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第3回:アイドル7人の魅力を引き出すワイシャツ衣装

第3回:アイドル7人の魅力を引き出すワイシャツ衣装

Marvelous Designerを用いたこだわりの衣装制作

各メンバーのワイシャツ衣装を紹介してきたが、あなたはどのデザインがお気に入りだっただろうか。いずれの衣装も、メンバーひとりひとりのイメージをデザインに落とし込み、その完成度に感服させられた。IDOLiSH7を熟知した上で、深い愛がなければできないことだ。続いてこのパートでは、本記事の最初の方で触れた衣装のシミュレーションなど、ワイシャツ衣装のカット制作について、場面カットと共にテクニカルな内容も交えて解説していく。ここからはイメージが壊れるような記述や専門的な内容を含むことがあるため、ご理解いただいた上でお読みいただきたい。

美しい衣装のシワの探求

ワイシャツのシワの出方に関係する生地の柔らかさなどは、オレンジのエフェクトチームが試行錯誤してバランスを探っている。シワが多くなると汚い影が出てしまうため、手作業で消している箇所もあるというが、ライティング工程でも調整を重ねることで、極力汚い影が出ないようにされた。しかし、影を減らしていくと最終的に2Dの平べったい質感になってしまう。ある程度は影を残す必要があるため、バランスを探るのに苦労したそうだ。こうした影はセル調のCG表現では問題になりがちなポイントで、山本監督は「まだ課題は残っています」と厳しい自己評価だったが、臨場感のあるリアルな動きとセル調の質感が調和した絶妙なルックに仕上がっている

▲Marvelous Designerで制作したワイシャツ衣装にダンスのモーションを入れた状態。ルック調整をしていないため、細かいシワや影が多く出ており、リアルではあるが本MVの作風には情報量過多な印象だ

▲モーションの比較。左のコマ打ち(可変)と右のフルコマを比べてみると、細かいちがいではあるがタメツメがはっきりしているコマ打ちの方が、セル調の質感で動いたときに違和感が生まれづらい

▲最終的なルック。Marvelous Designerらしい衣装の動きやシワ表現を活かしながらも、バランスの良い情報量に調節された

綺麗なシルエットとシワの調整

▲光のチリとなる一織さんに駆け寄って手をのばす七瀬さんのカット。身体のシルエットを見せられるシーンでは、シワが美しく寄っていくように調整しているという。特にこちらのカットでは影調整に力が入れられた。「光が強く当たる一織さんの背中はMarvelous Designerらしい滑らかなシワの見せどころだと思い、全体的に空気抵抗を強くかけることでシワが残りやすいようにしました」と望月千夏氏。また、こちらのカットでは七瀬さんが手をのばすスピードが速かったため、袖が身体に張り付いてしまい硬い動きになっていた。そこで、全体の速度を50%に落とした上でシミュレーションし、柔らかさのある動きに調整されている

背後から吹く風

▲背後から吹雪く風を受ける七瀬さん。Marvelous Designer上の風はデフォルトの場合、真っ直ぐ吹いてしまうため、手動で風の強さの値を入力している。しかし、人が入力している以上、どうしても人工的な印象が残ってしまった。そこで入力したキーをランダムに動かすことで不自然な風のながれを解消し、その後、山本監督の指示に合わせて再度微調整を行なっている。また、風が弱まった瞬間に背中側のワイシャツが浮いてしまう現象を防ぐため、見えない部分で固定して調整された。加えて、胸部分についても手でゆるく抑えているように見せるため固定するなど、細かな調整が施されている

現実的な正しさより美しく見えるシルエットを探る

こちらは下手から四葉さんの足がINしてくるカットの制作過程。風が吹いているため、シミュレーションをかけたままでは、脚にピッタリとパンツが張り付いてしまう。現実的には正しいのだが、映像として見たときには違和感が大きかったため、美しいシルエットになるように調整している

▲山本監督によるタイミング指示。山本監督自ら赤線で直接描き込み、気持ちの良いシルエットを目指した

▲修正後。「シミュレーションや素材の書き出し、ひとつひとつにかなりの時間がかかってしまうため、余計に時間を消費しないためにも事前に山本監督から動作のイメージをいただいて、また逐一すり合わせを行いながら作業に取りかかりました」と望月氏は話す

風の向きを意識したワイシャツの動き

▲凍った湖に佇む七瀬さんのもとに6人が現れるカット。ここでは七瀬さんを中心に風がブワっと広がっているため、他のメンバーの布の動きも風向きを意識して付けられている。逢坂さんや六弥さんがわかりやすい。7人同時のシミュレーションはPCへの負荷が大きく難しいため、シーンの風の位置を確定した後にひとりひとり取り込み、その後風の強さが調整された

めくれるワイシャツに対する変態的なほどのこだわり

▲各メンバーのワイシャツがめくれるシーン。動きが大きく衣装がめくれてしまうような箇所は、メンバーに合わせてめくれ加減を調整している。「普段からはだけているようなメンバーであればガッツリと見せ、逆に大人しいメンバーであれば1コマだけチラっと見えるように、など変態と言われても否定できないほどこだわりました(笑)」と望月氏

▲また、どうしてもお腹を見せたいカットでは、めくれさせるために手を加えている箇所もあるという。上の画像の手を伸ばしている逢坂さんもそんなカットのひとつ。このカットの動きは予想よりも大人しいものになり、考えていたようにワイシャツがめくれなかった。そのため、手を伸ばす手前からシミュレーションを一時停止し、Marvelous Designer内で左手側下方向に引っ張った状態に設定してから、再度シミュレーションをかけ、反動でめくれるようにしている。自身で「変態」と言ってしまうほどのこだわりが秘められていた

激しい動きに合わせたワイシャツの動き

▲六弥さんがターンするカット。こちらのカットではかなりの速度で六弥さんがターンしているが、あまりに速いターンだと通常のシミュレーションは難しい。フレーム間の速度についていけず、クロスが置いていかれてしまうのだ。そのため、ターン速度を50%まで落とし、かつ画面に映らない部分は身体に固定する形で対応した。一瞬のカットでも手を抜かない松本氏のこだわりが窺える

ワイシャツのデザインと重力の調整

▲凍った湖でのダンスカット。こちらに映る三月さんのワイシャツは、オーバーサイズのデザインのため、他のメンバーよりも重力の扱いに気を付けたという。軽すぎれば全体的に持ち上がってしまうが、一方で重すぎてはシワが平らになってしまう。このカットでは、身体を捻る動作までは重力を小さくして動きを出し、捻った直後に重力を大きくしワイシャツが持ち上がりすぎないように抑え、落ち着いたところでまた重力を軽めにするという三段階の調整が施された。シミュレーションの途中からでも調整ができるMarvelous Designerの利点を最大限に活かしている。こちらも松本氏担当のカットだ

「ワイシャツ衣装」だけにフォーカスしてお届けした今回。いかがだっただろうか。メンバーが袖を通すまでに、どれだけの時間と想いがかけられているのかを改めて実感させられた。アイドルの戦闘服といえる衣装。真っ白なワイシャツが表すのは、トップアイドルとして洗練された現在の彼らか、それとも新たな1ページの始まりか。真っ白なシャツに書き込まれる未来の行方を迎えに行こう! ということで、次回も新たな視点から『Mr.AFFECTiON』の魅力を探っていく。乞うご期待だ。



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