SIGGRAPHの目玉プログラム「Computer Animation Festival」の一環として催される「Production Sessions」。第1弾『アントマン』の講演につづき、映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』の講演レポート「The Making of the Characters of Marvel's "Avengers: Age of Ultron"」をお届けしよう。
映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』予告編
大ヒット上映中!
脚本&監督:ジョス・ウェドン/撮影:ベン・デイヴィス、BSC/プロダクション・デザイン:チャールズ・ウッド/編集:ジェフリー・フォード、ACE、リサ・ラセック/VFX&アニメーション:インダストリアル・ライト&マジック(ILM)/VFXスーパーバイザー:クリストファー・タウンゼント/ヴィジュアル開発共同主任:チャーリー・ウェン/ヴィジュアル開発主任:ライアン・メイナーディング
© Marvel 2015
<1>ハルク 〜ILM〜
まずはじめに、本作のエグゼクティブ・プロデューサーを務めたVictoria Alonso/ビクトリア・アロンソ氏(Marvel Entertainment)から、映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)は、インダストリアル・ライト&マジック(ILM)を筆頭に22社ものVFXスタジオからのべ2,000人近くのクルーが参加し、3,000ショットを完成させるという大プロジェクトとなったとの説明があった。全世界興収は$1.4billion(約1,129億円相当)に達したとのこと。そして本セッションでは、ハルク、ウルトロン、ヴィジョンという3つのキャラクター制作について中核スタッフが順に解説していく形式がとられた。
© Marvel 2015
ハルクのVFXについて、Christopher Townsend/クリストファー・タウンゼント VFXスーパーバイザー(Marvel Entertainment)は次のようにふりかえる。
ハルクはこれまでにも、様々なアーティストによって、何度となく画面に登場しています。2003年にはアン・リー監督によって実写映画化されていますし、作品ごとに変化を遂げてきました。
今回の作品では、過去のハルクの映像を全て見直し、「何をすべきか」を検討しました。ハルクのアナトミーも、首の角度や配置、肩の筋肉のつき方等などのバリエーションをいろいろ変えて検討し、最終的に、今回のデザインに落ち着きました。"More Believable"(より現実味を)を追求したのです。
『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』撮影現場の風景
俳優マーク・ラファロのおもかげはキープしつつ、最新のテクノロジーを駆使し、進化したハルクを作ることがチャレンジでした。MOCAP(モーション・キャプチャ)についても、もっと正確に動きを拾えるよう改善しました。スキンやテクスチャのディテール向上も図っています。また、スタントマンに様々な動きを演技をしてもらい、その映像を見ながら動きを観察することもありました。
ハルクが履いているズボンも、「伸縮可能な素材でできている」という設定にして、変身の前後で同じズボンを履いていることに、視覚的な違和感が起こらないようにしています。顔面や手はクローズアップ・ショットでも耐えられるディテールになるように配慮しました。また、筋肉とスキンは、ILMが自社開発した新しいマッスル・システムを採用することで、さらなるリアリティを実現しています。
© Marvel 2015
続けて、ILMのMarc Chu/マルク・チュウ アニメーション・ディレクターがハルクを制作するにあたり、生身の俳優や撮影現場の環境をいかに3DCGに反映させたのか解説してくれた。
撮影を開始する前に、ハルクことブルース・バナー役を演じた俳優のマーク・ラファロにILMへおいでいただき、モーションキャプチャのテスト・セッションを始めました。セットで演じるマーク・ラファロの顔が、PC画面上でリアルタイムにハルクの表情として確認出来るシステムを開発しました。『アベンジャーズ』シリーズの2作目となる今作では、2台のMOCAPカメラを用いてキャプチャーを行い、これをブラッシュアップして使用しています。アニメーション・ツール自体にも改良が加えられました。撮影現場では、首から上だけの実物大ハルクのマケットを置いて、ライティングの参考用に撮影するなどしました。
Marvel's Avengers: Age of Ultron - Clip 2
[[SplitPage]]<2>ウルトロン・プライム 〜ILM〜
続いては、ウルトロン(ウルトロン・プライム)のVFXについて。Ben Snow/ベン・スノウ VFXスーパーバイザー(ILM)は次のように語った。
