本連載では、アカデミックの世界に属してCG・映像関連の研究に携わる人々の姿をインダストリーの世界に属する人々に紹介していく。第1回では、東京工科大学の三上浩司教授に自身の研究室について語っていただいた。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 240(2018年8月号)掲載の「ACADEMIC meets INDUSTRY 東京工科大学 メディア学部 三上研究室」を再編集したものです。

TEXT_三上浩司 / Koji Mikami(東京工科大学)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
取材協力_芸術科学会

複数教員によるフラットな研究連携

こんにちは。東京工科大学 メディア学部の三上浩司と申します。読者の皆様の中には「アカデミックの世界に縁がない」という方もいらっしゃると思います。今回は連載第1回目ですから、私の研究室の紹介をしつつ、アカデミック世界の日常についてもお話します。

  • 三上浩司
    東京工科大学 メディア学部 メディア学科 教授
    博士(政策・メディア)
    専門分野:プロデュース、デジタルコンテンツ制作技術、映画/アニメ/CGアニメーション/ゲーム制作技術、制作管理技術
    mkmlab.net

国公立大学の場合、教授の名を冠した研究室があり、そこに准教授や講師、助教(昔は助教授、講師、助手と呼ばれていました)などが所属するのが一般的です。私立大学の場合は、各教員が自身の研究室を運営するスタイルが多いです。しかし、設立当初のメディア学部は研究室という概念をもっておらず、複数の教員でプロジェクトを形成し、そのプロジェクトに学生が参加するというスタイルをとっていました。各教員が自身の研究室をもち、独自の研究テーマを掲げて研究するようになった現在でも、昔からいる教員の多くは研究室をまたいだフラットな研究連携を進めています。そのため、様々な視点から多様な分野の研究に取り組める点が、メディア学部の特徴と言えます。

コンテンツ制作を学問へと高める

私は慶應義塾大学 環境情報学部を卒業後、総合商社のメディア事業部門に就職し、スーパーファミコンとセガサターンの通信対戦サービスや、3Dメタバース(仮想空間)の起ち上げに従事しました。その後、自らサービスやコンテンツ自体をつくることに興味をもち、独立して新規事業を起ち上げようと試みる中で、日本最初の商業CGスタジオであるJCGLを起ち上げた故・金子 満先生と出会い、エムケイという金子先生の会社でプロデューサーとして働くようになりました。

そして金子先生が東京工科大学 メディア学部の設立に携わるにあたり、実際にコンテンツも制作できるプロダクション能力をもつ研究所をプロデュースする役割を任され、本大学で勤務することになりました。「コンテンツ制作を学問へと高めるためには、実証制作と研究が重要」と金子先生が語っていたことを今でも鮮明に覚えています。当初は研究所を運営しながら、メディア学部の学生の教育や、研究指導をしていました。その傍ら、社会人大学院生として慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科の修士課程と博士課程に通い、2008年に博士号を取得しました。それよりひと足早く、2007年から大学の専任講師になりましたが、実質的には金子先生のプロジェクトを一緒に運営してきたので、私の研究室の歴史は2002年頃からスタートしたと言えるでしょう。

問題の本質を理解し、解決方法を探す

金子先生はTVアニメ制作にCGを導入した先駆者であり、JCGLの創設者でもあったことから、私の研究室でも3DCGを活用したアニメ制作手法の高度化、特にモーションキャプチャを用いたモーション生成技術や、トゥーンレンダリングに関わる研究を進めてきました。2004年頃からは、他大学に先んじて4年制のゲームのカリキュラムを起ち上げ、ゲームにおけるアニメ的表現の実現や、ゲームデザイン、レベルデザインに関わる研究なども進めています。

原則として、研究テーマは学生自らが提案、設定することにしています。そのためには、興味をもったテーマの先行研究や技術背景をきちんと理解し、研究意義を見出さなければなりません。それに必要な論文調査の方法などを指導しつつ、自ら問題の本質を理解し、解決方法を探せるようになることを目指し、指導をしています。

プロフェッショナルと同じツールや環境を用意

▲【左】モーションキャプチャスタジオ。学部生の段階からプロフェッショナルと同じツールや環境を用いた制作経験を積むことで、制作技術や研究内容の高度化を目指しています/【右】三上研究室の学生集合写真


