>   >  IDOLiSH7『Mr.AFFECTiON』MVの舞台裏:第2回:ハリウッドクオリティを目指したVFX大作
第2回:ハリウッドクオリティを目指したVFX大作

第2回:ハリウッドクオリティを目指したVFX大作

匠たちが集結! オレンジVFXチームが作り上げた神秘的なMV

ここからは、実際のカットを例に技術的な解説をしていく。本記事向けに、MVの制作スタッフ陣にオススメのカットを選抜していただいた。使用ツールを含めた詳しい制作工程のほか、エピソードなどもご紹介する。CGはあまり詳しくないという方から同業者の方までお楽しみいただける内容となっているので、要チェックだ。なお、ここからは一部イメージを損なう内容を含む可能性があるため、ご理解いただいた上でお読みいただきたい。


始まりのトレーラー映像

▲IDOLiSH7『Mr.AFFECTiON』MVのトレーラー映像。2019年1月7日(月)のオレンジによるこちらのツイートで紹介された。この動画は「初めて発表されるティーザー広告として特別な映像を公開したい」というプロデューサー側からの提案に合わせて急遽作成したのだという。トレーラー映像の頃から既にエフェクト要素がふんだんに盛り込まれ、また七色の光を放つオーロラが夜空にたなびく様が、短い映像の中でも本MVを上手く表している

FumeFXの作業画面。本作のVFX作業で活躍しているFumeFXは、3ds MaxMayaといったCGソフトの流体シミュレーション用プラグインだ。こちらは上のトレーラー映像用にオーロラを制作しているところ。細くうねるライン状のオブジェクトをエミッタとし、FumeFXで上空に伸びるカーテン状のボリュームをつくり出してオーロラを表現した。凍った湖上のダンスシーンでも、一部このオーロラが使われている

IDOLiSH7の文字が浮かび上がる冒頭の蜘蛛の巣

▲冒頭の蜘蛛の巣のカット。当初、蜘蛛の巣上の「IDOLiSH7」の文字はカメラワーク中の一瞬だけ形づくられて読めるような空間設計を予定していたという。しかし、カメラの移動が左右ではなく前後だったため、ピントの深度で文字が表現される手法へ切り替えられた。常に新しいツールや表現に挑戦していく山本監督の姿勢は、アイドルたちの姿とも重なるように感じる

▲蜘蛛の巣作成中の3ds Maxの作業画面

▲3ds Maxの作業画面の右側は、Cobwebを使用して作成した蜘蛛の巣の3Dモデル。Cobwebは、蜘蛛の巣やケーブル配線といった複雑なデザインに特化した3ds Max用のModifierプラグインだ。

▲3ds Maxの作業画面の左側。上(画像左)は本作で導入されたtyFlowのフロー画面。こちらは2019年春にベータ版が公開されたばかりの試作段階のプラグインだったが、こうした新しいツールを積極的に採り入れていくことが、インパクトを与える新鮮な映像につながるのだろう。下(画像右)は糸の上に大量に配置された氷の粒で、こちらもtyFlowによるものだ。プリセットにあるStoneをバインドで糸に接着させている。1粒は120ポリゴンだが、全体で12万粒も配置しているため、氷の粒だけで1,440万ポリゴンにものぼる。さらに蜘蛛の巣と合わせると1,600万ポリゴン以上となるが、使用感についてはそこまで重たい印象はなかったとのこと。ただ、ピンボケ表現はV-RayのDepth of Fieldで処理しているため、レンダリング自体は重めな印象だったという。徐々に文字が表れてくる演出を実現するべく、深度はかなり浅めに設定しているそうだ

▲Modifier Listの一覧。積み重ねてあるXFormやFFDは、カメラに合わせたシルエットの微調整のためのもの。蜘蛛の巣の動きはFlexのフォースを利用しており、こちらで設定した糸の揺れに同期して前述の氷の粒も動くようになっている

▲浮遊する細氷。画面をキラキラと舞っている氷の結晶も、これまでと同様にtyFlowで作成している。細氷のボケ具合も蜘蛛の巣のボケに合わせられるよう、レンダリング時にV-RayのDepth of Fieldで処理した。また、氷の粒はカスタムモデルを作成。現実にはありえない七角形の結晶にし、作品をイメージしている。本MVは全てスタジオ撮影であるという設定のもと、この七角形の結晶は、あえてリアルなものではなく人工的なつくりにするという演出意図によるものだ

tyFlowを用いた凍結する古城

本誌でも紹介した、古城が凍結していくエフェクトについて解説する。本誌と併せてご覧いただくと、よりわかりやすいだろう。まず、凍結レイアウトの試作を行う。パーティクルで仮の氷を発生させ、カメラワークを調整すると同時に、適切なエフェクトの情報量を確認する。その後、実際にどのようなエフェクトにしていくかを決めていく

▲氷柱のサンプル。凍結や氷柱など、エフェクトの挙動を個別のサンプルとして作成する。実際のシーンに置いたときにズレることを見越して、ここでは詰めすぎない程度に作業することがポイントだ

