロック、ケイ(有紀 螢)、ミーメ、ヤッタランといった、松本零士が創り出した強い個性を放つキャラクターたちが、いかにして3DCGキャラクターとして"リブート"されたのか、プリプロから本制作までインハウスツールやワークフローを基にみていく。
© LEIJI MATSUMOTO / CAPTAIN HARLOCK Film Partners
映画『キャプテンハーロック』
2013年9月7日(土)全国ロードショー、原作総設定:松本零士/監督:荒牧伸志/脚本:福井晴敏、竹内清人/アニメーション制作:東映アニメーション、MARZAANIMATION PLANET
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section 01 Art
実はかなり様式化されている本作のキャラクターデザイン
背景やプロップと同様に、キャラクター制作においてもMARZA ANIMATION PLANET(以下、MARZA)のアートチームが3DCG作業を効率的に進める上で大きな役割を担ったという。そして、その象徴と言えるのがキャラクターチームとの密な連携によって実現した「マケット」の制作であった。
1体目のマケット制作には半年を費やした
キャラクター制作においては、まず箕輪 豊コンセプトキャラクターデザイナーが描いたベースとなるキャラクターデザインを基に、上野拡覚アートディレクターが中心となり、3DCG制作向けのディテール追加やマケット制作の監修を担当。マケットとは、身長やシルエットなどキャラクター制作時の指針となるコンセプト3DCGモデルで、MARZAでは主にZBrushでスカルプトされたものを静止画として描き出し、アートチームが2Dベースで色やディテールを重ねるというながれで制作が進められた。
「フォトリアル路線と言っても、キャラクターデザイン自体は原作を踏まえた上で箕輪さんが描かれた独特のシルエットなんですよ。そこで、そのデザインを3DCGキャラクターに反映させるための橋渡しとなる資料が必要になったのです」と、上野氏はふり返る。
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CGWORLD短期連載/戦記『キャプテンハーロック』(第4回)特製トレイラー
キャラクターデザインの具体的な特徴としては、頭身は高いが実は胴が比較的長めで、細い腕と広い肩のメリハリがあり、手も大きめといった、松本零士先生が描かれた原作キャラのテイストを踏襲したものだったそうで、そうした特徴を損なうことなくディテールを設定することを心がけたそうだ。また、本制作に入った後も髪の毛のボリュームで印象が変わってしまったり、服を着せるとシルエットが変わってしまったりといった問題も発生したという。
「ですが、そうした問題に直面したときでもマケットの存在が大きかったですね。迷ったときに確かな基点になってくれたので、出口の見えないまま試行錯誤を繰り返すといった無駄を極力排除できたと思います」(上野AD)。
そのほかにも衣装デザインのディテールを設定する上では、「サーフェイシングパケット」と呼ばれた質感やディテールに関する資料を作成。さらに森賀宏治リードアーティストが「スタイルガイド」と呼ばれた資料を作成し、ジッパーや靴の先端形状、腕章、階級設定なども細かくデザインすることでキャラクターモデリングの効率化を支えたという。「ほとんど見えないと思うのですが(苦笑)、実はアルカディア号クルーの衣装デザインでは、ジッパーにドクロや背骨をイメージしたものを入れているんですよ」(森賀氏)。
箕輪 豊氏によるコンセプトキャラクターデザイン
映画『VAMPIRE HUNTER D』(2001)のキャラクターデザインなどで知られる、箕輪豊氏が描いたデザイン画の一例。本文でも触れた通り、頭身は高いが胴体も比較的長め、細い腕や広い肩、大きめの手といったデザインが印象的だ。キャラクタースーパーバイザーを務めた高橋恵介氏いわく、直線的な上瞼の形状も大きな特徴だという
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マケット制作用の詳細デザイン
(上)マケット制作時にアートチームが作成した設定画。こうした資料を基にマケット制作が進められた/(下)マケットのキャラ対比表・正面
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マケットのブラッシュアップ
(左上)ハーロックマケットの脚部分に対する監督修正/(右上)ケイマケットのプロポーションに対する監督修正/(下)色付
けされた完成マケットの等身比較。全8体が作られた
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サーフェイシングパケット
サーフェイシングパケットと呼ばれた、マケットの上に質感やディテールを追加したアートワーク
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スタイルガイド
スタイルガイドと呼ばれた、主にサブキャラに共通するパーツデザインなどをまとめた資料。形状や質感が細かく設定されている。「ガイアフリートの階級章もイチからデザインしています」(森賀氏)
