本誌『CGWORLD vol.258』では大人気アイドルグループIDOLiSH7の新曲『Mr.AFFECTiON』のMVを特集し、2020年1月からはIDOLiSH7とMV制作スタッフの挑戦の軌跡を全7回にわたってお届けするこの短期連載が開始した。第1回はMV制作までの経緯や隠しネタを紹介。お楽しみ要素の強かった前回だが、今回はMVを支える大きな柱「VFX」にフォーカスし、より具体的なメイキングをお届けする。アイドルたちの演技を一層輝かせる、VFXが彩るMVの世界を覗いてみよう。
TEXT_野澤 慧 / Satoshi Nozawa
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
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idolish7.com
全編を通して盛り込まれた最高峰のVFX
IDOLiSH7の最新MV『Mr.AFFECTiON』の魅力に迫る本連載。第2回のテーマは「VFX」だ。オレンジがMV制作を担当することになった決め手のひとつが「VFX」だったことは前回取り上げたが、その期待通り、日本を代表する国民的アイドルにふさわしい「ハリウッド級」のMVが生まれた。
▲左下から時計まわりに、監督・絵コンテ・演出・山本健介氏(オレンジ)、制作プロデューサー・半澤優樹氏(オレンジ)、プロジェクトプロデュース・下岡聡吉氏(バンダイナムコオンライン)、プロジェクトプロデュース・根岸綾香氏(バンダイナムコオンライン)、CGディレクター・池谷茉衣子氏(オレンジ)、アニメーションキャラクターデザイン・ワイシャツ衣装デザイン・原画・動画・仕上げ検査・宮崎 瞳氏(オレンジ)
www.bandainamco-ol.co.jp www.orange-cg.com
下岡聡吉プロデューサーからの要望のひとつに「実在」というテーマがあったという。それは実写VFX出身の山本健介監督にとって、まさにうってつけの内容だ。制作プロデューサーの半澤優樹氏も「山本監督は『宝石の国』でフォトリアルなVFX表現を担当していたので、彼の強みが上手くはまりそうだと感じていました」と語る。だが、自身の強みであるからこそ、妥協は許せない......。MV全体に盛り込まれたVFXの量と内容に「自分で自分の首を絞めてしまいました(笑)」と山本監督は微笑を含んで話す。
本作のVFXはそのクオリティの高さはさることながら、量自体もかなりのもの。当初予定されていた制作スケジュールギリギリのラインまで盛り込まれたVFXの内容に、当時は目がまわるような状態だったそうだ。ここまで大量のVFXを盛り込んだねらいはどこにあったのだろうか? それは「MV」と普通の「映像作品」とのちがいにあるという。
▲メンバーもカメラも動く1シーンの二階堂大和さん。一見、何の変哲もないシーンに見えるが、VFXで細氷を宙に舞わせることでスタジオ撮影ながら古城(外)にいるようなリアリティを出している
▲視線を交わさずにすれちがう七瀬 陸さんと六弥ナギさん。この後、六弥さんが光のチリになっていく演出もVFX処理で表現された。詳しくは本誌にて紹介しているのでチェックいただきたい
ドラマやアニメなど、素直にストーリーを見せる作品であれば、物語に沿って視線を集中させるような画づくりとなる。しかしMVの場合は「何度もくり返し、細部まで観られるということが前提だ。何度観られても、例えコマ送りで観られることがあっても、それに耐えうる情報量を与えることを意識したという。とはいえ、無闇に要素を増やすのではなく、映像としてのまとまりを考慮した上で、情報量をコントロールすることが肝要だ。常に舞っている雪やダイヤモンドダストは、演出的な意図はもちろん、そうした情報量を増やす意味でも大きな役割を果たしている。
