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No.002:お茶の水女子大学 理学部 伊藤研究室

No.002:お茶の水女子大学 理学部 伊藤研究室

産学連携への貪欲な挑戦

様々なデータの分析と理解を目的とした「情報可視化」というビジュアル技術を主軸とする本研究室では、データ分析の目的で多彩な産学連携を実施してきました。主なところではクレジットカード不正検出、水害対策、オフィスビル電力管理、歩行者経路分析、購買データ分析などで企業との共同研究を実施しました。他にはCGに直接関係あるところで化粧品企業と肌のビジュアルシミュレーションに取り組んでいます。さらに別の例として、製薬企業とは蛋白質形状分析、音楽配信企業とは音楽リスナー分析の研究に取り組んでいます。これらの縁のおかげで研究室発足以来、各企業からお預かりした共同研究費が研究室運営費の約半分を占める状況が続いています。

産学連携の動機はいろいろありました。知人研究者からの紹介、私や学生の講演を聞いて(あるいは私のWebページを読んで)の企業側からの連絡、懇親会などでの意気投合、といった動機が代表的な例です。私の研究者としての強みは産業界のニーズから研究課題を見つける点にあると思っています。今後も多彩な産学連携を通して研究課題を広く実社会に結び付けたいと考えています。

私は企業出身の大学教員ということもあって、産学連携に関してこれまでにも記事執筆や議論の機会を多数いただいています。産学連携の理想的なスタイルやそのための大学教育のありかたについて意見を述べた記事[1]や、産業界での活躍を目指す人にも博士課程に進学して専門性を高めることが有効であることを主張した記事[2]を書いています。またインターンシップによる実務経験についてのパネル議論[3]にも参加しました。ご興味がありましたら参考にしていただければ幸いです。

[1]伊藤, イノベーションのための産学連携と基礎教育に関する一考察, 人工知能学会誌, Vol. 30, No. 3, pp. 337-343, 2015.
[2]伊藤, アカデミア研究者を目指さなくても博士号を目指すという選択, 情報処理学会誌, Vol. 58, No. 5, pp. 406-407, 2017.
[3]伊藤, インターンシップ・学生が望むもの・教員が望むもの, 情報処理学会第80回全国大会, 2018.

情報可視化を主軸とする、多岐にわたる研究

▲本研究室ではCG以外にも多彩な研究に取り組んでいます。【上左】ポータブル音楽プレイヤーに収録されたプレイリストの一覧をカラフルに表現する可視化アプリ/【上右】カメラの前での人物の動きをペンライトアート風に表示するインタラクション/【下】VR空間に再現された東京ディズニーランドにソーシャルメディアでの発言を重ねることで、来場者の発言を読みながら仮想遊覧ができるシステム

今後の展望

研究室運営に関する今後の展望はいろいろあるのですが、ここではCG技術・CG産業に関係する点を2点挙げたいと思います。

1点めはCGに関係する産学連携の幅を広げたいという点です。本研究室では化粧品企業とのCGの研究に取り組んでいますが、化粧品に限らず、CGのモデリングやレンダリングなどの技術が貢献できる産業はほかにもたくさんあるはずです。そのような多彩な産業への貢献を模索するCG研究者が増えることが、CG業界の将来への大きな貢献になると私は信じています。逆に、CG以外の研究分野での私の成果をCG業界に提供する可能性も模索してみたいです。

例えば情報可視化をとっても、キャラクターデータベースを俯瞰する可視化、サーバに一括処理させるレンダリングの進捗状況の可視化など、CG制作の現場に貢献できる可能性はいろいろあると考えられます。また音楽情報処理とCGの連携に関する研究も近年急速に進んでいます。このようなかたちで私ならではの産学連携の機会がCG業界の中で生まれればと思う次第です。

2点めは本学学生のCG業界への進出の可能性です。本学はとても堅実な校風で、学生の就職先も情報通信産業やメーカーの老舗大企業が圧倒的に多い状況が続いていました。他大学では非常に多くの学生が就職するゲーム産業でさえ、本学では大学全体で3年に1名くらいという状況が続いています。本研究室で長い間にわたってデータ分析のための情報可視化の研究が活況だったのも、その堅実な就職状況と関係がありました。

それが最近では一転して、正統的なCGの研究を志願する学生が増えました。研究テーマに限らず、ここ数年で急速にCG技術が本学学生にとって親しみ深いものになっているのを感じます。私の推論にすぎませんが、モバイルゲーム機・スマートフォンアプリ・ソーシャルゲームなどの普及、あるいはボーカロイドの流行に代表される近年のネットカルチャーの変遷が、学生の嗜好に影響を与えていると考えます。将来的には本学からCG業界への就職を志す学生も増えるかもしれない兆候も感じており、教員としてもいっそうの業界理解が必要と考える次第です。

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