>   >  IDOLiSH7『Mr.AFFECTiON』MVの舞台裏:第5回:コンテンポラリーダンスを採り入れた異色の振り付け
第5回:コンテンポラリーダンスを採り入れた異色の振り付け

第5回:コンテンポラリーダンスを採り入れた異色の振り付け

本誌『CGWORLD vol.258』の特別企画から始まった大人気アイドルグループIDOLiSH7の新曲『Mr.AFFECTiON』MVの舞台裏に迫る本短期連載(全7回)。第5回となる今回は「振り付け」にフォーカスする。これまでのIDOLiSH7とはテイストの異なる楽曲となった今作。それに合わせパフォーマンスでもガラッと違う表情を見せた。そんなIDOLiSH7のパフォーマンスを陰から支えるスタッフたちにお話を伺った。

※本記事の取材は4月27日(月)、Skypeによるオンライン上にて実施されました

TEXT_野澤 慧 / Satoshi Nozawa
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

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アイドルたちの個性を引き立てる振り付け

これまで爽やかなイメージの楽曲が多かったIDOLiSH7だが、今作ではその雰囲気を大きく変えた。アイドルらしい華やかなダンスに加え、コンテンポラリーダンスの要素も採り入れることで、"アーティスト"色を強く打ち出したかたちだ。トップ"アーティスト"として、アイドル業界だけにとどまらず音楽業界全体を引っ張っていく存在になりつつある彼ら。今作は彼らにとっての大きな転換点ともいえるだろう。

そんな今作のダンスの振り付けを担当したのが、KAZOO氏とYOUKEY★氏のお2人だ。両名とも多方面で活躍するダンスパフォーマーでありながら、振付師としてもその才腕をふるっている。

今回振り付けのコーディネートを担当した「ソリッド・キューブ」は、IDOLiSH7をはじめTRIGGERやRe:valeなど多くの有名アイドルグループの振り付けに協力してきた実績をもつプロダクションだ。「IDOLiSH7のMVはソリッド・キューブさんにお願いさせていただくことが多いです」とプロデュースを務める根岸綾香氏も厚い信頼を置く。まさに今日のアイドル業界を裏から支えているソリッド・キューブ全面協力の下、ダンス制作が進められることとなった。

▲左から
原田奈美氏(ソリッド・キューブ)
株式会社ソリッド・キューブ代表。多数のアニメ、ゲーム作品の振付・モーションアクターコーディネートを行う。代表作は『初音ミク』『アイドルマスター』『新サクラ大戦』『BanG Dream!』他多数

YOUKEY★(ゆうき)氏
ダンサーとして、数々の舞台や、ツアーへの出演の他、振付師としても活躍。近年は高身長を活かし、モーションアクターとして数々のアニメ、ゲーム作品に出演中

ソリッド・キューブ側へ振り付けの依頼が入ったのが2018年9月ごろ。その翌月には顔合わせが行われ、監督からイメージが共有された。「自分は振り付けについては完全に素人なので、具体的なリクエストは収録現場で出していくことが多かったです。打ち合わせのときには、曲に合わせた格好良い激しいダンスということや、コンテンポラリーダンスをやりたいことなど、ざっくりとした希望だけ伝えさせていただきました」と山本健介監督。

  • 山本健介監督(オレンジ)

▲山本監督によるVコンテ。仮歌に合わせて場面ごとの演出や衣装などキーポイントとなる部分が文字で説明されている。こちらと絵コンテをあわせて、おおよそのイメージを共有する。最初の打ち合わせには、ソリッド・キューブ側からはコーディネーターの原田氏のみが参加。そこで全体的なイメージを共有した後、振り付けや演技部分に絞ってイメージを整理。その上で、クライアント側の要望を叶えられる振付師を選定し依頼していくのだそうだ

そのイメージをもとに振付師に依頼していくことになるのだが、「コンテや監督の要望から、これまでのIDOLiSH7の振り付けのイメージとはかなり違ってくるなという感想でした。そこでガラリと雰囲気を変えるためにも、これまでIDOLiSH7の振り付けを担当してもらってきた奥山さんではなく、KAZOOさんとYOUKEY★さんにお願いすることにしました」とソリッド・キューブの原田奈美氏は話す。ジャズを中心に様々なダンスに精通している振付師というところで、KAZOO氏とYOUKEY★氏に白羽の矢が立ったようだ。

▲山本監督によるダンス振り付け用絵コンテの一部。打ち合わせ時には、Vコンテとあわせてこちらも提供された。メンバーの立ち位置やタイミング、振りへの要望などが書かれている。基本的にはソリッド・キューブ側へお任せだったというが、「ところどころで床を足でなぞる動きが欲しい」など、ポイントとなる振りについてはこのように具体的に指示している。ここまで細やかで具体的なイメージ共有が行われることは稀なようだ。MVに対する監督の熱量やこだわりがよくわかる

実際の振り付け制作の流れとしては、まずKAZOO氏がメインのサビなど大まかなダンスの方向性を作成。それを中心としてYOUKEY★氏がたたき台となる振り付けをひととおり仕上げ、さらに現場で修正しながら完成まで作りこむ。

