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No.015:東京大学大学院 情報理工学系研究科 蜂須賀研究室

No.015:東京大学大学院 情報理工学系研究科 蜂須賀研究室

本連載では、アカデミックの世界に属してCG・映像関連の研究に携わる人々の姿をインダストリーの世界に属する人々に紹介していく。第15回では、CGにおける数値計算方法を専門とし、特に、光の伝搬シミュレーションに基づく写実的な画像のレンダリングについて研究する東京大学大学院の蜂須賀恵也准教授に自身の研究室について語っていただいた。なお、本記事の内容は執筆当時(2019年10月)のもので、2021年2月現在、蜂須賀氏はカナダ オンタリオ州のウォータールー大学に在籍している。近況はこちらを参照いただきたい。

※本記事は

『CGWORLD + digital video』vol. 255(2019年11月号)掲載の「ACADEMIC meets INDUSTRY 東京大学大学院 情報理工学系研究科 蜂須賀研究室」を再編集したものです。

TEXT_蜂須賀恵也 / Toshiya Hachisuka(ウォータールー大学・2021年2月現在)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

転載にあたり、近況のご報告

本記事の月刊誌掲載後、2020年の9月にカナダのウォータールー大学にAssociate Professorとして異動しました。研究テーマや研究室のポリシーは変わらないものの、私自身が学生として経験したような研究環境や学生生活が、自分の学生にもより提供しやすくなったと思っています。ウォータールー大学は日本ではあまり馴染みがない学生も多いかもしれませんが、コンピューターサイエンスの分野では、世界的にトップランクの教育・研究を行なっている大学です。また、産業界との結び付きも強く、アメリカのシリコンバレーをはじめとして、多くの著名なIT企業で卒業生が活躍しています。日本の学生の皆様は留学先の候補として、企業の皆様は採用・共同研究先の候補として、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

  • 蜂須賀恵也
    [執筆当時(2019年10月)]
    東京大学大学院 情報理工学系研究科 准教授

    [2021年2月現在]
    Associate Professor
    David R. Cheriton School of Computer Science, University of Waterloo
    Ph.D.(コンピュータサイエンス)
    専門分野:CG、レンダリング、数値計算、統計計算
    cs.uwaterloo.ca/~thachisu/


学部卒業後、米国でPh.D.を取得

東京大学の蜂須賀恵也です。私は2006年に東京大学の工学部を卒業した後、米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)に入学し、2011年にPh.D.を取得しました。日本では、私のように学部卒業後、すぐに留学するケースは珍しいと思います。私の場合、学部学生のときからCGに興味があり、様々な論文を読んでいく中で、活躍している研究者の名前を知る機会がありました。そして、研究をするなら世界的に活躍している研究者の下で行うべきだと考え、その手段として留学という選択肢が自然と視野にありました。明確な目的をもって留学したことで、結果として大変充実した学生生活になったと思っています。これから進学を考えている皆さんにも、ぜひ、同じような経験をしてほしいと思います。

UCSDでPh.D.を取得した後の進路として、企業の研究所や大学の教員など、様々な選択肢を考えました。結果として、やはり研究と教育に関わりたいという考えから、デンマークのオーフス大学でAssistant Professorとして、CGの研究グループを起ち上げることになりました。オーフス大学での教員としての生活は大変充実しており、デンマーク滞在中、日本に帰国することはまったく考えていませんでしたが、縁あって2014年に東京大学に戻ることになりました。そして、現在(2019年10月当時)、東京大学大学院 情報理工学系研究科の創造情報学専攻で、准教授として研究室を主催しています。私の専門はCGにおける数値計算方法で、特に、光の伝搬シミュレーションに基づく、写実的な画像のレンダリングについて研究しています。