エフェクトの方向性として「通常ではできないような、ほかでは見られないような画にしたいと思いました」と山本監督。『Mr.AFFECTiON』の曲調やIDOLiSH7の置かれている現在の立場から、これまでとは雰囲気の異なるものをつくれると感じたという。その中で見えてきたのが「ダークな中に光る魅力」だった。これまでたくさんのファンを照らしてきた彼ら。その裏でたくさんの壁にぶつかり、乗り越えてきた彼ら。そんなたくさんの経験を経た現在の彼らだからこそ見せられる表情を撮りたかったと、山本監督は話してくれた。
撮影に際して、IDOLiSH7のメンバーにはこれまでのような笑顔が弾ける爽やかな演技ではなく、それらを出し惜しみする演技を要求。彼らの渾身の表現に対して、CG・VFXでそれらを見事後押しした。本誌でも紹介した、苦悩するメンバーがチリのように消えていく演出や、七瀬さんの背中をそっと後押しするメンバー6人の霧の手は、高度なVFXならではの演出である。
▲超小型宝石ドローンによる演出が光るカット。1枚目は逢坂壮五さんと四葉 環さんがメインのカットだが、カメラ奥であってもウインクする和泉三月さんにもプロ魂が見える
また、MVのメイン舞台となっている古城や橋がCGでつくられていることは本誌でも触れているが、冒頭のカットで登場する蜘蛛の巣もCGで作成したものだ。「IDOLiSH7」の文字が蜘蛛の巣から表れる演出で、廃れた城がみせるダークな表情を演出した。一方で、後半は華やかな変身エフェクトでシーンがガラリと変わり、超小型宝石ドローンによる光がサビを盛り上げる。下岡氏も「彼らが苦悩の感情を見せた後に、アイドルらしい明るい表情で大変身するという"谷"のつくり方が絶妙ですね。その雰囲気を作り上げるVFXが本当に素晴らしい。絵コンテの段階ですごそうだと思っていましたけど、映像になると1,000倍すごいです! もちろんメンバーに着目しても良いですし、全体を観ても魅力に溢れています」と絶賛する。
VFXはそのひとつひとつがスタッフたちの愛情-Affection-だ。『Mr.AFFECTiON』には、ハリウッド級の大きな愛情が詰め込まれているのだと感じさせられた。
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匠たちが集結! オレンジVFXチームが作り上げた神秘的なMV
匠たちが集結! オレンジVFXチームが作り上げた神秘的なMV
ここからは、実際のカットを例に技術的な解説をしていく。本記事向けに、MVの制作スタッフ陣にオススメのカットを選抜していただいた。使用ツールを含めた詳しい制作工程のほか、エピソードなどもご紹介する。CGはあまり詳しくないという方から同業者の方までお楽しみいただける内容となっているので、要チェックだ。なお、ここからは一部イメージを損なう内容を含む可能性があるため、ご理解いただいた上でお読みいただきたい。
始まりのトレーラー映像
▲IDOLiSH7『Mr.AFFECTiON』MVのトレーラー映像。2019年1月7日(月)のオレンジによるこちらのツイートで紹介された。この動画は「初めて発表されるティーザー広告として特別な映像を公開したい」というプロデューサー側からの提案に合わせて急遽作成したのだという。トレーラー映像の頃から既にエフェクト要素がふんだんに盛り込まれ、また七色の光を放つオーロラが夜空にたなびく様が、短い映像の中でも本MVを上手く表している
▲FumeFXの作業画面。本作のVFX作業で活躍しているFumeFXは、3ds MaxやMayaといったCGソフトの流体シミュレーション用プラグインだ。こちらは上のトレーラー映像用にオーロラを制作しているところ。細くうねるライン状のオブジェクトをエミッタとし、FumeFXで上空に伸びるカーテン状のボリュームをつくり出してオーロラを表現した。凍った湖上のダンスシーンでも、一部このオーロラが使われている
