SIGGRAPH 2015においても、Computer Animation Festivalプログラムの一環として「Production Sessions」が催された。これは、先端技術を駆使して制作されたVFX作品の数々の舞台裏を、それぞれの作品を担当したスーパーバイザー達が披露するという内容である。この記事では、9月19日(土)全国ロードショーとなる映画『アントマン』のVFX制作についての講演、「The Making of Marvel's "Ant-Man"」をレポートする。
映画『アントマン』予告編
監督:ペイトン・リード/脚本:エドガー・ライト、ジョー・コーニッシュ AND アダム・マッケイ & ポール・ラッド/原作:エドガー・ライト、ジョー・コーニッシュ/撮影監督:ラッセル・カーペンター(ASC)/プロダクション・デザイン:シェパード・フランケル/編集:ダン・レーベンタール(ACE)、コルビー・パーカー Jr.(ACE)/VFXスーパーバイザー:ジェイク・モリソン(Marvel Entertainment)/ヴィジュアル開発主任:チャーリー・ウェン、ライアン・メイナーディング
© Marvel 2015
<1>マクロの世界でフォトリアルに見せる小人ヒーローへの挑戦〜Marvel Entertainment〜
まず最初にMarvel EntertainmentのVictoria Alonso/ビクトリア・アロンソ エグゼクティブ・プロデューサーが、次のようにポイントを解説してくれた。
映画『アントマン』は、蟻サイズの小さなスーパーヒーロー「アントマン」が活躍する物語であると同時に、リアリティも要求される作品です。全1,500ショットに達したVFXを制作するにあたり、「どうやってリアルな小人ヒーローを見せるか?」ということが最大のチャレンジでした。
これについては、過去の小人を表現した様々な映画作品をリサーチして、「やってはいけないリスト」をつくりました。その結果、リストアップされたのが.;
・カメラを固定して見せるのはNG
・巨大なセットやプロップ(小道具)をつくって、俳優を小人っぽく見せる方法はNG
・マクロスケールでは物理的な出来事が全く違ったスピードで見えるので、それを配慮すべき
......ということでした。
続けて、Jake Morrison/ジェイク・モリソン VFXスーパーバイザー(Marvel Entertainment)が、プリプロダクションにおける取り組みを語ってくれた。
蟻サイズの主人公アントマン/スコット・ラング(ポール・ラッド)を、マクロの中で物理的に正しいスケールでフォトリアルに見せたい、"Photoreal Macro Physics"。つまり、マクロスケールでの世界観になるので、周りの物が大きく、巨大に見えるような画づくりにする必要がありました。
このテストのために、まずはまる2日を費やしてマイクロスコープ(顕微鏡)レンズを使ったカメラテストを実施しました。この段階で様々なテストを行い、どのように見せるかを事前に検討。このチームは「マクロ・ユニット」と呼ばれるようになり、劇中で小人目線の映像のルックやその撮影手法の立案を担当しました。
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マクロの世界でのフォトリアルにするためには、エンバイロンメント(環境)用の実写素材もマクロで撮影する必要があります。そのため、超小型のカチンコ、カラーチャート、ミラーボールをわざわざつくって撮影したりもしています。また、マクロサイズのアントマンの人形を置いて、ライティングの参考用に撮影しました。
この「マクロ・チーム」は、実物大のセットを撮影する際、25人のチームで40日間かけて、マイクロスコープ レンズで撮影を行いました。
アントマンが出てくるシーンは、コスチュームを身にまとった俳優ポール・ラッドと、モーション・キャプチャによるデジタルダブルの2構成で表現しています。目が露出するシーンでは、なるべくポール・ラッドの本物の目を使うことでリアリティを持たせるようにしました。
また、前述の"Photoreal Macro Physics"を実践すべく、マクロのシーンでは多くのショットを1,000コマ/秒のハイスピードで撮影しています。なぜ秒1,000コマなのか? というと、これはミニチュアの破壊ショットを24fpsで撮影したテスト映像をご覧いただければ一目瞭然かと思います。テスト映像を見ると、映像が一瞬で終わってしまい、ミニチュア感が強く出てしまっています。そこで秒1,000コマで撮ることで、本編でご覧いただいたような、迫力とリアリティが生まれるわけです。
1.5cmの"アントマン"バスタブで溺れる! (映画『アントマン』本編より)
映画の中には、様々な種類の蟻たちが数多く登場します。これら蟻の表現について、われわれマーベルが現場サイドにリクエストしたのは、「リアリティは必要。しかし、気持ち悪くしないで」ということでした。
そこでカートゥーン的な蟻とリアルな蟻のちょうど中間くらいをねらい、アップショットで多くの蟻が登場しても、グロテスクさを感じないように、かわいく親しみやすく見えるよう、心がけています。
また、劇中では「過去のシーン」として30年前のシーンが登場するため、ハンク・ピムを演じたマイケル・ダクラスを30才、若返らせる必要がありました。このVFXは、ビューティー・ワーク(デジタルによる化粧やシワ取り、若返り術&老けメイク術の総称)が得意なLola VFXが担当しています。
▶︎次ページ:<2>写真的にも正しい画に仕上げる〜Double Negative〜
