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    本誌『CGWORLD vol.258』では、大人気アイドルグループIDOLiSH7の新曲『Mr.AFFECTiON』のMVを特集し、MVをプロデュースしたバンダイナムコオンライン、実制作を担当したオレンジにインタビューを敢行。MV制作の舞台裏をお伝えした。しかし、限られた誌面ではその全てを紹介することはできず、このまま眠らせておくにはあまりにも惜しい。まだまだ伝えたいことがあるという想いから、CGWORLD.jpでの短期連載が緊急決定! アイドルIDOLiSH7とスタッフの挑戦の軌跡を、全7回にわたってお届けする。第1回となる今回は、MV制作までの経緯を中心に、MV内に仕込まれた「隠し要素」の一部も紹介しよう。

    TEXT_野澤 慧 / Satoshi Nozawa
    EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

    • IDOLiSH7 ニューシングル『Mr.AFFECTiON』
      好評発売中
      価格:1,200円(税抜)
      www.lantis.jp

    • 『アイドリッシュセブン』
      ジャンル:音楽・AVG(アドベンチャーゲーム)
      発売:バンダイ ナムコオンライン
      価格:無料(一部アイテム課金あり)
      対応OS:iOS・Android
      idolish7.com

    プレッシャーのその先へ、スタッフたちの覚悟

    『Mr.AFFECTiON』MVをフィーチャーした本誌『vol.258』の発売後、スタッフ陣の「愛の深さ」に読者からは多くの感想が寄せられ、IDOLiSH7が見せた新しい一面に、成長を喜ぶ声も聞こえてきた。彼らIDOLiSH7の新境地を開くこととなった本MVはどのようにして始まったのか。そこから迫っていこう。

    遡ること約2年、2018年の1月頃、本格的にMVの制作が走り出した。年末恒例で行われる国民的音楽イベント「ブラック・オア・ホワイト ミュージックファンタジア(ブラホワ)」に向けて、新曲の披露とグループの実力を示す上で重要な要素となるMV。ここでどれだけ観客の心をつかめるかが勝敗を左右することにもなりかねない。どのグループも制作を依頼するスタジオ選びは慎重になる。アイドルたちの闘いは、すでにこの時点で始まっているのだ。

    『アイドリッシュセブン』第4部で配信されたほかグループのMV制作会社も豪華だ。アウトローな雰囲気をもつŹOOĻはクールに影のある映像を多く手がけてきたufotableが、ブラホワで総合優勝を果たしたトップアイドルRe:valeはTVアニメシリーズを手がけるTROYCAが、強力な良きライバルのTRIGGERは独自の作品づくりに実力がありシンパシーを感じるTRIGGERが担当。各アイドルグループとスタジオの特色とを合わせて選ばれた。

    有名スタジオが名を連ねる中、前年覇者IDOLiSH7のMVを制作することになったのがオレンジだ。近年めきめきと頭角を現しているスタジオとはいえ、他のスタジオよりまだ知名度は低い。制作プロデューサーの半澤優樹氏は当時をふり返り「IDOLiSH7さんのMVを担当させていただけることが決まり、2019年の1月7日(火)にMV制作発表のツイートをさせていただいたのですが、その際にŹOOĻさんのMVをufotableさんが担当すると知りまして......。何とはなしにフォロワー数を確認してみたら、オレンジが1万くらいで、ufotableさんは40万くらいでした。TVアニメ『宝石の国』を皮切りに元請け制作を始めて間もない頃でしたので、まだまだスタジオの知名度も低く、なおさらファンの皆様の期待に応えたいという想いが強かったです」と語る。

    左下から時計まわりに、監督・絵コンテ・演出・山本健介氏(オレンジ)、制作プロデューサー・半澤優樹氏(オレンジ)、プロジェクトプロデュース・下岡聡吉氏(バンダイナムコオンライン)、プロジェクトプロデュース・根岸綾香氏(バンダイナムコオンライン)、CGディレクター・池谷茉衣子氏(オレンジ)、アニメーションキャラクターデザイン・ワイシャツ衣装デザイン・原画・動画・仕上げ検査・宮崎 瞳氏(オレンジ)
    www.bandainamco-ol.co.jp www.orange-cg.com

