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No.012:武蔵野美術大学 造形学部 高山ゼミ

No.012:武蔵野美術大学 造形学部 高山ゼミ

RESEARCH 2:メタボールを用いたアート表現

・研究目的と、主な先行研究

本研究は私がかねてより取り組んでいるもので、メタボールによるアーティスティックな表現を追求しています。メタボールは水銀のように滑らかに融合する形状を表現する技法で、多くの3Dソフトウェアに搭載されているためお馴染みの方も多いと思います。同技法はポリゴンモデルなどと比較して少ないデータ量で滑らかな曲面が得られることから、人体や動物の有機的な曲面形状や、水滴などの不定形状を表現する目的で多用されます。本研究では3Dではなく、あえて2Dのメタボールに着目し、2Dならではのメタボールの表現を追い求めています。特に、メタボールは正確な形状の制御が難しいというデメリットが有名ですが、そこをあえて逆手に取り偶然性を活かした造形表現の追求を目指しました。

そもそも私がメタボールに興味をもったのは、そのデメリットこそが魅力的に感じられたためでもあります。例えば彫刻などの造形制作においては、コンクリートの塊やくず鉄など、あえて扱い難い素材を用い「素材と格闘しながら美を見出す」という姿勢があります。私はそれに近いものをメタボールに感じました。また、東洋美術においては造形の一部を偶然性にまかせる表現が多く取り入れられており、例えば陶芸では釉薬の化学変化による偶然の文様を取り入れたり、日本庭園では借景という自然の景観を庭園の一部に取り入れたりします。このように完全な制御をしない東洋美術の魅力はアルゴリズムを用いた造形とも親和性が高いため、メタボールを題材にすれば東洋的な発想の表現ができるのではないかと考えたのが本研究のきっかけでもあります。

メタボールをアート表現に応用しようとする試みとしては、河口洋一郎氏のグロウスモデルをメタボールで表現した作品[1]が世界的に有名になりました。また、自由曲面による複雑なモデリングがまだ難しかった時代には、少ないデータ量で曲面を表現できるメタボールを用い、人体のモデリングやアニメーションを行うことも試みられています[2]。本研究ではこれらの3次元における形状表現としてのメタボールではなく、2次元の図形表現に着目した研究に取り組みました。


・研究内容と、研究方法

2次元のメタボールは、平面上に濃度分布を複数設定し、その合計濃度値を任意に設定したしきい値で判定し、判定を通過した画素のみを描画することで表現できます。本研究ではこの描画プロセスを独自に組み替えてみました[3]。するとこれまでのメタボールとは大きく趣の異なる曲線文様が得られました。通常のメタボールにおいては、全てのメタボールを融合させた閉曲線(3次元であれば閉曲面)が生成されますが、本研究においては個々のメタボールの曲線が部分的に現れる棚田状の曲線を得られるのが特徴となっています。通常であれば単なるエラーとみなされるような表現かもしれませんが、これを上手く応用すると、思いもよらない美しい造形が得られます。


・2次元ならではのメタボール表現

▲【左】旧来の2Dメタボールの描画結果/【右】独自の描画手順による2Dメタボール。と同じメタボールの配置ですが、棚田状の曲線が生じているのが見てとれます


▲正多角形の濃度分布を用いて放射相称(回転対称)にメタボールを配置した例。ここではさらに法線ベクトルを任意に設定してシェーディングを施すことで、レリーフ調の効果も得ています


・研究の新規性

この技法に様々な条件を加えることで、旧来のメタボールとはかけ離れた独創的な表現が得られます。例えばメタボールにおいては、負の濃度値を設定することで形状の歪みを表現できます。これを本研究の技法と組み合わせることで、曲線がより複雑化します。このような偶然性の要素が大きい特徴を応用し、私は抽象的な映像作品をいくつか制作すると共に、この技法をさらに発展させて様々な応用を試みました。

例えば濃度分布の形状はボール型(円形)だけでなく、正多角形や星型なども用いることができます。私はこの特徴を応用して、矩形のメタボールを回転対称に配置し、顕微鏡下で見られる淡水の藻類などの美しい形状を半抽象化したアート作品を制作しました。さらに得られたメタボールの曲線に対して任意の法線ベクトルを与えて描画することで凹凸のある2.5次元的なレリーフ効果が得られます。これを応用することで、装飾的な表現への展開も可能となります[4]。この技法は後に3Dプリンタで立体出力することも試みており[5][6]、現実の建築装飾へ応用できる可能性も示しています。このようにして制作された作品群はいずれもSIGGRAPHやSIGGRAPH Asiaをはじめ、国内外の様々な公募展や映画祭などで造形面での評価を受けています。


・実用の可能性と、今後の課題

本研究の技法は簡単に装飾的な文様が得られるため、様々なコンテンツへの応用が期待できます。また、しきい値の条件を変えることで、瑪瑙や孔雀石などの天然石に近い文様も得られ、なおかつデータ量が極めて少なく済むため、様々なシェーダ開発への応用も期待できます。

前述したように、メタボール自体は正確な形状の制御が難しいという特徴があります。それゆえに偶然性を活かした面白い造形が得られるのも事実ですが、一方でメタボールの正確な融合状態や挙動を調査することで、新たな可能性や応用性が開けるとも考えられます。


・メタボールによるアートアニメーション

▲『Microcosm』SIGGRAPH 2004 Art GalleryおよびAnimation Theater入選作


▲『Waterdrops』SIGGRAPH 2005 Art Gallery入選作


▲『Orb』SIGGRAPH Asia 2008 Animation Theater入選作


・参考文献

[1]Y. Kawaguchi, "GROWTH: Mysterious Galaxy", SIGGRAPH'83 Film & Video Show, 1983
[2]E. Takaoki (META Corporation Japan), "Eccentric Dance", SIGGRAPH'92 Electronic Theater, 1992
[3]J. Takayama, E. Genda, "Artworks Using Metaball Representation with Stepwise Approach", SIGGRAPH 2005 Sketches, Article No.100, 2005
[4]J. Takayama, "Procedural Generation of Ornate Medallions by using Metaballs", International Journal of Asia Digital Art and Design vol.14, pp.25-30, 2011
[5]J. Takayama, "Medallions: 3D-printed Wall Plaques Featuring Procedurally-generated Ornate Shapes", International Journal of Asia Digital Art and Design vol.20 no.4, pp.97-102, 2017
[6]J. Takayama, "Medallions", SIGGRAPH Asia 2016 Art Gallery, Article No.15, 2016



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