3DCG投稿サービス「ニコニ立体」の公式初となるコンテスト「ニコニ立体 3Dモデリングコンテスト」が昨年開催された。

今回はCGWORLD賞を受賞したLand-Y氏へのインタビューと、受賞作『七尾の狐 七尾色』のメイキング(後編)をお届けする。

●Land-Y氏のインタビューはこちら
●『七尾の狐 七尾色』 メイキング特集 〜前編〜

『七尾の狐 七尾色』 メイキング特集 〜後編〜
Topic 2:自主制作アニメーションに向けて

アニメーションを前提としたリグやインクライン

七尾色はモデリングコンテスト応募作品であるが、アニメーションを前提としてモデルがつくられている。

リグはモデルと同様に初期段階ではExocortex Speciesを使用。

▲リグ
Exocortex Species A のメリットは、体格や関節の位置を変更できるところにある。しかし、伸縮や可動範囲が固定されているため、アニメーション作業では不都合が多い。そのため、モデリングした後はGEAR_mc B 切り替える。このGEAR_mcは収縮と伸縮、ミラーリングポーズ、操作方法の切り替え、IK/FKブレンド等が搭載された高機能な自動生成リグだ。そこへさらに自作でMuscleRIG C を付与することで、開脚したときのお尻のボリュームの変化や正座する際の筋肉の動きなどの変形をサポートし、手動で肉のボリューム感を調整できるようになる。例えば手足を円上に変形できる機能など、伸縮にも対応しているため、表現の幅が広がるD 。このあたりはアニメ調のキャラクターのリグならではの要素かもしれない。ちなみにE は制作3日目における初期のポージングテスト。すでにフェイシャルリグも仕込まれていることがわかる

フェイシャルリグも全て初期から入れているため、モデリング時に輪郭自体を調整したり、表情を付けたりすることも可能だ。

▲フェイシャルリグ
Land-Y氏のキャラクターはほとんど顔のデザインが変わらないためあまり微調整は必要ないが、Softimageでフェイシャルリグを移植する際、メッシュとデフォーマの位置が著しくずれている場合は位置修正を行う。細かな顔のシワなどはシェイプで補正するとのこと。リグ構造は移動、回転、スケール+シェイプ補正のハイブリッド方式で、かなり自由度が高い

アニメーションを制作するたびにフェイスリグをつくり直しているというこだわりぶりである。
またSoftimageは顔のモデルとリグを他のキャラクターに移植してもエラーが出ないため、一度出来上がったシステムを使いまわせるという大きなメリットがある。

「大量のシェイプをつくって表情を付けることもできますが、少人数制作を想定しているので、リグで制御した方が良いと思います」。

モデルの造形が完成すると、リグをGEAR_mcに換装し、自作のMuscleRIGを仕込む。
ほかには、ハンドリグも作成しているという。一括で動かせ、なおかつ個別でも調整できるこれらのリグにより、少人数でコストを減らしつつクオリティの高い表現ができるそうだ。

▲ハンドリグ
ハンドリグは、移動、回転スケールで15本の指を一括に動かすことができる。ひっかく手の形やグー、パーなど、ポーズライブラリを利用すればすぐに手の形をつくれるが、硬くなってしまいやすい。このリグの利点は、滑らかに波打つ動きが表現しやすい点だ。百聞は一見にしかず、動画で見ると実感できるが、指を1本1本を動かしたり、親指を除く中手骨4本を別のコントローラを使って一括で動かしたりすることが可能。基本構造は簡単に設計されており、個別操作コントローラと一括操作コントローラはエクスプレッションで加算合成させるというしくみだ

▲User Normal Translator
近年ニーズが高まりつつあるのが、リアルタイムのトゥーン表現で必須の法線編集だ。このツールは法線編集を強力にサポートする機能を各種取り揃えており、法線の移動、スケール、球状化、スムーズ など、デフォルトのツールでは難しかった法線処理を簡単な操作で効率的に行える。主な機能は、法線ベクトルの加算/乗算/球状化編集、法線ベクトルのスムージング、法線情報と頂点カラー情報の相互変換など。日本語・英語の両方に対応し、無料でダウンロードすることができるので、利用してみてはいかがだろうか

テクスチャに関しては、フリーの素材や海外のWebサイトから購入したものを加工し、Mudboxでペインティングされている。
例えば、華柄の一部は模様田氏(www.pixiv.net/member.php?id=3237681)の素材が使われた。インクラインについては、MetaSLシェーダのOutlineとICEを用いて表現。

▲インクライン
法線反転ポリゴンを楽に生成するために、SixInkアドオンを利用するA 。これは、法線をクローン化して反転し、ウェイトマップを利用して強弱を付けるというしくみをICEで組み上げたもの。インクの強弱補正をICEの機能で調整できる大きな利点がある。メンテナンス性も高く、トライ&エラーの時間も短縮可能だ。また、顔まわりはインクラインをしっかりモデリングして調整しているB 。法線反転はオブジェクトの外側に発生しないため、エッジがほしいところにはカーブを引いてポリゴンを生成させるのだ。例えば鼻先のラインはポリゴンを制作しておくと良いC 。距離や角度によってラインを消失させたり発生させたりできるシェーダのように、ICEモデリングを使ってカメラの距離を計算し、位置をずらしていけば似たような処理も可能だ

「昨今は3dsMax(とPencil+)がアニメ表現を席巻していますが、Softimageもまだまだ捨てたものではありません」。
ただし、リアルタイムや背景を含む表現では調整が難しいとのこと。

「使いにくいですが、mental rayのToon Ink Lensの利用も検討しています。Arnold RendererやRedshift(www.redshift3d.com)もテストしていく予定です。Exocortex Crateが無償化されたので、Alembicで3ds Maxにパイプラインを通すのも面白いかもしれませんね」。

▲レンダーツリー
レンダーパスの制作はこれからということで、レンダーツリーを紹介する。「今後はライティング用にArnoldもしくはRedshiftでグローバルイルミネーションパスを制作する予定です」。インクラインに関しては、mental rayまたはV-Rayでラインを抽出し、カットによっては合成でも活用することを想定しているとのこと

求める表現の探求はまだまだ続く。

現在は自主制作アニメーション作業を進めているLand-Y氏だが「最初に映像をつくり始めた頃はゲーム畑だったので、独学で映像におけるレンダリングやスカートの揺れの研究をしていましたが、当時は成し遂げられませんでした。今なら知識も、技術も、仲間も、販売ルートもある。
10年かけてようやく芸術に戻れます。成功するかどうかに興味はなく、自分がつくりたいものを思うがままつくりたいですね」と、これまでの苦労と今後の展望を力強く語ってくれた。

Land-Y氏渾身の映像作品が観られる日が待ち遠しい。



▲アニメーション
A B アニメーションの制作はシノプティックビューで行われた/ C 衣装の埋まりは気にせず、バネの係数を調整するために制作されたテストアニメーション。埋まり等はSyflexを利用して回避される。基本的な挙動はSyflex Mimicを使ってバネの動きをSyflexに伝えるというながれ。セットアップはまだであるが、埋まり調整は面倒な作業のため、最後にまとめて行う予定とのこと

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TEXT_草皆健太郎(Z-FLAG)
※CGWORLD vol.199より転載