先日開催された「ニューヨーク・コミコン2015」にて公開された、「ガメラ」生誕50周年記念映像。その直後に「ガメラ生誕50周年」特設サイトがオープンし、新プロジェクト『GAMERA』の胎動が明らかとなった。本記念映像を手がけた石井克人監督へのインタビューを通して、新たなプロジェクトの実像に迫る。

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『GAMERA』企画の発端は 長編映画ではなかった



――いつ頃、本企画のオファーがあったのでしょうか?

石井克人監督(以下、石井):去年の10月後半に、KADOKAWAの方々と食事をする機会がありました。そこで、いきなり「どうでしょう?」と言われまして(笑)。「これは難題だなあ」というのが最初の印象でした。僕は「平成ガメラ」シリーズのファンですし、初代の白黒のやつ(『大怪獣ガメラ』1965)も好きです。だけど、個人的に怪獣モノの企画は自分にもあって、これがなかなか進まなかった。『グエムル漢江の怪物』(2006)が、怪獣映画で一番好きなんですよ。あとは『巨神兵東京に現わる』(2012)とかね。『グエムル』あたりのリアルな感じをやりたいなと。

――それは観てみたいです。

石井:そうしたところに「ガメラ」と言われて、デカすぎるなあと(笑)。ただ、ガメラ生誕50周年にあたり怪獣展の予定があるので、それ向けの記念映像を、というお話でした。4、5分の尺だったらいろいろ試せるし、普段の(CMの)仕事の延長で取り組めるかなと思い、引き受けました。

「ガメラ」生誕50周年記念映像「GAMERA」SHORT VER.公開!!

  • 石井克人
    Katsuhito Ishii

    映画監督、アニメーション監督、CMディレクターとして幅広く活躍。主な作品に『鮫肌男と桃尻女』(1999)、『PARTY7』(2000)、『茶の味』(2004)、『ナイスの森 THE FIRST CONTACT』(2005)、『山のあなた~徳市の恋~』(2008)、『REDLINE』(2010/原作・脚本)、『スマグラー おまえの未来を運べ(』2011)『、ハロー! 純一(』2014/監督・脚本・企画プロデュース)などがある。

    www.nicerainbow.com


――長編映画の企画ではなかったのですね。

石井:井上さん(※1)は5年くらいガメラの映画化に取り組まれていたそうなのですが、今の時代に怪獣映画の意義とかを考え出すと難しいみたいで、あまり進んでいませんでした。そちらの草稿を拝読したところ、男の子と女の子で怪獣を呼ぶという設定などが失礼ながら昭和っぽく感じて、「新作としては、けっこう厳しいですよね」とコメントしました。すると菊池くん(※2)が「最初から考えてみてはどうですか?」と言い出して、気づいたら4、5分の記念映像をつくるために、その世界観からトータルで考えなきゃいけないというながれに(笑)。そういう意味では、先々の映画化に向けたパイロット版のつもりで制作することにしました。物語を考えながら、メインのキャラクターや怪獣をつくった感じです。

※1:井上さん 井上伸一郎氏(KADOKAWA 代表取締役専務)
※2:菊池くん『GAMERA』企画・プロデューサーの菊池剛氏(KADOKAWA)

――完成した作品を拝見しましたが、冒頭のギャオスの迫力と数に圧倒されました。

石井:今回はガメラをはじめ、登場する怪獣はフル3DCGで制作しています。ギャオスもベースモデルは同一なので、サイズやアニメーションのバリエーションさえ作り出せれば物量を描けるはずだと、できるだけ多くを入れるようにしました。アニメーターをはじめ、CGスタッフにもがんばってもらいました。

――今回、ガメラの設定はどのようにお考えなのでしょう?

