本誌『CGWORLD vol.258』の特集に端を発し、1月から開始した大人気アイドルグループIDOLiSH7の新曲『Mr.AFFECTiON』MVにおける制作スタッフの挑戦の軌跡をお届けする本短期連載(全7回)。第3回のテーマは「ワイシャツ衣装」だ。本作では種村有菜氏がデザインするメイン衣装に加え、白のワイシャツ衣装も登場し、メンバーたちの新たな一面を引き出した。今回はアイドルにとって重要なアイテムである「衣装」を通して、本MVの裏側に迫る。
TEXT_野澤 慧 / Satoshi Nozawa
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
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IDOLiSH7 ニューシングル『Mr.AFFECTiON』
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ジャンル:音楽・AVG(アドベンチャーゲーム)
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価格:無料(一部アイテム課金あり)
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idolish7.com
▲左下から時計まわりに、監督・絵コンテ・演出・山本健介氏(オレンジ)、制作プロデューサー・半澤優樹氏(オレンジ)、プロジェクトプロデュース・下岡聡吉氏(バンダイナムコオンライン)、プロジェクトプロデュース・根岸綾香氏(バンダイナムコオンライン)、CGディレクター・池谷茉衣子氏(オレンジ)、アニメーションキャラクターデザイン・ワイシャツ衣装デザイン・原画・動画・仕上げ検査・宮崎 瞳氏(オレンジ)
www.bandainamco-ol.co.jp www.orange-cg.com
シルエットや美しさを徹底追求したワイシャツ衣装
種村氏はこれまでIDOLiSH7の衣装デザインを数多く手がけてきた。純粋な完成度の高さはもちろんだが、そのどれもがメンバーたちの輝きを倍増させる愛の詰まったものばかり。まさにIDOLiSH7というアイドル像を関係者が共に作り上げてきた。本作でも華美でありながら繊細につくり込まれた衣装は、まちがいなく見どころのひとつである。
▲種村氏がデザインしたメイン衣装。細かなパーツや揺れもの、ファーなど、衣装制作の手間がかかる凝ったデザインで、だからこそ何度も注目して見たくなる魅力がある
さらに、本作にはもうひとつの衣装が登場する。今回のテーマである「ワイシャツ衣装」だ。本誌読者の方はご存知の通り、宮崎 瞳氏がデザインを担当した。種村氏のデザインと対となるようなシンプルなつくりは、メンバーの迫真の演技を際立たせ、本MVの目玉のひとつであるコンテンポラリーダンスを、より一層印象的なものへと持ち上げている。「感情を魅せるワイシャツ衣装のシーンの後で、種村先生の衣装でアイドルらしく大変身するという"谷"のつくり方が素晴らしいと思いました」という下岡聡吉プロデューサーの言葉が表しているように、引き算的な美しさで全体を引き締めているのがこのワイシャツ衣装だ。
しかし、ひと口にシンプルと言っても「簡易的なデザイン」ということでは決してない。むしろこだわりと愛が多分に詰め込まれているのだ。シルエットのデザインやオリジナルのアクセサリー、着こなし方など、メンバーそれぞれの色を反映している。そうして時間をかけて丁寧に描かれたデザイン画は、縫製前に服飾業界でも使われているクロスシミュレーションツールMarvelous DesignerでCG化された。パターンをつくり、生地を決め、縫製をするといった、実際に衣装を作成するときと同様のステップをツール上で再現し、衣装として完成したときの見え方をシミュレーションするのだ。Marvelous Designerはリアルな衣装をつくれるとして、近年映像業界でも注目を浴びており、生地を使わずにCG上だけで試行錯誤を重ねられるため、大きくコストを削減できるメリットがある。本誌でも触れているように、オレンジは本MVの制作でMarvelous Designerを初めて導入した。山本健介監督は「Marvelous Designerは通常のモデリングなどとは別のアプローチになるので、服飾の知識が必要でした。担当者は個人的に裁縫の教室に通っていたほどです。ここまで専門的なソフトとなってくると、逆に服飾の知識がある人がこちらの業界に入ってきてくれたら面白いなとも思いますね」と話す。
▲水面を撫でる和泉一織さんの足元。パンツの動きもMarvelous Designerでシミュレーションされた
美しい映像をつくるにあたり「どのラインをシルエットの完成とするか」という点も苦労した要因のひとつだという。Marvelous Designerでの作業を担当した松本淳也氏は「例えば、バックダーツを入れるとすっきりとしたシルエットになりますが、絞りすぎるとダンス中に常に衣装が密着してしまいます。後からCG的な処理で修正することもできますが、それではせっかく宮崎さんがデザインしてくださったメンバーごとのワイシャツ衣装のイメージを壊しかねませんでした」と難しさを語る。静止したときのシルエットの美しさか、動いたときの画面映えか、どちらも譲り難いところだ。山本監督との話し合いの結果、どちらの要素も捨て切れないとうことで、「静止的」と「動画的」の中間を目指すことに落ち着いたという。「最初にワイシャツの柔らかさを検証して、良い塩梅を探してもらいました」と池谷茉衣子氏。生地については柔らかで透け感のあるものを選ぶことで、光の中では身体のシルエットが浮かび上がり、襟元からは鎖骨がちらりとのぞくといった、セクシーさの演出にひと役買っている。時折起こる腹チラには悶絶必至だ......!