    知名度としてはこれだけの差がある中でオレンジが選ばれる決め手となったのが、『コードギアス 亡国のアキト』と、当時放送されていた『宝石の国』だった。『コードギアス 亡国のアキト』でのアクションとCG作品の範疇を超えたルック表現、そして『宝石の国』のスカッとした色遣いとテンポ感が、IDOLiSH7のグループとしてのイメージに適していたのだという。また、現在第一線で走る男性アイドルグループの中でもIDOLiSH7はメンバーが多い。人数が多ければそれだけつくり手の負担は大きく難しくなるが、『宝石の国』を手がけたオレンジであれば信頼できるという理由もあったそうだ。

    さらに「池谷茉衣子さんをはじめ、スタジオ内にファンの方がいらしたのも大きかったです。アイドリッシュセブンプロジェクトの大切なアイドルを任せるわけですから、IDOLiSH7を理解してくれていることが伝わってきて信頼することができました」と下岡聡吉氏も語る。

    そして何より、VFXを始めとする映像技術レベルの高さは決め手だったという。「BĻACK OR WHiTE」にて、IDOLiSH7は前年覇者として挑戦者を迎え撃つ立場であった。前年は挑戦者だった彼らも、いまや名実共に老若男女から愛される国民的アイドルだ。当然、楽曲のレベルも以前より数段上がっている。そんな彼らにふさわしいゴージャスなMV制作のためには、VFXの力は不可欠であった。

    本MVには、歴史を感じさせる古城を中心に、凍った湖など美しいロケーションが登場する。外国での撮影かと思いきや、なんと本MVは全てスタジオ撮影というから驚きだ。「もし本当にロケーションしますとなったら寒いですからね。七瀬 陸さんをはじめ、メンバーの皆さんの体調を考えながらスタジオで撮影していますので安心してください」と監督の山本健介氏。スタジオにいながら、様々なロケーションで撮影しているかのような臨場感を実現にしたのがオレンジのVFXだ。

    まさにVFXの集大成といえる映像は、ハリウッド級の予算がかけられていそうな高いクオリティである。それこそ、VFX出身の山本監督が最も得意とする分野だ。とはいえ、人気アイドルのMVを手がけることのプレッシャーは大きかったのではないだろうか。山本監督は「MVの制作自体が初めてだったこともありますし、今回のように歌もあって、ストーリーのながれもある映像をイチからつくるのも初の試みでした。最初にお話をいただいたときに、本当にできるだろうかというプレッシャーを感じましたね」と話す。

    いわゆるOP映像では、楽曲はあくまでも作品のテーマソングという位置づけであり、MVとは構成が異なるのだという。本作では、MVとして根岸綾香氏から「曲のイメージを膨らませるものにしてほしい」という要望があったそうだ。楽曲の世界を大きく広げていくべく「画面の情報量を常に多く」を合言葉に、絵コンテ段階から大量のVFXによる演出が計画された。あまりの壮大さに新しく挑戦する部分も多かったが、スタッフ陣の「今までのIDOLiSH7にないMVをつくりたい」という気持ちで臆することなくふんだんにVFXを盛り込んだという。

    また、当時はアイドルにあまり詳しくなかった山本監督だが、そちらの勉強にも真摯に向き合い「娘や池谷さんに教えてもらいながら、ここまでたどり着きました(笑)」と話す。そして「池谷さんに連れられてライブに参加し、どんどん彼らが好きになっていきました。ファーストライブは中核スタッフで行って盛り上がったんですよ。ライブでファンの方たちの様子を見て"期待に応えたい"と改めて感じましたね」と宮崎 瞳氏。「作品や企画の大きさにプレッシャーはありましたが、全力で挑戦しました」と、池谷氏もふり返る。

    ファンの愛の強さに直に触れ、そして自身の中の愛が大きくなっていくにつれ、スタッフたちのプレッシャーも高まっていった。しかし、結果は言わずもがな。ファンとしての目(アイ)と映像制作のプロとしての目(アイ)との双方がプラスの相乗効果を生み、IDOLiSH7の歴史に残る名MVが完成した。

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    MVに隠された要素を探せ!

