近年、3DCGプロダクションやデジタルアーティストが商業ベースのオリジナル企画にとりくむケースが増えてきた。そうしたなか福岡の雄、KOO-KIが、オリジナルの短編3DCGアニメーションシリーズ『SUSHI POLICE』を展開中だ。いわゆる受託制作とは似て非なる面をもつオリジナル作品の商業制作について、中核スタッフたちが率直に語るという本シリーズ企画。第2回は、木綿達史監督と河原幸治プロデューサーに、プリプロダクションとワークフローについて紹介してもらった。
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『SUSHI POLICE』にみる、"クリエイターがオリジナル作品をつくる"ということ。Vol.1:企画&プロデュース
TEXT_村上 浩(夢幻PICTURES) / Hiroshi Murakami(MUGENPICTURES)
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
『SUSHI POLICE』トレイラー
TOKYO MXにて毎週水曜日25:00から放送中!
Google Play™、Amazonプライムビデオほか各種ネット配信中(詳しくは公式サイトへ)
『SUSHI POLICE』第1話無料視聴キャンペーン実施中
監督:木綿達史/脚本:楠野一郎、安藤康太郎/企画:中沢敏明/プロデューサー:厨子健介、河原幸治/プロダクションマネージャー:中石賢悟/キャラクターデザイン:塗壁、イチノミヤモトヒロ、TOBI TOREBURUYA/美術:オカモト、河村翔太/音楽:稲岡 健、高木公知/編集:U2/制作:セディックインターナショナル、KOO-KI/製作:"SUSHI POLICE" Project Partners
© "SUSHI POLICE" Project Partners
<1>海外の人がイメージするステレオタイプな日本人像をデザインに込める
ーーキャラクターデザインはどのように進められたのでしょうか?
ーー木綿達史監督(以下、木綿):企画の段階から「ホンダ、スズキ、カワサキ」のメインキャラクター3名はドイツ人アーティストのトビくん(TOBI TOREBURUYA氏)にデザインを依頼することは決めていたので、眼鏡に七三ヘアーでスーツ姿といった外国人が思い描く典型的な日本人をコンセプトにやり取りを重ねていきました。ただ、トビくんが最初に描いてくれたキャラクターはインパクトがあり完成度も高かったのですが、海外の様式美というかアート過ぎるというか、僕が想い描いていたイメージとは少し異なっていたんですよね(下図)。
ーー確かに、強烈な個性を放っていますね。
木綿:当初から海外展開を意識してはいましたが、欧米のスタイルに完全に合わせ込むというよりも日本のアニメや漫画のエッセンスを織り交ぜたデザインにしたいと思っていたので、こちらからもラフデザインを提示して方向性を擦り合わせていきました。最終的には僕のイメージを超える仕上がりで、国内だけでなく海外でも通用するようなキャラクターを生み出してくれましたね。
(左)TOBI氏のキャラクターデザインに対して木綿監督が作画した修正参考資料/(右)木綿監督の修正案を下に、TOBI氏が描き直した完成形のベースとなるデザイン画
デザイン画と同時進行で行われたホンダの試作モデル(モデリング:ビト氏(KOO-KI))
ホンダの表情参考
ホンダのフェイシャルパターン(モーフターゲット)の例
ホンダの完成モデル(ターボスムーズ後)。(左)シェーディング表示/(右)メッシュ表示
ホンダのデザインスケッチ例。第1回でもふれたとおり、シナリオ、設定、デザインなど、作品を構成するあらゆる要素ごとに試行錯誤がくり返された
© "SUSHI POLICE" Project Partners
ーーキャラクターは何体くらい登場するのでしょうか?
木綿:全部で何体くらいになるのかなぁ? 1話あたり平均2体は登場するのでかなり多いと思うんですけど......。
ーー河原幸治プロデューサー(以下、河原):名前の付いているキャラクターが17体で、モブを含めると30体ほどになる予定です。世界各国のレストランを飛び回り、誤った日本食を提供するシェフを取り締まるという物語なので、登場キャラクターが多くなることは予算を見積る段階から想定はしていましたが、シリーズものとは言え、短編としては贅沢な数ですよね(苦笑)。
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木綿:メインキャラであるスシポリスの3人以外にも「サラ」と「マダム・フジ」という女性(メス)の準キャラクターが登場するんですが、グッズ展開などマーチャンダイズを考慮すると日本の人たちにもキャッチーで魅力的なキャラクターが必要だなと。セディック・インターナショナルさんの日本人独特のセンスを取り入れたいという意向もあったので、この2キャラのデザインは、イラストレーターのイチノミヤモトヒロさんにお願いしました。
イチノミヤモトヒロ氏が描いた「サラ」のデザイン案。左図が採用された
サラの没デザイン案の例
サラのデザイン決定稿
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木綿:それ以外のキャラクターはTriF studio(以下、TriF)さんに担当してもらったのですがデジタルアセットも一括管理してくれたので非常に助かりました。トビくんのデザインをリファレンスにしているけどそれぞれ異なる様式でデザインされているのでモデリングの段階で全てのキャラクターが共存できるようバランスを整えバラつきを抑えてもらっています。
河原:どのキャラクターもしっかり作り込んでいるので短編で終わらせてしまうのはもったいないんですよ。長編やシリーズ化といった展開に持っていけると良いんですけどね。
木綿:そう! 細部にもこだわってつくってますから。ドイツが舞台の話数では、うちのビト(Vito La Manna氏)に似せたキャラクターを登場させるという遊びを盛り込みました。塗壁さん(後述)にビトの写真を下にデザインしてもらったのですが、特徴を上手く捉えていて驚くほど良く似ているんです。スタッフも面白がって作業してくれたのでとても嬉しかったですね。
塗壁氏(TriF studio)が手がけたモブキャラクターのデザイン画の例。(左)第1話の舞台となるレストラン「MIFUNE」の女性店員/(右)第2話に登場するリュックとジャン
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<2>若い才能を大抜擢〜背景美術&ルックデヴ〜
<2>若い才能を大抜擢〜背景美術&ルックデヴ〜
ーー世界観設定や背景などの美術デザインは、どのように進めましたか?
