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No.017:東京工科大学 メディア学部 近藤邦雄

No.017:東京工科大学 メディア学部 近藤邦雄

本連載では、アカデミックの世界に属してCG・映像関連の研究に携わる人々の姿をインダストリーの世界に属する人々に紹介していく。第17回ではいつもの研究室紹介はお休みして、CGとコンテンツ制作支援技術を約半世紀にわたって研究してきた東京工科大学の近藤邦雄教授に、その研究人生をふりかえっていただいた。なお、本記事の内容は執筆当時(2019年12月)のもので、2021年6月現在、近藤氏は東京工科大学の名誉教授となっている。近況はこちらを参照いただきたい。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 257(2020年1月号)掲載の「ACADEMIC meets INDUSTRY 東京工科大学 メディア学部 メディア学科 近藤邦雄」を再編集したものです。

TEXT_近藤邦雄 / Kunio Kondo
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
取材協力_芸術科学会


NPRとスケッチモデリングに端を発し、コンテンツ制作支援技術に発展

東京工科大学の近藤邦雄です。私の研究人生はもうすぐ半世紀になりますが、2020年3月に定年という節目を迎えました。本記事では、私がこれまでの研究をどのように展開してきたかを中心に記してみました。

  • 近藤邦雄
    [執筆当時((2019年12月)]
    東京工科大学 メディア学部 メディア学科 教授

    [2021年6月現在]
    東京工科大学 名誉教授
    Management and Science University
    (マレーシア)客員教授(2014年〜)
    神奈川工科大学 客員教授(2021年〜)
    神戸芸術工科大学 客員教授(2021年〜)
    University of Silesia in Katowice
    (ポーランド)客員教授(2021年〜)
    工学博士
    専門分野:CG、コンテンツ制作支援技術
    Research Achievement book and CG Works
    研究活動記録集


NPR(Non Photorealistic Rendering)とスケッチモデリングに端を発した私の研究テーマは、やがて感性情報処理、アニメーションへと展開し、結果的にそれら全てがコンテンツ制作支援技術に発展していきました。ひとつの研究が終わったら、まったくちがう研究に着手する研究者もいますが、私の場合は個々の研究成果がつながって、ひとつの研究テーマになり、それがヒントになって、次の研究テーマに展開できました。以降で紹介する私の研究テーマ開拓の道筋が、今後のCG研究やコンテンツ制作を担う読者の参考になればと願っています。

3D形状の理解を助ける表現がNPRへと展開

私のCG研究は1973年に始まりました。当時は名古屋大学 教養部で技術補佐員として教育研究の補助をしつつ、名古屋工業大学の夜間に通学していました。その間、コンピュータ図学を提唱していた田嶋太郎教授(名古屋大学)のご指導の下、ベジェ曲線、透視図、モンタージュパース、立体視の研究を行いました。その成果はいくつかの研究論文になり、さらに書籍『モダングラフィックス 技術と応用』(1982/コロナ社)となって出版されました。

1970年代後半からは、穂坂 衛教授(東京大学)にご指導いただいたベジェ曲線の研究を基に、線画のレンダリング技術を開発しました。さらに笹徳印刷工業との共同研究で、ペイントシステムも開発しました。本システムはVAX-11/750(メモリ3MB)上で動作し、プログラミング言語にはFortranを使っていました。これらの研究は木村文彦教授(東京大学)のご指導の下で進められ、次の3つの研究へと展開していきました。

1つ目は、高品質なソフトシェーディングやペイント機能を実現するアルゴリズムの提案です。本研究では、絵画の分析や専門家へのヒアリングを基にシェーディングをパターン化することで、暗黙的な知識や技能を整理しました。本研究は野崎悠子教授(愛知県立芸術大学)に高く評価され、同教授による様々な評価実験を経て、専門家の意見を取り入れたものになりました。1985年の研究発表を基にしたペイントシステムは、Photoshop 1.0が発売される1990年に先立ち、前述の笹徳印刷工業から販売されました。

