本作は音声合成システム「VOCALOID3」の音声ライブラリソフトウェア「IA」(イア)が歌う楽曲のMVだ。かわいらしいキャラクターのダンスはもちろん、若手アーティストによる非常に凝ったモーショングラフィックスも見どころになっている。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 205(2015年9月号)からの転載記事になります
キャラクターと華麗なモーショングラフィックスで魅せる
本作は1stPLACEから発売されている「VOCALOID3」対応の音声ライブラリソフトウェア「IA」(イア)が歌う楽曲のMVだ。7月に発売された『IA/VT-COLORFUL-』(Vita)に収録され、Webでも公開されている。制作にあたったのはモーショングラフィックスやVFXの制作、各種のプロモーションムービーなどを手がけている映像プロダクションのFOV。ディレクターの荒牧康治氏を中心に、のべ人数6名ほど(メインスタッフ4名+ヘルプ2名)という少数精鋭で制作されている。
左より、ディレクター・荒牧康治氏(FOV)、アートディレ クター・千合洋輔氏(CEKAI)、VFXデザイナー・山田明広氏(FOV)/写真なし、モーションデザイナー・mqdl氏(フリーランス)fov.tokyo.jp
IAのモデリングとモーションはキャラクターモデラーであり、Metasequoiaのプラグイン制作者としても知られるmqdl氏が担当。モーションデータに関しては、ベースはモーションキャプチャを使用し、MikuMikuDance(以下、MMD)にデータをコンバートして調整をしている。その後、荒牧氏やアートディレクターの千合洋輔氏の手によりCINEMA4Dにインポートされ、多彩なエフェクトが追加されて仕上げられている。本作ではスタッフの個性を活かすために分業制ではなく、シーン単位で担当が振り分けられた。王道的なキャラクターのダンス表現をメインに据えつつも、アーティストの感性を活かした画づくりができるスタッフィングがされていて、これはモーショングラフィックスの制作に長けた若手スタッフをそろえているFOVならではの采配と言えるだろう。
また、MMDのダンスデータが存在していたこともあり、平面的な絵コンテはつくらずに、直接モーション付きの3Dデータにカメラを置いてVコンテを制作している。これにより制作を効率化できただけでなく、立体的な映像構成に仕上げられている点にも注目だ。「今年はIAにとって3周年目の節目の年です。IAはクリエーターの創作活動を支援する『IA PROJECT』という企画も展開していますし、今回はメンバーの協力で納得いくMVに仕上げられて良かった」と荒牧氏は語ってくれた。
[Topic1]キャラクターのモデリングとアニメーション
---Metasequoiaによるキャラクター表現
キャラクターのモデリングに関しては、以前からIAのモデル制作を行なっていたmqdl氏が担当。使用ソフトは同氏が長年ユーザーとして得意としているMetasequoiaだ。今回のコンセプトは「これまでのIAとこれからのIA」という意味づけもあって、通常デザインのIAに加え、本作のために白いドレスのIAモデルが作成されている。身体のモデルはもともとのIAのデータがあったが、ドレスパターンはイラストから形状が起こされた。服や身体のモデル自体はフラットにして陰影はあまり描き込まず、顔のテクスチャのみ、ある程度陰影を付けてかわいらしさを強調することで、立体的かつイラストっぽいテイストを表現している。
キャラクターモデルの制作
▲A:通常デザインのIAと本作のために制作された白いドレスのIA。白ドレス版については「鏡の中のもうひとりのIA」というイメージで、衣装だけでなく髪型も左右対称的にしたという。モデリングからセットアップまで全てMetasequoia上で完結している/ B:mqdl氏がこだわったという髪の造形。色味に関しても複雑な塗りの質感を再現できるように工夫されている
「今回、モデルでこだわった点はロングヘアです。通常であれば房を並べていきますが、ただ張り合わせた感じではなく髪全体のボリュームを彫刻のような造形感で表現したいと思いました。質感に関してもマネキンっぽくならないように、とにかくかわいらしさには気をつけています。色味の複雑さも表現して、イラスト寄りに見えるよう、質感にもこだわりました」と、mqdl氏はポイントを語ってくれた。セットアップには同氏が作成したMetasequoiaプラグイン「Keynote」を使用しており、ボーンの構造だけでなく、揺れものやウェイトの設定も独自のプラグインでまかなっているという。さらにフェイシャルの仕込みに関してもMetasequoia上で完結している。
セットアップ▲A・B:Metasequoiaでのレイヤー状態と同じように動かせる二重ボーンのセットアップ画面。モーションキャプチャの動きの上からMMD用に変換してアニメーション作業に移行する/ C:口パクの仕込みに関しては理屈で合わせても上手くいかなかったので、上げ下げなどの調整は手作業で修正を行なっているとのこと。アップカットは表情を付けすぎないでキャラクターの設定に合わせ、ロングカットは口パクが目立つように大きめに動かすなど、細かく調整されている
アニメーションに関してもmqdl氏が作成しているが、ソフトはMMDが使用されており揺れものはMMDの物理演算処理だ。動き自体はモーションキャプチャベースということもあって、ボーンの構造に関してもMetasequoiaでセットアップしたベースの骨構造の上に、さらに重なるように骨を追加することで、元のベイクされたキーとは別のレイヤーで、手作業でモーションの調整をすることができるような仕込みも施されている。フェイシャルに関しても、同氏制作プラグインで歌詞に合わせてリアルタイムに母音をキー入力して制作された。
アニメーション付け▲MMDによるアニメーション調整の作業画面
▲表情の例。髪の毛と服に関してはMMDの物理演算機能を使用し、揺れ幅に関してはかなり細かく調整を行なっている。手と指先はモーションキャプチャデータではなく手付けで作成しており、細部にまで表情や芝居にこだわっていることが窺える。「MMDでのアニメーション作業はとても速く行えたと思います」(mqdl氏)