▲メンバーの過去の苦悩を表現しているコンテンポラリーダンスが、シンプルなワイシャツ衣装を身にまとうことで、より視聴者の心情に訴えかけてくる
また、今回は水中のシーンや消えていくシーンなど、現実的には撮影不可能なカットもあるが、そうしたシーンでは衣装にCG的な処理がかけられた。シミュレーションの難しいところとして、物理的には正しい結果でも、こうした映像ではかえって嘘っぽく感じてしまうことがある。そこで実際の物理現象とは異なるかたちであっても、見映え良く見えるように調整を加えた。例えば水中のシーンでは、ワイヤーアクションを使用した七瀬 陸さんの演技に合わせて、ワイシャツを水中風にシミュレーションしていくのだが、ここも「物理演算的には正しくない」。イメージとしては通常よりも空気をはらんで柔らかくなびかせる。山本監督からは、ふわふわと浮かんでしまうような動きや水の強い抵抗を受けた動きではなく、とにかく綺麗にひるがえったシルエットをつくることを要求されたという。あくまで水中「風」であり、七瀬さんの演技と併せた際にカッコ良く見えることを重視したのだ。完成映像の絶妙なさじ加減に山本監督も大満足だったそうで、本作の衣装について「出来上がる前から確信していたのですが、これは見た人がビックリするんじゃないかなと思っていました。もともとMarvelous Designerの導入は推進派でしたが、同時に全面的な導入の難しさもわかっていたので、実験的要素もかなり大きかったんです。ですので、今回成功を収めることができて非常に嬉しいですね」と山本監督は語ってくれた。衣装ひとつとっても、並々ならぬ情熱が込められている。
▲ワイヤーアクションで撮影した七瀬さんの演技に合わせて、水中「風」のシルエットをシミュレーションしたシーン。七瀬さんの演技はもちろん、こだわられたワイシャツの動きにも注目して観ていただきたい
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メンバーらしさを汲み取り、ダンスを効果的に見せるデザイン
メンバーらしさを汲み取り、ダンスを効果的に見せるデザイン
さて、ここからは7人のワイシャツ衣装について詳しく紹介していこう。メンバーそれぞれの性格やグループ内での立ち位置を考慮した上で、ひとつひとつこだわり、考え抜かれた衣装やアクセサリーたち。そこに込められたデザインの意味の深さや制作秘話にも驚くことまちがいなしだ。アクセサリーのデザイン画など、初出の情報と共にお届けする。じっくりとご覧いただき、制作陣の愛を感じていただきたい!
