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No.010:東京都市大学 情報工学部 画像工学研究室

No.010:東京都市大学 情報工学部 画像工学研究室

本連載では、アカデミックの世界に属してCG・映像関連の研究に携わる人々の姿をインダストリーの世界に属する人々に紹介していく。第10回では、学生の頃から一貫して色彩と画像処理を研究してきた東京都市大学の張 英夏准教授に自身の研究室について語っていただいた。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 250(2019年6月号)掲載の「ACADEMIC meets INDUSTRY 東京都市大学 知識工学部 情報科学科 画像工学研究室」を再編集したものです。

TEXT_張 英夏 / Youngha Chang(東京都市大学)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
取材協力_芸術科学会

NPR分野に進み人間の色知覚特性を研究

こんにちは。今回の執筆を担当することになった東京都市大学の張 英夏です。主に色彩に興味をもっています。私は韓国の梨花女子大学コンピュータ工学科を卒業しています。梨花女子大学は大学院生も含めると在学生数が2万人を超えており、文学から芸術、医学、理学まで様々な学部を有する、女子大としてはとても規模の大きい総合大学です。おかげで受講できる科目も幅広く、哲学や心理学系の科目に多く触れていくうちに、人間の認知や心理に興味をもつようになりました。

  • 張 英夏
    東京都市大学 情報工学部 情報科学科 准教授
    博士(学術)
    専門分野:メディア情報学、データベース、知覚情報処理、知能ロボティクス、感性情報学、ソフトコンピューティング
    www.vgl.cs.tcu.ac.jp


4年生になり進路を模索する中、日本の文部科学省の奨学金制度を知り、留学を決心しました。当初は医療画像処理分野の研究に漠然とした憧れをもち、東京工業大学 情報理工学研究科の中嶋正之先生の研究室に所属しました。中嶋先生は日本のCG研究の大御所で、本連載を支援している芸術科学会の設立時の立役者でもあります。常に新しい研究分野に興味をもち、例えば1996年に日本で初めてCAVEシステムという没入型装置を制作してVRの研究を行なったり、当時流行り出した手描き風画像を生成するNon-Photorealistic Rendering(NPR)分野にいち早く注目したりなさっていました。

学部時代の私はCGにこれほど多様な分野があるとは知らなかったため、先輩方の研究などから日々刺激を受け、研究室のメインテーマのひとつだったNPRを研究する道に進みました。当時のNPR分野では、筆で描いたときに生じる筆致のようなテクスチャを写真に組み込み、絵画風の画像を生成する方法が検討されていました。一方で、写真と絵画は、筆致のほかにも抽象化、構図、投影方法、色合いなど、様々な要素が異なります。こうした要素をまとめて組み込んだNPRを目指し、既存の画像処理技術をベースとした色合いの変換に取りかかったのですが、意外と上手くいきませんでした。そこで研究テーマを絞り、人間がより思い通りに色彩を処理できるように、既存の画像処理技術に人間の認知、特に色知覚特性を取り入れることを試みました。このとき始めた研究は、現在まで続いています。

博士号を取得した後も研究員として大学に残り、科学技術振興機構による戦略的創造研究推進事業の「デジタルメディアを基盤とした21世紀の芸術創造」を手伝わせていただきました。本事業では東京藝術大学の藤幡正樹先生が研究代表者となり、アーティストと工学者がコラボレーションして面白いことをやっていこうという方針の下、いくつかの研究課題を設定していました。私は、油絵描画シミュレータ[1]という、東京藝術大学の藤幡先生と佐藤一郎先生、東京工業大学の中嶋先生と齋藤 豪先生が中心となって推進していた研究課題に携わりました。

[1]齋藤 豪, "計算機上での素材感のある絵具", 映像情報メディア学会 技術報告招待講演, Vol.35, No.15, pp.87-91(2011)

▲油絵描画シミュレータを用いて描画を行なっている様子。インタラクティブな描画が可能です


▲油絵描画シミュレータ上での油絵具の発色。実在する油絵具を忠実に再現するため、油絵具の厚みによって発色や隠ぺい力がどのように変化するか、また、それらが溶き油の割合を変えることでどのように変化するかを分光測定計で測定し、再現しています


