>   >  なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第4回:不気味の谷を乗り越える日〜2000年代後半から、現在(2016年)まで〜)
なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第4回:不気味の谷を乗り越える日〜2000年代後半から、現在(2016年)まで〜)

なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第4回:不気味の谷を乗り越える日〜2000年代後半から、現在(2016年)まで〜)

CGが敬遠される要因の象徴とも言える、3DCGによるリアルな人物表現における「不気味の谷現象」の、ルーツを探る本シリーズ企画、いよいよ最終回である。今回は、ハリウッド映画や日本映画におけるフォトリアルなフルCGアニメへの挑戦や、一般の劇映画におけるVFX、故人が出演する音楽コンサート、犯罪抑止への利用、そして大学における最新研究と、2000年代後半から現在までの特筆すべき試みを紹介していこう。

<関連する記事>
・なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第1回:黎明期 1970~80年代)

・なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第2回:発展期 1980年代末~2000年代初頭)

・なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第3回:日本で生まれたヴァーチャル美女 〜1980年代後半から2000年代前半〜)

TEXT_大口孝之
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)



<1>ロバート・ゼメキスの挑戦〜『ポーラー・エクスプレス』

前回(第3回)で述べたとおり、映画『ファイナルファンタジー』(英題"Final Fantasy: The Spirits Within"、2001)が開けたパンドラの箱により、フォトリアルな人物表現によるフルCGアニメが登場しはじめる。この方向を突き詰めていったのが、『フォレスト・ガンプ』など数多くの名作を監督した、ロバート・ゼメキス/Robert Zemeckisである。彼は『ポーラー・エクスプレス』(原題"The Polar Express"、2004)【図1】を映画化するに当たって、役者の演技を完全にCGで再現する技術を望んだ。

ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(第4回:不気味の谷を乗り越える日)

【図1】『ポーラー・エクスプレス』(2004)

この要求に応えたソニー・ピクチャーズ・イメージワークス/Sony Pictures Imageworks(SPI)のVFXスーパーバイザーであるケン・ローストン/Ken Ralstonは、光学式モーション・キャプチャ・システムの精度を大幅に高める計画を立てる。そして赤外線カメラ(Vicon MX)の台数を、一気に72台まで増やした。それまでの例としては、映画『ファイナルファンタジー』が16台、『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(原題"The Lord of the Rings: The Two Towers"、2002)のゴラムの表現が24台だったことからも分かるように、非常に大胆な飛躍だった。カメラが多ければ、それだけ死角が生まれにくく、広いエリアもカバーできる。

また従来は、手付けでアニメートされていた俳優の表情や指先の細かな動きも、顔面や指にも多数のマーカーを付けることで、全身全てを同時にキャプチャ可能にした。ゼメキスは、このシステムを"パフォーマンス・キャプチャ"と名付け、従来のモーキャプと差別化している。
だがこの作品に登場によって、批判的な記事の中に「不気味の谷現象」の言葉が用いられ始める。特に気持ち悪く感じられたのは、主役の脇にいる"その他大勢のキャラクターたち"で、彼らの目が死んでいたのが原因だった。本作では顔面の動きこそキャプチャしていたが、再帰性反射マーカーを貼れない眼球は手付けに頼っていた。その作業量は膨大だったため、どうしてもエキストラには手が回らなかったのである。しかし観客は、そういった些細な不自然さも敏感に感じとってしまう。

<2>「不気味の谷」ギリギリまで近付いた、『ベオウルフ/呪われし勇者』

そこでゼメキスは、パフォーマンス・キャプチャ第2弾となる『ベオウルフ/呪われし勇者』(原題"Beowulf"、2007)【図2】において、眼球のモーキャプに挑戦する。この難しい要求に対して、SPIのリード・ソフトウェア・エンジニアであるパラグ・ハヴァルダー/Parag Havaldarは、「EOG/Electro-oculograph」と呼ばれる手法を導入してこの問題を解決した。EOG法は、目の周辺に電極を貼付けて皮膚の電位の変化を測定し、眼球運動を計測する技術である。これによってアニメーターの手を煩わせる必要なく、リアルなフェイシャル・キャプチャが可能になった。また赤外線カメラの台数も228台に増やし、キャプチャ解像度を4倍に上げている。

ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(第4回:不気味の谷を乗り越える日)

【図2】『ベオウルフ/呪われし勇者』(2007)。女性キャラの中でも、アンジェリーナ・ジョリーは比較的うまく表現されていた

この『ベオウルフ〜』は、「不気味の谷現象」のギリギリの縁にあった作品と言える。なぜならこの作品の宣伝文には「CGと俳優の究極の合体」という文言が書かれていた。この影響もあって『ベオウルフ〜』には、実写の俳優とヴァーチャル俳優が混在していると思っていた人が多い。そしてこの映画に対して否定的な人は、ほとんどがヴァーチャル俳優の出来の悪さを批判している。
しかしこの映画は、100%フルCGアニメーションであり、実写の俳優は1人も登場していなかった。CG否定派の人たちが本物の俳優だと信じていた場面も、全てヴァーチャル・アクターだったのだ。だが、CGの出来が今ひとつの場面があったのも事実で、どうしてもそこが目立ってしまい、強烈な違和感を覚えてしまう。つまりヴァーチャル俳優の完成度が高ければ無事に谷を乗り越え、わずかでも不自然な所があれば一気に谷に落ち込んでしまったわけである。

