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第5回:コンテンポラリーダンスを採り入れた異色の振り付け

第5回:コンテンポラリーダンスを採り入れた異色の振り付け

モーションでキャラクターの魂を表現する

ここからはより技術的な内容に踏み込んでいく。一部イメージを損なう可能性があるため、あらかじめご承知いただいた上で読み進めていただきたい。

これまでも『アイドリッシュセブン』のダンス映像では、度々モーションキャプチャが採用されている。モーションキャプチャを使うことで、クオリティの高いリアルな映像を効率的に制作していくことができるため、映像業界でも年々需要の高まっている技術だ。

『アイドリッシュセブン』のモーション収録の大きな特徴のひとつが、"メンバー数に応じたアクターを立てている"こと。作品によっては複数のキャラクターのいる映像でも1人のアクターがモーションを担当したり、1つのモーションデータを流用したりすることもあるが、『アイドリッシュセブン』では必要なモーションの分だけアクターをアサインする。今回は7名体制でのモーション収録が行われた。

▲収録時の集合写真

今回のモーションを担当したアクターはソリッド・キューブでキャスティングを行う。ソリッド・キューブはモーションアクターに特化したプロダクションで、作品にマッチしたキャスティングを行う。30名ほどのアクターや振付師常時稼働している。中には楽器や神楽など専門的な所作を担当するようなアクターもいるという。女性アイドルキャラクターのダンスモーションを多く手がけてきたが、このアイドリッシュセブンをきっかけに、男性キャラクターのモーションにも積極的に取り組んでいるそうだ。

そうした数多くのアクターや振付師をアサインするのもソリッド・キューブ代表である原田氏の役目だ。『アイドリッシュセブン』でも『RESTART POiNTER』から始まり、多くの作品でアサインを担当してきた。そんな原田氏がアクターに求めているのが「キャラクターが生きているように演じられる」ことだという。

「アサインする際には、その人自身がナチュラルにキャラクターに近いか、完璧に演じられるか、のどちらかで選んでいます。なおかつバックダンサーにならず前に出られるということ。今回のメンバーは普段から雰囲気が近い方が多いですね」と原田氏。今回は、長くIDOLiSH7のアクターを務めてきたメンバーが集結。監督のこだわりに対応するため、多忙な中スケジュールを合わせ、ベストメンバーで臨んだという。

▲写真左から
macotsu(まこつ)氏
JAZZHIPHOPを主体としたダンサーとしてインストラクターやParafe等のイベントに出演。アーティストのバックダンサーや振付師としても活躍中
奥田耕大氏
声優としてTVアニメ『LEGO CITY ADVENTURES』(トップハットトム役)に出演のほか、舞台俳優として多数の舞台に出演
筆村栄心氏
声優として、TVアニメ『月がきれい』(山科ろまん役)、『SHOW BY ROCK!!#」』(セレン役)等で活躍する他、モーションアクターとしても活躍中
yuto(ゆうと)氏
ダンサーとして蒼井翔太、関ジャニ∞、bless4等のMV、ステージに出演する他、振付、モーションアクターとしてTVアニメ、ゲーム作品等で活躍中
奥山敬人氏
声優としてTVアニメ「ナンバカ」(七夕星太郎役)として出演のほか、振付師、モーションアクターとして多数の作品に参加。『アイドリッシュセブン』ではTVアニメOP、MVの振付を多数担当

しかし、実はこのアクターたちはダンサーや振付師ばかりではない。普段からダンサーをメインとして活動しているのはmacotsu氏、YOUKEY★氏、yuto氏の3名。奥田耕大氏、奥山敬人氏、筆村栄心氏は声優としての顔ももつ。

様々なバックボーンをもつ彼ら。ダンサーやアイドルはさておき、普段体を動かさず演技をすることが仕事である"声優"を起用することに不思議な印象も受けるが、声優のスキルはアクターに繋がる部分があるのだという。

多くの場合、モーション収録はリハーサルと本番の2日間のみ。その短い期間にキャラクターやディレクションを把握しなければならない。一方で、声優も数時間という短い収録の中で、ディレクターの要求に合わせ演技を変化させたり、ときには突如振られた別役をこなさなければならないときもある。この「瞬発力の高さ」が声優を起用する理由だという。

奥田氏も「ダンサーではないのですが、所作の面でお芝居の経験が活きてくるのかなとは思います」と話す。また「バックボーンや立ち姿から、その人物を自分の中に落とし込んでいくので、そうした作業も声優としての経験が活かされるのかなと。モーション収録の際には、実際にMVを撮影するときのメンバーの気持ちになって収録に臨んでいます」と奥山氏。ただ踊るということではなく役を演じるということのようだ。

他のアクターも「『アイドリッシュセブン』ではメンバー同士の関係性が深く描かれるので、そうした部分を大切にしていて、ダンス中にも目配せをしたりとかしていますね」(筆村氏)や「自分のやってきたジャズダンスを活かしながら、彼らの感情があふれ出す演技ができるようにと心がけています」(macotsu氏)と語る。モーションデータを提供するというよりも、ある種キャラクターの魂を提供するといったほうが近いのかもしれない。