振りを考える際には楽曲を何度も何度も聴き込むというYOUKEY★氏。そうしているうちに、徐々に歌詞に沿ったイメージが湧いてくるのだという。イメージが掴めたら頭の中で踊ってみて、次に実際に体を動かして、ひとつの形にまとめていく。「振り付けで最も大切にしているのが『歌詞をいかに具現化させるか』ということです。さらに今回は、そこにコンテンポラリーっぽい動きが加わっていくので、メンバーの皆さんの個性が引き立つように意識しました。悲しみや苦しみといった感情が上手く伝わるように演出させていただきました」とYOUKEY★氏は語る。

▲「今回のダンスはコンテンポラリーダンスというよりは、"お芝居的な振り"といった感じ」とYOUKEY★氏。ダンスという枠にとらわれず、自由な表現ができるパートだったようだ。どんどんとメンバーが入れ替わっていく廃墟のシーンでは、歌詞から受ける印象を大切に振りに落とし込んでいる。こうして、たたき台となる振り付けをつくり、それをもとに現場で試行錯誤しながら完成させていく。メンバーたちと相談しながら、歌詞のイメージだけでなく、それぞれの"らしさ"を盛り込んだ振り付けを目指した

そうして出来上がった仮の振り付けを基に、振り入れとカメラリハーサルを行う。その後、振りの微調整が行われ、本番を迎えるという流れだ。通常であれば、そこまで長い時間をかけることは少ないという。しかし、今回のリハーサルは丸一日がかり。前半はダンス部分の振り入れ、後半は監督指示の下コンテンポラリーダンスなどのプラスαの振り付けを現場で作りながら入れていくというハードなスケジュールが組まれていた。

打ち合わせ時のイメージをどう具体化していくか。IDOLiSH7のメンバーたちとすり合わせ、試行錯誤しながら振りを完成させていく大変な作業だ。冒頭のカメラがぐるっと回転するシーンは、リハーサルの場で試して実現したものだ。以前にも紹介したが、リハーサルの場で監督自ら手持ちのビデオカメラで確かめながらシーンを作り上げていったという。

また、コンテンポラリーダンスの部分は、監督からのディレクションも細かく、特に熱の入ったパートになった様子。「合間の演技の部分はダンスとは切り離してつくれたかもしれませんが、それでも全てをダンスにするという意識をもってつくっていました」と監督。そうして全員で作り上げたものを本番撮影日までメンバー各々が練習を重ね、収録に臨んだ。

▲コンテンポラリーダンスの特徴的な振りをご紹介する。こちらのカットは「♪ざわめいた繁華街〜」という歌詞の振り付け部分だ。"ざわめき"のイメージを動きに採り入れたかったそうだが、それをそのまま体の動きで表現してしまうと、バタバタと暴れたような印象になってしまう。「そこを僕ならどうやって表現できるかなと考えました」とYOUKEY★氏は話す。最終的に、足をスライドさせる振り付けに。スライドしていく足の動きに水の波紋も相まって、歌詞のニュアンスが良く表現されている

▲こちらのカットでは「♪ひとすじの光ESCAPE〜」部分の振り付けについてご紹介しよう。まさに歌詞のとおり「一筋の光」を表現したかったという。上空から光が落ちてきているようなイメージで一度上体を下方向に大きく落とし、その状態から片手を真上に挙げるという動きに。完璧であろうという意思と、それとは裏腹な繊細さを抱える和泉一織さんの人柄ともマッチする美しい振り付けとなった

YOUKEY★氏は「現場で変更して変更してといった感じだったんですけど、壮五さんはじめ皆さんちゃんと落とし込んできてくださっていたので良いものになったなと思います。自分も今までにない引き出しをいっぱい開けました(笑)」とふり返る。「ここまで歌詞に合わせたダンスというのも初めてじゃないかなと思います。これまではダンスについてはお任せでというようなMVが多かったんですが、今回は監督含めていろいろ提案していただけたので、とても良いものになりました!」と根岸氏のお墨付きだ。

▲間奏部分のダンスシーン。YOUKEY★氏がオススメするのがこちらのシーンだ。こちらでは、楽曲のリズム・ビートに合わせて動きをつけた、"音ハメ"と呼ばれるダンスとなっている。楽曲のリズムから少しでもずれると綺麗な形にならないため、ひとつひとつの振りのアクセントの強さまで意識することがポイントだという。かなり難しいパートだというが、さすがの対応力でレベルの高いダンスシーンに仕上がっている

そして、今回のMVはその公開方法も初めての試みだった。街頭スクリーンでの大々的な公開に、多くのファンが詰めかけた。原田氏も駆けつけたうちの一人だ。「お客さんのざわめきが今も鮮明に残っていますね。収録の現場ではライブとちがってお客さんの反響は実感できないので、今回はそれを実感することができてしびれましたね(笑)」。

オレンジの半澤優樹氏も「僕らも普段制作する作品は、公開のタイミングでTwitter等の反応を見てはいるんですが、本当にその瞬間の反応を直接見られることってそんなにできることではなくて。生で初見のお客さんの反応が見られたのは、すごく刺激になりました!」とかなり手応えを感じられたようだ。それは、メンバーも同じこと。スタッフ、IDOLiSH7メンバーのかけた熱量と、それを支えてきたファンの熱量が、『Mr.AFFECTION』という最高のMVを作りあげたのだ。

  • 半澤優樹氏
    (制作プロデューサー/オレンジ)

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