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section 02 Character
明確なワークフローの下でクオリティを最大限に高める
有名原作の3DCG化ということで、全12チームの中でもひときわ高いプレッシャー下におかれたであろうキャラクター制作。革新的なインハウスツールの導入と、適確なワークフローを構築することにより確かな成果を上げることに成功した。
6つの段階に分かれたキャラクターモデルの制作
3DCGモデリングとしては、マケット制作からスタートしたキャラクター制作。本プロジェクトでは、そのマケットモデルを皮切りに、ベースモデル、モーキャプモデル/フェイシャルマケット、アニメーションモデル、ミッド(ミドル)モデル、ハイモデルという6つの段階(工程)に分かれて各種モデルが制作された。詳しくは「Character Modeling Workflow」(下図)を参照してもらえればと思うが、マケットを入念に制作する一方では、素体となるベースモデルを作りジオメトリを共通にすることで費用対効果を上げる、あるいは非常に高精度なフェイシャルアニメーションが生成できるImage Metrics社の技術をベースに開発された「Faceware」を導入したのに伴い、それに対応したアニメーションモデルを用意するといった具合に、できるだけやり直しを生じさせずに、着実にクオリティアップを実現するためのワークフローが構築された。
キャラクター制作ワークフロー図
「キャラクター制作には12名のアーティストが参加しました。中核スタッフの半数がRITA(パイロット版)から参加していたので、わりと初期の段階から求められるクオリティや必要となる作業は把握できました」とはキャラクタースーパーバイザーを務めた高橋恵介氏。
今回のインタビューに応じてくれた7名が中核を担ったそうだが、モデリングは鴻巣 智氏が、サーフェシング(質感)は清水智弘氏がリードする一方では、皆川恵美里氏が女性キャラクター制作全般を、増田 潤氏が全身にFur処理が施されているため実はアルカディア号よりも高負荷のデータになったという「トリさん(ハーロックの肩に止まっている、複数の松本零士作品に登場する架空の鳥)」を担当するといった具合に、作業内容やキャラクターに応じて独自の役割を担いつつ、全員が全ての工程に携わったという。「限られた条件下の中でベストを尽くすために、というねらいから細かく分業したのですが、『michelangeloRig(ミケランジェロリグ ※後述)』をはじめとするインハウスツールを適宜導入することで、デザインとしてもクオリティとしても高いレベルで統一できたと自負しています」(高橋氏)。
01.Maquette
マケット:プリプロ段階にキャラクターデザインを詰める目的で作成されたもの。ハーロック、ヤマ、ケイなど主要キャラ8体が作られた
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02.Base Model
ベースモデル:素体となるモデル。男性キャラ用、女性キャラ用、太ったキャラ用という3種類(全てジオメトリ共通)が用意された
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03A.Mocap Model
モーキャプモデル:レイアウト作業ならびにモーションキャプチャ用モデル
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03B.Facial Maquette
フェイシャル・マケット:モーションキャプチャのアクター向けに、各キャラクターの性格や表情の特徴を説明するために作成された資料用モデル
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04.Animation Model
アニメーションモデル:キャラクターアニメーション作業用モデル。Facewareによるフェイシャル作業にも用いるため、この段階で顔の形状はFIXさせる
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05.Mid Model
ミッドモデル:ミッド(ミドル)とは、あくまでも内部的な定義であり、事実上の最終モデル。メインキャラで約50日、サブキャラで約15日を目安に制作された
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06.High Model
「ハイモデル:ECU(Extreme Close Up)」と呼ばれた、超クローズアップ用のモデル。一部のメインキャラにのみ用意された特別なもの。表情だけのテクスチャで4Kサイズに達した/(上左)ハーロックECU/(上右)ヤマECU/(下)ハーロックのハイモデル。ボディUVの展開がミッドモデルと異なっており、顔の一部を切り取ってより詳細が描き込めるように展開されている
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section 03 Technique
クリエイティブワークに専念するための取り組み
6つの段階に分かれて進められたキャラクター制作。一連のワークフローを有効に機能させる上では、「クオリティはレビュー数に比例する」という考えの下、様々なインハウスツールが開発、導入された。