[[SplitPage]]<2>写真的にも正しい画に仕上げるために〜Double Negative〜
続いては、実制作を担当するリードVFXスタジオを務めたDouble Negative(以下、Dneg)。同社チームを率いたAlex Wuttke/アレックス・ヴトケ VFXスーパーバイザーは次のように語った。
Double Negative(以下、Dneg)は、アントマン、バスタブとその水流、地下のパイプの中、サンフランシスコのバトル、ヘリコプター内のバトル、おもちゃの機関車トーマスなど、数多くのシーンを担当しました。そのほとんどが、マクロ・エンバイロンメントとデジタルダブルのオンパレードです。
前述されたように「スケールの大きさに嘘をつかない」という原則を厳守し、1:1スケールのセットやプロップ(小道具)を用意。写真的に正しい絵になるよう撮影し、後々ポスプロ処理もしやすくすることを考慮しました。
Marvel's Ant-Man - Clip 6
© Marvel 2015
また、被写界深度を小さく設定し、全てにピントが合ってミニチュアっぽくなることを避けました。撮影はCanon EOS 5D Mark IIIにマイクロスコープ レンズで撮影し、HDRは照明をセットアップする都度、新たに撮影しました。
撮影の際、ハイライトや反射を抑えるためにポラロイドフィルタを使用し、複数の異なるアングルから撮影しました。それによってプロジェクション時のストレッチを抑えるのと同時に、後からデジタルのカメラが動いた際に反射やハイライト位置が固定されて不自然に見えるのを防ぐことができます。さらに反射やハイライトはデジタルで後から追加すれば、カメラに合わせて移動させることが可能となります。
そのケーススタディとして、主人公スコットの娘、キャシーのベッドルームがあります。このシーンは、現実のプロップを全て再構築したフルデジタルのショットでした。デジタルダブルも同様で、異なる方向から撮影した画像をベースに、テクスチャを用意しました。
<3>約700ショットのVFXを効率的に制作〜Luma Pictures〜
続いては、Luma Pictures。VFXスーパーバイザーのビンス・シレリ/Vince Cirelli氏は次のように語った。
Luma Picturesでは、サーバルームや水道管、ミニチュアビルの破壊シークエンス等、約700ショットを担当しました。デジタルダブルの作業では、モーションキャプチャした様々な動きをライブラリ化し、それを必要に応じて組み合わせることで、作業の効率化を図りました。サーバールームは、Arnoldでレンダリングされています。また、NUKEのポイントクラウドの機能を用いて、様々なレイヤーの調整なども行なっています。
Marvel's Ant-Man - Clip 7
© Marvel 2015
水道管の中のシーンは、カメラが動き回っても十分なディテールが出るよう、ハイレゾリューションのテクスチャを準備しました。水の流体シュミレーションは巨大感が出るようにシュミレーション・スケールを設定し、ディテールにも気を配りました。
<4>リアルでありながら嫌悪感を感じさせない"蟻"の表現〜Method Studios〜
そして最後は、Method Studios。Greg Steele/グレッグ・スティール VFXスーパーバイザーは次のようにふり返る。
Method Studiosでは、全180人のクルーが参加して、蟻のアニメーションを数多く担当しました。そこで、まず蟻のリサーチを始めました。リサーチは、基本、YouTube(笑)。YouTubeには貴重なクリップの数々がアップされていて、大変助かりました。また、奇特な方が蟻の動きをハイスピード撮影したものをYouTubeに上げていて、それはアニメーターたちにとって多大な参考となりました。たくさんの蟻がブリッジを組んだりするクリップは、本編の中でも参考にさせていただいております(笑)。今回は大小様々なサイズの5種類の蟻が登場しますので、コンセプトアートを用意。もちろん、それぞれに個性を持たせることも心がけました。
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先ほども話に上りましたが、画面上にたくさんの蟻が登場しても観客が嫌悪感を感じないよう、「漫画的な蟻」と「超リアルな蟻」の中間を狙いました。動きも、蟻というよりは馬の動きに近いような、優雅な動きを目指しました。
蟻がたくさん登場しますので、アニメーションを付ける際は作業効率を上げるため、MayaのGPUキャッシュを活用しました。これにより、個々の蟻の動きの調整を、より敏速に再生することが可能になりました。
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TEXT_鍋 潤太郎
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映画『アントマン』
9月19日(土)2D/3Dロードショー
仕事も家庭も失ったスコットに残された最後のチャンスは、特殊なスーツを着用し、身長わずか1.5cmのヒーロー"アントマン"になること。最愛の娘のために猛特訓を開始した彼は、本当のヒーローになれるのか?
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
marvel-japan.jp/antman
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