宮崎氏提案のワイシャツデザイン
▲本誌でもご紹介した7人のデザイン画。「ワイシャツデザインは宮崎さんのこだわりが炸裂していたので、自分からのリクエスト出しなどはせず、監督としてジャッジをしていくだけだった気がしますね」と山本監督。後ほど、ひとりひとり紹介していくので、こちらのデザイン画と共にチェックいただきたい
▲Marvelous Designerで制作されたワイシャツ衣装。衣装制作をしていく中で、当初はシルエットがピッタリになりがちで、衣装を着て動くとタイトさが顕著にみられたため、遊びが必要だった。そこで全体的にデザイン画よりもゆとりをもたせている
宮崎氏提案のアクセサリーデザイン
▲先に紹介した【7人のデザイン画】でも描かれているが、アクセサリーも宮崎氏がデザインしている。ここではそれらも詳しく紹介しよう。【左】アクセサリーデザイン画①。こちらは七瀬 陸さん、二階堂大和さん、和泉三月さん、四葉 環さんが着用するもの。【右】アクセサリーデザイン②。こちらは和泉一織さん、逢坂壮五さん、六弥ナギさんが着用するもの。メンバーを象徴する音楽記号が象られたおしゃれなデザインだ。アクセサリーの種類が全て異なるのも、色に対しても、こだわりを感じる
和泉一織さんの衣装
▲ワイシャツ衣装を着た一織さん。こちらの衣装は「エレガントな"パーフェクト高校生"である一織さんに相応しいデザインを目指しました」(宮崎氏)という。袖はダブルカフスでフォーマルにし、襟の形はスタンドカラーを選択した。シャツの第一ボタンは外しドレスダウンさせつつも、ダンスシーンの際に必要以上にはだけないよう、ダブルフラットのドレスピアスで飾っている。さわやかさとほのかなセクシーさを共存させた上で、禁欲的な雰囲気をまとった衣装に仕上げられた
二階堂大和さんの衣装
▲ワイシャツ衣装を着た二階堂さん。IDOLiSH7のリーダーである二階堂さんの衣装は、身体にフィットしたシルエットになっている。袖はロールアップさせ、鍛えられた腕の筋肉を見せる着こなしに。アクセサリーもバングルが選ばれており、自然と目線が腕周りに集まる。バングルにはシャープマークの印字が彫られ、この太めのシルバーのバングルに細めの黒いブレスレットを重ね合わせることで、男性らしさが演出された。「二階堂さんは手が大きいので、ゴツ目の重ね付けが似合いそうだと思ってデザインしました」と宮崎氏。また、襟を立たせる大人のスタイルも難なく着こなしてしまうのは、さすがIDOLiSH7のお兄さん。コンテンポラリーダンスでは、立てた襟が表情を効果的に隠し、悲しみや憂いの芝居を際立たせている
和泉三月さんの衣装
▲ワイシャツ衣装を着た三月さん。このデザインは、宮崎氏がダンスの振り付けを見学していたときに閃いたという。三月さんは小柄な体格だが、MVのダイナミックなダンスの振りを活かすため、オーバーサイズのデザインとなった。ダンス中ひらひらと揺れ動くワイシャツが、画面に華やかさをプラスしている。もちろんLLサイズのワイシャツを着てもらっているわけではなく、三月さんを正確に採寸した上で、身体に合わせたオーバーサイズシャツをセレクトしたとのこと。振りの中にキックが入っていることを考慮して、パンツはロールアップが選択された。さらにアンクレットも着用している。「山本監督に"三月さんは右足にアンクレットを着けるのでちゃんと映してくださいね!"と頼んだら、凄く目立つように撮影してくれたので嬉しかったです」と宮崎氏。小柄でも大きな存在感を放つ三月さんらしい衣装となった
四葉 環さんの衣装
▲ワイシャツ衣装を着た四葉さん。ダンスも体格もダイナミックな四葉さんだが、ダンスの振り付けの際に高くジャンプする姿が印象的だったことから、シャツにも動きが出るようにとボタンを外してたデザインとなった。「IDOLiSH7のセクシー担当だと聞いていたので、留めているボタンは3つだけにしてもらい、お腹も首まわりもビラビラになるように着てもらいました」(宮崎氏)とのこと。また、逢坂さんと並んだときに、真逆の印象にしたいというねらいもあったという。確かに逢坂さんと見比べてみると、同じ白いワイシャツにもかかわらず、異なる印象を受ける。アクセサリーは、メゾピアノのモチーフが付いたネックレス。キレイな鎖骨を強調し、四葉さんの無自覚な色気を演出している
逢坂壮五さんの衣装
▲ワイシャツ衣装を着た逢坂壮五さん。7人の中で最もシンプルだというのが、この逢坂さんの衣装だ。物足りないと感じるかもしれないが、カジュアルなボタンダウンカラーにフォーマルなフライフロントスタイルを合わせた上級者向けのデザインとなっている。「このフォーマルとカジュアルの絶妙なバランス感を着こなせるのは逢坂さんだ! と考えました」と宮崎氏。袖を折るなどのアレンジを加えずとも、すんなりと自分のモノにしてしまう逢坂さん。さすがのひと言に尽きる。また、アクセントとして付けたメゾフォルテのボタンダウンピアスが襟の揺れを抑えているため、一見まったく隙がなさそうに見えるのだが、実はシャツの丈が最も短く、腕を上げるだけでお腹が見えてしまう。あえてこうしたアンバランスな形に仕上げて逢坂さんの色気を引き立てたとのこと