▲【左】三上研究室、近藤研究室、渡辺研究室による、卒業研究の中間発表会。複数教員が連携し、合同のポスター発表会を実施しています/【右】オープンキャンパスの様子

産学連携による制作も実施

東京工科大学は日本で初めて「メディア学部」という名の学部を設立した大学で、教育面では、実践的な教育を意識したプロジェクトベースの演習を実施し、充実した制作環境の下、意欲ある学生が自発的に制作活動できる体制を整えています。研究面では、先端メディア科目(早い時期から研究を開始できる成績優秀者対象の早期ゼミ)と、先に紹介した研究室のしくみをもち、多様で柔軟な研究を進められる環境を用意しています。

東京都の西部、八王子に位置するため、そのキャンパスは広大で、スタジオ施設が充実しており、ロケ現場としても適していることから、産学連携による制作なども多く実施しています。例えばサンライズと共同で、手描きアニメーションとトゥーンレンダリング、さらにモーションキャプチャを比較する実証実験を行いました[1]。その後、この技法はモーションキャプチャとトゥーンレンダリングを用いた映画『APPLESEED』(2004)のパイロット制作などに活かされました。また、タツノコプロと共に3DCGの制作手法を検討し、『Sky Kids BOOBY』を実証制作しました。この作品は2004年の東京国際アニメフェア(現、AnimeJapan)でアニメアワードの一般部門優秀賞を受賞しました。モーションキャプチャに関しても様々な共同研究を行なっており、映画『CASSHERN』(2004)をはじめとする映像作品やゲームタイトルでモーションキャプチャを用いたモーション生成手法を追求してきました。

[1]金子満,三上浩司,岡本直樹,おおすみ正秋,井口光隆,吉井孝幸,野崎絹代"3DCG手法を利用するセルタッチアニメ映像と従来型手法の比較制作",芸術科学会,第16回NICOGRAPH論文コンテスト論文集,pp.135-142,2000

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毎月1名は卒業生が本誌に登場

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毎月1名は卒業生が本誌に登場

こうした私の経歴と研究室の成り立ちゆえ、アニメ、ゲーム、CG、映像の各業界に、共同研究や共同制作をご一緒した方々が多くいます。また、コンピュータエンターテインメント協会(CESA)、画像情報教育振興協会(CG-ARTS)、日本動画協会日本映画テレビ技術協会といった業界団体の委員会などに、学術的な見地から参画してきました。これらの役割を通じて、制作の最先端、あるいは将来において求められる能力を議論する機会も多くありました。その甲斐もあって、私のプロジェクトや研究室出身の学生の多くが、アニメ、ゲーム、CG、映像の各業界で活躍しています。著名な卒業生としては『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2015)の3D監督の柳野 啓一郎氏、『君の名は。』(2016)の3DCGチーフの竹内良貴氏、『どこでもいっしょ』シリーズのプロデューサーの伴 哲氏、『かぐや姫の物語』(2013)の制作デスクの吉川俊夫氏などが挙げられます。ほかにも、毎月1名は卒業生が本誌に登場しています。

現在の研究室には大学院の博士課程(Doctor)に2名(3年生が1名、2年生が1名)、修士課程(Master)に7名(2年生が5名、1年生が2名)、研究生1名が在籍しています。これら10名のうち6名が外国人(ベネズエラ、タイ、中国、イタリア)という状態です。学部生(Bachelor)は現在4年生が18名で、後期には3年生が15名程度増えます。ですので、だいたい40~45名の学生の研究の責任をもつという状況になっています。これに加え、研究テーマが近い先生とは大学院生の指導を一緒に行うので、さらに20名程度の大学院生を指導しています。学部生はテーマの近い学生のサポートをするので、さらに10名くらいを指導しています。これだけの人数がいるので、テーマは各自が設定し、それを自発的に深めていくというスタイルが必要になります。また私以外にも、指導のサポートをする3〜4名の研究者にパートタイムでご参加いただく体制をとっています。