IDOLiSH7の文字が浮かび上がる冒頭の蜘蛛の巣
▲冒頭の蜘蛛の巣のカット。当初、蜘蛛の巣上の「IDOLiSH7」の文字はカメラワーク中の一瞬だけ形づくられて読めるような空間設計を予定していたという。しかし、カメラの移動が左右ではなく前後だったため、ピントの深度で文字が表現される手法へ切り替えられた。常に新しいツールや表現に挑戦していく山本監督の姿勢は、アイドルたちの姿とも重なるように感じる
▲蜘蛛の巣作成中の3ds Maxの作業画面
▲3ds Maxの作業画面の右側は、Cobwebを使用して作成した蜘蛛の巣の3Dモデル。Cobwebは、蜘蛛の巣やケーブル配線といった複雑なデザインに特化した3ds Max用のModifierプラグインだ。
▲3ds Maxの作業画面の左側。上(画像左)は本作で導入されたtyFlowのフロー画面。こちらは2019年春にベータ版が公開されたばかりの試作段階のプラグインだったが、こうした新しいツールを積極的に採り入れていくことが、インパクトを与える新鮮な映像につながるのだろう。下(画像右)は糸の上に大量に配置された氷の粒で、こちらもtyFlowによるものだ。プリセットにあるStoneをバインドで糸に接着させている。1粒は120ポリゴンだが、全体で12万粒も配置しているため、氷の粒だけで1,440万ポリゴンにものぼる。さらに蜘蛛の巣と合わせると1,600万ポリゴン以上となるが、使用感についてはそこまで重たい印象はなかったとのこと。ただ、ピンボケ表現はV-RayのDepth of Fieldで処理しているため、レンダリング自体は重めな印象だったという。徐々に文字が表れてくる演出を実現するべく、深度はかなり浅めに設定しているそうだ
▲Modifier Listの一覧。積み重ねてあるXFormやFFDは、カメラに合わせたシルエットの微調整のためのもの。蜘蛛の巣の動きはFlexのフォースを利用しており、こちらで設定した糸の揺れに同期して前述の氷の粒も動くようになっている
▲浮遊する細氷。画面をキラキラと舞っている氷の結晶も、これまでと同様にtyFlowで作成している。細氷のボケ具合も蜘蛛の巣のボケに合わせられるよう、レンダリング時にV-RayのDepth of Fieldで処理した。また、氷の粒はカスタムモデルを作成。現実にはありえない七角形の結晶にし、作品をイメージしている。本MVは全てスタジオ撮影であるという設定のもと、この七角形の結晶は、あえてリアルなものではなく人工的なつくりにするという演出意図によるものだ
tyFlowを用いた凍結する古城
本誌でも紹介した、古城が凍結していくエフェクトについて解説する。本誌と併せてご覧いただくと、よりわかりやすいだろう。まず、凍結レイアウトの試作を行う。パーティクルで仮の氷を発生させ、カメラワークを調整すると同時に、適切なエフェクトの情報量を確認する。その後、実際にどのようなエフェクトにしていくかを決めていく
▲氷柱のサンプル。凍結や氷柱など、エフェクトの挙動を個別のサンプルとして作成する。実際のシーンに置いたときにズレることを見越して、ここでは詰めすぎない程度に作業することがポイントだ
▲凍結のサンプル。tyFlowには、ボロノイやクロス制御、PhysXにスプライン化などが内包されているため、氷柱や凍結の作成には向いているようだ。その後tyFlowを用いてエフェクトの動きを制御する。扇状に広がる氷の中からランダムに次の扇が発生するというサイクルを繰り返す設定だが、ターゲットに対してまっすぐ進んでしまうと不自然になるため、ターゲットに向かう角度に誤差を設定し、複雑な動きを実現した
