11月6日(日)、文京学院大学 本郷キャンパスにて催された「CGWORLD 2016 クリエイティブカンファレンス」。本稿では、オー・エル・エム・デジタルによる「TVアニメ『スナックワールド』のクオリティと効率の試行錯誤続行中」の模様をレポートする。

TEXT_真狩祐志 / Yushi Makari
PHOTO_真狩祐志 & 弘田 充 / Yushi Makari & Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)



<1>『スナックワールド』らしさを目指して

『スナックワールド』は福岡に本拠を置くゲーム会社・レベルファイブが仕掛けるクロスメディアプロジェクト。『イナズマイレブン』『ダンボール戦機』『妖怪ウォッチ』に続く第4弾として、2017年からの本格的な展開が待たれている。プロジェクトの展開には、もちろんテレビシリーズも含まれている。

CGWORLD 2016 クリエイティブカンファレンス:OLM

OLMからCGスーパーバイザー・森泉仁智氏

当セッションでは、テレビシリーズのアニメーション制作を担当するオー・エル・エム・デジタル(以下、OLM)のCGスーパーバイザー・森泉仁智氏が解説。OLMにおける最近のCGアニメでは『パックワールド』(英題:『PAC-MAN and the Ghostly Adventures』)、『コング 猿の王者』(英題:『KONG KING OF THE APES』)、『ルドルフとイッパイアッテナ』がある。『スナックワールド』は、目下それらで試してきたパイプラインやワークフローを改定しながら制作を行なっている最中だ。

森泉氏は「これら色々なテイストやターゲット層の作品を制作してきた上で、『スナックワールド』の話が出たときに、かなり試行錯誤しました。2015年にパイロット版が公開された際に、他のスタジオさんから『あれってどうやって制作したの?』と聞かれましたが、単純に2コマ打ち、3コマ打ちとやるのは簡単なんですが、機械的にやってしまうのも違うだろうと思ったのです」とふり返る。

『スナックワールド』(日本語Ver.)

パイロット版の制作時における試行錯誤について「何かもうちょっと違う表現にできないかと、フルコマの状態から動きがカクカクに見えるか見えないか、ギリギリのところまでコマを抜いていきました」と森泉氏。「そういったテストをしていった中で、顔に表情をつけてポーズを変えていくと、クライアントから言われてた『スナックワールド』らしさを表現できたんじゃないかなと思います」。
各アニメーションの内訳は「基本的にはステップで数コマ打ちをやるんですけど、効果が出ないときがありまして部分的に止めてます。一方でアクションやセカンダリ(髪の毛の揺れ具合など)、カメラなどはフルコマにしてます」とのこと。

「こんな感じで制作して皆さんに『いいね!』とは言ってもらえたのですが、結果的に試行錯誤の時間が増えました」。その原因を森泉氏は「2Dでの作画と同じで、このテイストに慣れた上手いアニメーターが作ると良いものになるのですが、下手ではないけど慣れないアニメーターが作ると手を抜いてるように見えてしまったんですね」と分析。「その結果、このままテレビシリーズを制作するのは辛いだろうということになりました」。

CGWORLD 2016 クリエイティブカンファレンス:OLM

パイロット版制作時のアニメーションルール

森泉氏は続けて「他のスタジオでもフルCG案件でやってると思うのですが、声はプレスコで録っています。ただ『ルドルフ』のときに、アニメーションをつけた後に再度レコーディングが発生しました」と、レコーディング時の試行錯誤にも触れた。「レンダリングまで行ってるカットもあったりして、これは映画だから乗り切れたのですが、テレビシリーズでも起こりうると想定した上で制作しています」と気を配る。
ところが「LEVEL5 VISION 2016」で公開したPVの制作では「結果的には『ルドルフ』のときのように音声を録り直すことになったのですが、映像とのズレを感じることがほとんどありませんでした。コマを抜いて表現するというのが上手くいったというか、たまたま大丈夫だったようです」と安堵。

『スナックワールド』(LEVEL5 VISION 2016 Ver.)