▲凍結のサンプル。tyFlowには、ボロノイやクロス制御、PhysXにスプライン化などが内包されているため、氷柱や凍結の作成には向いているようだ。その後tyFlowを用いてエフェクトの動きを制御する。扇状に広がる氷の中からランダムに次の扇が発生するというサイクルを繰り返す設定だが、ターゲットに対してまっすぐ進んでしまうと不自然になるため、ターゲットに向かう角度に誤差を設定し、複雑な動きを実現した

▲【画像上】橋のハイモデルと【画像下】橋のローモデル。データ容量の大きなハイモデルのままエフェクトのシミュレーションを行なってしまうと、計算に余計な時間がかかってしまう。そのため、エフェクト用のローモデルを作成する必要があったが、まだベータ版ということもあり、tyFlowのジオメトリへのバインドでは、他のオブジェクトへの受け渡しがうまく機能していなかった。そこで橋と門のローモデルでは、それぞれ継ぎ目をつくらないように工夫している

▲メイキング動画。試作したエフェクトをローモデルに適用し、挙動の調整を行えば完成となる。tyFlowはParticle Flowの改善版ということもあり、Particle Flowと比較して動作が軽く、またUIも非常に近いため、移行による困難はなかったという。「フローを改善することで、さらに快適な作業にできるはずです。これからもtyFlowを使用していきたいですね」と塚原甲野氏は話す

凍っていく水のエフェクト

▲1.七瀬さんの足元から水が凍っていくシーンもVFXによる表現だ。画像はCGレイアウト。右上には絵コンテをタイムスタンプに合わせたプリビズムービーも表示している。カメラの引きに合わせて広がる凍結が、どの範囲まで広がっていくかの指標とされた。表現の方向性を定めるにあたり、一瞬で凍る酢酸ナトリウム水の過冷却現象を参考にしているとのこと

▲2.凍結素材。氷が育っていく形をtyFlowで作成したものだ

▲3.凍結素材のtyFlowのフロー。レイアウト時に決まった情報を基に凍結素材を作成し、動きはこのフローで制御している。一定の時間ごとに、親パーティクルの進行方向に対してランダムの値を足した子パーティクルを発生させ、それぞれの軌道をtySplineで拾うことで、枝状に分かれていく動きを再現した

▲4.別パターンの凍結素材を重ねた様子。ひとつの素材では凍結した枝と枝の隙間が目立ってしまうため、複数の素材を重ねている。同じ素材を重ねるのではなく、ランダムの値を入れ替えたものを複数用意して重ねることで、隙間を埋めつつ複雑な表現を実現した

▲5.レンダリング結果。ここでもレンダリングはV-Rayを用いている

▲6.After Effects上で加工した【5】の素材。輪郭のハイライトを強く引き出している。全体としての馴染みや画面映えを意識して、わかりやすく、より美しい形に仕上げていく

▲7.凍結時に散らばる氷片のシミュレーション。凍結時の挙動を誇張し、情報量を増やすために、氷の広がる範囲に合わせて破片のパーティクルを散らした

▲8.【7】のtyFlowのフロー。あらかじめ氷が覆う予定の床面全体にパーティクルを発生させておく。このパーティクルが凍結素材と同じ挙動で広がっていくコリジョンと衝突することで、上方向に破片が飛び散るしくみだ

▲9.靴に氷が付着するように調整されたフロー。よりリアルな映像にするために、七瀬さんの足元にも氷の表現を追加。靴の形状に合わせて、氷が浸食していくというフローを作成した

▲10.足元の氷の粒のレンダリング素材。この氷の粒が七瀬さんの左足の動きに合わせて跳ね上がる

▲11.凍結時の冷気の素材。冷気の煙は凍結表現を盛り上げる重要な要素だ。こちらはPhoenix FDを用いてシミュレーションしている。【8】のコリジョンの高さを調整し、煙の発生源として設定。フォースや煙を散らすためにラティスをかけた円環体を使用した

▲12.【11】で作成した冷気のレンダリング素材

▲13.凍結前の水面素材。水を張っている舞台という設定のため、水面素材もVFXで用意された。基本はノイズをかけた平面に対し、レイトレースを反射へ割り当てたマテリアルを使用している。足元についてのみ、Phoenix FDの液体シミュレーションを使用して作成しているとのこと

▲14.これまで作成したひと通りの構成素材をAE上で合わせた状態

▲15.吹雪の追加素材。カット後半にかけて雪の勢いが強くなっていくという構成だったため、Phoenix FDによる煙のシミュレーションを用いて、カメラの軌道上に煙を発生させた。また、氷片自体も増量している

▲16.【14】と【15】を合成した状態。寒々しさが伝わってくる

▲17.エフェクトのコンポジット後。細かい雪が舞う中でカメラが後退していく様子を表現するために、【16】の素材を調整した状態

▲18.撮影工程での調整を終えた完成画

▲メイキング動画。スタジオ撮影から一転、VFXによって凍えるような舞台が構築された

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変身シーンの炎のエフェクト

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