▲【画像上】橋のハイモデルと【画像下】橋のローモデル。データ容量の大きなハイモデルのままエフェクトのシミュレーションを行なってしまうと、計算に余計な時間がかかってしまう。そのため、エフェクト用のローモデルを作成する必要があったが、まだベータ版ということもあり、tyFlowのジオメトリへのバインドでは、他のオブジェクトへの受け渡しがうまく機能していなかった。そこで橋と門のローモデルでは、それぞれ継ぎ目をつくらないように工夫している
▲メイキング動画。試作したエフェクトをローモデルに適用し、挙動の調整を行えば完成となる。tyFlowはParticle Flowの改善版ということもあり、Particle Flowと比較して動作が軽く、またUIも非常に近いため、移行による困難はなかったという。「フローを改善することで、さらに快適な作業にできるはずです。これからもtyFlowを使用していきたいですね」と塚原甲野氏は話す
凍っていく水のエフェクト
▲1.七瀬さんの足元から水が凍っていくシーンもVFXによる表現だ。画像はCGレイアウト。右上には絵コンテをタイムスタンプに合わせたプリビズムービーも表示している。カメラの引きに合わせて広がる凍結が、どの範囲まで広がっていくかの指標とされた。表現の方向性を定めるにあたり、一瞬で凍る酢酸ナトリウム水の過冷却現象を参考にしているとのこと
▲2.凍結素材。氷が育っていく形をtyFlowで作成したものだ
▲3.凍結素材のtyFlowのフロー。レイアウト時に決まった情報を基に凍結素材を作成し、動きはこのフローで制御している。一定の時間ごとに、親パーティクルの進行方向に対してランダムの値を足した子パーティクルを発生させ、それぞれの軌道をtySplineで拾うことで、枝状に分かれていく動きを再現した
▲4.別パターンの凍結素材を重ねた様子。ひとつの素材では凍結した枝と枝の隙間が目立ってしまうため、複数の素材を重ねている。同じ素材を重ねるのではなく、ランダムの値を入れ替えたものを複数用意して重ねることで、隙間を埋めつつ複雑な表現を実現した
▲5.レンダリング結果。ここでもレンダリングはV-Rayを用いている
▲6.After Effects上で加工した【5】の素材。輪郭のハイライトを強く引き出している。全体としての馴染みや画面映えを意識して、わかりやすく、より美しい形に仕上げていく
▲7.凍結時に散らばる氷片のシミュレーション。凍結時の挙動を誇張し、情報量を増やすために、氷の広がる範囲に合わせて破片のパーティクルを散らした
▲8.【7】のtyFlowのフロー。あらかじめ氷が覆う予定の床面全体にパーティクルを発生させておく。このパーティクルが凍結素材と同じ挙動で広がっていくコリジョンと衝突することで、上方向に破片が飛び散るしくみだ
▲9.靴に氷が付着するように調整されたフロー。よりリアルな映像にするために、七瀬さんの足元にも氷の表現を追加。靴の形状に合わせて、氷が浸食していくというフローを作成した
▲10.足元の氷の粒のレンダリング素材。この氷の粒が七瀬さんの左足の動きに合わせて跳ね上がる
▲11.凍結時の冷気の素材。冷気の煙は凍結表現を盛り上げる重要な要素だ。こちらはPhoenix FDを用いてシミュレーションしている。【8】のコリジョンの高さを調整し、煙の発生源として設定。フォースや煙を散らすためにラティスをかけた円環体を使用した
▲12.【11】で作成した冷気のレンダリング素材
▲13.凍結前の水面素材。水を張っている舞台という設定のため、水面素材もVFXで用意された。基本はノイズをかけた平面に対し、レイトレースを反射へ割り当てたマテリアルを使用している。足元についてのみ、Phoenix FDの液体シミュレーションを使用して作成しているとのこと
▲14.これまで作成したひと通りの構成素材をAE上で合わせた状態
▲15.吹雪の追加素材。カット後半にかけて雪の勢いが強くなっていくという構成だったため、Phoenix FDによる煙のシミュレーションを用いて、カメラの軌道上に煙を発生させた。また、氷片自体も増量している
