1970年代後半に制作された、松本零士原作の 『宇宙海賊キャプテンハーロック』 。ヨーロッパをはじめ海外にも熱狂的なファンが多い不朽の名作が、この秋フル3DCG劇場長編として奇跡の復活を果たす。監督は、CGアニメの第一人者・荒牧伸志氏。そしてアニメーション制作をリードするのはハイクオリティな表現に定評のある MARZA ANIMATION PLANET という、2013年最大の要注目作について多角的に考察していく。

© LEIJI MATSUMOTO / CAPTAIN HARLOCK Film Partners
映画『キャプテンハーロック』2013年9月7日(土)全国ロードショー
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日本アニメの代表作を、満を持してフル3DCGでリブート

全ての始まりは2008年8月初旬のこと。荒牧伸志監督が東映アニメーション取締役の清水慎治氏から『宇宙海賊キャプテンハーロック』の新作パイロット版を監督してほしいと依頼を受けたことに端を発する。その時は、まだ作画にするのか3DCGにするのかも含め具体的なことは何も決まっていなかったそうだが、数週間後に改めて打ち合わせに呼ばれた荒牧監督は、本作のプロデューサーを務めることになる池澤良幸氏と出会い、池澤氏から世界標準のハイクオリティな3DCGアニメーションとして、世界に打って出たいという大胆な構想を聞かされたのであった。それを聞いた荒牧監督は、すでにいくつかのプロジェクトで MARZA ANIMATION PLANET(以下、MARZA) の前身であるセガVE研究開発部と制作の経験があったことから、彼らに制作してもらいたいと考えたという。
「ハイクオリティでフォトリアルなCGアニメーションを作る上で、一度組んだことのあるスタッフ、スタジオと一緒にやる、というメリットは計り知れない わけです」(荒牧監督)。

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CGWORLD短期連載/戦記『キャプテンハーロック』(第1回)特製トレイラー

池澤プロデューサーと荒牧監督は日本から世界と互角にわたりあえるクオリティのフルCGアニメーション作品を作りたかった。それはアイアンマンやその他マーベル作品のように、マンガから生まれた映画が数多くハリウッドで生み出されていることに対する悔しさからきている。
「アニメ的なアクションやメカやキャラクターのデザイン、シーンの見せ方というのは日本のコンテンツがもつ強みのひとつだったわけですが、ハリウッド映画はそういうアイデアをフォトリアルな映像として作品に落とし込んでくる、という状況が悔しくない制作者はいないですよ」と荒牧監督。
そして池澤氏も「企画段階の時期、『ファイナルファンタジーⅦ アドベントチルドレン』(2005) が当時話題になっていて、アニメ会社として負けないものを作りたいと思っていました。欧米のような新しい制作システムに対応できるスタジオはどこか選定していたとき、荒牧監督からの打診によってMARZAへパイロット版の制作を依頼しました」と経緯を語ってくれた。

『キャプテンハーロック』監督:荒牧伸志

荒牧伸志/Shinji Aramaki(Director)

1960年10月2日、福岡生まれ。メカデザイナーとしてアニメーション界で頭角を現わし、OVA『メタルスキンパニック MADOX-01』(88)にて原案を手がけると共に監督デビューを果たす。04年には『攻殻機動隊』の士郎正宗原作『APPLESEED』を発表。フル3DCG、トゥーンシェーディング、モーションキャプチャという手法を用いた、この画期的な作品は日本のファンはもとより海外でも称賛の声を集めた。07年にはその続編『EX MACHINA』を監督、昨年には自身のスタジオSOLA DIGITAL ARTS制作による『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』を公開した。日本を代表するフルCGアニメーションに精通した演出家として知られる。