六弥ナギさんの衣装
▲ワイシャツ衣装を着た六弥さん。どんな服装も着こなしてしまうスタイル抜群の六弥さんは、ワイシャツのデザインに印象をもっていくのではなく、アクセサリーに意識が向くようにスタイリングされている。「私は六弥さんからメンバーに対する愛や思いやりを強く感じたので、アクセサリーにもそうした想いや願いを込めています」と宮崎氏。当初指輪のストーンの色はメンバーのカラーにしようと考えられていた。しかし、相手の目を真っ直ぐ見てコミュニケーションをとる六弥さんの姿から、メンバーの「目の色」の宝石をあしらうことに。IDOLiSH7の派生ユニット『ピタゴラス☆ファイター』を一緒に歌うメンバーの二階堂さんと三月さんの目の色から、スモーキークオーツ(右手中指)とヘソナイトガーネット(右手小指)を使用した。ちなみに右手の親指はナチュラルの音符と六弥さんの瞳のカラーの装飾となっている
七瀬 陸さんの衣装
▲ワイシャツ衣装を着た七瀬さん。ワイシャツ衣装のシーンの中でもひと際画面に映るのが七瀬さんだ。シルエットはワイシャツの透け感が活きるようにゆったり設計され、襟もゆったりと広げ、スッキリしたうなじが美しく見えるようにデザインされている。極力余計な情報を入れないたいために、ボタンもフロントフライスタイルで隠した。また、三月さん以外のメンバーのパンツは揃いのものに見えるが、実は七瀬さんのものだけノークッション、スマートな印象となっている。アクセサリーは左耳にだけダブルシャープのイヤリングを着用。耳は影になって見えづらくなりがちだが、編集スタッフに依頼し明るくする処理を施すことで目立たせている
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Marvelous Designerを用いたこだわりの衣装制作
Marvelous Designerを用いたこだわりの衣装制作
各メンバーのワイシャツ衣装を紹介してきたが、あなたはどのデザインがお気に入りだっただろうか。いずれの衣装も、メンバーひとりひとりのイメージをデザインに落とし込み、その完成度に感服させられた。IDOLiSH7を熟知した上で、深い愛がなければできないことだ。続いてこのパートでは、本記事の最初の方で触れた衣装のシミュレーションなど、ワイシャツ衣装のカット制作について、場面カットと共にテクニカルな内容も交えて解説していく。ここからはイメージが壊れるような記述や専門的な内容を含むことがあるため、ご理解いただいた上でお読みいただきたい。
美しい衣装のシワの探求
ワイシャツのシワの出方に関係する生地の柔らかさなどは、オレンジのエフェクトチームが試行錯誤してバランスを探っている。シワが多くなると汚い影が出てしまうため、手作業で消している箇所もあるというが、ライティング工程でも調整を重ねることで、極力汚い影が出ないようにされた。しかし、影を減らしていくと最終的に2Dの平べったい質感になってしまう。ある程度は影を残す必要があるため、バランスを探るのに苦労したそうだ。こうした影はセル調のCG表現では問題になりがちなポイントで、山本監督は「まだ課題は残っています」と厳しい自己評価だったが、臨場感のあるリアルな動きとセル調の質感が調和した絶妙なルックに仕上がっている
▲Marvelous Designerで制作したワイシャツ衣装にダンスのモーションを入れた状態。ルック調整をしていないため、細かいシワや影が多く出ており、リアルではあるが本MVの作風には情報量過多な印象だ
▲モーションの比較。左のコマ打ち(可変)と右のフルコマを比べてみると、細かいちがいではあるがタメツメがはっきりしているコマ打ちの方が、セル調の質感で動いたときに違和感が生まれづらい
▲最終的なルック。Marvelous Designerらしい衣装の動きやシワ表現を活かしながらも、バランスの良い情報量に調節された
綺麗なシルエットとシワの調整
▲光のチリとなる一織さんに駆け寄って手をのばす七瀬さんのカット。身体のシルエットを見せられるシーンでは、シワが美しく寄っていくように調整しているという。特にこちらのカットでは影調整に力が入れられた。「光が強く当たる一織さんの背中はMarvelous Designerらしい滑らかなシワの見せどころだと思い、全体的に空気抵抗を強くかけることでシワが残りやすいようにしました」と望月千夏氏。また、こちらのカットでは七瀬さんが手をのばすスピードが速かったため、袖が身体に張り付いてしまい硬い動きになっていた。そこで、全体の速度を50%に落とした上でシミュレーションし、柔らかさのある動きに調整されている
