「CGWORLD 2019 クリエイティブカンファレンス」で高い評価を得た「VR空間におけるキャラクターの自然な存在感を実現する方法」。ゲームキャラクターの魅力を表現する上で、アニメーターとTAの関係にまで踏み込んだ、希有な内容となった。改めてセッションを振り返りながら、ポイントを紹介しよう。

TEXT&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
© AMATA K.K. / LL Project

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3DアニメーターとTAの関係性がクオリティを左右する

2Dイラストレーターや3Dモデラーに比べて、人気の低い3Dアニメーター(モーションデザイナー)。では、「ゲーム中で登場するキャラクターが1体のみで、意味不明な無国籍語を話す」としたらどうか。キャラクターの魅力を表現する上で、がぜん重要になるのがジェスチャや仕草といった、動きの要素になることは明らかだろう。このことはVRゲームで、より重要な要素となる。キャラクターの全身像から表情のアップまで、違和感なく表現することが求められる。ちょっとした違和感でVRの魔法が解けてしまうからだ。

もっとも、どんなに優れた3Dアニメーターであっても、キャラクターのリギングが貧弱であれば、本来のスキルを発揮することは難しい。リグだけでなく、ツールの使いやすさも重要だ。これらを担当するのがテクニカルアーティスト(TA)で、その重要性が急増しているのは周知の通り。このように3DアニメーターとTAが良好な関係性をもつことは、ゲームのクオリティアップと生産性の向上を追求する上で、必須条件となる。ただし、これらは個々のデベロッパーの能力に左右される。そのため、なかなか理想の環境を整えることが難しいのも事実だ。

  • 福山敦子(あまた/3Dアニメーター)
    amata.co.jp

こうした中、CGWORLD 2019 クリエイティブカンファレンスで行われたセッション「VR空間におけるキャラクターの自然な存在感を実現する方法」は、この両者が高いレベルで結実すると、どのような効果をもたらすかについて、わかりやすく知らしめる内容だった。そこで今回あまたで3Dアニメーターをつとめる福山敦子氏と、3Dアニメーター兼TAのアレクシス・ブロードヘッド氏の協力を得て、講演内容を改めて紹介する。VRインディゲームならではの尖ったゲームデザインと、それを表現した3Dアニメーター&TAのノウハウを、ぜひ参考にしていただきたい。

  • アレクシス・ジャスミン・ブロードヘッド(あまた/3Dアニメーター兼TA)
    amata.co.jp

NPCと非言語的コミュニケーションをする脱出ゲーム

はじめに本講演のベースとなったVRアドベンチャーゲーム『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』について、簡単に紹介しよう。本作はVRだから実現できる世界観と、仮想キャラクターとのコミュニケーションを組み合わせたVR脱出ゲームだ。謎の館に閉じ込められたプレイヤーが、謎の少女カティアと力を合わせて様々な謎やしかけを解き明かしながら、館からの脱出を目指すというもの。2019年11月に同社より発売され、PlayStation VR、HTC Vive/同Pro/同Cosmos、Oculus Rift/同S、Oculus Quest、Windows Mixed Reality、Valve Index上でプレイすることができる。

『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』
VR脱出アドベンチャーゲーム
好評発売中
lastlabyrinth.jp

本作のポイントはプレイヤーが車椅子に拘束されていて、身動きが取れないため、ゲーム内のあらゆる動作をカティアに代行させている点だ。ただし、カティアは架空の言語を話すため、言語以外でコミュニケーションをとる必要がある。そこで用いられるのが、プレイヤーの頭部に装着されているレーザーポインタだ。ゲーム世界で調べたいところをポイントすると、自分のかわりにカティアがその場所まで移動し、扉を開けたり、しかけを動かしたりしてくれる。判断に迷ったときは指示を求めるように振り向くので、頭を動かして「はい」、「いいえ」を答えるしくみだ。