『キャプテンハーロック』場面写真

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そうした熱いオファーを受けたMARZAは、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』 シリーズ『初音ミク -Project DIVA-』 シリーズ などのOPムービー等で知られていたが、設立当初からの目標は「世界に誇れるフルCG劇場向け作品の制作」だった。
MARZAではその当時、ピクサー作品のようなカートゥーン調の表現を目指そうとしていた背景があり、リアル系のCG作品を作ることに多少抵抗があったという。だが、まずは一度長編作品を作ることが何よりも重要であると考えたのに加え、スタッフにリアル系のルックを得意とする人材が多かったのも決断の理由だったと、宮本 佳プロダクション・マネージャーはふり返る。

『キャプテンハーロック』プロダクション・マネージャー:宮本 佳

宮本 佳/Kei Miyamoto(Production Manager)
横浜出身。1999年株式会社スクウェア(現スクウェア・エニックス)入社。ゲームオープニング等の映像制作に携わる。2007年株式会社セガに入社、MARZAの前進であるVE研究開発部の起ち上げから参加し、現在に至る。本作品にはパイロット制作時からプロダクション・マネージャーとして参加。

『キャプテンハーロック』場面写真 『キャプテンハーロック』場面写真 『キャプテンハーロック』場面写真

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妥協なきプリプロダクション、その象徴となったパイロット映像「RITA」

本制作を開始する以前の2009年、まずはプロジェクト名 「RITA」 と名付けられた約3分のパイロット映像の制作と、本編用のシナリオの作成が並行して進められた。パイロット制作の意図としては、本編制作の礎的な意味合いとファイナンスとしての意味があったとのこと。
「シナリオ段階から、フル3DCG作品ということで、キャラクター数、背景のシーン数が効率的になるように調整してもらっていたのですが、それでも絵コンテがひと通りできあがった段階で、総尺は120分、シーンやキャラクターの数も目指すクオリティを考えると決して少なくはなかったですね。CGの現場からも削減要求が矢継ぎ早にきまして(笑)、尺的には本編で105分を目標にして、大胆にカットしたり、演出プランを修正しながら作業量を擦り合わせていきました。この作業はかなり時間がかかりましたが、ここでスケジュール的に収まる程度まで調整できたことによって、完成画面を早めに見ながらクオリティのさらなる向上のための余力ができたので、結果的には良かったと思います」(荒牧監督)。

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パイロット版「RITA」の制作
2009年のプリプロ初期に制作されたパイロット映像「RITA」。まずは自分たちが目指す映像表現をスタッフ間で明確にすると共に、その制作に求められる技術やコストなどを把握する上でも有効だったという。完成したトレイラーに比べると、キャラクターデザインが様式化されていることがわかる。余談だが、「RITA」の由来は2005年に発生したハリケーン・リタに由来するそうだが、あくまでも情報秘匿を目的にした名前付けであり特に深い意味はないとのこと。

同年末にはパイロット版は完成し、2010年には企画側はストーリーボードと絵コンテの作業を進めると共に、制作側も本格的なキャラクター開発が始められた。
「キャラクター・デザインに関しては、どれくらいフォトリアルにするのか、その絶妙な落としどころを探すため、かなり試行錯誤しました」とは、アートディレクターの上野拡覚氏。結果的にメインのキャラクターによっては1体に半年以上もの時間を要したものもあり、スケジュール的には多少の遅れは発生するも、アニメーションチームの協力もあり大きな打撃になることはなかった。

『キャプテンハーロック』アートディレクター:上野拡覚

上野拡覚/Hiroaki Ueno(Art Director)
米国サンフランシスコのAcademy of Art Universityを卒業後帰国し、コンセプトアーティストとしてフロムソフトウェア、MARZA前身のセガVE研、SSVEを経て、現在に至る。本作品にはパイロット制作時からアートディレクターとして参加。

2011年初夏には絵コンテの調整も済み、8月後半からモーションキャプチャの収録が行われた。そこからプロダクションが本格化、2012年4月頃には、全体を4つのブロックに分けて制作を進めていたうちの最初のブロックの最終的なルックが見えてきたという。この段階までで、制作スケジュールとクオリティなどの問題点の洗い出しと全スタッフでの意識の共有ができたことにより、最終的な完成への道筋が立ってきたそうだ。