では、どのキャラクターが不自然に感じたかと言うと、子供や若い女性などであった。これは肌にシワなどのディテールが少なく、ごまかしが一切できないためだと考えられる。逆に中年の男性や老人のキャラクターは、本当にCGなのかわからなくなる瞬間が確実にあり、特に主役のベオウルフの出来は素晴らしかった。ちなみに彼を演じたレイ・ウィンストン/Ray Winstoneは、実際は小太りの中年であり、ベオウルフとはまったく似ていない。

<3>ゼメキスのつまづき〜『Disney's クリスマス・キャロル』と『少年マイロの火星冒険記 3D』

その後ゼメキスは、パフォーマンス・キャプチャの技術をより洗練すべく、専用スタジオであるイメージムーバーズ・デジタル/ImageMovers Digital(IMD)を、ディズニーの資本提供によって建設した。この新スタジオにおける第1作は、チャールズ・ディケンズ原作の『Disney's クリスマス・キャロル』("A Christmas Carol"、2009)【図3】となった。ジム・キャリーが主人公のスクルージの他、過去・現在・未来のクリスマスの霊を演じているのも、パフォーマンス・キャプチャを用いた利点の1つである。

ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(第4回:不気味の谷を乗り越える日)

【図3】『Disney's クリスマス・キャロル』(2009)

そして、前作でフェイシャル・キャプチャに用いられたEOG法だが、電磁ノイズに弱く、ドリフト現象と呼ばれるエラーも生じやすいという欠点も持っていた。そこで今回は、俳優の頭部に4台の小型赤外線カメラを装着する、イメージベースのフェイシャル・キャプチャ・システム(※1)を採用している。なお興行的には、米国で1億3785万ドルの成績を記録しているが、製作費は2億ドルに達しており、ディズニー経営陣は強い不満を抱いた。

※1:このヘッドセット式小型赤外線カメラによるフェイシャル・キャプチャ・システムは、『アバター』("Avatar"、2009)のヴァーチャル・プロダクション・スーパーバイザーを担当していたグレン・デリー/Glenn Derryによって考案された。『アバター』制作時はカメラが1台だけだったが、以後の作品からは4台に増やされている。近年のデリーは、『ウォークラフト』("Warcraft"、2016)のフェイシャル・キャプチャを手がけている。

そしてゼメキスは、このスタジオの第2作となる『少年マイロの火星冒険記 3D』("Mars Needs Moms!"、2011)【図4】をプロデュースする(監督はサイモン・ウェルズ)。だがその制作中に、ディズニーはIMDの閉鎖を決定してしまう。ゼメキスは、監督次回作として『ビートルズ/イエロー・サブマリン』(1968)のパフォーマンス・キャプチャによるリメイクを計画していたが、これも中止となってしまった。

ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(第4回:不気味の谷を乗り越える日)

【図4】『少年マイロの火星冒険記 3D』(2011)

では、なぜゼメキスは、ここまでパフォーマンス・キャプチャにこだわっていたのだろうか。記者会見で筆者の質問に対し、「カメラ位置や撮影の段取りを気にする必要がなくなり、役者の演技のみに集中して演出すれば良くなった。また俳優も、1つのシーンを舞台劇のように連続して演じることができ、それだけ集中度を高められ、さらにどんな役柄でも可能となった」と、ゼメキスはその利点を語っていた。

実際、俳優側がどんな心境だったのかはわからないが、その心の内を想像できる映画がある。『ベオウルフ〜』や『クリスマス・キャロル』でキャプチャ俳優を務めたロビン・ライト/Robin Wrightが、プロデュースと主演を兼ねた『コングレス未来学会議』("The Congress"、2013)(※2)という作品がそれだ。
中・後半はスタニスワフ・レムの原作「泰平ヨンの未来学会議」に沿ったアニメーションになるのだが、前半は実写でロビンが実名で演じており、ここのストーリーが非常に面白い。ロビンのエージェントは、「絶対にSF映画には出演しない」など、作品選びに注文が多過ぎる彼女に手を焼いていた。そこで彼女をデジタルデータ化し、こちらで自由に扱いたいという提案をする。ロビンは強く抵抗するが、エージェントは「永遠に若さを保てるし、すでにキアヌ・リーブスもやっているから」と説得を続ける。そしてしぶしぶ応じたロビンは、後述するLight Stage 6でフェイシャル・データを採られる。ここのシーン【図5】が、時間をかけて悲壮感たっぷりに描かれており、「そんなにフルCG映画への出演は苦痛だったの?」と言いたくなるほどである。

※2:監督は『戦場でワルツを』(2008)のアリ・フォルマン。

ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(第4回:不気味の谷を乗り越える日)

【図5】『コングレス未来学会議』(2013)より。このカットは実写である

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<4>ゲームと日本のフルCGアニメ

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