このように本作では、プレイヤーとカティアがお互いにうなずきあいながら、共同作業でパズルをクリアしていく。背景にあるのが、「相手の行動を反復することが相手との心理的な距離を縮める」という考え方だ。カティアが9~12歳の少女にデザインされているのも偶然ではない。相手が子どもであれば、パズルを解くのにプレイヤーを頼らざるを得ないことが、自然と理解される。車椅子に座っているプレイヤーと視線を合わせるためにも、その年頃の身長がちょうど良い。キャラクターと視線を合わせられることがVRの特徴であり、これによって没入感が増すからだ。

このように本作のコンセプトは「NPCとの非言語コミュニケーションが生み出すつながり」だ。VRというテクノロジーや、カティアのキャラクターデザイン、ジェスチャベースの操作といった要素は、すべてこのコンセプトにもとづいて決定されている。目的はプレイヤーに「カティアとの一体感を感じさせ、心を通わせられる存在」だと認識してもらうこと。もっとも、そのための近道はどこにもない......福山氏とブロードヘッド氏は口を揃える。中でもビジュアル面で重視されたのが「外見」、「動作の情報量」、「動作のボリューム」、「意思」だった。以下、ひとつずつ解説していこう。

カティアの外見

「VRは視覚優位のデバイスなので、プレイヤーに短時間でキャラクターの魅力を感じてもらうために、キャラクターの第一印象をとても重視しました」。開発チームを代表して、ブロードヘッド氏はこのように語った。キャラクターに興味をもってもらえなければ、いくら存在感をつくり出そうとしても成立しないからだ。一方でキャラクターの外見をリアルに寄せすぎても、プレイヤーに違和感を抱かせる恐れがある。そのため開発チームでは、フォトリアルとファンタジーの中道を目指した。「VR上の存在感を何よりも優先するため、キャラクターデザインとラフモデルの制作をくり返しながら進めました」。

ちなみに、人間のシルエットで重要な点に頭と肩がある。トイレの性別を表す記号が丸と三角だけで成立するのも、人間がそこから頭と肩を認識できるからだ。そのためカティアも肩の輪郭を見せることが検討されたが、子どもということもあり、半透明の生地が用いられた。髪がショートになっているのも、遠くからでもシルエットがよくわかるためだ。また、ショートヘアはアクティブな子どもの記号でもある。手足に目を惹く色を使っていたり、長靴を履いていたり、手首にリボンを巻いていたりするのも、キャラクターの視認性を増すための工夫のひとつとなっている。

頭部のデザインでは、目から深い印象を残すことが重視された。前述のようにVRゲームにおいてプレイヤーとキャラクターが視線を合わせる行為は、キャラクターの存在感を高める上で大きな演出効果をもたらす。ブロードヘッド氏は「非言語的なコミュニケーションの中で、最も重要なのが目の役割だそうです。そのため人間のようでいて、少し違和感がある目になっています」と説明する。実際、カティアの目は色・彩度・形・虹彩と瞳孔の比率が、少し人間と異なる。シェーダも少し違和感を抱かせるように調整しており、どんなライティングでもVRで見たとき、虹彩が目立つようになっている。

ライティングにおいてもNPR(ノンフォトリアリスティックレンダリング)と専用ライトの組み合わせで、カティアを背景から目立たせるように調整された。その上で、そこに立っているように見せるため、環境光を強めに受けるようなシェーダになっている。「これでカティアをVRで見たとき、かなり存在感が出るようになりました。しかし、その存在感は静的なものでしかありません。より自然な存在にするためには、動作の情報量を加えることが必要です」。そこで求められるのがモーションとなる。以下、講演を福山氏が引き継ぎ、具体的なテクニックを説明していった。

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動作の情報量

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動作の情報量

キャラクターモデルと同じく、動きについてもリアルに寄せすぎず、VR空間上での存在感を高めることを目標とした......。福山氏はアニメーションのコンセプトについて、このように語った。「私たちはフォトリアルの追求がキャラクターに対する愛着や存在感につながるとは考えていません。ここ(VR空間)に存在していると感じられれば、それが写実的なものでも、デフォルメされたものでも良いと思っています」。そのため、本作では現実世界の物理法則や質量感を守りつつ、若干のデフォルメを意識して、手付け(キーフレーム)主体でモーションが制作された。