各キャラクターの落とし込み

▲和泉一織さん(左)は何でも完璧にこなすという性格のため、できるだけ癖がないように踊ることを意識。ナギさんとはまた異なる王子様感やしっかりした人というニュアンスを入れ込む。弱い面を見せないようにという背伸び感がよく出せていたという

▲二階堂大和さんは「THE・お兄さん」という人物像を意識。後ろから支えていくような余裕を感じさせる所作を目指した。ダンス中にも、「みんな大丈夫かな? 頑張っていこうな」といったお兄さん目線を心がけているという。難度の高いダンスの中でも余裕さを演出しなければならず、アクターとしては苦労も多かったそうだ

▲和泉三月さんは、かわいい雰囲気だが中身は熱血漢というギャップのある個性を意識。メンバーの中でも特にエネルギッシュな人物として表現しているという

▲四葉 環さんは、ついついお世話を焼きたくなるタイプでありながら、ダンスではキレキレなパフォーマンスを見せるというところを意識。考え込んで作り込むというよりは感覚的に演技をすることで、彼の天才肌な部分が表現できるのだという

▲何でもできる優等生タイプの逢坂壮五さんは、美意識の高さを表現している。ダンスを自分なりに解釈してかっこよく、そして美しく踊れるように気をつけているそうだ

▲容姿端麗でスマートな仕草が特徴の六弥ナギさんは、踊りや所作の"ライン"の美しさを意識しているという。感情の高まりを表現する氷上のダンスシーンでも、試行錯誤をくり返しながらナギさんらしさを追求した。

▲七瀬 陸さんの場合は、「ザ・センター」な感じを意識しているという。設定を見たときに、リーダーっぽい動きやポーズをするだろうなと感じたとのこと。原田氏をもってしても、「歩く仕草が陸君そのもの」と言わしめたほど、彼とシンクロした動きを見せている

そんな彼らアクターの姿勢を受けてか、監督は氷上のメインのダンスを"完全にお任せ"にしたという。リハーサルでは詳細を詰めることなく、いきなり本番で「荒々しくみんなバラバラに踊ってほしい」とディレクション。かなり高度な要求だ。こうしたときに陥りがちなのが、自由を意識しすぎてIDOLiSH7の彼らではなく"自分の踊り"になってしまうことだという。

しかし、そんな高いハードルも飛び越え、「彼ららしい個性的な振りをしてくれました! 個性をしっかり落とし込んでいたからこそできたのだと思います」と監督も絶賛するダンスを見せた。「CGモデルに流しこむときちんと彼らの個性にマッチした」(半澤氏)モーションになっているのだというから流石だ。

▲氷上でのダンスシーンを細かく解説していただいた。こちらのシーンでは、自由に踊ったモーションを活かしながらも、要所々々で正しい動きに修正している。そうして、揃えるダンスからだんだんと崩したダンスへという流れを作ることで、個性を出しながらも全体としてはまとまりのある印象にできる

さて、これまでTRIGGER、Re:valeと担当してきたソリッド・キューブだが、『アイドリッシュセブン』に登場するグループの中では、今回「BĻACK OR WHiTE」にてIDOLiSH7と対決するŹOOĻのモーションだけは担当していない。これはモーションという意味でもŹOOĻとの対決の構図が再現されているのだという。物語をリアルに体験するようなしかけに、制作陣としても非常に刺激を受けたそうだ。

「MVの展開の仕方を含めて、毎回本当に新しいことをしてくださるので、役者としても勉強になることが多くて。オレンジさんはモーションもたくさん活かしてくださったので、同じ振り付けでもアイドルによっての個性が出ていて、7人で踊っている意味があるなあって思います」と嬉しそうな奥山氏。yuto氏も「モーション収録といえど、表情まで含めてしっかりと演技をすることを心がけているので、そのニュアンスまで拾ってもらえるのはありがたいです!」と話す。

以前から、アニメにハマるモーションを目指しているというソリッド・キューブのアクターたち。アイドルたちの個性を意識した所作だけでなく、滑らかな中にもアニメ的なタメツメを感じさせるメリハリのある動きを追求してきたという。

一方で、「セルアニメーションのようなコマ落ちを意識」したCG映像を制作してきたオレンジ。そんな双方のこだわりが本作では見事にマッチした。今作についてYOUKEY★氏は「私は『アイドリッシュセブン』が本当に大好きなんですが、改めてとんでもない作品に関わったんだなと。この映像を作ったオレンジさんは、マジで全員変態だなって思いました!(笑)」と話してくれた。今作が、制作側としても、ファン側としても、非常に満足度の高い映像作品になったことは間違いないようだ。

第5回はここまでとなる。振り付けひとつひとつに、多くの意味や狙いが詰まっていることが非常によくわかった。メンバーはもちろんのこと、その陰にいるスタッフ全員が力をあわせることで、"IDOLiSH7のパフォーマンス"が完成しているのだ。さて、この連載も終わりが近づいているが、まだまだお伝えしきれていないことが盛りだくさん! 次回も普段はあまり語られないような影の立役者たちにフィーチャーしていく予定だ。ぜひ楽しみにしていただきたい!

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