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第3回:セット&プロップ

第3回:セット&プロップ

section 02 Sets
SFの世界観に説得力をもたせる要となったセット制作

『キャプテンハーロック』プロジェクトにおいて、物量とデータ容量との戦いに最も腐心したのが、このチームかもしれない。妥協なき画づくりと、後工程で扱いやすいデータに仕上げるという課題を両立させるための取り組みを探る。


左から、花田義浩氏、中井 翼セット&プロップスーパーバイザー、天野 洋氏、永田浩司氏、東 秀幸氏、卷之内秀明氏、早川一繁氏、松岡昌志氏、荒川孝宏テクニカルディレクター

はじめに対象を絞った上でクオリティラインを明確にする

122もの背景シーンを制作したというセット&プロップチーム。「ハーロック特有の世界観に3DCGアニメーションとして説得力をもたせる上で、背景(セット)とプロップを構成する全要素を脇役ではなく主役として描く、という命題を掲げて制作に入りました。キーワードは高密度、そして現実には存在しないものにリアリティをもたせる上ではアートチームなど他のチームと密に連携することを心がけました」と、セット&プロップスーパーバイザーを務めた中井 翼氏はふり返る。とは言え、背景122アセットに加えて、プロップ(アルカディア号のような巨大戦艦も含まれる)も56アセットという物量を、約10名という少数精鋭で制作する上では様々な工夫を凝らしたという。「背景については、とにかくカメラに映り込むところだけを徹底して作り込みました。そのためにも監督チェックを受ける際は、実際のショットのカメラを基に、ライティングはライティングチームに設定してもらった上でチェックを受けました」(中井氏)。
まずはアルカディア号と敵戦艦オケアノスの内観(通路)に絞り、ファイナルに近いところまで先に作り込んでおき、その他の背景はこの2つをクオリティラインに据えて制作された。使用ツールはMayaをメインに、岩肌やドクロなど特に複雑な形状はZBrushとMudboxが併用された。特に岩肌のような自然景観を作成する上では、ZBrushでスカルプティングした単体モデルをディスプレイスメントマップとして描き出し、それをインスタンス化したものを細かく調整するという手法を用いることで、データを抑えつつ複雑な景観を作り出すことに成功したとのこと。
また、大規模なロングショットや艦隊戦などの描写も数多く登場するため、データのオプティマイズ(最適化)にはかなりの神経を費やしたそうだ。「データ量を抑えるべく、可能な限りインスタンスを使うということと、オブジェクトをコンバインしてノード数を極力少なくする、という方針をとりました」(中井氏)。オプティマイズの際には、荒川孝宏TDがシーンファイルを検証して自動的にインスタンス化するスクリプトも作成された。

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作業量を正確に見積もるために~背景シーンのルックデヴ
〈上〉制作当初に作られた、アルカディア号の通路ルックデヴとMayaシーンファイル。ショットに出てくる実際のカメラでセットを作り、ライティングはライティングチームによって施された。初期から仕上がりを見据えて制作することで効率的に作業が行えたという。〈下〉オケアノス号の通路ルックデヴとMayaシーンファイル。スチームパンク風のアルカディア号と、オーソドックスなSF調のオケアノス号という明確なデザインコンセプトのちがいも検証された
© LEIJI MATSUMOTO / CAPTAIN HARLOCK Film Partners

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ディスプレイスメントマップの活用
〈上〉アルカディア号ブリッジのMayaシーンファイルと完成形。この上位置にキャプテンシートがある〈下〉ドクロ装飾部分のディスプレイスメントマップの例、4,096×4,096サイズとかなりの表示高解像度だ。アルカディア号艦内のシーンファイルで、ドクロ部分のみにディスプレイスメントマップを適用する
© LEIJI MATSUMOTO / CAPTAIN HARLOCK Film Partners

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最大のデータ量に達した「火星都市」BG
〈左上〉火星都市のシーンファイル、〈右上〉ワイヤーフレーム表示、〈下〉完成形。最初に作成したMayaシーンファイルではメッシュデータ時で1.2GBに達したが、インスタンス化することで500MBにまで最適化(オプティマイズ)させることによって、ようやく後工程に引き継ぐことができたという。本プロジェクトで最も重いシーンである
© LEIJI MATSUMOTO / CAPTAIN HARLOCK Film Partners

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