積極的に学会発表を行い、学会誌や国際会議での採択を目指す

学会論文や発表と言っても実は様々で、最も格式高く評価されるのは査読のある学会誌論文(Journal論文)、それも著名な国際学会のものです。査読とは専門家によるレビューであり、一定水準を満たさない限り採択されません。新規性や信頼性、有用性が十分かどうかなどが問われ、不十分な場合は不採択になったり、採択に必要な条件が示されます。CG分野では国際学会ならACMIEEE、国内なら情報処理学会などが高く評価されます。次にSIGGRAPHなどの査読のある国際会議や、国内学会の年次大会が評価されます。なお、「国際会議」というのは国際学会が開催する大会のことです。査読のない同様の学会誌や会議、大会、研究会などはその下の位置づけになります。また論文の形式も様々で、学会や会議により多少差異はありますが、最も評価されるフルペーパー(6〜12ページ程度)以外にも、ショートペーパー(2〜4ページ程度)、ポスター(1〜2ページ程度)などがあります。これに加え、技術展示や作品展示もフルペーパーと同等の評価とする学会もあれば、ポスターと同等に扱う学会もあります。学生の場合はポスターなどから始めて、様々な意見を受けつつ研究を発展させ、国際会議での発表や学会誌論文へと昇華させていきます。

私が指導責任者をしている学生に関しては、年間2件程度の学会誌論文、5〜6件の国際会議論文が採択されています。国内の年次大会では、年間20件程度の発表をしています。責任者ではなく、ほかの教員と一緒に指導している学生を加えると、この倍程度の発表件数になります。大学院生は自身の研究を学会で発表することが義務付けられています。学部の学生の場合は、成果の上がった学生のみが発表します。いずれの場合も、学会発表に値する水準の成果が出たと判断した学生に対してのみ、学会での発表を許可しています。

現在、私の研究室が積極的に投稿、参加しているのは、国際学会だとSIGGRAPHSIGGRAPH Asia、国内学会だと私が会長を務めている芸術科学会や、理事を務めている日本デジタルゲーム学会、さらには情報処理学会のCGVI研究会とDCC研究会、EC研究会、映像情報メディア学会日本図学会日本VR学会などです。これらの活動の結果、芸術科学会の論文コンテストであるNICOGRAPHにおいて、最優秀論文賞や審査員特別賞などを受賞しています。私個人としては、ゲームやアニメ、CGの教育カリキュラムなどで、情報処理学会の優秀教育賞や、関東工学教育協会の業績賞などを受賞しています。また、実証制作や学生作品では、前述の東京国際アニメフェアの優秀賞のほか、福岡ゲームコンテストにおいても優秀賞や福岡市長賞を受賞しています。

東京ゲームショウやAnimeJapanなどで研究成果を展示

▲東京ゲームショウやAnimeJapanでの出展の様子。私の研究室では、学会のみならず様々なイベントでも制作物や研究成果を展示しています


▲Global Game Jamは、毎年1月に開催されるギネス記録をもつ世界最大のゲーム開発ハッカソンです。東京工科大学はその会場のひとつとなっており、学生たちはプロの開発者と一緒にゲームを開発します

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手描きアニメ的な表現のCGやゲームへの応用

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RESEARCH 1:手描きアニメ的な表現のCGやゲームへの応用

・研究目的、および先行研究

現在研究室で進めている研究は多岐にわたっており、大きく分けると次の4分野になります。

【1】手描きアニメ的な表現のCGやゲームへの応用
【2】ゲームデザイン、レベルデザインに関わる研究
【3】プリプロダクションに関わる創作支援研究
【4】制作パイプラインや工程管理に関する研究

この中でも、特に本誌との関連性がある【1】と【4】について、具体的な研究を紹介していきましょう。【1】の「手描きアニメ的な表現のCGやゲームへの応用」の研究目的は、手描きならではの自由な描画により生み出される表現を、3DCG映像やリアルタイムのゲームにおいても表現することです。ここ数年の研究の中には、輪郭線の形状に沿った誇張を実現する「形状の特徴や動的な変形を考慮したリアルタイム3DCGにおける輪郭線の誇張表現手法」(2013)[1]や、アニメ的な特徴を伴うブラー表現、いわゆる"おばけ"などを実現した「3DCGトゥーンレンダリングにおける動きに伴う輪郭線ゆがみのプロシージャル表現」(2016)[2]などがあります。プリレンダーだけでなく、リアルタイムに処理できる手法も検討し、ゲームなどでの表現に応用できるように研究を進めています。