重さを意識させるモーション

①木箱を動かす

カティアの年齢や体格をふまえて、全身の体重をかけて木箱を動かすモーションとなった。「カティアは10歳くらいの女の子です。腕力があるタイプでもありません。そんな彼女が腰の高さほどある大きな木箱を動かすには、彼女自身の体重をかけて動かすにちがいありません」(福山氏、以下同)。

②ハッチを開ける

ハッチを構成する鉄板の重さが良く伝わってくる動きだ。「重い鉄板を体全体でもち上げたら、もち上げたところで手を鉄板の裏に回したいところですが、片手では鉄板を支えきれないと思います。そこで足で鉄板を支えるだろうと思い、足を使いました。また、ハッチが開いたときに"バーン"と大きな音がするので、それに驚く仕草をほんの少し入れています」。

③転轍機を動かす

当初もっと重そうに動かすか否か、迷ったという福山氏。最終的にゲーム中、カティアが何度も転轍機を動かすことになるため、プレイヤーのストレスを考慮して今の速度になった。「重さの表現は、タメを使ったり、体の動きの速度を遅くしたりするので、それだけアニメーションの時間が長くなります。ゲーム内容や操作性も考慮してアニメーションを決めるのがベストかなと思います」。

このようにゲームプレイを通して「重さ」を意識させることで、プレイヤーが直接触らなくても、木箱の重さを疑似体験させられる。一方でプレイヤー側も木箱のグラフィックから、その重さを無意識のうちに把握しているはずなので、その感覚を悪い方に裏切らないことが大切......福山氏はこう指摘する。これはキャラクター単体の動きでも同様で、腰や手足が移動する速度なども、すべて重さを意識しなければ、説得力がある画にならない。「それでも上手くいかないことがしばしばで、自分もまだまだ技術が足りないですが、意識するとしないとでは大きな差が出ると思っています」。

キャラクター性を加味するモーション

④ハッチの音に少し驚く

単純にドアを開けるだけでなく、ドアの奥を覗き込む仕草を入れることで、カティアの性格や雰囲気などを伝えられる。

⑤ソファに座ってくつろぐ

ソファに深く身を沈めて、足を投げ出したり、周囲を見わたしたり......メインの動きに細かい仕草を加えていくことで、キャラクターの性格が徐々に積み上がっていく。

キャラクター性はアニメーションでも高められる。メインとなる動きに対して、細かい仕草を付け加えていくのだ。「カティアは言葉を発しますが、架空の言語であるため、言葉の意味は理解できません。カティアの性格は、動きや行動から感じ取ってもらうしかないのです」。ただし、何事もやりすぎは禁物で、ゲームプレイ全体のながれを妨げる場合もある。そのためプレイヤーの入力に対して、素早く反応しなければならないときは避けるなど、ゲームの状況に合わせることが必要だ。また、過剰な仕草が浮いて見えることもあるため、さりげない仕草が求められるという。

動きのキーとなるポーズを決める上でも、キャラクター性を考慮することは重要だ。カティアらしさとは何かを掘り下げ、「お約束」のポーズを避けることで、キャラクター性が産まれてくる。指先の緊張度や脇の締め具合、膝や肘の向きといった点まで配慮することが重要だ。片膝をつくポーズでも、膝の開き具合や手の位置を変えるだけで、キャラクターの自意識を表現できる。「カティアらしさを表現する上で、カティア自身が周囲からどのように見られているか意識せず、自然体ですごしているようなポーズであることが重要でした」。

3Dアニメーターを活かすリギング

ここで講師はブロードヘッド氏に戻り、トピックが動作のバリエーションに移った。どれだけ自然な動きでも、同じ動きを続けるだけでは、プレイヤーは飽きてしまう。そのためにはアニメーションのバリエーションが必要で、本作でも600クリップ以上が制作されたという。そこで求められるのが、効率的な作業環境を整えること。「アニメーションをつくるとき、一番避けたいのがリグとの喧嘩です。また、シーン専用リグをつくることも、効率化にはあまり貢献しません。そのため、使いやすくて汎用性の高いリグは存在感を高める上でとても重要です」。

