3DCG投稿サービス「ニコニ立体」の公式初となるコンテスト「ニコニ立体 3Dモデリングコンテスト」が昨年開催された。

今回はCGWORLD賞を受賞したLand-Y氏へのインタビューと、受賞作『七尾の狐 七尾色』のメイキングをお届けする。

Land-Y氏のインタビューはこちら
●『七尾の狐 七尾色』 メイキング特集 〜後編〜

『七尾の狐 七尾色』 メイキング特集 〜前編〜
Topic 1:美少女キャラクターのつくり方

芸術肌のLand-Y氏だが、一時期は自主作品の制作が滞っていた時期があり悶々としていたところ、仕事仲間に「とにかく何かつくれ!」と言われ、リハビリのためにつくり始めたのが本作『七尾の狐 七尾色』だという。

▲設定画
コンテストに投稿されたのは1キャラクターのみだが、設定画には複数のキャラクターが描かれており、配色や身長などにばらつきをもたせることで、キャラクターが認識されやすいように配慮されている。
「七尾色が使役する7名の妖怪たちで、基本的な立ち絵とそれぞれの生い立ちや性格の設定メモも作成しました。描くときは深く考えず、適当に筆を走らせます。金髪、和風ミニスカなど、コンセプトは自分のなかで流行っている単語を集めると意外とすぐに出来上がるんですよ」

具体的な制作工程をみていこう。

まず原案となるデザイン画をフリーのペイントソフトKritaで描く。
Kritaを使う理由は無料というのもあるが、左右対称に描けることが大きいそうだ。ただし、補正、加工、着色は、拡大縮小などの画像編集や色調整に慣れているPhotoshopを利用しているとのこと。

▲Kritaによる描き込み
デザイン画はKritaの左右対称モードで描いていく。「モデリングのガイド用途のため、左右非対称に描く必要がないことからKritaを採用しました」

デザインが固まったところで、ExocortexSpeciesで女性のベースボディを改造したものを用い、シルエットを追い込むようにラフモデルをつくり始める。
デッサンもそうだが、シルエットは人の目が最初に認識する部分なのでまさに正攻法だろう。360度回転させながら確認し、おおむね納得したところでデザイン画を破棄してディテールをつくり込んでいく。

「デザイン画はあくまでアタリ用であり、成果物は3DCGなので潔く破棄します」。

使用ツールのSoftimageは非破壊・ノンリニアのシステムであるため、初期段階からポージングできるのがポイントだ。

Softimage愛あふれるLand-Y氏は「社内ツールをつくる際はぜひFabric Engineを研究してもらいたいです。Maya、3ds Max、Softimageなどのツールの垣根を越えられるので、Softimageユーザーが生き残れる光になるかもしれません。いずれオープンソース化もしてほしいですね。Softimageは不滅です!」と熱く語ってくれた。

そうして、いくつかのポーズを切り替えながら品質の確認やレタッチを行い、最終的な見た目を模索し始める。実際にポーズをとらせると、お尻まわりが小さく色気が足りないと気づき、1.5倍ほど大きくしたそうだ。逆に髪の毛はボリュームを抑えることで正面から見た満足度は減るものの、ポーズを付けた際の満足度を上げることができたという。

「修正直後は気に入らない感じもしますが、2、3日後にみると修正した方が良かったとわかるので、一度頭の中の感覚をリセットすると良いです。全ての判断基準は、自分の美意識(好み)と立体的な正確さですね」とのこと。

その後も細かく調整を続けていくのだが、リテイク前後でほとんど差がないときもあるという。しかし、一見気づかないような微調整であっても、わずかな差で全体としての雰囲気が変わっていく。氏いわく「1mmに神が宿るのです」。なるほど、と感心させられた。



▲3DCGモデル
Exocortex Speciesは四肢の長さ、体のボリュームをパラメータで決められるため、工数削減に有益なツールだ。顔のベースモデルは、HippyDromeというWebサイト(www.hippydrome.com)にて公開されているフェイシャルアーキテクチャの資料を参考に構築されている。板の髪と大雑把に作成した衣装から始まり、シルエットを追求しながら適宜ポーズを付けて各パーツのバランスを確認してモデリングを続けていく。このあたりは他のソフトでも大分改善はされてきているが、Softimageの非破壊フローのメリットのひとつだ



▲髪の毛
モーションが付いたときに演技をさせやすくするため、アニメーションやリグ構造を前提に、髪の毛はなるべく分割してモデリングされている。
A シルエットをつくる/ B厚みを付ける/ C 中央を割り込み、押し出す/ D 先端を丸め、エッジをベベルしてメリハリをつける/ E 先端は四角形ポリゴンのままにしておき、穴も開けない。これはエッジループを選択しやすくするためだ/ F 全部の髪の毛に同じ処理を施す。アシンメトリーは色付けしておくとわかりやすい/ G 毛の生え際はラティスで囲んでずらすと、左右対称のクローンを維持したまま造形にアクセントを加えられる。非破壊保持がモットーだ/ H 片側の断面図。
髪の毛が頭皮からかなり離れているところがある。このあたりはロジックより見た目重視で髪を盛っているのだ/ I 前髪の処理。一体成型として制作していることがわかる



▲かわいさのポイントは60度
モデルは360度回しながら造形していくが、中でも目と鼻先が交わるくらいの斜め60度から見たキャラクターの造形の追求に注力しているという。「おでこと顎まわりの美観は一般的に後回しにされがちなポイントだからこそ、美を求めたいのです。この角度で見たときにかわいく破綻がないよう調整していくと、大体どの角度から見てもかわいくなりますよ。研究のためにワンダーフェスティバルで美少女フィギュアを斜め下から見上げ、顎のラインをチェックしていたことがありますが、スカートの中を覗きこんでいると勘違いされたのか、ディーラーの人にニヤニヤされていたのを思い出します(苦笑)。昨今の3DCGアニメの造形は眼を見張るものがありますが、アオリや斜め60度あたりの輪郭にはまだまだ開拓の余地があると感じています」



▲完成モデル
制作期間は約6ヶ月。その間リグやシェーダの開発も行なっていたため時間が空いてしまったが、改めて微調整していくと大分頭部が小さくなったという。Land-Y氏によると、斜めから見たときの満足度は70%、横顔は満足にいたらないという厳しい評価。「正面を向けたときや表情を付けたときは自分でも感動できるのですが、デフォルトポーズはもっとやりようがあるのではないかと常に悩みますね。かつて制作期間2年、シーン番号258を超えるキャラクターを趣味で制作した際は悩み悩んだ末、最終的に破棄したこともあります。ゴールはないのではないかと思うこともありますが、どこかにあると信じてひき続き挑戦していきます」

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TEXT_草皆健太郎(Z-FLAG)
※CGWORLD vol.199より転載