2つ目は、シェーディング手法を利用した3D形状の理解を助ける表現の提案です。本研究の論文は1985年のEurogaphics[1]と、情報処理学会の25周年記念論文[2]に採択され、多くの研究者に引用されました。1990年にはSIGGRAPHで初めてNPRのセッションが実施され、CG研究の主流だった写実的な表現とは異なる、新たな研究分野へと発展していきました。

[1]Kunio Kondo, Fumihiko Kimura,Taro Tajima, "An Interactive Rendering Technique for 3-D Shapes", Eurogaphics'85, pp. 341-352, 1985
[2]近藤邦雄, 木村文彦, 田嶋太郎, インタラクティブレンダリングシステムによる3次元形状の表現, 情報処理学会「情報処理」, 第26巻第11号,25周年記念論文,1985


▲1985年に発表した、3D形状の理解を助ける表現の研究。【A】は本研究手法の適用前、【B】は適用後。本研究は、NPR研究の先駆けとなりました


3つ目は、3Dモデルの輪郭線の研究です[3]。本研究は、私が1990年に埼玉大学へ移った後、1995年頃から着手しました。本研究を基に、金子 満教授(東京工科大学)が世界で初めてCGアニメーションに輪郭線描画を適用しました。その成果はトゥーンシェーディング機能のひとつとして広く普及し、現在の日本のアニメ制作にも活用されています。さらに本研究は、イラストの誘目性を考慮したモチーフの強調・省略手法や、形状視・空間視・色彩視の視覚パラメータを用いた絵画分析と描画アルゴリズムの提案[4]にもつながり、注目している部分を詳細に描く手法の研究や、有名絵画の描き方の特徴を明らかにする研究に発展しました。

[3]Y. Mochizuki, K. Kondo, "Enhanced Edge Rendering for Comprehensible Image", 8th ICECGDG, Vol. 1, pp. 194-199, 1998
[4]Takashi Yoneyama, Etsuo Genda, Kunio Kondo, "Painterly Renderings Using a Synthesis of Painting Styles Based on Visual Perception", Proceedings of VRCAI, 2009.12


2007年以降は東京工科大学に所属し、教員や学生と共にNPRの研究を続け、輪郭線のリアルタイム表示、太さが変化するラインの描画研究、マルチライトを制御できるトゥーンシェーディング手法などを発表してきました。

図学を応用した、コンピュータによる透視図作図手法の提案

3D形状の表現の研究を基に、1985年頃からは、図学(図法幾何学)の作図手法をコンピュータによる透視図作図に応用する研究にも着手しました。図学には、定規とコンパスを利用して、様々な立体形状を作図したり、解析したりする手法があります。その手法を基にしたプログラムを、計算幾何学のアルゴリズムを利用して開発し、対話型透視図作図手法[5]として発表しました。透視図を描くだけでなく、立方体や円柱などの基本的な立体、回転体、影などの作図も実現しました。本研究の作図実験結果を見たCGの専門家の多くが、3Dモデルのワイヤーフレーム表示と見間違えていました。そのくらい、CGの世界では、透視図作図に3Dモデルを利用することが当たり前になっていたのです。本研究を基にした作図システムも、笹徳印刷工業から販売されました。

[5]近藤邦雄, 木村文彦, 田嶋太郎, "レンダリングのための対話型透視図作図手法", 情報処理学会論文誌 29(8), pp. 721-728, 1988.8.15


▲1988年に発表した、対話型透視図作図手法を用いた立体形状の作画例。3Dモデルのワイヤーフレーム表示のようにも見えますが、2D的な作図処理によって描画されています


人は前述の作図結果から3D形状を理解できる一方で、コンピュータは3D形状だとは認識せず、2D図形としてデータを保持していました。しかし、人が理解できることはコンピュータにも理解できるのではないかと考え、2D図形から立体情報を復元する研究も進めました。