木綿:美術デザインは、TriFの塗壁さんとオカモトさんに一任しているんですが、制作期間や予算からもリアルな世界を描くのは難しいと判断し、デフォルメされた世界を構築してもらうことにしました。まずは、どの程度のデフォルメが許容されるのか建物から小道具に至るまで検証を重ね、パイロット映像を制作する過程で「必要以上に描き込まない」というルールが生まれてきたので、そのルールに則ってTriFさんにデフォルメ具合いをコントロールしてもらっています。TriFさんにはインターンの大学院生も在籍しているのですが、クオリティが高い上にものすごい物量を短期間で描き上げてくれるんですよ。
ーー学生さんですか!? それは末恐ろしいですね。
木綿:そうなんです。最近はデフォルメ具合いも定着してきたのでスケッチレベルで確認して問題なければ本番用の背景作業に取りかかってもらうながれになっています。とても優秀な方なので今後も多くの作品で協力してもらいたいですね。
背景デザインの例。(上)第1話に登場するレストラン「MIFUNE」店外のアートボード/(下)アートボードを下に作成されたパノラマ美術
背景デザインの例。(上)第2話の舞台となるパリ俯瞰のアートボード/(下)アートボードを下に作成された背景美術(赤枠はカメラのフレーム)
プロップデザインの例。(上)スシポリスたちが乗る「ロケット漁船」のデザイン案。最終的に右列・中段のデザインが採用された/(下)デザイン案を下に作成された「ロケット漁船」完成モデル
ーー全体的な色味やライティングなどはどのように決めてるのですか?
木綿:海外作品で見かける欧米独特の色彩感覚を取り入れたかったので、パイロットの制作時にキーとなるショットをビトに担当してもらい、色味のバランスや最終的な画の見映えなど検証をしています。日本人と外国人では瞳の色(虹彩)が異なるためなのか、暗部の色味の捉え方が異なると聞いたことがあるんですが、それで色づかいも日本人とは異なるんじゃないかと思っています。
ルックテストの例
© "SUSHI POLICE" Project Partners
第3話『メキシコの老シェフ』より。上図のルックデヴと比較すると、しっかりと本制作に継承されていることがわかる
木綿:幼少時に育った環境によって異なるとも思いますが、日本のタッチや色づかいはアニメや漫画の影響を強く受けている気もしますね。ビトくんのビジュアルを参考に制作していますが、作品全体のトーンは話数によってシチュエーションが異なるので舞台となる国や街のイメージに合わせて構成するようにしています。例えばロンドンが舞台なら「曇り空」をモチーフに描く、話数の中で色味が統一されていれば作品全体でトーンが多少異なっても問題ないと思っています。
ーーなるほど。
木綿:ライティングに関しても本来はシチュエーションごとにコンセプトアートを描くべきなんでしょうけど、時間的な制約もあるので海外作品のビジュアルを切り出して奥と手前の明度差や色の転ばし具合を参考にしてAfter Effects(以下、AE)上でライティングや全体の色味を調整いています。後処理で対応できるのが2D背景の利点ですね。3Dで背景を制作していたらこの期間で完成させるのは難しかったと思うので(汗)。
レストラン「MIFUNE」のコンセプトアート。実際の本編は、よりビビッドなルックに仕上げられているが、2D要素との親和性等を考慮したものだと推察される
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第7話『フリー寿司運動、勃発』より。ちなみに、左図・中央がビト氏をモチーフに塗壁氏がデザインしたキャラクター
<3>ツボを押さえたカット制作
ーー続いては、ワークフローについてお聞かせください。
木綿:本作で最もこだわって取り組んでいるのがカット尺のバランスです。完成したシナリオを13ブロックに切り分けて、それぞれのブロックごとに演出を行なっています。「シナリオライティングの黄金則」を参考に(笑)。
ーー1話3分の尺で13ブロックほどに分けるというのは細かいですね。
木綿:1ブロックが10~15秒くらいになります。すると、普段作業しているCMと同じような感覚で演出できるのでやりやすいんですよ。3DCG側からも長回しよりもカットを割ってほしいという要望があったので好都合でした。そして、その構成案に基づきラフコンテを描きます。1話あたり平均70~80カット、多い回だと90カットくらいあります。制作当初は40~50カットくらいに留めてほしいと現場スタッフたちに言われていたんですけど、『SUSHI POLICE』はテンポの早さが魅力のひとつなので、どうしても増えてしまって(苦笑)。
© "SUSHI POLICE" Project Partners
ーーラフコンテという発想は、CM制作みたいですね。
