日本クリエイター育成協会は12月14日(月)から18日(金)の5日間、「第2回クリエイタートライアウト in 東京」を実施した。会場にはゲーム業界をめざす36人の専門学校生が参加し、6チームに分かれてゲームを開発。最終日にはゲーム会社のクリエイターを招いて発表会を実施。終了後は開発したゲームを囲んで、学生とクリエイターとの間で熱心なディスカッションが行われた。

<1>ゲームジャムを通してじっくりと学生が見られる

日本クリエイター育成協会/Association for Growing Creators in Japan(AGCJ)(会長:佐野浩章(ツェナネットワークス株式会社 取締役副社長))は、ゲーム開発者教育を行う専門学校が中心となって、2013年11月に設立された任意団体。文部科学省が推進する「職業実践専門課程」をサポートし、産学連携を通したクリエイター教育を行うことを目的としている。2015年12月現在の会員校は5校、準会員校は7校で、協力支援企業は15社。セミナーやイベントなどを定期的に開催している。

本イベントの特徴は「ゲームジャムを通した就職活動」だ。ゲームジャムとは、経歴もスキルもまちまちな参加者が一堂に集まり、同じテーマに従い、数十時間でゲームを開発するというもの。2000年代後半に欧米で草の根的に始まり、今では全世界に広がっている。国内でも近年、ゲームジャム形式のインターンシップを実施する企業が登場するなど、採用活動に採り入れるケースも見られるようになってきた。

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最終日に行われた、[プレゼン・講評]の様子

企業がこうしたイベントに注目するのは、中小企業を中心に新卒・中途を含めた通年採用が増加している背景がある。日本の雇用慣行では正社員の解雇が難しく、新卒採用に慎重にならざるを得ない。その際に、じっくりと学生のスキルや作業内容が観察できるゲームジャムは効果的というわけだ。実際、10月に大阪で開催された「第1回クリエイター・トライアウトin大阪」では、内定者1名が排出された。

さて、今回の第2回トライアウトでは、「『飛ぶ、跳ねる、泳ぐ』のうち、2つの要素を組み合わせること」をテーマに、4泊5日(宿泊は希望者のみ)で開発された。発表会では就活を意識したイベントらしく、ゲーム概要もさることながら、チームメンバーの自己紹介にも時間が割かれた。参加した企業担当者も真剣な眼差しで臨んでおり、ゲームの説明が終了するたびに厳しい質問が投げかけられ、学生が言いよどむシーンもしばしば見られた。

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最終日に行われた、[企業とのディスカッション]の様子

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<2>個性豊かな内容の6作品の概要

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<2>個性豊かな内容の6作品の概要

ここからは、各チームの作品とその評価について順に紹介していく。

2−1.【Aチーム】『フライ揚げイン』

おばちゃんが経営する定食屋を繁盛させるために、美味しいアジフライを揚げて来客に届けるというゲーム。
スマートフォンの画面をタイミング良くタップしながら、衣を付けたり、油で揚げたり、障害物を避けたりしながら、皿に盛り付けていく。「笑い」をコンセプトに掲げており、アジフライが空中を飛んだり、おばちゃんがコミカルに動いたりと、シュールなセンスで世界観を統一している。

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『フライ揚げイン』デモ画面

学生が緊張していたのか、デモプレイではクリアにいたらず、リザルト画面(皿に盛り付けられた画面)を紹介できなかった。これに対して質疑応答では「プレイ内容がリザルト画面にどの程度反映されるのか」といった質問が聞かれた。
一方で「笑い」というコンセプトがグループ内でしっかり共有されており、グラフィックや仕様などがコンセプトにそって、ロジカルに開発されていた点を賞賛する声もあった。

第2回クリエイター・トライアウト in 東京

Aチームの面々

2−2.【Bチーム】『とびうお魂』

トビウオを操作して障害物を避けながらエビを食べてパワーを蓄積し、タイミング良くタップして飛距離を競うという内容。泳ぐ速度(速度は自動的に上がり、障害物に当たると低下する)・パワーの蓄積度・タップのタイミングの三要素で飛距離が決まり、最大で北海道から沖縄までジャンプできる。鳥にバカにされたトビウオがリベンジに挑むという設定で、男子高校生を対象にシュールなカジュアルゲームをめざしたと説明された。

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『とびうお魂』デモ画面

質疑応答では前半の「泳ぐ」パートと後半の「飛翔する」パートで両者の整合性が乏しく、速度やパワーゲージなどもないため、総じて説明不足だという指摘がみられた。タップのタイミングで演出を強化した方が良かったという指摘や、宇宙まで飛び出しても良かったという指摘もあった。チームメンバーからは企画がなかなかまとまらず、強引にゲーム内容を着地させてしまったという反省が聞かれた。

第2回クリエイター・トライアウト in 東京

Bチームの面々

2−3.【Cチーム】『エスケーパー』

水面を50メートル近く飛翔することで知られるトビイカを操作し、天敵のマグロから逃げつつ餌を補食して体を大きくし、最終的にマグロを補食することをめざすというゲーム。将来的にVRゲームにすることを念頭に、ビハインドビュー視点による3Dゲームとなっており、操作もシンプルにまとめられている。ゲームのテーマに「緊張感」を掲げており、マグロが後ろに近づくと不気味な効果音が鳴るなどの演出も加えられている。

