>   >  戦記『キャプテンハーロック』:第 2 回:基幹テクノロジーとプロダクション・パイプライン
第 2 回:基幹テクノロジーとプロダクション・パイプライン

第 2 回:基幹テクノロジーとプロダクション・パイプライン

世界標準のフル 3DCG アニメーションを目指したという、2013 年最大の注目作『キャプテンハーロック』。アニメーション制作をリードした MARZA ANIMATION PLANET の具体的な制作手法を多角的に考察する本シリーズ企画。今回は、プロダクション・パイプラインと、制作を支えたインハウスツールをみていきたい。

ハーロック ハーロック

© LEIJI MATSUMOTO / CAPTAIN HARLOCK Film Partners
『キャプテンハーロック』
2013年秋・全国ロードショー、原作総設定:松本零士/監督:荒牧伸志/脚本:福井晴敏、竹内清人/アニメーション制作:東映アニメーション、MARZAANIMATION PLANET
harlock-movie.com

section 01:Arnold
映画クオリティと画づくりの効率性~レンダラの選定~

世界標準のクオリティを実践する上では、どのレンダラを用いるかも大きな決め手になる。本作では、国内でもいち早くハリウッドでも高い注目を集める レイトレーサー Arnold を導入することで、目指すルックを実現することに成功したという。


竹内謙吾 CG スーパーバイザー(右)と荒川孝宏 テクニカル・ディレクター(左)

フル CG 長編アニメーションに適したレンダラとは

2009 年に行われたパイロット版「RITA」完成後(※第 1 回を参照)、MARZA ANIMATION PLANET(以下、MARZA)では、本制作に向けてプリプロダクションを行う時間が半年ほど設けられた。その一環として、当時の MARZA が主に使用していた RenderMan から次世代に向けた新たなレンダラの模索が始められた。
「世界的なレイトレーサーへの移行の波もありましたが、自分たちの環境や目指すルックを実現する上で、最適なレンダラを選定することが目的でした」と、レンダラのリサーチをリードした荒川孝宏テクニカル・ディレクターはふり返る。調査期間は約 3 ヶ月、本制作にあたり、MARZA は約 900 台、10,000 コアという日本随一と言っても過言ではない規模のレンダーファームを導入したが(後述)、その根底にあるのはハリウッドクオリティを日本の現場で実現するということ。ゆえにレンダラについても、単純なコストパフォーマンスの追求ではなく描画クオリティ、その中でもこれまで MARZA がこだわってきたヘアの表現力について注力しながら様々な検証が行われたという。


Arnold Showreel July 2013

比較対象となったのは、これまでメインとしてきた RenderMan 、社内の別プロジェクトにおいて確かな成果を上げていた V-Ray for Maya 、そして最終的に採用された Arnold の 3 レンダラであった。
「調査を行なった 2010 年時点では、日本ではまだ Arnold のリセラーが存在せず、開発元と直接交渉するほかありませんでした。ですが、当社には欧米の商慣習に精通するスタッフが在籍していること、そして開発元の Solid Angle が柔軟に対応してくれたことから候補に加えました」(荒川氏)。

検証方法は、「RITA」から屋外、屋内、キャラクター寄り、モブなどいくつかのカットを選定し、「RITA」(RenderMan)のデータから各レンダラごとにチューニングを行なった上で、V-Ray と Arnold の双方でライティングとコンポジットワークが試行された。「そして一連の結果の下、本番の総尺で描画した場合のレンダリングコストが見積もられた。
「コストパフォーマンスの面では V-Ray が優位でしたが、Arnold ではマシンパワーは求められるもののデザイナーの作業効率が非常に良く、レンダリング結果のクオリティにおいて優れた結果を得ることができました。これまで RenderMan でアセットやシェーディングの開発をしていたのですが、Arnold はそれらの技術が応用しやすく、開発の面でも優位性を感じました」(荒川氏)。
また、当時の V-Ray for Maya ではヘアの表現力において MARZA が求める域には達していなかったが、一方の Arnold では RenderMan で培ってきた一連の技法をそのまま転用できたことも大きかったという。検証結果は、荒川氏によって 20 ページにわたるレポートにまとめられ、最終的に Arnold の導入が決定した。
「本制作の際には、レンダリングは 1 フレームあたり上限 8 時間というルールを定めました。 最終的には 20 ~ 30 時間も要するジョブも出てきましたが、ショット単位で調整することでレンダリングの終了待ちで作業ができない、といった問題は発生しませんでしたね」(竹内謙吾CGスーパーバイザー)。

ハーロック

幅広い観点からのリサーチと検証
レンダラの検証は、上図にある7つの指標の下で進められた。<1><2>はデザイナーレベルのソフトウェアの使用検証であり、<3><5>は TD やテクノロジーレベルでのカスタム性や別ソフトとの相性に関する検証、そして<6><7>はマネジメントレベルでのコスト、実運用としての検証となる。注目したいのは、<8>の開発元サポートだ。インハウスでカスタマイズすることを前提とした MARZA の運用方法では、開発元がどの程度までオープンに技術的サポートが可能か、どれだけスピーディに対応ができるか、といった部分まで評価対象にしているのが興味深い

ハーロック

© LEIJI MATSUMOTO / CAPTAIN HARLOCK Film Partners
Arnold の優位性
Arnold の強みは、非常に少ないレイヤー(レンダーパス)数で目指すルックが得られることだという。プリプロで行われた検証結果では、RenderMan が 20 レイヤー、V-Ray が 6 レイヤーに対して Arnold はわずか 2 レイヤー。つまりキャラクターと背景のパスという切り分けだけでレンダリングを行えるということだ。本作のように非常にハイクオリティな映像表現の場合、一般的に複数のパスを書き出し、コンポジットで調整していくものが王道と言えるが、素材レベルでのクオリティがすでに十分に高いため、結果としてプレビューが早く、画づくりのトライ&エラーを数多く行える。また、本文で触れた通り Arnold では、MARZA がこれまで RenderMan で使用してきた veFur のアルゴリズムをスムーズに転用できたため、キャラクターと毛をひとまとめにレンダリングできたことも導入の大きな決め手となったそうだ。画像は、本編に登場する火星都市のロングショット。カメラワークとの兼ね合いで景観はフル 3D で作成されたため、1 フレームあたりのレンダリング時間が 20 時間を超える、ひときわ高負荷のショットになったとのこと

その他の連載