『キャプテンハーロック』場面写真

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同年末、全体がほぼ完成し、現在はさらにクオリティをもう一段押し上げるため、最終調整を行なっているとのこと。「この作品は、表現できるイメージの限界に挑戦していますので(笑)シナリオにしれっとものすごいシーンが書いてあります。それを何とか絵コンテにしたのはいいけど、実際どういう風に表現しようか? って決めきれていないシーンが去年の秋頃にはまだ数シーン残っていました(笑)」(荒牧監督)。

『キャプテンハーロック』場面写真

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これまでゲームOPなど短尺アニメーションの制作経験しかなかったMARZAにとって、本作の制作負荷やスケジューリングについては手探りの部分も多かっただろう。しかし、多少の調整はありつつも、最終的にはスケジュール通りに完成させることができたというから驚きである。
「手前味噌ですが、ひとえに優秀なスタッフが集まってくれた賜物だと思っています。実際に、僕らプロジェクトを管理する側からアーティストたちを急かすようなことはあまりなく、各部門でプロジェクトの進捗状況に応じて適切に対応してくれていたことには大いに助けられました」(宮本氏)。

『キャプテンハーロック』場面写真 『キャプテンハーロック』場面写真

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世界標準のクオリティを出すべく、世界標準の制作体制を築き上げる

世界標準の制作体制という当初からの意思はあらゆるシーンで一貫している。企画段階では今回、邦画作品ではあまり描かれないコンセプトアートや美術ボードが数えきれないほど描かれた。そうすることで早い段階から最終ルックへの意思統一ができると共に、モデリングのみならず、ライティングやコンポジット作業の内容を明確にし、より効率的に制作が進められる。
「草案の頃から制作途中でも常にコンセプトアートや設定を描いていて、状況によってはCGチームを待たせてしまう場面もあり一見遠回りにも感じた精密なプリプロダクションだったのですが、作業者の方のイメージを企画段階から用意しておけたことで結果的に近道できたと思います」(上野氏)。

『キャプテンハーロック』場面写真

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そして本制作では、レンダラに Arnold を採用したことが3DCG的には大きなトピックとなっている。
日本では未だほとんど導入実績のない新しいレイトレーサーであるが、欧米では Sony Pictures Imageworks を筆頭に、多くの実力のあるスタジオが使い始めている。制作当初はまだ日本に代理店もなく、ハリウッドでもまだ導入され始めたばかりであったことから、非常に挑戦的な選択だったと言えよう。
「他の数多くのレンダラとも比較検討したのですが、Arnoldを選んだことは結果的に大正解だったと思います。レイトレーシングGI(グローバル・イルミネーション) を使用したときの画づくりの完成度と開発のしやすさのおかげで、最終的なルックへ到達するスピードを確実に速めることができましたね」と竹内謙吾CGスーパーバイザーはふり返る。

『キャプテンハーロック』CGスーパーバイザー:竹内謙吾

竹内謙吾/Kengo Takeuchi(CG Supervisor)
福岡県出身。1997年株式会社スクウェア(現スクウェア・エニックス)入社。ゲームオープニング等の映像制作に携わる。2000年、USAホノルルスタジオに移籍しフルCG映画の制作に参加。2002年からフリーランスでテレビドラマや映画制作に携わった後、2007年株式会社セガに入社、現在に至る。

Arnold Showreel January 2013

Arnoldをはじめ非常に先進的なパイプラインとワークフローを構築することによって、世界に胸を張れる映像作品となった本作。次回から本作のパイプラインや各制作工程における中核スタッフたちのとりくみについて、さらに掘り下げて解説していきたい。

TEXT_谷口充大(テトラ
PHOTO_大沼洋平

『キャプテンハーロック』場面写真 『キャプテンハーロック』場面写真

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『キャプテンハーロック』

映画『キャプテンハーロック』

2013年9月7日(土)全国ロードショー
原作総設定:松本零士
監督:荒牧伸志
脚本:福井晴敏、竹内清人
アニメーション制作:東映アニメーション、MARZA ANIMATION PLANET
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