▲16.【14】と【15】を合成した状態。寒々しさが伝わってくる
▲17.エフェクトのコンポジット後。細かい雪が舞う中でカメラが後退していく様子を表現するために、【16】の素材を調整した状態
▲18.撮影工程での調整を終えた完成画
▲メイキング動画。スタジオ撮影から一転、VFXによって凍えるような舞台が構築された
[[SplitPage]]変身シーンの炎のエフェクト
MVの見どころのひとつとなっている変身シーンは、メンバーそれぞれをイメージしたエフェクトで彩られている。ここでは二階堂さんの変身エフェクトを見ていこう。
▲スタジオ撮影の二階堂さんに合わせてベロシティ情報を作成する。FumeFXを用いて、炎のベロシティ情報を設定した。このベロシティ(Velocity)は速度を表しており、強度を調整することで炎の勢いや形状、挙動などに影響を与えることができる。他のパラメータと組み合わせることで、どのような炎となるかが決まっていくのだ
▲STOKE MXの作業画面。パーティクル化する際は、STOKE MXというプラグインが使用された。ベロシティ情報を用いて大量のパーティクルを出現させ、メッシュ化して表示している。その後、MagmaFlows モディファイアで調整していく。画面右上(画像下段左)ではパーティクルのAgeによって色が変わるように、画面右下(画像下段右)では速度の小さいものを削除していくようなフローが組まれた
▲最終調整作業画面。ジオメトリオブジェクト生成ツールであるFROSTを使用してメッシュ化する。FROSTはパーティクル等のポイントデータファイルから、単一のメッシュを生成することができる3ds Max用のプラグインだ。メッシュ化したデータをモディファイアで微調整をして完成となる
▲完成画。燃え盛る炎を二階堂さんが涼しい顔で通り抜けるという現実ではありえないシーンだが、VFXの力でインパクトのある変身シーンが生まれた。第1回で明かした隠し要素「二角形」を意図的に採り入れることができるのも、人工的につくり出した炎だからこそである
変身シーンの羽のエフェクト
二階堂さんの変身シーンに続き、和泉一織さんの変身シーンより、羽が円形(一角形)を描きながら飛散する華麗なエフェクトメイキングを紹介しよう。
▲ここでもtyFlowが活躍した。まず、回転しつつ飛散していく羽を制作する。羽を飛び散らせながら発生させる環形のオブジェクトは、最初から置いておくものと、途中から出現するものの2種類を用意。実際のカメラアングルではわかりづらいが、横からのアングル(画像右)から見ると、そのしくみがよくわかる
▲羽を配置した状態。先に撮影していた和泉さんの演技に合わせて、AEで位置や挙動を確認しながら調整し、羽を配置する。背景とのバランスも考慮して調整するのがポイントだ。動きとしては、この段階で決定される
▲AEによるエフェクト処理後。グローを付加し、羽を光らせている。グローは素材の明るい部分をより明るくすることのできるエフェクトだ。範囲を変えることで、この羽のように周囲までぼんやりと光らせることもできる。また、AEにはタイムリマップや時間伸縮など、速度を制御する機能が搭載されているが、ここでは速度可変も追加しており、途中から時間のながれを変化させる演出が施された
▲完成画。さらに撮影で色味や各素材の調整を行い、合成を経て完成となる
▲メイキング動画。動画として観ていくと、上記の工程でどのような処理が加えられたのか一目瞭然だ。羽を発生させる環形のオブジェクトの出現タイミングや、AEで付けた速度可変も見ておわかりいただけるだろう。また、撮影前は羽の動きと共にグローの光が連動して動いていくように見えるが、完成映像では強いフラッシュで一気に羽全体が光るように調整されている。より神秘的な演出となった
数多の光が舞う幻想的な古城のダンスシーン
