変身シーンの炎のエフェクト
MVの見どころのひとつとなっている変身シーンは、メンバーそれぞれをイメージしたエフェクトで彩られている。ここでは二階堂さんの変身エフェクトを見ていこう。
▲スタジオ撮影の二階堂さんに合わせてベロシティ情報を作成する。FumeFXを用いて、炎のベロシティ情報を設定した。このベロシティ(Velocity)は速度を表しており、強度を調整することで炎の勢いや形状、挙動などに影響を与えることができる。他のパラメータと組み合わせることで、どのような炎となるかが決まっていくのだ
▲STOKE MXの作業画面。パーティクル化する際は、STOKE MXというプラグインが使用された。ベロシティ情報を用いて大量のパーティクルを出現させ、メッシュ化して表示している。その後、MagmaFlows モディファイアで調整していく。画面右上(画像下段左)ではパーティクルのAgeによって色が変わるように、画面右下(画像下段右)では速度の小さいものを削除していくようなフローが組まれた
▲最終調整作業画面。ジオメトリオブジェクト生成ツールであるFROSTを使用してメッシュ化する。FROSTはパーティクル等のポイントデータファイルから、単一のメッシュを生成することができる3ds Max用のプラグインだ。メッシュ化したデータをモディファイアで微調整をして完成となる
▲完成画。燃え盛る炎を二階堂さんが涼しい顔で通り抜けるという現実ではありえないシーンだが、VFXの力でインパクトのある変身シーンが生まれた。第1回で明かした隠し要素「二角形」を意図的に採り入れることができるのも、人工的につくり出した炎だからこそである
変身シーンの羽のエフェクト
二階堂さんの変身シーンに続き、和泉一織さんの変身シーンより、羽が円形(一角形)を描きながら飛散する華麗なエフェクトメイキングを紹介しよう。
▲ここでもtyFlowが活躍した。まず、回転しつつ飛散していく羽を制作する。羽を飛び散らせながら発生させる環形のオブジェクトは、最初から置いておくものと、途中から出現するものの2種類を用意。実際のカメラアングルではわかりづらいが、横からのアングル(画像右)から見ると、そのしくみがよくわかる
▲羽を配置した状態。先に撮影していた和泉さんの演技に合わせて、AEで位置や挙動を確認しながら調整し、羽を配置する。背景とのバランスも考慮して調整するのがポイントだ。動きとしては、この段階で決定される
▲AEによるエフェクト処理後。グローを付加し、羽を光らせている。グローは素材の明るい部分をより明るくすることのできるエフェクトだ。範囲を変えることで、この羽のように周囲までぼんやりと光らせることもできる。また、AEにはタイムリマップや時間伸縮など、速度を制御する機能が搭載されているが、ここでは速度可変も追加しており、途中から時間のながれを変化させる演出が施された
▲完成画。さらに撮影で色味や各素材の調整を行い、合成を経て完成となる
▲メイキング動画。動画として観ていくと、上記の工程でどのような処理が加えられたのか一目瞭然だ。羽を発生させる環形のオブジェクトの出現タイミングや、AEで付けた速度可変も見ておわかりいただけるだろう。また、撮影前は羽の動きと共にグローの光が連動して動いていくように見えるが、完成映像では強いフラッシュで一気に羽全体が光るように調整されている。より神秘的な演出となった
数多の光が舞う幻想的な古城のダンスシーン
大量の超小型宝石ドローンが飛ぶ中でIDOLiSH7のメンバーが新衣装でダンスをするシーンについて紹介する。彼らのまわりを舞う光(超小型宝石ドローン)の動きは、音楽やメンバーたちのダンスと連動したものとなっているというから驚きだ。本誌でもご紹介しているので、そちらと併せてご覧いただきたい。
▲超小型宝石ドローンの動きの例。RealFlowを用いて、リズムの強弱に合わせて形が変化するオブジェクトと、ダンスに合わせて動く「空気」をシミュレーションする。メンバーの身体の動きによって周囲の空気にながれが生じるが、その際に変化するベロシティ情報に乗って超小型宝石ドローンが動くイメージだ。そのシミュレーションで得られたパーティクルをKrakatoaのPRT Loaderで読み込み、MagmaFlowsを使って粒子の動く方向で色を、粒子の速度で色の濃度を設定する。パーティクルの動きを細かく制御する場合は、tyFlowで直接生成するとのこと。そして、Export Particlesを用い、一度PRT形式で書き出して、同様に粒子の動く方向と速度で色と濃度を設定する処理をかける。こうしてできたパーティクルをFROSTでメッシュ化し、実際のカットに組み込んでいくながれだ
▲場面カット。超小型宝石ドローン単体で見るとかなり大胆に動いているが、メンバーたちのダンスやカメラワークと組み合わさると、きらびやかな画を演出しつつも邪魔をしない絶妙な塩梅だとわかる。アイドルと超小型宝石ドローンの息の合ったダンスシーンにも注目してほしい
超小型宝石ドローンのエフェクト表現を極める
微笑む逢坂さんの周りに、超小型宝石ドローンと細氷が光を放つカットを例に、制作工程を紹介する。
▲山本監督によるCGレイアウト。右上には絵コンテムービーも用意してあり、山本監督が思い描くイメージが作業者に伝わりやすい
▲3ds Maxの作業画面。CGレイアウトに従い、超小型宝石ドローンと細氷を配置して確認・調整する。【画像上】は俯瞰で見た逢坂さん、カメラ、超小型宝石ドローン・細氷の配置。超小型宝石ドローンと細氷には、画面右に向かって動いていくような挙動が設定された。【画像下】はカメラから見たアングル
▲仮撮影後。超小型宝石ドローンと細氷が配置されている
▲調整後。この段階で被写界深度と超小型宝石ドローンの光を設定する。被写界深度はカメラの焦点が合う範囲のことだが、AEではプラグインなどを導入することで調整が可能になる。自然とピントの合っている逢坂さんの表情に目線が誘導される
▲撮影後。撮影でさらにディフュージョンを追加して完成だ。逢坂さんの笑顔と光の演出が組み合わさり、一瞬のカットにもかかわらず、その美しさに吸い込まれてしまいそうな映像となった
メイキング動画。段階的に大きく印象が変わっていくことがわかる。本作では、3ds Max上で完結するような水の表現についてはPhoenix FD、煙等はFumeFX、大規模なエフェクトはRealFlowといった大まかな使い分けがされたそうだ
さて「VFX」に注目した連載第2回いかがだっただろう? ダイナミックなものから繊細なものまで、『Mr.AFFECTiON』のMVを支える神業的VFXのすごさに改めて驚かされたのではないだろうか。また、それらの表現を可能にする様々なデジタルツールも興味深いものであった。今回ご紹介したフローを基本の形として、作業するスタッフそれぞれ好みのツールと使用方法で作業しているそうだ。普段はエフェクトについて、ここまで意識することはないかもしれないが、そのひとつひとつにかけられた想いやかかる手間ひまを知って、興味をもたれた方もいることと思う。ぜひエフェクトにも注目して、これからの「アイドリッシュセブン」を追いかけていただけたら嬉しい限りだ。さて、次回も『Mr.AFFECTiON』のMVの舞台裏を深堀りしたコアな内容を予定しているのでご期待いただきたい!