トゥーンレンダリングはNon Photorealistic Rendering(NPR)の表現手法のひとつであり、重要な先行研究にはRamesh Raskar氏らの「Image Precision Silhouette Edges」(1999)[3]、Robert D. Kalnins氏らの「WYSIWYG: NPR Drawing Strokes Directly on 3D Models」(2002)[4]などがあります。

また、これらの技法を日本のアニメ的な表現に用いるための研究には、安生健一氏らによるハイライトの形状編集に関する「Tweakable Light and Shade for Cartoon Animation」(2006)[5]や、それを発展してハイライトのスタイライズ表現を高めた藤堂英樹氏らの「Locally Controllable Stylized Shading」(2007)[6]などがあります。これらの研究はオー・エル・エム・デジタルの制作現場と共同で進められており、アニメ的な表現のCGへの応用として世界に先駆けた研究です。アメリカではディズニーらとの共同でアニメ表現の研究が進められており、ディズニーの古典的な描画手法のいくつかを3DCGで表現したJohannes Schmid氏らの「Programmable motion effects」(2010)[7]などがあります。


・研究方法、および研究の新規性

これらの研究では、アニメ的な表現の中でも特徴的なものを対象に、3DCGでの実現を目指しています。そのため研究の最初期には、まだ研究対象となっていない表現を探し、それらを先行研究の手法で試してみます。先行研究の手法では実現できないことがわかれば、その研究が新規性をもつ可能性が出てきます。プリレンダーでは実現できたとしても、ゲームやインタラクティブコンテンツでは実現できなければ、リアルタイム処理や自動化などを行うことで新規性をもたせることができます。その後は、対象となる表現の分析を行います。代表的なアニメーション作品の中からその表現を収集し、分析・分類・体系化しつつ、アルゴリズムによるどのような再現が可能かを探っていきます。

輪郭線の誇張表現の研究の場合は、形状に応じて輪郭線に強弱を付ける先行研究は見受けられませんでした。そこで手描きやスケッチなどが掲載された文献を分析し、手描きで線画を描いた際にカーブの強いところでストロークが太くなる特徴を導き出し、それを実現するためのアルゴリズムを考案しました。最終的には3Dモデルの曲率を毎フレーム計算し、曲率が大きいところの輪郭線を太くするという方法を生み出しました。

輪郭線ゆがみのプロシージャル表現の研究では、輪郭線を伴わないブラーを表現する先行研究はありましたが、形状のゆがみと輪郭線の描画の両方を同時に行うものはありませんでした。そこで様々な輪郭線ゆがみの事例を分析し、輪郭線の太さや長さ、消滅するまでの時間などをパラメータによって制御できるようにしました。

リアルタイム3DCGにおける輪郭線の誇張表現手法

▲【A】元のモデル/【B】赤い部分は曲率が大きい状態、白い部分は曲率が小さい状態を示しています/【C】均一な輪郭線表現/【D】本手法を用いた輪郭線の誇張表現。Bの赤い部分を中心に輪郭線が太く表現されています/【E】アニメーションなどにより形状が変化した場合はフレームごとに曲率計算を行うため、変形に伴う輪郭線の変化も表現できます。当時の汎用的なゲーミングPCを使った場合、20,000頂点程度のモデルで400fpsを超える描画が可能でした

動きに伴う輪郭線ゆがみのプロシージャル表現

▲【A】輪郭線ゆがみの自動生成の例/【B】Aのパラメータを調整し、ゆがみの本数を増やし、長さを伸ばした例/【C】Bの輪郭線を太くした例。制御できるパラメータは、ゆがみの本数や大きさ、長さ、末端の形状、消滅するまでの時間、輪郭線の太さなどがあります。モデル生成によってゆがみを表現しているため、生成結果は地面に落ちるシャドウにも反映されます/【D】〜【F】動きの軌跡に沿ってゆがみモデルの基準点を配置するため、軌跡に応じて湾曲する輪郭線ゆがみを表現することも可能です。当時の汎用的なゲーミングPCを使った場合、5,000程度の制御点を配置したモデルで300fpsを超える描画が可能でした


・実用化の可能性

最近は国内でも3DCGによるアニメ制作の事例が増えており、アニメ原作のゲームも多くリリースされているため、手描きアニメ表現の需要は増えています。実際、前述の研究に携わった学生はゲーム会社に就職し、ノンフォトリアリスティックなゲームのテクニカルアーティストとして活躍しています。研究成果がそのまま実用化されたわけではありませんが、学生時代に培った問題発見力と解決力が制作現場での仕事に活かされています。