大量の超小型宝石ドローンが飛ぶ中でIDOLiSH7のメンバーが新衣装でダンスをするシーンについて紹介する。彼らのまわりを舞う光(超小型宝石ドローン)の動きは、音楽やメンバーたちのダンスと連動したものとなっているというから驚きだ。本誌でもご紹介しているので、そちらと併せてご覧いただきたい。
▲超小型宝石ドローンの動きの例。RealFlowを用いて、リズムの強弱に合わせて形が変化するオブジェクトと、ダンスに合わせて動く「空気」をシミュレーションする。メンバーの身体の動きによって周囲の空気にながれが生じるが、その際に変化するベロシティ情報に乗って超小型宝石ドローンが動くイメージだ。そのシミュレーションで得られたパーティクルをKrakatoaのPRT Loaderで読み込み、MagmaFlowsを使って粒子の動く方向で色を、粒子の速度で色の濃度を設定する。パーティクルの動きを細かく制御する場合は、tyFlowで直接生成するとのこと。そして、Export Particlesを用い、一度PRT形式で書き出して、同様に粒子の動く方向と速度で色と濃度を設定する処理をかける。こうしてできたパーティクルをFROSTでメッシュ化し、実際のカットに組み込んでいくながれだ
▲場面カット。超小型宝石ドローン単体で見るとかなり大胆に動いているが、メンバーたちのダンスやカメラワークと組み合わさると、きらびやかな画を演出しつつも邪魔をしない絶妙な塩梅だとわかる。アイドルと超小型宝石ドローンの息の合ったダンスシーンにも注目してほしい
超小型宝石ドローンのエフェクト表現を極める
微笑む逢坂さんの周りに、超小型宝石ドローンと細氷が光を放つカットを例に、制作工程を紹介する。
▲山本監督によるCGレイアウト。右上には絵コンテムービーも用意してあり、山本監督が思い描くイメージが作業者に伝わりやすい
▲3ds Maxの作業画面。CGレイアウトに従い、超小型宝石ドローンと細氷を配置して確認・調整する。【画像上】は俯瞰で見た逢坂さん、カメラ、超小型宝石ドローン・細氷の配置。超小型宝石ドローンと細氷には、画面右に向かって動いていくような挙動が設定された。【画像下】はカメラから見たアングル
▲仮撮影後。超小型宝石ドローンと細氷が配置されている
▲調整後。この段階で被写界深度と超小型宝石ドローンの光を設定する。被写界深度はカメラの焦点が合う範囲のことだが、AEではプラグインなどを導入することで調整が可能になる。自然とピントの合っている逢坂さんの表情に目線が誘導される
▲撮影後。撮影でさらにディフュージョンを追加して完成だ。逢坂さんの笑顔と光の演出が組み合わさり、一瞬のカットにもかかわらず、その美しさに吸い込まれてしまいそうな映像となった
メイキング動画。段階的に大きく印象が変わっていくことがわかる。本作では、3ds Max上で完結するような水の表現についてはPhoenix FD、煙等はFumeFX、大規模なエフェクトはRealFlowといった大まかな使い分けがされたそうだ
さて「VFX」に注目した連載第2回いかがだっただろう? ダイナミックなものから繊細なものまで、『Mr.AFFECTiON』のMVを支える神業的VFXのすごさに改めて驚かされたのではないだろうか。また、それらの表現を可能にする様々なデジタルツールも興味深いものであった。今回ご紹介したフローを基本の形として、作業するスタッフそれぞれ好みのツールと使用方法で作業しているそうだ。普段はエフェクトについて、ここまで意識することはないかもしれないが、そのひとつひとつにかけられた想いやかかる手間ひまを知って、興味をもたれた方もいることと思う。ぜひエフェクトにも注目して、これからの「アイドリッシュセブン」を追いかけていただけたら嬉しい限りだ。さて、次回も『Mr.AFFECTiON』のMVの舞台裏を深堀りしたコアな内容を予定しているのでご期待いただきたい!