先日の2月11日(木曜・祝日)に東洋美術学校の教室にて、デジタル原型師である「スーパーバイザー」氏と「榊馨」氏の主催による「デジタル原型交流会 第6回」が東洋美術学校、Pixologic、Wacom協力で開催された。この交流会は今回で6回目となり、デジタルで造形では定番のソフト「ZBrush」を主に使用して、業界の第一線で活躍しているプロ原型師やこれから始めたいという人たちが業界に必要なことや技術を交流する貴重な場となっている。
<1>プロ原型師「榊馨」氏による本の解説
2016年4月26日に発売される「ZBrushフィギュア制作の教科書」の本の内容ついて説明。詳細なフィギュア原型の作成工程から出力まではもちろんのこと、出版元サイトからZBrush分割済みフィギュアデータのダウンロード提供や作業工程動画までが公開される。また動画作成時は古いバージョンの「R6」で「MicroMesh」という機能などは、「R7」では「NanoMesh」に置き換えた方がより簡単に作業できるため、本の方で「R7」の解説することで両対応になっている。プロアマ問わずデジタル原型を志す人は、第一線のプロのモデルに触れられる内容になっているので要チェックな本である。
▲プロ原型師「榊馨」氏による著書「ZBrushフィギュア制作の教科書」
http://www.amazon.co.jp/dp/4844365819
▲著書のために作成されたZBrushの分割済みフィギュアデータがダウンロード提供される
▶︎次ページ:<2>原型師のYOSHI氏(@trepanger)、片桐氏(@katagirigiri)による「原型師、フィニッシャー、製造みんなが幸せになる分割」︎ [[SplitPage]]
<2>原型師のYOSHI氏(@trepanger)、片桐氏(@katagirigiri)による「原型師、フィニッシャー、製造みんなが幸せになる分割」
片桐氏が体調不良のため、原型師のYOSHI氏のみでの講演となったが、片桐氏が用意していたという実際のフィギュア「ユニティちゃん」のデジタルデータを例として、実際のフィギュアの中国などでの量産製造ラインに乗せるのにベストなパーツ分割方法を画像と共に質疑応答の形式で原型師と交流をしながら解説。質疑応答形式なのでYOSHIさんの会社では腕の部分を連結するダボ(凸凹)の形状断面は四角形とL字形などで制作し、中国で組み上げ量産する際に、右左のパーツを間違えないように分かりやすくしていると解説したが、参加していた原型師の質問で「僕の教わっている方法では四角形とL字形の使用はNGな形状だった」という話が出て、YOSHIさんは「その時は何が正解だったか?」ということ話しのやりとりとなっていたところに、会場の「榊馨」氏からは「自分がやる時は刺す向きが分かるように台形や四角形の角を1つだけ取った形状に向きを分かりやすくしているがどちらが良いか?」という意見をもらい、それにYOSHIさんは「それが正解ですね」というように、ダボ(凸凹)1つについての作業においても深く掘り下げてプロ原型師ならではの現場での意見を交えながらの実践的な会話のキャッチボールをしながら正解を導きだすという交流会ならではの講演となっていた。
▲「ユニティちゃん」のデータの腕のダボ(凸凹)の形状の例
▲ニーハイと太もも部分のパーツ分割する際の断面の例(右側が正解)
<3>Pixologicのトマ氏(@lecaramel)によるZBrushデモンストレーション
「ZBrush」のPixologicのマーケティングディレクターであるトマ・マーセル氏がワンダーフェスティバル用に作成したという「シドニアの騎士」の「エナ星白」の制作工程を参考画像から「ZBrush」を使用してデジタル出力するまでの講演。
▲Pixologicのトマ氏がデジタルで作ったフィギュア
▲この「エナ星白」の画像からフィギュアを作成
▲「ZBrush」で作成したビュー内の「エナ星白」
<髪の毛の作り方①「ZSphere」で作る>