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    MVに隠された要素を探せ!

    「何度もくり返し、細部まで観られること」を想定し、MVを楽しんでほしいというオレンジの愛から、本MVは各所に遊びが入れられている。各メンバーを表す「音楽記号」や名前の数字になぞらえた「多角形」を見つけられただろうか? そこでここからは、本誌でも紹介した隠し要素を一部お届けしよう。ここから先はネタバレを含むため、自力で見つけたいという方は注意していただきたい。











    ※以下、ネタバレ注意※









    メンバーを表す音楽記号

    ▲こちらはイントロ直前のカット。一瞬だけ城門が映るシーンだが、扉中央の金属部分のデザインをよくご覧いただきたい。実は七瀬 陸さんの音楽記号「ダブルシャープ」と六弥ナギさんの音楽記号「ナチュラル」を模した形になっている。一箇所に2つの隠し要素が入っている唯一のパターンだ。目立つ上部のダブルシャープに気を取られがちだが、その下のナチュラルにも気付けた方はかなり少ないのではないだろうか!?

    ▲1分16秒あたりのこちらのカット。七瀬さんを中心に一気に俯瞰へとカメラが引いていくが、この画面右下の城壁には和泉三月さんの音楽記号「フラット」が彫り込まれている。七瀬さんの足元から一気に氷が広がっていく画づくりは、スタジオ撮影の七瀬さんに、tyFlowというツールを用いて氷の表現を合成した。ツールの特徴を存分に活かしたVFX表現だ。こちらの隠しネタもわかりやすい位置にあるので、発見した方も多いのでは?

    ▲2分21秒付近のカット。変身シーン直前の和泉一織さんが庭園を歩くシーンだ。画面右上、生垣に積もった雪が和泉さんの音楽記号である「ダブルフラット」を形づくっている。こちらはかなり大きくわかりやすい隠しネタだけに、すぐ気づかれた方も少なくないだろう。本誌でも紹介させていただいた隠し要素だ

    メンバーの名前の数字にならった「多角形」

    ▲六弥さんの変身シーン。ここからは一気にアイドルとしての輝きを放つ。これらの変身シーンは彼らが悩みから解き放たれた様子を表し、各人のキャラクター性に合わせて演出を設計。彼らの解き放たれる前後の表情やポーズ、場所まで各メンバーをイメージした。六弥さんの場合、隠し要素の多角形はわかりやすく「六角形の結晶」が漂っている

    ▲逢坂さんの変身シーン。こちらは本誌に掲載しているが、「五芒星(星型五角形)」を採用している。そっと手をかざし微笑むと窓ガラスが割れる変身シーンの演出が、温和な性格でグループ内ではお母さん的な立ち位置という逢坂さんのイメージを表している。ただの五角形ではなく五芒星というのが逢坂さんの神秘的な印象にピッタリだ。池谷氏のディレクションにより、しなやかさや色気をまとう動きをねらったという

    ▲和泉さんの変身シーン。生垣でできた迷路を光の羽で突破するという華やかな演出だ。羽に秘密があると思いきや、注目すべきはその軌道だ。大量の羽が形づくるのは「円」。つまりは「一角形」である。これまた、いずれのメンバーとも異なる表現方法だけに、気付けた方は少ないのでは?

    さて、第1回はここまで。いかがだっただろうか? 今回はオレンジが選ばれた経緯と隠しネタにフォーカスしたが、エピソードを追っていくほどオレンジに白羽の矢が立った理由を実感できる。隠し要素は全てオレンジサイドからの提案で、IDOLiSH7への愛の大きさの証だ。そして、IDOLiSH7撮り下ろしの本誌表紙にも隠し要素がしこまれていたのだが、お気づきだろうか。まだお気づきでない方はそちらも探してみていただきたい。ヒントは「氷」。さらに本誌記事の背景にも記号が......!? 次回はまた別の角度から『Mr.AFFECTiON』に迫っていくのでお楽しみに。



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      判型:A4ワイド
      総ページ数:128
      発売日:2020年1月10日