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第10回:伊藤頼子先生(Academy of Art University)

第10回:伊藤頼子先生(Academy of Art University)

ビジュアルを通して、監督に影響を与えるのがVis Devの役割

映画制作におけるVis Dev Artistの担当範囲は、初期段階で映像スタイルを追求するコンセプトアート、各シークエンスのライティングと色を指示するカラーキー、モデラーに提供するデザイン画、ストーリーの要所を詳細に描くストーリーピッチアートなど多岐にわたる。「1番大切なのはストーリーテリングです。ストーリーを読み解き、各場面の感情、時間、季節などを表すのに最適なレイアウト、ライティング、カラーをデザインしていきます。そうやってつくりあげたビジュアルを通して、監督に影響を与えるのがVis Devの役割です」。

アメリカの映画制作では、監督1人のビジョンにスタッフ全員が黙って付き従うわけではない。スタッフ1人1人がアイデアを出し合い、監督に刺激を与え、ときにはビジョンを変革させてしまうようなクリエイティビティが期待されるという。「Academyのクラスでは、学生たちに4体のキャラクターと、2点のカラーペインティングの課題を出しています。ペインティングの課題では、監督を大きく刺激するようなダイナミックなレイアウトを心がけるよう指導します。そういうペインティングで自分の実力を披露しなければ、スタジオに採用してもらえないからです」。

伊藤氏のクラスは1回3時間、週1回のペースで14週にわたって実施される。「受講する学生は18人で、Senior Graduates(学部2年後期)からMFA(美術学修士課程)までが混在しています。MFAは卒業プロジェクトの一環として私のクラスを受講するので、プロジェクトのためのキャラクターやカラーペインティングを制作します。Senior Graduatesの場合は、『ピーターパン』や『不思議の国のアリス』など、既存の物語を脚色したストーリーに沿って課題をつくります」。

例えば『人魚姫』の舞台を1800年代の日本海にしても良いし、『ピノキオ』の登場人物を擬人化した犬にしても良いという。「その話の内容に沿った時代、場所、設定の映画や写真を収集し、綿密なリサーチを重ねることが大切です。集めた情報から自分なりのイメージを膨らませ、キャラクターをデザインし、世界観を構築し、カラーペインティングを描きます」。

キャラクターを上手に描ける学生は多いものの、それをカラーペインティングの中に的確にデザインできる学生は少ないという。「良いカラーペインティングを描くには、まずストーリーに沿ったレイアウト(構成)のデザインが大切です。レイアウト、ライティング、カラーといった基本が備わっていなければ、そのショットのFocal Point(見せ場)を表現できません。この点は、アナログや2Dの時代から全く変わらない原則ですね」。

伊藤氏は学生たちのカラーペインティングをどんどん上描き(ペイントオーバー)することで、何が良くないのか、どうすれば良いのかを伝えるという。「1人あたり10分程度で、何がFocal Pointを邪魔しているのか、何故ごちゃごちゃして見えるのかなどを説明しながら直していきます。ダイナミックに見えるレイアウト、明度と彩度のコントロール方法、パースペクティブなど、口で説明するよりも、自分の作品を直しながら説明された方が納得してくれますからね」。

2013年から今日までのAcademyでの指導は、それなりに苦労もあるが、楽しく光栄な体験だと伊藤氏は語る。「AcademyのVis Dev Departmentの設立とほぼ同時期に指導を始めたので、参考にできる事例が少なく、最初は手探り状態でした。私の指導は厳しいと思うのですが、やる気のある生徒はどんどん作品を送ってくれます。一生懸命に批評をして返していると、すごく喜んでくれる。その経験を通して、私の考え方や技術が整理されていき、Vis Devの仕事にも良い影響が出ています」。いずれは自身の経験を日本の学生にも伝えたいと語る伊藤氏。引き続きの活躍を応援していきたい。

TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

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