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『エスケーパー』デモ画面

過度な緊張のあまり、発表者がPCのサウンドをミュートのまま発表してしまい、肝心の効果音演出を示せなかった。また海中の表現が単調で、対象物や水面までの距離感がつかみにくいという指摘もあった。一方、最も進捗が遅れていたチームでありながら、制限時間内によくまとめあげたという声も聞かれた。チームメンバーからも動き出しが遅く、海中の明度の変化など、やりたいと思っていたことが十分にできなかったという反省があった。

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Cチームの面々

2−4.【Dチーム】『リードラ』

子ドラゴンの群れをゴールまで誘導していくゲームで、親ドラゴンが地面を踏みつけて子ドラゴンを浮き上がらせ、風の向きを調節して吹き飛ばしながら進めていく。コンセプトは「可愛らしさ」の提示で、子ドラゴンがチョコマカと歩き回ったり、リザルト画面(結果画面)で表示される子ドラゴンの数で愛情を表現したと説明。メンバーのバランスにより、プログラマー志望の学生がモデリングやモーションを担当する光景もみられた。

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『リードラ』デモ画面

質疑応答ではコンセプトとゲーム内容の関連性に乏しいという指摘があった。これに対してチームメンバーからは時間不足が原因で、子ドラゴンの動きが単調になってしまい、ワチャワチャ感が上手く出せなかったという反省があった。企画が固まるのが遅れたことで、チームメンバーの意識共有が不足していたという声も聞かれた。一方で子ドラゴンのモデルやグラフィックは良くできていると賞賛する声もあった。

第2回クリエイター・トライアウト in 東京

Dチームの面々

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2−5.【Eチーム】『ぶすっとパラサイト』

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2−5.【Eチーム】『ぶすっとパラサイト』

食物連鎖をテーマにしたゲームで、主人公のスライムを操作して、ウサギ・ハリネズミと寄生を繰り返し、最終的にライオンに寄生することが目的。ゲームは横スクロールのアクションゲームで、動物をジャンプして避けたり、連打して寄生したりしながら進めていく。直接的な残酷描写は苦手だが、少しは興味があるというユーザーを対象に、カジュアルさと気持ち悪さがブレンドした、シュールな世界観を特徴としている。

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『ぶすっとパラサイト』デモ画面

当初はスライムを操作してウサギに寄生するチュートリアルを盛り込む予定だったが、時間不足でかなわず、残念ながらスライムが登場しないゲームになってしまった。これに対して質疑応答でもゲームのわかりにくさや、スマートフォン向けのゲームにもかかわらず、画面を連打させることの齟齬について指摘がなされた。また大衆性を意識したビジュアルデザインの重要性についてもコメントが聞かれた。

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Eチームの面々

2−6.【Fチーム】『いえ、でたーい』

『およげ!たいやきくん』をモチーフとしたゲームで、たいやきを上下に操作しながら、碇や岩といった障害物を避け、あんこを食べてエネルギーを貯めていく。海中でたいやきの速度は自動的に上がっていき、障害物に当たると低下する。その後タイミング良くマウスをクリックしながら海面をホッピングさせて、飛距離を競う。プレイヤーのスキル次第で飛距離を伸ばしていける。

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『いえ、でたーい』デモ画面

質疑応答では前半の「泳ぐ」パートと後半の「跳ねる」パートでゲームが分断されており、関連性に乏しいという指摘がなされた。また「なぜ海中にあんこがあるのか」「なぜ鯛焼きが飛ぶのか」といった理由付けに乏しく、ユーザー不在でゲームが作られているという指摘もあった。これに対して、もう少し企画の段階でアイディアを出せていれば、プレイヤーにわかりやすくなったと思うという反省が聞かれた。

第2回クリエイター・トライアウト in 東京

Fチームの面々

<3>本当に就活作品として意義のある内容になったか

ひととおりグループ発表が終了すると、AGCJ会長を務めるツェナワークスの佐野浩章氏による総評が行われた。佐野氏は「本イベントのテーマは就職活動だったが、そのための作品制作になっていたのか、今一度ふり返ってみてほしい」と指摘。その後、参加した企業のクリエイターとのディスカッションが始まると、様々なアドバイスが行われた。これに対して学生もメモをとるなどして、熱心に耳を傾けていた。

第2回クリエイター・トライアウト in 東京

佐野浩章AGCJ会長

AGCJによるグループ制作は名称を変えつつ、今回で6回目を迎えた。本イベントに限らず、ゲーム業界の就職活動は混沌としており、学生にとっても何を勉強したら良いのか不明瞭な点が多い。そうした中で、企業と学生が実際のゲームづくりを通してつながることのできる、本イベントのような取り組みは興味深い。時期や内容も含めて、就職活動のスタイルがより多様化していくことを期待したい。

TEXT & PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono



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  • 第2回クリエイター・トライアウト in 東京
    開催日:2015年12月14日(月)〜18日(金)5日間
    場所:国立オリンピック記念青少年総合センター
    主催:日本クリエイター育成協会