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作業効率だけでなくチェック効率も高める
最後に、キャラクター制作を支えた主立ったインハウスツールと制作手法を紹介したい。『キャプテンハーロック』のキャラクターは全て同一のトポロジー上で制作がされている。こうすることでフェイシャルやUVデータを流用できるメリットがあるが、その半面、通常であればポリゴン数が多すぎて編集するのに手間がかかってしまうという問題が発生する。そこでMARZAでは「ミケランジェロリグ」と呼ばれるインハウスツールを開発。これは別のローモデルで形状を調整すればハイポリモデルにも適用できるというもので、顔、体のみならず口内、眼球、まつ毛等、個別のパーツ単位での調整もハイポリゴンモデルを直接編集せずとも調整を行うことが可能だという。
インハウスツール「michelangeloRig」
(上)自社開発ツール「michelangeloRig」(ミケランジェロリグ)によるモデリング作業画面。ローモデルでハイメッシュの形状の調整を行なっているところ/(下)口内、眼球、まつ毛などの調整も可能。画像は口内の歯の位置を調整した例
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そして、MARZAでは前身であるセガVE研の頃からファーやヘア表現には強いこだわりをもっているが(第2回を参照)、その象徴が「veFur」である。これはシェーダはもちろんスタイリングも可能な総合的なヘアに関するツールとなっており、特にスタイリングはガイドカーブをスカルプトツールに近い感覚で調整できるようになっており、ブラシを使用した束っぽさの表現やパーマ表現が可能で、自然なコーミングやスタイリングが行えるという。いわばヘアとファー双方の長所を両立させたものと言えよう。
インハウスツール「veFur」
(左)veFurによるコーミング(毛の造形を調整)UI/(右)veFurのシェーダ設定UI。毛の質感を調整する
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また、「クオリティはレビュー数に比例する」という考えの下、チェックフローもしっかりと確立されている。チェックモデルは全身とバストショットの2アングルに定め、チェック用ターンテーブル動画を手軽に生成できるインハウスツールが用意された。そのチェック用ターンテーブルには18%グレー&全反射のスフィアとカラーチャートも自動的に配置されるのだが、これは立体感を保ちつつ、コンポジット時にねらった階調が残るよう(コントラストがニュートラルになるよう)にといった一連のクオリティラインを、常にぶれることなくチェックできるようにするための配慮だという。また、日々の制作物は、日付単位のフォルダ分けと、指定の形式とディレクトリに保存すると自動的に反映されるというHTMLライブラリを用意することで管理が行われた。
プロップ制作のサポート
武器などのプロップ制作では、キャラクターに持たせてスケールやバランスなどの調整を行う。この作業はキャラクターチームが担当した(質感などはプロップチームが担当)。画像はハーロックが持つコスモガンの監督チェック用資料。各種設定に合わせて、前回(パイロット版)よりも15%ほど拡大されたことが判る
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全キャラクターのトポロジーを共通化
(上)ヤマ(ミッドモデル)のトポロジーを示した画像/(下)左からケイ、ヤマ、ヤッタラン(全てミッドモデル)/それぞれ共通のトポロジーで作られていることが窺える
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4Kサイズが標準のキャラクター用テクスチャ
(1段目)ヤマの肌テクスチャ例。画像はZBrushから書き出した32bitビットマップ。トーンカーブを絞って無理やり表示させたものだが、実際のデータはもっとハイディテールである
(2段目)ヤマの肌テクスチャの一部。目的に応じて1K(1,024×1,024)、2K(2,048×2,048)、4K(4,096×4,096)という3サイズで作成された
(3段目)〈左〉ディフューズカラー(4K)、〈中〉粗めのスペキュラ(2K)、〈右〉SSDカラー(2K)/ 3 ヤマが着るジャケット用テクスチャの一部。〈左〉ビットマップ、〈中〉ディフューズカラー、〈右〉スペキュラ、いずれも4Kサイズ
(4段目)ヤマの髪の毛テクスチャ例。ヘアテクスチャは頭皮に適用したもので、そこからテクスチャの色に応じた髪の毛が生える仕組みになっている
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TEXT_今泉隼介 ※section01/谷口充大(テトラ)※section02~03
PHOTO_弘田 充
映画『キャプテンハーロック』
2013年9月7日(土)全国ロードショー
原作総設定:松本零士
監督:荒牧伸志
脚本:福井晴敏、竹内清人
アニメーション制作:東映アニメーション、MARZA ANIMATION PLANET
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