本連載では、アカデミックの世界に属してCG・映像関連の研究に携わる人々の姿をインダストリーの世界に属する人々に紹介していく。第12回では。アーティスト寄りの立場から、プロシージャルな手法によるCG表現の可能性を追求する武蔵野美術大学の高山穣准教授に自身の研究室について語っていただいた。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 252(2019年8月号)掲載の「ACADEMIC meets INDUSTRY 武蔵野美術大学 造形学部 デザイン情報学科 高山ゼミ」を再編集したものです。

※高山ゼミの研究と教育については、以下の記事でも紹介しています。合わせてご覧ください。
武蔵美が新卒TAを輩出!?>>スクウェア・エニックス、セガゲームス、バンダイナムコスタジオの開発者が、武蔵野美術大学でプロシージャル表現とTA育成について語り合う(前篇)(後篇)

TEXT_高山穣 / Joe Takayama(武蔵野美術大学)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
取材協力_芸術科学会

CGによる芸術表現に興味をもち、数理造形を専攻

武蔵野美術大学の高山 穣と申します。アーティスト寄りの立場から、プロシージャルな手法によるCG表現の可能性を追求しています。絵が描けてプログラミングもできるのが強みと自負しており、だからこそ可能となる、芸術的感性と論理的思考力を融合させた研究を目指しています。

  • 高山穣
    武蔵野美術大学 造形学部 デザイン情報学科 准教授
    博士(芸術工学)
    専門分野:CGアート、数理造形
    www.joetakayama.com


私が最初にCGに興味を抱いたのはまだ昭和の時代で、幼い頃に映画『トロン』(1982)を観てその先進的な表現に衝撃を受けたのがきっかけです。また、当時は全国で地方博覧会ブームが巻き起こった時期でもありました。親に連れて行ってもらった様々な博覧会のパビリオンで当時最先端のCG映像が用いられているのを見て、そのきらびやかな表現に魅了されたのを覚えています。これらの経験を通じて、1980年代独特のツルツル・ピカピカしたCG表現に憧れを抱くようになり、中学生の頃には当時の数少ない情報源であったCG専門誌『PIXEL』を読み漁るマニアックな少年時代を送りました。

高校生になると、16ビット時代の家庭用パソコンとしては高性能なグラフィック表示ができたシャープX68000を親にねだって買ってもらい、夜な夜なレイトレーシングの画像をつくって楽しんでいました。当時の演算速度では1枚の画像を描くのに2~3日かかるのは当たり前でしたが、それでもとても楽しくワクワクしながら制作していた記憶があります。

私はずっとCGによる芸術表現に興味があったので、より本格的な勉強をしようと美術大学への進学を決め、美術予備校での浪人を経て武蔵野美術大学に入学しました。そこで、現在の私の作品や研究に大きな影響を与えることになる故・大平智弘先生との出会いがありました。大平先生は日本のCG黎明期に重要な役割を果たした人物で、1970年代には通産省工業技術院製品科学研究所において研究員を務めていました。

そのとき大平先生の下に集まった研究者たちの中には、後に世界的なアーティストとなる河口洋一郎氏や、後述する源田悦夫先生、故・渕上季代絵先生など、その後の日本のCG界を牽引していく重要な人物が多くいたと聞いています。このようにCGの歴史と向き合ってきた大平先生と偶然にも本学で出会うことができ、先生の下でより本質的なCGの魅力を追求していくことになりました。大平先生の専門は数理造形というもので、数式やプログラミングでCG表現を追求していくアプローチでした。

一方、デッサンなど画力しか取り柄のなかった私にとって、数理造形は対極的な領域でした。しかし、幼い頃に私が感じたCGの魅力の正体がそこに潜んでいると直感的に感じ取り、何とか先生の話を理解しようと数学やプログラミングを一生懸命勉強しました。

大平先生はよく「プログラミングで3DCGを制作するのは、紙の上に立体を描き出すデッサンと同じこと。だから数式でデッサンをしていると考えなさい」と言っていたのを覚えています。このような指導のおかげで、次第に論理的なアルゴリズムとして造形を自由に発想できる力が身に付いていき、最終的には卒業制作としてプログラミングのみで制作した映像作品がSIGGRAPH 2003のArt Galleryに選出されることになりました。

▲『Solar Wind』SIGGRAPH 2003 Art Gallery入選作

ツールの内部で行われる処理やアルゴリズムにまで理解を深める

その後、大平先生の勧めにより九州芸術工科大学大学院(現、九州大学大学院芸術工学府)へ進学して源田先生(現、九州大学名誉教授)の研究室に在籍し、より本格的な数理造形の研究に没頭することになりました。源田先生の研究室では数理造形だけでなく人体のCG表現や伝統芸能のデジタルアーカイブに関する研究にも取り組んでおり、大がかりな全身デジタイザやモーションキャプチャ装置に触れる機会にも恵まれました。そのまま源田先生の下で博士課程まで進学し、2007年に博士の学位を取得しました。

大学院修了後、文化庁およびポーラ美術振興財団の助成を得て米国のテキサス大学ダラス校に客員研究員として2年間在籍できることになり、樹木のCG表現に関する研究で有名な北川みどり先生の下で研究に従事しました。同大学では早くからHoudiniなどを用いたプロシージャルな手法の研究・教育に熱心に取り組んでおり、その先進的な環境は現在の私にも影響を与えています。帰国後は九州大学 学術研究員や九州産業大学 講師を経て、2014年に武蔵野美術大学デザイン情報学科に専任講師として着任し、2016年より准教授となり現在にいたります。

本学は、その前身となった1929年創立の帝国美術学校の時代を含め、昨年で90周年を迎えた国内最大規模の美術大学です。本学にはこれまで造形学部しかありませんでしたが、新たに昨年度より造形構想学部を加えて2学部となりました。さらにその造形構想学部には、新学科としてクリエイティブイノベーション学科が新設され、新しい時代の美術大学の在り方を模索しています。

本学で私が所属する造形学部デザイン情報学科では、「デザイン×情報学」というコンセプトの下、CGをはじめ様々なデザイン領域を扱っています。今日、コンピュータをアートやデザインの手段として用いるのはもはや珍しいことではなく、本学でもいくつかの学科でCGの授業を受けることができます。そんな中で、CGのより本質的な部分を学びたい場合には、本学科は有力な選択肢になると思います。

なぜなら本学科では先進的な表現を確立するため、CGソフトウェアをブラックボックスのままにせず、その内部で行われる処理やアルゴリズムにまで理解を深めることを重視しているからです。このことは一見すると美術大学らしくないと思われるかもしれません。しかし、絵画系学科の学生が絵の具の成分である顔料やメディウムへの理解を深めるのが重要なのと同様、CGを学ぶ学生も自分が用いるツールの内部にまで理解を深めるのは当然のことであり、だからこそ先進的な表現を開拓できるとわれわれは考えています。そのため、本学科には理論から演習まで様々なCG系科目が用意されています。

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美は論理で記述できるかを追求すべく、装飾文様をプロシージャルに表現

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美は論理で記述できるかを追求すべく、装飾文様をプロシージャルに表現

本学のメインキャンパスは東京都の多摩地域北部にある小平市に位置しており、江戸時代から重要な水の供給源であった玉川上水が近くを流れています。これまでは本学周辺に住む学生やJR国分寺駅を経由して通学する学生が多かったのですが、一昨年の新たなバス路線の開通に伴い、JR立川駅方面からのアクセスも便利になりました。さらに昨年度よりJR市ヶ谷駅前に新キャンパスが開設され、都心ならではの新たな展開も始まっています。

本学は他大学のように教員個人の名を冠した研究室をもつ制度にはなっていません。ゼミはありますが、本学科ではゼミ生が常駐できる部屋は保有していません。これは美術大学の特徴として学生の志向や制作スタイルが多様であるため、活動範囲が研究室やアトリエという既成の概念に留まらないためでもあります。私のゼミは本学に着任した2014年から開設されたので、まだ6年ほどの比較的新しいゼミとなります。しかしすでに学生による学会発表や公募展での受賞が続いており、着実に成果が出ています。

現在、本ゼミでは大学院生は受けもっていませんが、例年3年生・4年生を合わせて合計30~40名のゼミ生を私が直接指導しています。各学生の興味関心は多岐にわたり、CGはもちろん、ゲームやVR/ARコンテンツ、さらには手描きアニメーション制作を志向する学生もおり、美術大学らしい多様性があります。

本ゼミの研究テーマは、主にCGやデジタルイメージを駆使したアート表現です。とはいえ学生の研究テーマは各自の自主性にまかせているので、CGだけでなく、デジタル技術が介在するコンテンツ全般を対象としています。いずれの場合でも、論理的思考と芸術的感性の融合を意識するように伝えています。

また、私の恩師であった大平先生は「美は論理で記述できるか追求しなさい」という課題を私に与えました。これは私や本ゼミの最終的なゴールでもあります。とはいえ、いきなり美意識そのものの解明にたどり着くのは難しいため、さしあたっては様式化された美である装飾美術の研究に重点的に取り組んでおり、現在は古今東西の装飾文様をプロシージャルに表現することに取り組んでいます。

デザイナーはもちろん、TAとして採用された卒業生も

ゼミを率いる立場として私自身は毎年国内外の学会で発表を行なっており、アジアデジタルアートアンドデザイン学会(ADADA)のBest Technical PaperやBest Art Paperなど、過去3年連続で学会賞を受賞しています。主な参加学会は前述のADADAや芸術科学会などで、前者においては学部生が発表を行なったこともあります。

それ以外の私自身の実績としては、映像作品や研究がSIGGRAPHのArt GalleryやAnimation Theaterなどに合計5回採択されているほか、SIGGRAPH Asiaでも作品が3回入選しています。さらにメディア芸術分野で欧州最大の大会であるArs Electronicaにおいて作品が入選した実績もあります。

しかし美術大学の特性上、学会だけが活躍のフィールドではありません。学会以外の活動としては公募展への応募に力を入れており、特にここ数年アジアデジタルアート大賞展FUKUOKAにおいては、毎年本ゼミから受賞者が出ています。2018年と2017年には、指導学生が学生カテゴリー静止画部門の優秀賞をいただいたほか、2019 年にはついに同部門大賞に選ばれました。公募展や映画祭への応募は、たとえ入賞せずとも応募する過程で学べることが多いため、なるべく学生のうちに多くのコンペティションを経験するようにアドバイスしています。

本ゼミを卒業した学生は、CGプロダクションのほか、ゲーム会社やアニメスタジオに多く就職しています。特にゲーム会社においてはデザイナーとしての採用はもちろん、美術大学卒業生としては珍しくテクニカルアーティスト(TA)として採用された事例もあり、今後も進路の幅が広がっていくことが期待されます。また、他大学の大学院への進学実績もあり、さらなる研究の道に進む学生もいます。

公募展での学生作品の受賞

本ゼミでは所属学生に公募展やコンペ、映画祭への応募を推奨しており、特にアジアデジタルアート大賞展FUKUOKAにおいては毎年のように受賞者が出ています。その中で、近年の上位入賞作品を紹介します。いずれもプログラミングを用いて制作された静止画作品です。

▲【上】『星の最期』、【下】『紡』(作者:岸杏樹)。2019アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA、学生カテゴリー静止画部門大賞


▲【上】『超ひらがな』(作者:白井伶奈)。2018アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA、学生カテゴリー静止画部門優秀賞/【下】【上】の一部拡大


▲『Float』(作者:間宮瑞葉)。2017アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA、学生カテゴリー静止画部門優秀賞

学生主体による展示会の開催

▲美術大学ならではの活動として、作品を公開するための展示会を学内外で頻繁に開催しています。作品は完成させて終わりにするのではなく、他人に見てもらい批評し合って初めて価値が生じるとわれわれは考えています。そのため本学では、常に様々な展示がいたるところで行われており、もちろん本ゼミも定期的に展示を行なっています。展示にあたっては、単なる作品の展示設営だけではなく、サイン計画や照明の設置はもちろん、中にはポスター・リーフレット類の制作、DMの制作や発送まで学生自身で手がける場合もあります

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日本の伝統装飾のプロシージャルな表現

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RESEARCH 1:日本の伝統装飾のプロシージャルな表現

・研究目的

本研究は日本の伝統工芸に見られる装飾文様をプロシージャルに再現するプロジェクトです。伝統工芸品は洋の東西を問わず複雑な装飾を伴うことが多く、その制作には長い時間と労力だけでなく、熟練の職人技を要します。とはいえ近年、伝統装飾を新たな解釈や最新技術でものづくりに取り入れる事例も増えており、日本国内においても訪日外国人の増加に伴いこのながれは今後も加速していくと予測されます。そこで伝統工芸に見られる精緻な装飾文様を数理的なアルゴリズムで生成することは様々な産業に有益であると考えました。

私はこれまでにもいくつか装飾表現を試みており、西洋のゴシック建築に見られる窓枠装飾であるトレーサリーの表現[1]などの代表例があります。これらの経験を踏まえ、本研究では日本の伝統工芸に着目し、日本独自のガラス工芸である切子や、欄間などに見られる木工細工である組子に見られる装飾文様を再現することを試みました。その際、本研究ではL-systemという技法を用いて文様を記述しています。そもそも切子や組子の文様自体はさほど複雑なものではなく、直線を基調としているため手作業で作図したりモデリングしたりすることも難しくありません。しかし本研究ではデジタルコンテンツならではの可能性を見据え、文様自体が成長していく様子をプロシージャルに表現することで新たな応用性を見出すことを目指しました。


・研究内容と、研究方法

先に述べた通り、本研究ではL-systemを表現技法として用いています。L-systemは文字列を用意し、それを任意に定義したルールによって書き換えていく手法です。また、文字列の特定箇所の書き換え操作を反復することで自己相似状態を表現でき、さらにその文字列を図形描画に置き換えることで手作業では描くことが難しい複雑で再帰的な図形を描くことができます。このことからL-systemは樹木のCG表現などに多用されます。なお、L-systemは文字列の置き換えの過程を応用することで図形が生成されるプロセスを表現しやすいという特徴もあるため、樹木が成長する様子を描くアニメーション表現などにも用いられます。


・L-systemによる文様生成

  • ◀▲切子で広く用いられる装飾文様である「八角籠目紋」が成長していく様子。この画像はディスプレイスメントマッピング用のテクスチャとして、グラスの3Dオブジェクトの表面に貼り付けられます


  • ◀▲組子の代表的な装飾「八重麻の葉」の文様が成長していく様子。わずか数行の簡潔なルールによって、動きも含めた文様の生成過程が表現されています


・研究の新規性

本研究では切子や組子の文様を表現する際、ひとつの枝分かれの樹木とみなして定義することにしました。例えば、原点から放射状に幹が成長して途中で枝分かれする樹木のような文法を定義し、これをひとつの装飾モチーフとみなしました。また、モチーフのレイアウトも単なる複製やインスタンスとして図形を並べて配置するのではなく、レイアウト全体をL-systemによって定義することにしました[2][3]。これにより、まるで1本の樹木が成長してやがて葉をつけて花を咲かせるように、文様自体が成長(増殖)していく過程を単一のL-systemで表現することに成功しました。生成された文様はいずれも伝統様式に則っており、実在する美術工芸品にも用いられているものです。

本研究では前述の手法によって得られた図形の画像を、3Dオブジェクトの生成に応用しました。例えば切子の生成では、文様をグレースケール画像のテクスチャとして出力し、ディスプレイスメントマッピングとしてグラス表面に貼り付けています。組子の生成では、得られたパターンを押し出すことで高さ情報を与え、モデリングを行なっています。


・実用の可能性と、今後の課題

伝統文化を次世代へ引き継いでいくための方法は様々です。しかしこれまでの写真や映像といった記録方法では明示的な情報をアーカイブとして記録することしかできませんでした。一方で本研究のように論理的なアルゴリズムによって伝統文様を「しくみ」として記録することも可能であり、圧倒的な緻密さをごく単純なルールで記述できる利点があります。さらにアルゴリズムを組み替えれば、より正確な工芸品の加工プロセスの再現につながる可能性があり、それが実現すれば職人育成のための教育用コンテンツなどに応用できる可能性も生じます。さらに発展させれば、いずれは繊細な職人の技そのものをアルゴリズム化することも可能となり、新しい形式での伝統の継承が実現できるかもしれません。

本研究では、L-systemで文様とその生成過程をアニメーションとして再現したにすぎません。伝統的に正確な文様の再現と、文様が広がっていく視覚的な面白さの実現には成功しましたが、伝統を再現したと言い切るには不十分です。今後のステップとしては、より正確な文様の生成プロセスの再現、すなわちL-systemのルールを組み替えることで、職人が装飾をつくり上げるプロセスそのものを正確に再現することが挙げられます。

例えば切子においては、どのような順番で文様を刻んでいくのか戦略的に考える必要があります。この文様の生成過程が正確に再現できれば、好みの文様やデザインに応じて正しいカッティングの順番が提示されるような設計支援・教育コンテンツへの応用が可能になるかもしれません。組子においては、プロシージャルに生成されたパターンに応じて、部材の数や必要な木材の分量などを正確に算出できる設計支援システムなどへの応用も考えられます。


・アートアニメーションへの応用

▲本研究の応用として制作したCGアニメーション作品『Splendor』。2018アジアデジタルアート大賞展FUKUOKAにおいて、アジアデジタルアート大賞(最優秀賞)、福岡県知事賞、文部科学大臣賞を受賞したほか、SIGGRAPH Asia 2019 のComputer Animation Festival において、Electronic Theater にも選出されました


・参考文献

[1]J. Takayama, "Computer-generated Gothic Tracery with a Motif-oriented Approach", Proceedings of IASDR2013, pp.2489-2500, 2013
[2]高山穣, "L-Systemを用いた組子細工の文様表現", 第4回 ADADA Japan 学術大会, 2017
[3]J. Takayama, "Computer-generated Kiriko Glassware using L-systems", Proceedings of the 16th International Conference of Asia Digital Art and Design, pp.222-223, 2018

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メタボールを用いたアート表現

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RESEARCH 2:メタボールを用いたアート表現

・研究目的と、主な先行研究

本研究は私がかねてより取り組んでいるもので、メタボールによるアーティスティックな表現を追求しています。メタボールは水銀のように滑らかに融合する形状を表現する技法で、多くの3Dソフトウェアに搭載されているためお馴染みの方も多いと思います。同技法はポリゴンモデルなどと比較して少ないデータ量で滑らかな曲面が得られることから、人体や動物の有機的な曲面形状や、水滴などの不定形状を表現する目的で多用されます。本研究では3Dではなく、あえて2Dのメタボールに着目し、2Dならではのメタボールの表現を追い求めています。特に、メタボールは正確な形状の制御が難しいというデメリットが有名ですが、そこをあえて逆手に取り偶然性を活かした造形表現の追求を目指しました。

そもそも私がメタボールに興味をもったのは、そのデメリットこそが魅力的に感じられたためでもあります。例えば彫刻などの造形制作においては、コンクリートの塊やくず鉄など、あえて扱い難い素材を用い「素材と格闘しながら美を見出す」という姿勢があります。私はそれに近いものをメタボールに感じました。また、東洋美術においては造形の一部を偶然性にまかせる表現が多く取り入れられており、例えば陶芸では釉薬の化学変化による偶然の文様を取り入れたり、日本庭園では借景という自然の景観を庭園の一部に取り入れたりします。このように完全な制御をしない東洋美術の魅力はアルゴリズムを用いた造形とも親和性が高いため、メタボールを題材にすれば東洋的な発想の表現ができるのではないかと考えたのが本研究のきっかけでもあります。

メタボールをアート表現に応用しようとする試みとしては、河口洋一郎氏のグロウスモデルをメタボールで表現した作品[1]が世界的に有名になりました。また、自由曲面による複雑なモデリングがまだ難しかった時代には、少ないデータ量で曲面を表現できるメタボールを用い、人体のモデリングやアニメーションを行うことも試みられています[2]。本研究ではこれらの3次元における形状表現としてのメタボールではなく、2次元の図形表現に着目した研究に取り組みました。


・研究内容と、研究方法

2次元のメタボールは、平面上に濃度分布を複数設定し、その合計濃度値を任意に設定したしきい値で判定し、判定を通過した画素のみを描画することで表現できます。本研究ではこの描画プロセスを独自に組み替えてみました[3]。するとこれまでのメタボールとは大きく趣の異なる曲線文様が得られました。通常のメタボールにおいては、全てのメタボールを融合させた閉曲線(3次元であれば閉曲面)が生成されますが、本研究においては個々のメタボールの曲線が部分的に現れる棚田状の曲線を得られるのが特徴となっています。通常であれば単なるエラーとみなされるような表現かもしれませんが、これを上手く応用すると、思いもよらない美しい造形が得られます。


・2次元ならではのメタボール表現

▲【左】旧来の2Dメタボールの描画結果/【右】独自の描画手順による2Dメタボール。と同じメタボールの配置ですが、棚田状の曲線が生じているのが見てとれます


▲正多角形の濃度分布を用いて放射相称(回転対称)にメタボールを配置した例。ここではさらに法線ベクトルを任意に設定してシェーディングを施すことで、レリーフ調の効果も得ています


・研究の新規性

この技法に様々な条件を加えることで、旧来のメタボールとはかけ離れた独創的な表現が得られます。例えばメタボールにおいては、負の濃度値を設定することで形状の歪みを表現できます。これを本研究の技法と組み合わせることで、曲線がより複雑化します。このような偶然性の要素が大きい特徴を応用し、私は抽象的な映像作品をいくつか制作すると共に、この技法をさらに発展させて様々な応用を試みました。

例えば濃度分布の形状はボール型(円形)だけでなく、正多角形や星型なども用いることができます。私はこの特徴を応用して、矩形のメタボールを回転対称に配置し、顕微鏡下で見られる淡水の藻類などの美しい形状を半抽象化したアート作品を制作しました。さらに得られたメタボールの曲線に対して任意の法線ベクトルを与えて描画することで凹凸のある2.5次元的なレリーフ効果が得られます。これを応用することで、装飾的な表現への展開も可能となります[4]。この技法は後に3Dプリンタで立体出力することも試みており[5][6]、現実の建築装飾へ応用できる可能性も示しています。このようにして制作された作品群はいずれもSIGGRAPHやSIGGRAPH Asiaをはじめ、国内外の様々な公募展や映画祭などで造形面での評価を受けています。


・実用の可能性と、今後の課題

本研究の技法は簡単に装飾的な文様が得られるため、様々なコンテンツへの応用が期待できます。また、しきい値の条件を変えることで、瑪瑙や孔雀石などの天然石に近い文様も得られ、なおかつデータ量が極めて少なく済むため、様々なシェーダ開発への応用も期待できます。

前述したように、メタボール自体は正確な形状の制御が難しいという特徴があります。それゆえに偶然性を活かした面白い造形が得られるのも事実ですが、一方でメタボールの正確な融合状態や挙動を調査することで、新たな可能性や応用性が開けるとも考えられます。


・メタボールによるアートアニメーション

▲『Microcosm』SIGGRAPH 2004 Art GalleryおよびAnimation Theater入選作


▲『Waterdrops』SIGGRAPH 2005 Art Gallery入選作


▲『Orb』SIGGRAPH Asia 2008 Animation Theater入選作


・参考文献

[1]Y. Kawaguchi, "GROWTH: Mysterious Galaxy", SIGGRAPH'83 Film & Video Show, 1983
[2]E. Takaoki (META Corporation Japan), "Eccentric Dance", SIGGRAPH'92 Electronic Theater, 1992
[3]J. Takayama, E. Genda, "Artworks Using Metaball Representation with Stepwise Approach", SIGGRAPH 2005 Sketches, Article No.100, 2005
[4]J. Takayama, "Procedural Generation of Ornate Medallions by using Metaballs", International Journal of Asia Digital Art and Design vol.14, pp.25-30, 2011
[5]J. Takayama, "Medallions: 3D-printed Wall Plaques Featuring Procedurally-generated Ornate Shapes", International Journal of Asia Digital Art and Design vol.20 no.4, pp.97-102, 2017
[6]J. Takayama, "Medallions", SIGGRAPH Asia 2016 Art Gallery, Article No.15, 2016



info.

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.252(2019年8月号)
    第1特集:追求! フルCGの表現力
    第2特集:映画『アルキメデスの大戦』

    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2019年7月10日
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