石井:「ガメラは子供の味方」という、一連のシリーズ共通の設定は守っています。大きさは、井上さんから「100mで」と言われたのですが、美術監督の都築(雄二)さんの方から、都内で立てる場所がないと(笑)。実在する場所の道幅などを基に、ギリギリ成立できるのが65mぐらい。だから今までのガメラと同じでOKという結論になりました。ハリウッド版ゴジラ(『GODZILLAゴジラ』2014))は格好良いけど、あのサイズ(全高108mと設定)だと、ゴジラとビルの間に人がいる感じがなくて、演出的にもちょっとデカすぎるんですよね。



――リアリティという点で、「平成ガメラ」シリーズを見事にアップデートしています。

石井:僕としては平成(ガメラ)で満足して、もうお腹いっぱいだと思ってました。ところが本企画を進めるにあたって、『小さき勇者たちガメラ』(2006)を観てみたら、面白かったんですよね。この感じってあるんじゃないかと。「平成」と「小さき」を足して2で割ったような方向性で、もうちょっと青春映画みたいな雰囲気があるというか。

――新鮮なテイストですね。

石井:大枠としては、(怪獣のいる世界で)生き残った少年の物語にしようと話し合いました。そこから構成して前半を主人公の回想シーン、後半をダイジェスト的な展開で割り振って、今回のコンテを描き始めた感じです。



リアル主義に徹した美術とケレン味あふれるアニメーション

――ガメラを着ぐるみにする予定はなかったんですか?

石井:着ぐるみで撮って、ディテールを3DCGでつくり込むなど、使い方次第ではアリですが、今回はスケジュール的にも予算的にも難しいと判断しました。そして、ハリウッド版ゴジラや『パシフィック・リム』(2013)を観た人たちにもちゃんと届くように、フルCGでやろうと決めました。

――なるほど。

石井:まずはモデルのクオリティが肝心だろうと、高浜(幹)さんに粘土でつくってもらいました。高浜さんは「平成ガメラ」全作に特殊造形で参加されているし、『REDLINE』(2010)では作画参考用のクルマを造形してもらった間柄です。今回のガメラについてはどうしてもやりたいデザインがあったみたいで、僕が描いたラフは却下になったんですよ(笑)。ただ、2人共通の意見として「甲羅をガチガチにみせたい」というものがあったので、そこから始めました。とにかく凶暴なデザインに振りたかったので、出てきたディテールやフォルムを見ながら徐々に詰めていきました。3DCGモデルは、ModelingCafeが担当しています。先に上がっていたギャオスの出来映えが本当に良かったのですが、担当してくれたモデラーと話をしていたら、その子がかなりの怪獣オタクだとわかり、「それなら君がガメラも作れ」と(笑)。時間はかかりましたが、どこまでもカメラが寄れる非常にハイディテールのモデルが出来上がりました。

――スタッフは精鋭揃いというわけですね。

石井:結局、上手い人じゃなきゃダメだなと。まずは日頃からお願いしているオムニバス・ジャパンのスタッフなどを通じて、その友達の友達とか身近なところからできるだけ優秀な人を集めました。CG系の人はノンクレジットの仕事が多く、良いなと思うVFX(作品)があってもそれを担当したのが誰なのかわかりにくいんです。けれど、これまでCMの仕事をたくさんやってきたおかげで、新しい技法や注目されているデジタルアーティストの情報も比較的わかっていたので助かりました。

――実際に完成した手応えはいかがですか?

石井:最後までねばって大変でしたが、VFXカットの制作ではアニメーションにひときわこだわりました。単純な物量ではハリウッドに勝つのは難しいわけですが、表現的に手付けのアニメーションにこだわれば勝機もあるんじゃないかと思っています。僕も参加した『SHORT PEACE』(※3)とか、馬や鬼のCGアニメーションはすごく上手かった。そこで、今回もガメラやギャオスの手付けアニメーションにこの人たち(現・武右ェ門)を使わない手はないなと。

※3:『SHORT PEACE』 2013年公開の劇場アニメ。4本の短編から成るオムニバス映画で、石井氏は『GAMBO』で原案・脚本・クリエイティブディレクターを務めた。shortpeace-movie.com



――後半に登場する新怪獣が暴れるシーンや手描きのテロップも印象的でした。

石井:新怪獣は先読みできない不思議な動きにしたかったんです。より強大な敵ですからキャラが立たないといけないし(笑)。手描きテロップは、CG主体のビジュアルだからこそ、上がりが綺麗すぎるのはどうなんだろうなという考えがあっての表現です。全部のカットに何か引っかかりがあるようにしたくて、当初から手づくり感は意識しました。

――美術も素晴らしいですね。ロケセットを組まれたのでしょうか?