木綿:そのとおりです。今までCMやMVの演出もラフコンテで制作してたのでアニメもこのフォーマットで制作できると思っていてたんです。でも、TriFさんから「このコンテじゃ制作できませんよ」と言われてしまって、「えっ、ほかに何がいるの?」って聞いたら「レイアウトが必要ですよ!!」と(苦笑)。
ーー確かに(笑)。
木綿監督が描いた第1話のラフコンテ。ご覧の通り、CM制作における演出コンテの体裁に近い
木綿:アニメ制作の経験がないので絵コンテの重要性やレイアウトという存在自体を知らなかったんですね(苦笑)。CMのように単発の作品であればその場の判断で舵をとれるんですが、シリーズ作品になると勢いだけではつくれないと痛感しました。現在はTriFさんにラフコンテを基に絵コンテやレイアウトを描き起こしてもらっています(※下に載せた『SUSHI POLICE』ワークフロー図を参照)。
ーーレイアウトに着色されていますが、どのような意味があるのですか?
木綿:ひと目で作業分担がわかるように色分けしているんです。それ以外にもPANフレームやエフェクトなどの細かな指示が書き込まれています。3Dでカメラワークを付けることもありますがカメラワークの修正のたびにレンダリングを行うのは無理なので極力3Dのカメラワークを避け、通常のアニメ制作と同様にAEでカメラワークを行なっているんです。
第1話のレイアウトより。(左)3DCG要素が介在しない2Dカットの例(CUT 44)。2D要素は桃色で塗り分けられるため、画面全体が桃色となる/(右)背景も3Dベースのカット例(CUT 45)。キャラクターの芝居に関する演出指示はオレンジ色で、カメラワークに関するものはシアン色で書かれている。そしてカメラワークのフレーミングについても始点は赤色、終点は青色と視覚的にわかりやすい
第1話のレイアウトより、(左)CUT 68/(右)CUT 69。エフェクト表現は基本的にAEによるコンポジットワークで施されているが、そうした要素はシアンで塗り分けられている
ーーセリフなどの音まわりはどうしていますか?
木綿:セリフの扱いに関してもアニメの流儀がわからないので芝居の演出方法でのりきることにしました。何度か仕事や芝居で付き合いのあった役者さんに集まってもらいプレスコを行なって、最終的に音響スタジオで映像に合わせて再収録しています。ただ、再収録の時にもっと良いアイデアが浮かべばリップを無視してセリフを変えてしまうのでリップシンクに関しては厳密に合わせていません。
ーーー外国語の吹き替え版もつくることを考えれば合理的ですね。
木綿:英語で会話しているものを日本語に吹き替えているというアテレコ(アフレコ)風だとわりきっています。作風的にもその方がマッチしていると思ってますし、少しでも面白くなる可能性があればねばりたいんです。スタッフには嫌がられますけど(苦笑)。
ーー(笑)。
木綿:音声まわりとしては、劇中曲はinvisible designs lab.の高木公知さんに依頼しました。アナログ音源の深みのある楽曲で作品に重厚感をもたらせしてくれるんです。音響効果はノイジークロークの稲岡 健さんに依頼していますが、スシポリスという虚構の世界にリアリティを与え映像のクオリティを増幅させてくれています。映像にとって音楽はとても重要なファクターですからね。
第1話CUT74のレイアウト。取り締まったレストランMIFUNEが派手に爆発する様を背に、颯爽とスシポリスたちが歩き去るという内容。作画の際に背景をレイヤー別に分けておき、差分で壊れたMIFUNEのパーツを作成したという
第1話CUT74のアニマティクス
第1話CUT74の完成形。After Effectsによるコンポジット作業時に実写素材やParticularにてさらなるエフェクトが施された
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Information
(後列左から)告畑 綾コンポジター、河原幸治プロデューサー、木綿達史監督、中石賢悟プロダクションマネージャー兼コンポジター/(前列左から)山内香里デザイナー、阿部晋之介コンポジター、川越洋輝プロダクションアシスタント、小堤 愛プロダクションアシスタント。以上、KOO-KI
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ホンダ:山下 晶/スズキ:イフマサカ/カワサキ:岡本ヒロミツ/サラ:菊地由美
監督:木綿達史/脚本:楠野一郎、安藤康太郎
制作:セディックインターナショナル、KOO-KI
製作:"SUSHI POLICE" Project Partners
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