予算が足りない。時間が足りない。人も機材も、何もかもが足りない。インディーズの現場では制約は常に所与の条件だ。だとすれば問題は、それをどう乗り越えるか、または、どう使うか。制限の中にこそある、映像制作ユニット「擬態するメタ」の個性の源泉に迫る。
プロフィール
擬態するメタ
しまぐち ニケ氏とBivi氏による映像制作ユニット。「大衆的実験映像」をテーマに、技法や常識に縛られない実験的・挑戦的な映像作品を制作。MVを中心に、CMや自主制作映像などを多数手がける。
X:@MimicryMeta
企画を考えるときは、面白さに集中する
――擬態するメタの作品には毎回、まだ誰もやっていない、しかけがある。そういう企画を生み出すために、何から始めますか?
しまぐち ニケ氏(以下、しまぐち):企画段階では、制作フローや工程設計をあえてそこまで意識しないようにしています。「面白い企画ができた」という段階から、「これをどうやって実現するか」を考えています。企画段階から「どうやったら実現できるのか」と考え始めてしまうと、アイデアが広がらずに着地してしまうことが多いです。
しまぐち ニケ氏
アニメ作家 、キャラクターデザイナー。サイエンスSARUのアニメーターを経て、フリーランスの映像作家、イラストレーターとして独立。アイデアを起点としたポップなキャラクターデザインとアニメーションを軸に、MVやCMなどの様々な映像表現を手がける。
X:@shimatsuku
Bivi氏(以下、Bivi):僕は企画のアイデアを出すとき、最近見て良かった映像をひたすら眺めながら、思いついたことをメモしておきます。そういうアイデアの種をたくさんストックしておくと、そのストック同士が結びついて今まで思いつかなかったアイデアが生まれたりすることが多いですね。
Bivi氏
映像作家。12歳からエンタメ・映像の制作を開始し、モーショングラフィックスや3DCGを軸に多様なジャンルの作品を発表してきた。現在はMV・CMなどを中心に制作。
X:@chibiice
Instagram:@chibiice8
しまぐち:僕とBiviさんは発想の源泉が全然ちがって、僕はあまり動画からリファレンスを参照しないことが多いです。テーマパークに行ったときのアトラクションのこの演出が良かったな、これをMVでやったら面白いんじゃないか、みたいに日常の生活の中で「面白い!」と思ったことから発想することが多いです。映像作家の中でも映像を見ていない方だと思います(笑)。この真逆のアプローチが、擬態するメタにはすごくプラスに働いています。
オーイシマサヨシさんの「L’oN」のMVは、「歌詞の漢字をアンビグラム(反転させても成立する文字)で表現する」というしかけから発想して、実現方法を後から探りました。その段階では実現方法が思いついていなかったのですが、アンビグラム作家さんの1人とお話しながら実現方法を検討していきました。そのアンビグラム作家さんがお話の中で、「歌詞の一番と二番から漢字を全て抜き出して、どの字とどの字が反転対応できるのか」をリストにしてくださったんです。そのリストが突破口となって、他制作メンバーへの割り振りや進行管理もできるようになり、これで最後までいける! と思った事例でした。
乗り越えるのではなく制約を足すことで突破する
――「制約を足すことで突破する」という発想は、どんな体験から生まれたのでしょう。
しまぐち:星街すいせいさんの「ビビデバ」のMVが、そのイメージに近いかなと思います。もともと「メイキングと本編をまたぐ」というお題があって、まだ見たことのないしかけでやりたくて「ワンカットで表と裏を見せる」というアイデアが出てきたんですが、予算面でも技術的にもどうやってやるかの解がなかなか出てこなかったんです。でも360度カメラを活用することで、全てが解決しました。
Bivi:結果的に360度カメラならではのシュールな感じや、カメラが倒れるギミックも加えられて、これしかない映像が撮れたと思っています。「360度カメラを活用する」という制約を足したことで、むしろ可能性が広がった。壁にぶつかったときにあえて制約を足すことで解決した事例のひとつです。
最初と最後は絶対に自分たちでやる
――2人だけで制作していたときもあれば、今では20~40人規模のチームを組成して制作することも増えたと伺いました。そんな中で変わらず自分たちが担い続けていることは?
Bivi:企画を考えるところと、撮ってきた素材の仮編集(オフライン編集)は必ず自分たちでやります。一番最後のオンライン編集も、2人で1つの画面を見ながら納品ギリギリまで編集し、納品まで見届けています。これらは最終的なクオリティに直結する部分なので、今後も変わらないだろうと思っています。監督業務って、面白いアイデアを考える以上に「成立させる」仕事の方が役割として大きいと思っています。冒頭でもお話ししたように、自分たちですらどうやって実現するのかわからないアイデアを言い出すからには、責任をもって完成させなければいけない。妄想だけ言って「後はお願いします」というかたちには、絶対にしちゃいけないと思っています。
――擬態するメタは2人組の映像制作ユニットですが、お2人のようにほかのクリエイターと組んで活動したいという声も多く聞くようになりました。そんな方にアドバイスはありますか?
Bivi:個人的には、作品を制作する上で出会った人の方が、友だちの延長でチームを組むより上手くいくという実感がありますね。
しまぐち:Biviさんも最初はそうでした。そこから6年以上付き合いがありますが、実は今でも敬語で話しているんです。作品のためにお互いゆずれない部分やこだわりがあったとき、敬語の方がケンカではなく話し合いになるから。仲良しになりすぎるとシビアなことが言えなくなる気がするので、それがこんなに長く続いている理由のひとつだと思っています。
歌詞の漢字を全てアンビグラムにしたMV
オーイシマサヨシ「L’oN」MVでは、歌詞の漢字をアンビグラムで表現するというしかけを先に決め、後から実現方法を設計した。
ⒸPONY CANYON
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TEXT_李 承眞(CGWORLD)