東京大学へ戻った後、国際色豊かな研究室を開設

私が所属する創造情報学専攻は、情報理工学系研究科のほかの専攻から、複数の教員が異動して成り立っています。伝統的なコンピュータサイエンスの専攻とはちがい、コンピュータサイエンスとほかの分野にまたがるような研究を推進する、非常にユニークな専攻です。毎週行われる創造情報学輪講では、自分の研究分野に限らず、コンピュータサイエンスに関連する様々な分野で、各学生が行う最新の研究内容について知ることができます。本専攻は特定の学部をもたず、留学生や東京大学以外から進学する人も多くいます。

私の研究室は、文京区の弥生キャンパスのI-REF棟という建物の中にあります。I-REF棟は2013年に建築学専攻の協力でリノベーション工事がなされており、キャンパス内でも特に新しい綺麗な環境で研究に取り組めます。学生には、ほかの研究室と混合で、各フロアにデスクスペースが割り当てられており、日常的に研究室間の垣根が低い環境で学ぶことができます。

▲本研究室があるI-REF棟は6階建ての建物で、3〜5階は各教員の部屋以外はオープンスペースになっており、6つの研究室の学生が混合で日々研究に取り組んでいます


本研究室は、2014年の夏、私の日本への帰国と共に開設されました。オーフス大学で指導していた学生はほぼ修了していたこともあり、開設当初は私ひとりでスタートしました。比較的新しい研究室と言えますが、当初の人数からかなり増えており、本記事の執筆時点では、ポスドク2名、博士3名、修士14名、研究生1名という体制で、CGと数値計算の組み合わせについて日々研究しています。

本研究室メンバーの半数以上は外国出身で、非常に国際色豊かな研究室であり、研究室ミーティングでは英語による議論が中心となることもよくあります。また、創造情報学専攻は女性の学生が少ない傾向にあるのですが、本研究室はほかの研究室に比べて女性の割合が高く、男女比率、内部・外部からの進学比率、国内・国外の出身比率など、様々な面でメンバーのバランスがとれている研究室です。一般的には、コンピュータサイエンスでは男女比率の偏りが問題視されていますが、CGを専門に活躍している女性研究者は多いので、本研究室からもそのようなロールモデルとなる女性研究者が輩出できればと思っています。

レンダリングをより数学的なアプローチから研究

冒頭で述べた通り、私の専門はレンダリングです。特に、コンピュータ上で光の伝搬をシミュレーションし、その結果を用いて写実的な画像を生成する方法について、数学的側面から研究しています。このようなシミュレーションは、最近の映画やゲームなどで、実写と見分けがつかない画像をつくるための基盤となる技術であり、CGの研究分野の中でも歴史が古いものです。歴史が古いということは、それだけ多くの研究が行われているということでもあり、レンダリングでは新しい発見が難しいと考える研究者も多くいます。

しかし、私は個人的にはこの意見に賛同しておらず、レンダリングをより数学的なアプローチから研究することで、綺麗な画像をつくるという目的の達成だけでなく、非常に多くの知見が得られると考えています。しがたって、私の研究アプローチは、与えられた問題を解く方法を提案するだけでなく、今までにない定式化や方法を提案する数学的アプローチが多く、応用数学の研究とも捉えることができます。詳しくは後述しますが、レンダリングに限らず、ほかの問題にも適用可能な研究成果も多く、レンダリングの研究には分野を超えた大きな可能性があると考えています。

VPLを基にした、効率的な照明計算

▲本研究では、グラフィックスハードウェアを効率的に使った照明計算の方法を提案しています。高速な計算が可能な一方で、計算結果の精度が悪いVPLという方法を基にして、その計算時間を増やすことなく、精度を上げることに成功しました。【左】従来の方法(VPL、Clamped VPL)では、局所的に明るくなる誤差や、全体として暗くなる誤差がありますが、【右】提案手法では、長時間かけて計算した正しい結果に近い画像が得られています。本研究の詳細は、こちらをご覧ください


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研究成果は、国際学会で論文として発表することを推奨

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