背後から吹く風
▲背後から吹雪く風を受ける七瀬さん。Marvelous Designer上の風はデフォルトの場合、真っ直ぐ吹いてしまうため、手動で風の強さの値を入力している。しかし、人が入力している以上、どうしても人工的な印象が残ってしまった。そこで入力したキーをランダムに動かすことで不自然な風のながれを解消し、その後、山本監督の指示に合わせて再度微調整を行なっている。また、風が弱まった瞬間に背中側のワイシャツが浮いてしまう現象を防ぐため、見えない部分で固定して調整された。加えて、胸部分についても手でゆるく抑えているように見せるため固定するなど、細かな調整が施されている
現実的な正しさより美しく見えるシルエットを探る
こちらは下手から四葉さんの足がINしてくるカットの制作過程。風が吹いているため、シミュレーションをかけたままでは、脚にピッタリとパンツが張り付いてしまう。現実的には正しいのだが、映像として見たときには違和感が大きかったため、美しいシルエットになるように調整している
▲山本監督によるタイミング指示。山本監督自ら赤線で直接描き込み、気持ちの良いシルエットを目指した
▲修正後。「シミュレーションや素材の書き出し、ひとつひとつにかなりの時間がかかってしまうため、余計に時間を消費しないためにも事前に山本監督から動作のイメージをいただいて、また逐一すり合わせを行いながら作業に取りかかりました」と望月氏は話す
風の向きを意識したワイシャツの動き
▲凍った湖に佇む七瀬さんのもとに6人が現れるカット。ここでは七瀬さんを中心に風がブワっと広がっているため、他のメンバーの布の動きも風向きを意識して付けられている。逢坂さんや六弥さんがわかりやすい。7人同時のシミュレーションはPCへの負荷が大きく難しいため、シーンの風の位置を確定した後にひとりひとり取り込み、その後風の強さが調整された
めくれるワイシャツに対する変態的なほどのこだわり
▲各メンバーのワイシャツがめくれるシーン。動きが大きく衣装がめくれてしまうような箇所は、メンバーに合わせてめくれ加減を調整している。「普段からはだけているようなメンバーであればガッツリと見せ、逆に大人しいメンバーであれば1コマだけチラっと見えるように、など変態と言われても否定できないほどこだわりました(笑)」と望月氏
▲また、どうしてもお腹を見せたいカットでは、めくれさせるために手を加えている箇所もあるという。上の画像の手を伸ばしている逢坂さんもそんなカットのひとつ。このカットの動きは予想よりも大人しいものになり、考えていたようにワイシャツがめくれなかった。そのため、手を伸ばす手前からシミュレーションを一時停止し、Marvelous Designer内で左手側下方向に引っ張った状態に設定してから、再度シミュレーションをかけ、反動でめくれるようにしている。自身で「変態」と言ってしまうほどのこだわりが秘められていた
激しい動きに合わせたワイシャツの動き
▲六弥さんがターンするカット。こちらのカットではかなりの速度で六弥さんがターンしているが、あまりに速いターンだと通常のシミュレーションは難しい。フレーム間の速度についていけず、クロスが置いていかれてしまうのだ。そのため、ターン速度を50%まで落とし、かつ画面に映らない部分は身体に固定する形で対応した。一瞬のカットでも手を抜かない松本氏のこだわりが窺える
ワイシャツのデザインと重力の調整
▲凍った湖でのダンスカット。こちらに映る三月さんのワイシャツは、オーバーサイズのデザインのため、他のメンバーよりも重力の扱いに気を付けたという。軽すぎれば全体的に持ち上がってしまうが、一方で重すぎてはシワが平らになってしまう。このカットでは、身体を捻る動作までは重力を小さくして動きを出し、捻った直後に重力を大きくしワイシャツが持ち上がりすぎないように抑え、落ち着いたところでまた重力を軽めにするという三段階の調整が施された。シミュレーションの途中からでも調整ができるMarvelous Designerの利点を最大限に活かしている。こちらも松本氏担当のカットだ
「ワイシャツ衣装」だけにフォーカスしてお届けした今回。いかがだっただろうか。メンバーが袖を通すまでに、どれだけの時間と想いがかけられているのかを改めて実感させられた。アイドルの戦闘服といえる衣装。真っ白なワイシャツが表すのは、トップアイドルとして洗練された現在の彼らか、それとも新たな1ページの始まりか。真っ白なシャツに書き込まれる未来の行方を迎えに行こう! ということで、次回も新たな視点から『Mr.AFFECTiON』の魅力を探っていく。乞うご期待だ。