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No.012:武蔵野美術大学 造形学部 高山ゼミ

No.012:武蔵野美術大学 造形学部 高山ゼミ

美は論理で記述できるかを追求すべく、装飾文様をプロシージャルに表現

本学のメインキャンパスは東京都の多摩地域北部にある小平市に位置しており、江戸時代から重要な水の供給源であった玉川上水が近くを流れています。これまでは本学周辺に住む学生やJR国分寺駅を経由して通学する学生が多かったのですが、一昨年の新たなバス路線の開通に伴い、JR立川駅方面からのアクセスも便利になりました。さらに昨年度よりJR市ヶ谷駅前に新キャンパスが開設され、都心ならではの新たな展開も始まっています。

本学は他大学のように教員個人の名を冠した研究室をもつ制度にはなっていません。ゼミはありますが、本学科ではゼミ生が常駐できる部屋は保有していません。これは美術大学の特徴として学生の志向や制作スタイルが多様であるため、活動範囲が研究室やアトリエという既成の概念に留まらないためでもあります。私のゼミは本学に着任した2014年から開設されたので、まだ6年ほどの比較的新しいゼミとなります。しかしすでに学生による学会発表や公募展での受賞が続いており、着実に成果が出ています。

現在、本ゼミでは大学院生は受けもっていませんが、例年3年生・4年生を合わせて合計30~40名のゼミ生を私が直接指導しています。各学生の興味関心は多岐にわたり、CGはもちろん、ゲームやVR/ARコンテンツ、さらには手描きアニメーション制作を志向する学生もおり、美術大学らしい多様性があります。

本ゼミの研究テーマは、主にCGやデジタルイメージを駆使したアート表現です。とはいえ学生の研究テーマは各自の自主性にまかせているので、CGだけでなく、デジタル技術が介在するコンテンツ全般を対象としています。いずれの場合でも、論理的思考と芸術的感性の融合を意識するように伝えています。

また、私の恩師であった大平先生は「美は論理で記述できるか追求しなさい」という課題を私に与えました。これは私や本ゼミの最終的なゴールでもあります。とはいえ、いきなり美意識そのものの解明にたどり着くのは難しいため、さしあたっては様式化された美である装飾美術の研究に重点的に取り組んでおり、現在は古今東西の装飾文様をプロシージャルに表現することに取り組んでいます。

デザイナーはもちろん、TAとして採用された卒業生も

ゼミを率いる立場として私自身は毎年国内外の学会で発表を行なっており、アジアデジタルアートアンドデザイン学会(ADADA)のBest Technical PaperやBest Art Paperなど、過去3年連続で学会賞を受賞しています。主な参加学会は前述のADADAや芸術科学会などで、前者においては学部生が発表を行なったこともあります。

それ以外の私自身の実績としては、映像作品や研究がSIGGRAPHのArt GalleryやAnimation Theaterなどに合計5回採択されているほか、SIGGRAPH Asiaでも作品が3回入選しています。さらにメディア芸術分野で欧州最大の大会であるArs Electronicaにおいて作品が入選した実績もあります。

しかし美術大学の特性上、学会だけが活躍のフィールドではありません。学会以外の活動としては公募展への応募に力を入れており、特にここ数年アジアデジタルアート大賞展FUKUOKAにおいては、毎年本ゼミから受賞者が出ています。2018年と2017年には、指導学生が学生カテゴリー静止画部門の優秀賞をいただいたほか、2019 年にはついに同部門大賞に選ばれました。公募展や映画祭への応募は、たとえ入賞せずとも応募する過程で学べることが多いため、なるべく学生のうちに多くのコンペティションを経験するようにアドバイスしています。

本ゼミを卒業した学生は、CGプロダクションのほか、ゲーム会社やアニメスタジオに多く就職しています。特にゲーム会社においてはデザイナーとしての採用はもちろん、美術大学卒業生としては珍しくテクニカルアーティスト(TA)として採用された事例もあり、今後も進路の幅が広がっていくことが期待されます。また、他大学の大学院への進学実績もあり、さらなる研究の道に進む学生もいます。

公募展での学生作品の受賞

本ゼミでは所属学生に公募展やコンペ、映画祭への応募を推奨しており、特にアジアデジタルアート大賞展FUKUOKAにおいては毎年のように受賞者が出ています。その中で、近年の上位入賞作品を紹介します。いずれもプログラミングを用いて制作された静止画作品です。

▲【上】『星の最期』、【下】『紡』(作者:岸杏樹)。2019アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA、学生カテゴリー静止画部門大賞


▲【上】『超ひらがな』(作者:白井伶奈)。2018アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA、学生カテゴリー静止画部門優秀賞/【下】【上】の一部拡大


▲『Float』(作者:間宮瑞葉)。2017アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA、学生カテゴリー静止画部門優秀賞

学生主体による展示会の開催

▲美術大学ならではの活動として、作品を公開するための展示会を学内外で頻繁に開催しています。作品は完成させて終わりにするのではなく、他人に見てもらい批評し合って初めて価値が生じるとわれわれは考えています。そのため本学では、常に様々な展示がいたるところで行われており、もちろん本ゼミも定期的に展示を行なっています。展示にあたっては、単なる作品の展示設営だけではなく、サイン計画や照明の設置はもちろん、中にはポスター・リーフレット類の制作、DMの制作や発送まで学生自身で手がける場合もあります

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