▲「ZBrush」の「ZSphere」の機能を使って髪の毛の形状を作成
▲「ZSphere」を「Skin」に変換し、「Crease」で髪の毛のエッジを立たせる
▲髪の毛を短冊状にブラシなどを使用してディテールを入れて仕上げる
<髪の毛の作り方②「ブラシ」で作る>
▲髪の毛を頭の形状に沿って作成することができる「Curve Brush」を使用して作成
▲「Curve Brush」に登録するモデルとして3色に分けてブラシの始まり、伸びる部分、終わりとなる形状を作成
▲モデルを「Curve Brush」に登録して使用する3色に分けた部分で筆のように髪の毛を作成することができる
<体の作り方>
▲トマ氏が以前に作成した体のデータから再利用することで作業時間を短縮して作成
▲回転しない部分をマスクしながら「Transpose」で足などを回転してポーズを作成
▲エナのウロコ形状をブラシで作成した後、「ClayPolish」機能を使用することで表面を綺麗している
<ダボ(凸凹)とパーツ分割>
▲「Polygroups」でパーツを分けていき、「SubTool」の「Split」で出来た穴を「Close Holes」で塞ぎ、「EdgeLoop」の「GroupsLoops」などでダボ(凸凹)の作成
▲各パーツにダボ(凸凹)を作成してパーツ分割
▲触手部分は星白を支えられるように形状を検証しながら3Dプリンターで強度のある樹脂を使用して出力されたという
▲パーツ分割されて出力されたフィギュア
▶︎次ページ:<4>フリータイム〜<5>総括 [[SplitPage]]
<4>フリータイム
フリータイムでは会場に用意されたPCに入っている「ZBrush」を使い、プロ原型師から直接モデルデータを使っての質疑応答をすることができるという場となった。
▲モデルデータを持参してプロに直接質問しながら交流している様子
<5>総括
今回は第2回以来の2回目となった取材であったが、2年前の時よりも大勢の方が「ZBrush」に興味を持ち、またプロの原型師も多く参加し、みんなが原型やデータを持ち寄る会場の様子を見てデジタル原型というものが身近な技術になって業界として確立されてきていることを感じることができた。すでに印刷、カメラ、映像業界はデジタルが当たり前の時代であるが、もうフィギュア業界もデジタルが当たり前の時代になったと言っても良いだろう。
ここまでデジタル化されてきている流れを目の当たりにしてしまうと、昨今の映画でフィルム撮影や、あえて模型や特殊造形物を使うことでCGではないリアルを求め始めたという傾向などから、今後はアナログ原型の方にも造形物としての違った味のあるものとして需要もでてくることもありそうである。
デジタルとアナログと分けずに造形ということだけで考えると、アナログからデジタルへ移行し、デジタルの目新しさが無くなった時代になって、原型師が造形するということの考え方も変わってくるので、フィギュア造形物好きとして側からみると、今後、原型師の個性や表現、技の見せ方や技術進歩で競い合うことでどのような面白いフィギュアが生まれてくるのかを想像するだけで面白い。
まだまだしばらくは最先端であるデジタル原型から目が離せないので、ぜひデジタル原型に興味がある方は、交流会で「今」を直接肌で感じることをオススメしたい。
決めポーズのフィギュアが多い中で、異色なものとして面白かった可動ロボット。強度のあるナイロンの樹脂で出力して間接にネジをいれて可動する。「Fusion 360」を使用して作成している
URL:http://www.autodesk.co.jp/products/fusion-360
デジタル出力ならではのフルカラー樹脂によって出力された色付きのフィギュアも展示されていた。とても綺麗な色で出力されているのには驚きである
会場に用意されている展示ブースには原型師が持ち込んできた様々な種類のデジタルで制作されたフィギュアを展示することができるようになっており、作成者ご本人に質問することもできる
TEXT & PHOTO_S_Fumihiro