次ページ:[Topic2]モーショングラフィックスを多用したステージの演出
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[Topic2]モーショングラフィックスを多用したステージの演出
---スタイリッシュなステージと斬新なエフェクトで魅せる
アニメーション付けした後、MMDデータをAlembic形式でCINEMA 4D(以下、C4D)に読み込み、ステージのモーショングラフィックスが作成される。全体的なイメージは「宇宙や星」。楽曲の前後部分は荒牧氏が担当し、星座の早見表をイメージした球体などをC4Dで組んでいる。一方、後半に関しては千合氏が担当。透明感や表面反射が映えるイメージを荒牧氏と共有し、色味のすり合わせを行いながら、機械じかけのギミックなどを作成している。「C4DはMoGraphに代表されるようにモーショングラフィックス制作に強いツールです。その指向性から情報量の多い映像を制作できますが、今回は自動化しすぎないで、音に合わせるところは手付けで動かすようにしました」と千合氏。MMDのもつ質感に近づけつつ、ブラッシュアップ作業が行われた。
このほか、パーティクルエフェクトについてはVFXデザイナーの山田明広氏が担当。3dsMaxとFumeFXを使用して表現している。グレースケールの濃淡をエミッタ元として、FumeFXでベースとなる流体の動きをシミュレーション。ParticleFlowで書き出したVelocityをパーティクルに変換し、KrakatoaでPRT形式にてキャッシュ化してレンダリングするのだが、レンダリング結果が単調な印象にならないようにMagmaFlowにてパーティクルのVelocity情報をColor情報に変換し、そのRGBの各色にふり分け、波打つ動きの速度に合わせて細かく色を変化させている。モーショングラフィックスにこうした3Dエフェクトが加わることで、より複雑で豊かな表現が実現したと言えるだろう。
また、パーティクル以外のエフェクトも非常に多彩だ。VJソフトのVDMXを使用して出力した映像に効果を加えライブ感を出したり、AfterEffectsプラグインのTIFFEN Dfxを活用して輝度の任意範囲にだけエフェクトをかけるなどの工夫がされた。さらに、ノイズやダメージ表現をあえて加えることで、刺激や驚きを与える要素も取り入れられている。こうした通常とはひと味ちがった手間を荒牧氏と千合氏が競うように加えることで、実験的要素も含んだ、個性が際立つ作品に仕上げられている。アーティストのデザインセンスをダイレクトに活かした、FOVが得意とするエッジの立った表現にぜひ注目してもらいたい。
モーショングラフィックスを活用したステージC4DのMoGraphをフル活用することで常に動きのあるステージが作成された。この場面ではクローナーによって放射状に配置したオブジェクトにランダムとディレイエフェクタを使用し、継続的にアニメーションさせている。モーショングラフィックスがキャラクターの身体的な動きと合わさる気持ち良さを重視し、シンボリックな背景と動きの緩急で身体の動きを拡張するような感覚を大事にして制作していたとのこと
▲ランダムエフェクタ設定
▲ディレイエフェクタ設定
▲完成カット
ノイズエフェクトの作成本作には多種多様なノイズやアナログ感のある意図的な荒れも表現に取り入れられている。無難な仕上げに終わらせたくないという考えから、ある意味、実験的とも言えるエフェクトが加えられた
TIFFEN Dfxを活用したエフェクトTIFFEN Dfxの「ozone」というエフェクトを使用して画面全体に色彩調整を加えた例。この場合は映像上の輝度の任意範囲をマスクとして選択して、その部分だけに効果をかけることで特徴的なカラコレを行なっている。これは一例ではあるが、本来の使い方とはちがったエフェクトの使用方法だとしても、それがビジュアル的に良いと感覚で判断した場合は、各アーティストの感性に基づいて飛び道具的な使い方をしている。整合性の理屈よりも個のセンスを重要視しているということだろう
VJソフト「VDMX」によるエフェクト
VJとしても活動している千合氏は、通常の映像制作ではなかなか使わないであろうVJソフトを使用して映像にリアルタイムでVJエフェクトをかけ、それを再度キャプチャして完成させている。もともとの表現を分解して再構成するVJの感性を活かした手法だ
▲エフェクト素材
▲完成カット
パーティクルエフェクトの作成 ▲パーティクルは基本的に3ds MaxとFumeFXで作成。FumeFXで流体の動きのシミュレーションをして、その流体シミュレーションのVelocity情報からParticle Flowを使用してパーティクルを発生させた。「カットによっては粒子をキャッシュ化したものを3ds Maxのデフォーマで進路を曲げてイメージ通りに動かすなどの工夫もしています」と山田氏▲完成カット
コンポジット ▲マルチパスを使用してカラー素材やフレネル素材など、基本は8種類のレイヤーで出力。最終的にはAEでコンポジットしている。ライティングに関してもRGBでマスクを出力し、AE上でコントロールしており、C4D上でのレンダリングコストを下げることに成功している。また前述のノイズ表現のコンセプトと同様に、例えばフィルムの意図してない部分のハレーションのような効果をあえて意図的に入れることで、新しい刺激や驚きに結びつけている ▲After Effects作業画面 ▲完成カットTEXT_峯沢★琢 PHOTO_弘田 充
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『Shooting Star/TeddyLoid feat.IA』
『IA/VT ーCOLORFULー(』PS Vita)
リリース:発売中
価格:9,979円(限定版)、5,184円 (通常版)、 4,979円(ダウンロード版)
ジャンル:リズム ゲーム
プレイ人数:1人
CERO:C(15歳以上)
ia-vt.marv.co.jp