もっとも、使いやすさの定義は人によって異なる。そのためParent Switchingを活用し、各自のニーズに合わせられるリグの制作が目指された(余談だが同社では、本作で初めてParent Switchingが導入された)。これにより自由度を最優先課題として、どのパーツでもペアレントが変えられるように工夫されている。また、Matchingツールも利用されている。リグのコントローラのデザインをシンプルにすること。重要な機能を表に出して、できるだけChannel Boxを触らずに作業ができること。使用頻度の低いコントローラは表示のON/OFFを切り替えられること、なども配慮されている。

1つのコントローラで複数の動きができるようにすることも重要だった。本作の特徴にインゲームのモーションとしては異例の、30秒を超えるクリップが多い点が挙げられる。前述のように各々の動きに対して、演出意図が込められているからだ。一方で細かい動きを加えるほどに、管理が必要なコントローラの数が増加していく。そのため、本作のリグではコントローラに親子関係が導入され、複数のコントローラを1つのコントローラーで制御できるようにされた。これにより、大ざっぱなポーズを簡単につくった上で、個別の動きを細かく制御していくというわけだ。

カティアのリグの数々

こうした工夫で大きな恩恵を受けたのが、手や指の動きだ。1つのコントローラを回転させたり移動させたりすることで、手全体の動きがつけられる。指を1本ずつポーズづけすることも可能だ。これらのリグはMayaのNode Editorを使用し、力業でつくられている。足の動きも同様で、1つのコントローラでロール・ターン・かかとの回転や移動などが制御可能だ。フェイシャルリグも考え方は同じで、ブレンドシェイプではなく、すべてボーンで動かしている。その上でリグの親子関係が工夫され、「眼球が動くとまぶたが動く」、「口を動かすと頬が動く」ように設定された。他にモーションをつけた後で全体的な動きを調整することもできる。いずれもブロードヘッド氏が力業で実装したという。

モーションキャプチャと修正後のちがい

こうしたリグがつくられたのも、福山氏というベテラン3Dアニメーターの存在あってのことだ。ブロードヘッド氏の机は福山氏の隣で、「ほとんど専属のTAみたいなもの」だという。とはいえ、プロジェクト後半にモーションの遅れが目立つようになり、HTC Viveを使用した簡易モーションキャプチャシステム「Orion」が導入された。コストパフォーマンスの高さに加えて、動きだけでなく、移動距離もデータ化できた点が決め手だった。もちろん修正は必要だったが、福山氏は「長いクリップの動きをつける際、目安となる動きのデータをつくる上で役立ちました」と補足した。

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鍵を握るのはキャラクター制御

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鍵を握るのはキャラクター制御

「もっとも、ここまでは動きの素材をつくる上で必要な話でした。実際は動きの素材を、ゲーム中でどう活かすかについて考えることが重要です」(福山氏)。ゲームの醍醐味はインタラクティブなことで、プレイヤーの指示に対して、キャラクターがどのように行動するかで、体験が大きく変わる。丹精を込めてつくったアニメーションが、いざゲームに実装されると、想像をはるかに下回る動きになってしまい、がっかりすることも少なくない......福山氏はそう語った。それを防ぐには相応の工夫や連携が求められる。実際、本作の開発でもアニメーションの作成よりも実装にかけた時間の方が多かったという。

はじめに3Dアニメーターがすべきことは、ゲーム中の理想の動きを考え、チーム内に伝えることだ。本作ではカティアが前後左右を自由に移動できるように、基本の動きをブレンドした遷移アニメーションを作成する。これによって速度・横移動速度・方向の変化に応じて、動作の継ぎ目をスムーズに再生できるようにするのだ。その上でプログラマーにデータと意図を伝え、移動開始の方向とゴール地点までの距離や、そのときの視線方向で再生されるアニメーションが変化するようにしている。「カティアが後方に移動するときも、カティアの視線がどこにあるかで、再生されるアニメーションが異なります」。