・参考文献

[1]松尾隆志, 三上浩司, 渡辺大地, 近藤邦雄,"形状の特徴や動的な変形を考慮したリアルタイム3DCGにおける輪郭線の誇張表現手法",映像情報メディア学会論文誌,67巻 (2013) 2号 pp. J36-J44, 2013
[2]WANG Yilong,三上浩司,近藤邦雄,"3DCGトゥーンレンダリングにおける動きに伴う輪郭線ゆがみのプロシージャル表現",情報処理学会研究報告(Web),Vol.2016-DCC-13, No.11, pp.1-8, 2016
[3]Ramesh Raskar, Michael F Cohen, "Image Precision Silhouette Edges", I3D '99 Proceedings of the 1999 symposium on Interactive 3D graphics, pp.135-140, 1999
[4]Robert D. Kalnins, Lee Markosian, Barbara J. Meier, Michael A. Kowalski, Joseph C. Lee, Philip L. Davidson, Matthew Webb, John F. Hughes, Adam Finkelstein: "WYSIWYG: NPR Drawing Strokes Directly on 3D Models", ACM Transactions on Graphics (TOG) Vol.21, Issue 3, pp.755-762, 2002
[5]Ken Anjyo, Shuhei Wemler, William V. Baxter, "Tweakable Light and Shade for Cartoon Animation" NPAR2006, The 4th International Symposium on Non-Photorealistic Animation and Rendering, pp.133-139, 2006
[6]Hideki Todo, Ken Anjyo, William Baxter, Takeo Igarashi "Locally Controllable Stylized Shading" ACM Transactions on Graphics (TOG) Vol. 26, Issue 3, Article No.17, 2007
[7]Johannes Schmid, Robert W. Sumner, Huw Bowles, Markus Gross, "Programmable motion effects", ACM Transactions on Graphics (TOG) , Vol.29, Issue 4, Article No. 57, 2010

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制作パイプラインや工程管理に関する研究

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RESEARCH 2:制作パイプラインや工程管理に関する研究

・研究目的

この研究は私が金子先生の下で研究を始めたときからの、いわばライフワーク的な研究です。モデリング、アニメーション、レンダリングなど、CG技術に関する研究は数多くありますが、それらに比べれば、制作パイプラインや工程管理の研究は昔も今も活発とは言えません。そこで2000年代初頭に大学の実証制作へAlienbrainのVer1.0を試験導入した経験などから、この研究を研究テーマのひとつに定めるようになりました。

CGの素材はおおむねデジタルなので、コンピュータとネットワークによる管理は十分可能です。しかし単にファイルの命名規則を決め、ディレクトリ構造を定義し、保存するという初歩的なところにも課題はあります。プロジェクトごとの流儀があるため、ほかの会社やほかのプロジェクトの経験者が異なる環境に入ったときには、従来との差異が問題となります。現在では、自社開発した制作管理ツールを利用している会社も増えてきています。


・研究方法、および研究の新規性

プロダクションの実践に近い研究は、会社や作品の事情に左右されることもあり、インハウスで実施しないと問題や解決方法が見つかりません。産学連携での実証制作を通して問題の発見や分析、解決方法の検討を行うのですが、実際の制作で実用性や有用性を出せるレベルまで高めるのは大変です。こうした制作現場での問題解決は、学術的な新規性の創出という点はそれほど望めないという特性もあります。

われわれは研究としての新規性を重視し、プリプロダクションのデジタル化から着手することを決めました。映像コンテンツの管理の基準となるのはシーンやショットです。必要なシーンはシナリオ段階で、必要なショットは絵コンテ段階で、必要なアセットはデザインや設定段階で明らかになります。プリプロダクションの様々な作業をデジタル化し、その結果をデジタル処理すれば、ディレクトリ構造やリンク集を自動的に設定できるのではというアイデアを思いつきました。シーン、ショット、アセットの関連素材の格納場所を、XMLで記述されたリンク集で管理し、専用ツールで処理したシナリオや絵コンテが更新されれば、そのリンク情報を書き足していくシステムとしてIPMLを構想しました[1]。