石井:最終的な街並みはCG主体です。ロングショットは背景も含めてフルCGで仕上げました。役者をグリーンバックで撮影する都合上、実際に作成したのは床面とある程度の長さの道路やその周りの瓦礫だけですね。CGで背景セットを作る上では、都築さんがスケールにこだわる方で「見た目で作るのはダメだ」と。徹底したリアル主義なんですね。そこで、都築さんが描いた美術の図面通りにプリビズシーンも作成してもらうということを、嫌がるCGスタッフたちになんとかやってもらった(笑)。

――その苦労の甲斐があって、実写とCGが一体感のある映像に仕上がったわけですね。

石井:VFXカットの本制作は、前半パートをオムニバス・ジャパンに、後半パートをMARZA ANIMATION PLANETに担当してもらいました。シーンを作る上では、プリプロダクションで都築さんが作成した図面に合わせたレイアウトを組んでもらいました。実写素材のクオリティを高めるためにも、プリビズの段階からキャラクターにはちゃんと芝居をしてもらいたいし、カメラワークやアニメーションも完成形に合わせておく必要があったんです。

――最初から相当つくり込んでますね。

石井:その上で、物理シミュレーションに基づくエフェクトを加えることができたら、絶対にリアルに見えるはずだと。リアルなCGエフェクトも今回ぜひ挑戦したかったことのひとつです。破壊や爆破だけでなく、ガメラが垂らすヨダレも動きや質感までこだわりました。そして最後は、"(実写とCGの)馴染ませ"ですね。『宇宙兄弟』(2012)のVFXが良いなと思っていたので、あちらのVFXスタッフにも参加してもらって、さらなるクオリティアップを目指しました。



――個人的に音楽が川井憲次さんで驚きました。

石井:BGMをどうしようかなと考えたとき、今回はSEも重要になるので、音楽を前に出したがる作曲家さんだと合わないなと思ったのです。そこでビデオコンテを作りながらいろいろな曲を合わせてみたところ、『009 RE:CYBORG』(2012)のテーマが特にマッチしていた。そこで川井さんにお願いしてみたら、「やります」と(笑)。結果、ドンピシャでした。スケールの大きな映像に合いますね、川井さんの音楽は。

――ぜひこの布陣で新プロジェクトにも臨んでいただきたいです!

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PROCESS 思い描いたイメージを確実に映像化させる

実写とCGの一体感を追求した本作。それを実現させるにあたっては、プリプロにおける各種設計を、本制作時に見た目で合わせるのではなく、データとしてもカメラワークやパースを極力正確にすることが目指された

STEP 1:イメージボード

プリプロ(プリプロダクション)時に丹治 匠氏が描いたイメージボード。プロジェクトの初期から、石井監督が目指すビジュアルがしっかりと定まっていたことが窺える。



STEP 2:ガメラの3DCGモデル

高浜 幹氏が作成したマケットをリファレンスに、ModelingCafeが作成したガメラの3DCGモデ ル。かなりのクローズショットにも対応できる非常にハイディテールな仕上がりだという。



STEP 3:ビデオコンテ

石井監督が描いた絵コンテと、それを基に描かれたイメージボードを用いて作成された、ビデオコンテのカット表。



STEP 4:プリビズ

都築雄二美術監督が作成した設計図を基に作成されたプリビズ(プリビジュアライゼーション)のカット表。ロケセットならびにCGの背景セットを作る上では綿密なロケハンも行われたという。



STEP 5:場面写真

完成した映像。プリプロ段階で設計した世界観が最終的なビジュアルへと着実に反映されている。



INTERVIEW_桑島龍一 / Ryuichi Kuwajima
EDIT_沼倉有人(CGWORLD) / Arihito Numakura
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota