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    吉トロのマドンナ、菅氏が奮闘記に再び登場! 前回好評だった"アニメの背景"に続いて、今回は"実写ドラマ"での「バンカー」の仕事を紹介します。アニメの仕事では聞いたこともない、様々な言葉が飛び交って......!? 菅氏が新たに出会った映像世界の一端を分かりやすく紹介していきます。

    アニメの次は実写ドラマ!

    バンカーとして吉祥寺トロンに来て、1年が経ちました。アニメの背景素材や CG のアーカイブも作ってみて、バンカーとして少し落ち着いたかな......と思っていた矢先に、次なる仕事は実写ドラマ『エアーズロック』。吉祥寺トロンのメンバーは、荒編集・オンライン編集・MA・VFX・着ぐるみ制作(!?)をするとのこと。
    【日報】CG 会社に入ったはずが!?

    映像制作の会社に勤めているにもかかわらず、実写ドラマの仕事はまったくの初体験! 今回のバンカーとしての仕事は、撮影素材の変換とアーカイブ化。しかし、アニメでは聞いたことのない専門用語や横文字の連続!! 混乱しつつも、作業しながら私が新しく知ったことなどを、つらつら書いてみたいと思います。



    ProRes 422 への変換

    『エアーズロック』のデータは、撮影現場から制作の高間くん(イケてる CG クリエイター兼制作補助)によって SD カードで吉祥寺トロンに届けられます。
    【日報】ちは! 武者修行にヤッてキタっす!!

    映画やドラマの大がかりな撮影をイメージしていたので、最初に「これがデータです」といって SD カードを見せられた時は、「あれ? このメディア......私のデジカメに入ってるやつと一緒じゃん!」と衝撃的でした。ちなみに『エアーズロック』は、デジタル一眼レフカメラの EOS DIGITAL で撮影したらしいです。

    バンカーの私の仕事は、まず、このファイルのコーデックを「H.264」から「ProRes 422」に変換することから始まります。ProRes 422 とは、またまったく聞きなれない用語が呼び出してきました......。何で H.264 のままじゃダメなんでしょうか? ちゃんと QuickTime でデータ再生できてるし、このまま編集しちゃえば良いんじゃない? なんて自分の仕事をなくしてしまいそうな疑問を抱きつつ、さっそく「ProRes」についてリサーチしてみました!


    「ProRes 422」を編集に使う理由
    ・H.264 は編集を想定してないコーデック!
    H.264 は、Blu-ray や YouTube の動画などで、全体を流して見ることが目的のコーデックです。そのため、普通に圧縮されているだけではなく、シーンのチェンジや移動などではフレーム間予測を用いた高度な処理を行なっていて、グリグリと編集していると何かの拍子に全然違うフレームが表示されちゃうことがあるのです......それは怖い! また、ファイルのサイズ自体は小さいものの CPU 負荷が高く、やっぱり編集には向かないみたいです。

    ・ProRes はパソコンの CPU 負荷が軽い!
    今回の編集では Final Cut Pro を使用しました。もともと ProRes はパソコンの CPU 負荷が軽い設計になっています。CPU 負荷が軽くなると、編集ソフト上でプレビューをスムーズに見ることができ、編集する際とても便利ですね。編集者さんにインタビューしたところ「ProRes はサクサクと動作が軽快で、感覚的に使い心地が良い」とのこと!

    ・ProRes がネイティブでサポートされている!
    今回使用しているメディア出力デバイス「AJA Io XT」は、ネイティブで ProRes をサポートしています。AJA 社に限らず、ProRes の使用を前提にしたメーカーは多く、それを聞くと ProRes が編集では一般的に使われているんだ! ってことが実感できます。今回『エアーズロック』の納品は HDCAM で行ないました。HDCAM を使用する際 ProRes はかなりメジャーなコーデックですが、HDCAM-SR 等、メディアが違えば勝手も違ってくるとのこと。ちなみに ProRes 422 への変換は、「Magic Bullet Grinder」というソフトを使えば、ファイルを直接ドラッグするだけで完了です!

    右のフォルダからファイルを直接ドラッグ!

    次ページへ続く)

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    2-3 プルダウン

    次の段階は、2-3 プルダウンです。『エアーズロック』は毎秒 24 フレーム(正確に言えば、23.976 フレームですが)で撮影されています。毎秒 24 フレームは映画などで使用されているフレームレートなので、これをテレビ放送用に、毎秒 30 フレーム(29.97 フレーム)に変換しなくてはいけません。と、ここまで聞いて......

    「1秒間に 24 フレームしかないものを 30 フレームまで増やす? ......元々 24 コしかないものを 30 コに増やすってこと(゚Д゚)??」

    ドラえもんの秘密道具でも使うの? と思いきや、使うのは After Effect のみ。After Effect のコンポジション設定でフレームレートを「29.97」にし、レンダリング設定で「フィールドレンダリング」をオンにすれば OK!

    どんな原理か不思議でしょうがなかったんですが、会社の中でこれに関して頭を捻っているのは私だけのよう......アルバイトとはいえ、映像制作会社にいるのに今さらこんなこと聞けない!(>_<) そんなわけで、吉トロメンバーにバレないうちに、こっそりお勉強開始です。気分はすっかり大学生!(現役の時に、もっとちゃんと勉強しておくんだった......)そこで調べてみて分かったのは「フレームを増えているように見せかける、手品のような映像技術!」ってことでした。



    プルダウンの原理
    24 フレームの動画を ABCD の4枚のフレームの繰り返しと考えて説明します。

    まず、1フレーム目(A)を A1・A2 の2枚に分けます。次に、2フレーム目(B)を B1・B2・B3 の3枚に分けます。同じように、3フレーム目(C)は C1・C2 の2枚に、4フレーム目(D)は D1・D2・D3 の3枚に分けます。

    この分けられたフィールドを頭から順に、2枚1組で組み合わせていけば......

    フレームの数が4から5に増えました! ツギハギして数が増えているように見せかけているんですね!(そういえば昔、『金田一少年の事件簿』でこんなトリック見たことあるような気がする......)以降、このA〜Dの並びを繰り返します。フィールドのツギ目のないAから始まり、同じくフィールドのツギ目のないDで1つのリズムが完結しているので、繰り返しのバランスもとれています。(フィールドを2枚、3枚ずつ分ける操作が由来で、この作業を「2-3 プルダウン」と呼びます)

    ちなみに、この B3・C1 や C2・D1 の組み合わせになっているフレームは、プログレッシブ方式のパソコン画面で見ているとちぐはぐなのが見えちゃったりします。が、テレビ放送の場合はインターレース方式で伝送されるので、視覚の残像効果によりチラツキが見えなくなります! 詳しい説明はまたいつか(笑)

    参考テキスト:『デジタルアニメマニュアル/東京工科大学編 デジタルアニメ制作技術研究会監修』
    解説:『エアーズロック』編集のため上京してくださった大阪芸大の佐藤先生(ありがとうございました!)

    そんなこんなでファイル完成

    こうして 2-3 プルダウンまで終えた動画ファイルたちを保存したら、今回のバンカーとしての仕事は終わりです! 私はもちろんですが、吉祥寺トロンのメンバーにも編集未経験・Final Cut Pro を触ったことがないという人が少なくありませんでした。私がデジタルの基礎を学んでいる間、皆はソフトの使い方や編集の仕方をお勉強です。

    最初の順番では、データの受け取りから納品までの流れは
    ProRes 422 に変換→2-3 プルダウン→レンダリング→編集→レンダリング→完成
    という順番だったのですが、色々試してみた結果、途中からは
    ProRes 422 に変換→編集→2-3 プルダウン→レンダリング→完成
    という順番になりました。

    先にプルダウンをしてから編集をすると、元々ツギハギのデータをさらにツギハギしちゃうわけですから、データのリズムバランスが崩れてしまうことがあるそうです。順番を変えて、編集して繋ぎ終わった動画をプルダウンすることで、リズムバランスの崩れる心配がなくなるんですね!

    さらに、24 フレーム(プルダウン前)のまま編集すると、20%もデータが少ない状態で作業を進めることができます。アニメだと使用する尺の分しか素材を作らないのですが、実写はどうしても、実際に使用するもの以上に素材を用意しなくてはいけません。そのため、少しでもデータの少ない状態で編集できるというのは、サーバにも優しい、効率のよい方法なんです!

    デジタルって複雑!

    今までは、何気なく劇場用映画をテレビの放送で見たりしていました。「映画とテレビではフレームが違う」くらいの認識はありましたが、それについて詳しく考えることもなく......。これからはちょっと見方が変わりそうです。......あと、今までなんとなくパソコンでテレビ番組を見るのに「なんかテレビと見え方が違うなあ」と思っていたんですが、その謎も解けました。走査線がチラチラしちゃうのが原因だったんだ!

    そんなわけで、吉祥寺トロン初めての編集作品『エアーズロッ ク』、7月上旬に無事最終話を迎えました。応援して下さった皆様、ありがとうございます。そしてなんと、8月から拡大放送が決定しました!! ニコニコ生放送で放送しますので、以前は見れなかった地域の方でもご覧いただけます\(^▽^)/
    まだまだ終わらない『エアーズロック』を今後もよろしくです!

    TEXT_菅 みのり(バンカー)
    吉祥寺トロン公式サイト