ところが、ここでチームは大きな壁にぶつかった。本作ではカティアがステージ上のオブジェクトを操作するため、オブジェクト前の決められたポイントまで移動し、正確に止まる必要がある。ところが、開発段階ではVR上で最大20cmのずれがあった。カティアの移動ルートを絶対位置ではなく、アニメーションの移動量で計測していたためだ。停止ポイントの近くにカティアが到達したら、ルート移動をプログラム制御に切り替え、徐々に停止させるしくみも考えられたが、足滑りの問題を解消できなかった。特にVRではキャラクターが至近距離にいるため、違和感がぬぐえなかったという。

そこで考案されたのが「short Locomotion」という仕様だ。目指すゴールは半径30~40cmの円の中で、カティアがどの距離でも、どの方向でも足滑りなしで停止できるしくみをつくること。そこでアニメーションとプログラムをミックスさせる方法が採られた。キャラクターのルート移動と回転はプログラムで行い、短い移動から停止までのアニメーション(1~2歩程度)を停止方向ごとに作成して、両者を組み合わせるというもの。停止ポイントの半径35cm以内にカティアが到達したら、この処理をアクティブにして、状況に応じて必要な停止アニメーションを再生するというわけだ。

もっとも、ルート移動が0.05~35cmで可変であるため、そのままでは足滑りが発生する。そこで足を固定するfootLockをこのシーンだけ実装している。「5cmの移動でも35cmの移動でも、どちらでも似合うようなアニメーションを作成するのがなかなか大変で、かなり原始的なやり方で調整しました。しかしこの実装で、カティアが停止ポイントにピッタリ止まれないという問題は解消されました」(福山氏)。ちなみに、この実装が入ったのは2019年に入ってからのこと。そのため2018年に東京ゲームショウに出展した際は、まだ足が滑っていたという。

3DアニメーターとTA、それぞれのやりがい

最後に福山氏が明かしたのが意思の追加だ。もっとも、本作においてキャラクターAIは、そこまで力を入れて開発されたわけではない。カティアの視線をアニメーションで制御することで、あたかもカティアに意思があるかのように、プレイヤーに感じさせるテクニックが用いられたのだ。具体的には、ステージ上にある箱やスイッチといったオブジェクトには、それぞれカティアの興味レベルが設定されている。その上でカティアが「プレイヤーがポイントした先」、「自分が興味のある対象」、「プレイヤー自身」の中で、最も優先度が高いものに視線を向けるしくみになっている。

なお、オブジェクトには興味レベルとアプローチ半径が設定できる。また、オブジェクトにはクールダウン時間が設けられ、カティアの興味が次々に移るように工夫されている。カティアの興味や、オブジェクトに対する反応も、いくつか種類があり、ランダムで選定される。これらの要素を組み合わせることで、キャラクターが自ら行動しているように感じさせているというわけだ。「これは『ICO』や『ワンダと巨像』で行なっていた方法と同じようなしくみで実装しています。本作ではディレクターとエンジニアとアニメーターとで意見を出し合って、仕様を決めています」。

以上が講演で解説された、『Last Labyrinth』におけるキャラクターの存在感の出し方だ。個々は細かい処理でも、ひとつずつ丁寧に積み重ねていくことで、無機質なキャラクターを生きた存在に変化させられる。福山氏は、中でも重要なパートがキャラクター制御だと述べた。「3Dツールでつくるアニメーションの内容も重要ですが、完成してしまえばそれ以上に変化することはありません。キャラクター制御があるからゲーム内でNPCが生きてくるのだと思います。これが映画やアニメーション映像ではできない、ゲームだからこそできる表現ではないでしょうか」。

「キャラクターをつくり上げていく作業には苦労も多いけれど、自分が手がけたキャラクターとプレイヤーがコミュニケーションを取っている様子を見聞きすると、本当に苦労が報われるし、やりがいのある仕事だなと思います」(福山氏)。これに対してブロードヘッド氏は講演後「3Dアニメーターをはじめ、チーム全員の作業が上手く進むように、効率化を考えるのが楽しみ。何といっても、目の前にお客さんがいるので」と答えた。そうした環境があってこそ、3Dアニメーターがゲームデザイナーやプログラマーと高度に協業することが可能になる。すべての役職はコンセプトの実現に向けて、高度に連携しているのだ。

左からアレクシス・ブロードヘッド氏、福山敦子氏、髙橋宏典氏(代表取締役社長)