近年は、AdobeがGPUを用いて油絵具のギトギト感や混色の様子をリアルに再現したシミュレータ[2]を提案していますが、当時のGPUは性能が高くなかったため、リアルな油絵具の筆致や色合いをインタラクティブレートでレンダリングすることは、とても挑戦的な課題でした。

[2]Zhili Chen, Byungmoon Kim, Daichi Ito, Huamin Wang, "Wetbrush: GPU-based 3D painting simulation at the bristle level", ACM Transactions on Graphics, Vol.34, Iss.6, Article No.200(2015)

本研究で、私は油絵具の発色の再現を担当しました。よりリアルな発色や混色、隠ぺい力を再現するため、油絵具を調合しては、ひたすら分光測色計で測定する作業をする中で、色彩の物理的な側面を学習できたことはとても意義があったと思います。その後、中嶋先生は東京工業大学を退官され、スウェーデンのウプサラ大学 キャンパスゴットランドで教鞭を執ることになりました。私は中嶋先生の退官に合わせて東京都市大学に赴任し、現在にいたります。

異なる専門分野をもつ教員2名で40名弱の学生の研究を指導

東京都市大学の前身は武蔵工業大学で、東横学園女子短期大学の統合をきっかけに改名しました。キャンパスは大きく3つに分かれており、私が所属している情報工学部 情報科学科は世田谷区と大田区の境目に位置する世田谷キャンパスにあります。近くには東京都と神奈川県の境界を流れる多摩川があり、晴れた日には校舎から丹沢の山々を望むこともできる、環境に恵まれた立地です。

私は2012年に東京都市大学に赴任し、2014年に卒論生を受けもち始めました。東京都市大学の研究室は研究テーマに基づく名前がつけられており、複数の教員で運営を行う研究室もあります。私が所属する画像工学研究室は、向井信彦先生と一緒に運営しています。向井先生は物理シミュレーションに基づくCGや、医療シミュレーションを主に研究されています。ゼミは担当教員ごとに分かれて行いますが、個別の研究相談はどちらの教員とも行えます。また月1回の発表会、および発表練習会は合同で行います。このように、本研究室では少し異なる分野の学生の研究に触れる機会が普段からあるため、多様な分野の研究動向を知ったり、その分野の基本的な技術を身につけたりできるという利点があります。

学部生は、3年次前期に各研究室のトピックを総覧できるProject Based Learning科目を履修し、様々な研究テーマに触れ、実際に自分の力で解決してみる経験を通して、自分が興味のある分野を明確にしていきます。その後、夏休みに行われる4年生の卒論中間発表会を見学し、研究室配属の希望を出します。3年次後期からは研究室に所属してゼミや発表会へ参加し、興味をもったテーマの関連研究を調べるなどして研究の土台をつくり、4年次進級後に卒業研究を開始します。

研究テーマは、原則として学生の希望に基づき決定していきます。研究では、技術的な背景や、競合する技術、および研究をしっかり理解し、提案手法との差分を明確にすることで、有効性や独創性など、研究としての意義を見出さなければなりません。卒論生の場合は4年次の1年間で、従来研究を調査し、研究としての意義の有無を見極め、既存手法の問題点の解決法を探っていくことで卒業研究を遂行します。

本記事の掲載号が発売される2019年5月には、本研究室に大学院修士課程が7名(2年生が5名、1年生が2名)、学部生が15名在籍している予定です。後期にはさらに学部生が14名程度配属されます。そのため、だいたい40名弱の学生の研究を向井先生と私の教員2名で指導することになっています。学生は卒業後、主にメーカーに就職しています。様々な会社に就職しているので、「ここが本研究室のメイン」と言える会社はありませんが、直近で複数人が就職している会社としては、キヤノンや日本ヒューレットパッカード、コニカミノルタなどがあります。

大学院生は、修了までに自分の研究を学会で発表することが義務づけられています。学部生は、成果の度合いや希望に応じて学会発表することができます。本研究室からは年間2件程度の学会誌論文と、4、5件の国際会議論文が採択されています。そのほかに、国内で開催される研究会や、全国大会などでも発表しています。現在私は芸術科学会で副会長を務めているため、主な発表場所は芸術科学会が春に開催する映像表現・芸術科学フォーラムや、秋に開催するNICOGRAPHなどになっています。これまでに、手島精一記念研究賞、CG大賞、映像表現・芸術科学フォーラムにおける企業賞、SIMULTECHのBest Paper賞、などを受賞しています。

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