その点を踏まえてテレビシリーズでのスタイル確立を目指し、森泉氏はパイロット版制作時のアニメーションルールを改定。「ボディはフルコマにする、静止時に上下しているなどのアイドリングモーションは控える、口パクのキーフレームを数コマ打ちにする、というふうに改めました」。ボディーをフルコマに変更したのには、アニメーターの慣れの差を埋められるというねらいがあった。
そして「ボディとフェイシャルについては疑問をもったところがあったので、やはり今までのパイロット版で制作したものなどを含めて、感情表現を記号化してまとめておこうとなりました」と森泉氏。「CGだけどフルコマでヌルヌル動かすだけでなくて何かできないかなと、キャラクターを確立しておけばブレないかなと思ったわけです。ただ主人公のチャップには白目がないので、まぶたを出しても問題ないかなどの試行錯誤が生じました」。

CGWORLD 2016 クリエイティブカンファレンス:OLM

主人公・チャップをパラメーターで設定

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<2>何を見せるかを重要視して、面白いカットをつくる

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<2>何を見せるかを重要視して、面白いカットをつくる

フェイシャルにおけるアニメーターの慣れの差にも配慮。「顔にコントローラをたくさん置いてるので自由に動かせるのですが、アニメーターによって個性が出すぎてしまうので、パラメーター化しました。これをアニメーターが動かすことによって、基本的に似たベースの顔をつくれます」。さらに「ベースのコントローラを動かして細かい調節も可能です。それから2Dっぽく表現するために、目や口をカメラの位置へずらしたりもできます」といった工夫も。

基本的にフルコマのボディも、森泉氏は誇張表現のときにはコマを抜いていると言及。「例えば、慌てていてバタバタ手を振っているという動作は、フルコマでやるより少々抜いた方が面白いですし、そもそも本作はコメディーなので面白く見えるような表現を優先してるんです。アニメーターによっては、リアルにやろうとするとリアクションに細かい動きをつけてしまうので、どこまで削るか、どこまで止めるかといったところですね」とポイントを挙げた。

CGWORLD 2016 クリエイティブカンファレンス:OLM

TV版制作のアニメーションルール(現状)

また、キャラクターが1体のときと複数のときでも印象が異なるそうだ。「止めすぎたカットが多くなった場合、他のキャラクターを入れたら意外と気にならないということもあります。視聴者にどこの動きに注目させるか、逆に注目させないときは止まっていてもいいようです」。
アニメーション制作の最後、森泉氏は「レイアウトでもそうなのですが、何を見せるカットなのかを重要視してます。2Dでいうところの原画的な考え方としては、そのカットで重要なコマは守る必要があって、守られると面白いものになると思います」と話を終えた。

テレビシリーズ『スナックワールド』はMayaとNUKEで制作。パイプラインについて、管理は『パックワールド』ではSHOTGUNだったが、『コング 猿の王者』からTACTICで行うようになったという。

CGWORLD 2016 クリエイティブカンファレンス:OLM

現状の管理ツール利用率

森泉氏は『パックワールド』でSHOTGUNを導入した経緯を「OLMのパートナーには、ロサンゼルスにあるスプライトアニメーションスタジオがあります。そことの連携を深く詰めるためでした」と語った。「ただ、それだけでは済まなくて、細かいところはExcelやSmart Sheetを導入し、CSVファイルでMayaやNUKE間のやり取りをしていました。その結果、制作進行などの仕事が激増し、現場にも負荷がかかってクリエイティブな部分に時間を割けなくなってしまったんです」。それが代替としてTACTICを導入してみた理由だった。

ただ、TACTICにしてもSHOTGUNと同様、アセットやカットの管理などを手入力で進めていくことに変わりはない。「それだけだとExcelやGoogle Spread Sheetが最強じゃないかとなるので、ブラウザーツールを用意してサムネイルやファイル名を表示して開いてやれるようにしました。また、ディレクトリを作るツールも用意していて、いったんTACTICに入力してしまえばセーブしたファイルのバージョンも管理されます」。これには各自の担当箇所だけでなく、作品の全体像を把握した上で作業を進めてほしいとの思いも込められている。

CGWORLD 2016 クリエイティブカンファレンス:OLM

アセットの操作