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ハルクと同様、ウルトロンを演じる俳優ジェームス・スペイダーに撮影が始まる前にILMへお越しいただき、モーキャップのテスト・セッションを行いました。セットで演技をすると、ウルトロン・プライムの表情がPC上にリアルタイムで表示出来るシステムによって、どのように演技をすると、ウルトロンの表情に影響されるのか、などを実際に体感してもらいました。
ウルトロンは人間に近い表情を持っています。しかし、顔のパーツが表情に応じて変形しますから、専用のキャラクター・リグを組む必要がありました。顔だけではなく、ボディも細部にわたるコントロールが必要になりました。そこで、ボディのセカンダリ・アニメーションの動きをコントロールするためのアニメーション・セットアップも、多数用意しました。
Learn how James Spader Crafted Ultron in Marvel's Avengers: Age of Ultron
<3>ヴィジョン 〜Lola VFX〜
最後は、ヴィジョンのキャラクター表現について。ヴィジョンのVFXを担当したLola VFXのTrent Claus/トレント・クラウス VFXスーパーバイザーは次のようにふり返った。
Lola VFXは、過去のマーベル作品の10本中8本に参加しており、「キャプテン・アメリカ」では俳優クリス・エヴァンスを痩せた体に加工したり、「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」では女優ヘイリー・アトウェルの老女メイクなど、デジタルによる特殊メイクのような、いわゆる「ビューティー・ワーク」のVFXを中心に手がけてきました。しかし今回は、「ビューティー・ワーク」の枠に収まらず、デジタルによるヘッド・リプレイスメントを担当しました。
ヴィジョンの表現は当初、俳優ポール・ベタニーが頭部にパーツを被り、演技をしている撮影プレートに「ビューティー・ワーク」を施していました。パーツと皮膚の間のギャップをデジタルで埋めたり、肩のパーツだけをデジタルに置き換えたりしていました。しかし、それだけではなかなか限界があるということになり、最終的には、肩から頭部に掛けてを全てデジタルに置き換えてしまうというディレクションに転換することになりました。
Creating Vision Featurette - Marvel's Avengers: Age of Ultron
顔面を全てデジタルに差し替えるにあたり、エンバイロンメントがどのように皮膚に影響して見えるか等をテストしてみました。例えば、皮膚自体の色味やサブサーフェス・スキャタリング、そしてハイライトや映り込みがどのように見えるか、などです。何故なら、生身の人間の顔に見えても困るし、かといってロボットのように見えてしまうのも避けたい、ということがあり、そのさじ加減が重要でした。また、肩から上をデジタルに差し替えるということで、各パーツのデザインにも改良を加えました。レンダリングはV-Rayで行なっています。
表情の調整は3Dではなく2Dで行い、NUKEで済ませました。その関係で、今回は3Dの顔面リグは作っていません。スキンのバリエーションも、全てコンプによる調整で行なっています。俳優ポール・ベタニーの顔面にある、筋肉によるシワは完全に消してしまわず、残す部分は残すことで「人間らしさ」のリアリティを出しました。目も、ポール・ベタニーの実際の目をベースに、メカニカル的な要素を付加したデジタル・アイに差し替えています。目の虹彩のデザインも、本物に近いデザインからロボットに近いものまで何種類かウェッジを作ってテストを行い、ほど良いデザインをピックしました。
映画が完成して、試写を見た業界関係者から、「『ヴィジョン』のキャラクターのVFX、一体何を担当したの? あれって、ただ単に、本物の俳優さんにメイクしただけでしょ?」と言われました。顔がデジタルに見えなかった、ということは、われわれにとって最高の褒め言葉ではないでしょうか?
TEXT_鍋 潤太郎
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映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』
大ヒット上映中!
アイアンマンが開発した究極の人工知能<ウルトロン>が暴走、人類滅亡のカウントダウンが始まった。絶体絶命の最強チーム"アベンジャーズ"に残された最後の武器は、「愛する人を守りたい」という熱い思いだけ......。
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
marvel.disney.co.jp/movie/avengers
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