本研究は構想が大きすぎるため、まだまだ部分的な研究をしている段階ではありますが、いくつかのツールが実際に開発されています。ひとつはシナリオエンジンというツールで、Webブラウザを利用して段階的にシナリオを執筆できます[2]。完成したシナリオはIPMLに記録可能です。もうひとつはジオラマエンジンというプリビズツールです[3]。このツールは、制作したシーンの情報をIPMLから自動的に読みとり、必要なアセットを自動的に配置します。このようにプリプロダクションをデジタル化していけば、以降の工程でも、ある程度の単純な作業の自動化が望めます。

ほかにも、従来のスプレッドシートをベースにした管理ツールではなく、分岐統合をくり返すフローチャート型のインターフェイスで管理するシステムを試作しました。このシステムには、作品独自のワークフローや、特殊なショットのワークフローを設計できたり、似たようなショットのパターンを流用できるような工夫が施してあります。これ以外にも、担当ショットの難易度を法則化してスタッフのタスクを見える化したり、ファイルを開いた時間と保存した時間を自動的に収集して労務管理に応用したりするシステムなど、様々なプロトタイプを研究しています。

プリプロダクション支援ソフトウェアの研究開発

▲シナリオエンジンの画面。Webブラウザ上で動作する、段階的なシナリオ執筆が可能なツールです。登場人物設定や舞台設定などの資料を閲覧しながら、シーンを記述できます。作成したシナリオは書式に合わせて出力したり、登場人物や舞台名がタグ付けられるため、関連ツールでの利用が可能です


▲ジオラマエンジンの画面。リアルタイムで動作可能なプリビズツールです。シナリオエンジンで作成したシナリオを読み込み、自動的にシーンに登場するキャラクターモデルや背景モデルを読み込んで配置できます


▲作業が分岐したり合流したりする複雑なワークフローを、フローチャートを利用したインターフェイスで管理するシステムです。ショットごとに異なるワークフローの設定やワークフローの複製も可能です


・実用化の可能性

シナリオエンジンは、映像産業振興機構のプロフェッショナル向けシナリオアナリストセミナーで利用されたこともあり、一部では試験的な実用化が進んでいます。パイプラインは各社の事情に即して構築されるため、大学の研究がそのまま活かされるケースは多くありません。しかし日本動画協会の「アニメーション分野におけるデジタル制作環境整備に係る調査研究」[4]の取りまとめなど、アニメ業界のデジタル作画に伴う管理技術共通化の取り組みに参加することで、産業界に還元できています。今後も実践的な研究を進めるためには、最新の作品やプロダクション事例との比較が重要になります。様々な業界関係者を対象に調査をしていますが、よりいっそうの交流の場をつくっていきたいとも思っています。

今回は主に【1】と【4】に関する研究を紹介しましたが、先に述べた通りアニメやゲーム、CGに関する様々なテーマを学生たちと一緒に考えています。「機械学習を利用した絵コンテの自動着色」[5]や、「生体情報を活用したプロシージャルなアクションゲームレベルデザイン」[6]など、多くの研究があります。興味のある方はぜひご連絡ください。


・参考文献

[1]三上浩司,伊藤彰教,中村太戯留,近藤邦雄,金子満,"映像コンテンツ制作のための統合化映像制作情報管理手法の研究",Visual Computing / グラフィクスとCAD 合同シンポジウム2008予稿集,画像電子学会/情報処理学会,2008
[2]戀津魁,菅野太介,三上浩司,近藤邦雄,"金子満映像制作支援のためのシナリオ記述・構造化システムの開発"芸術科学会論文誌,10巻3号,2011
[3]Koji Mikami, Toru Tokuhara,"Diorama Engine - A 3D Directing Tool for 3D Computer Animation Production",Computer Graphics International,IEEE,pp.318-323,2003
[4]一般社団法人日本動画協会「アニメ制作におけるデジタル技術に関する調査・研究」http://aja.gr.jp/jigyou/chousa/digital_tech
[5]宋京舟,三上浩司,"機械学習を用いたアニメ絵コンテの自動着色手法",映像表現・芸術科学フォーラム 2018 (Expressive Japan),2018
[6]Henry D. Fernandez B, Koji Mikami, Kunio Kondo,"Adaptable Game Experience Based on Player's Performance and EEG",NICOGRAPH International2017,IEEE,2017



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    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2018年7月10日