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No.015:東京大学大学院 情報理工学系研究科 蜂須賀研究室

No.015:東京大学大学院 情報理工学系研究科 蜂須賀研究室

研究成果は、国際学会で論文として発表することを推奨

本研究室では、必ずしも全ての学生がレンダリングについて研究しているわけではありませんが、問題に対して数学的かつ本質的に新しいアプローチを試みるという点では共通しています。研究成果は国際学会で論文として発表することを目標としており、CGの分野で最も有名なSIGGRAPHSIGGRAPH AsiaTransaction on Graphicsをはじめ、毎年数本の論文を発表しています。一方で、学会でのデモの展示や、国内学会への投稿などはあまり行なっていませんし、学生にもなるべく国際学会で発表するように指導しています。極端な方針のように見えますが、このような考えにいたったのには理由があります。

まず、CGの研究成果の発表方法は、デモやアート作品といったかたちが選択されることもありますが、私はあくまでもCGの研究としての学術的価値を追求したいと考えており、学術論文の発表を重視しています。CGに限らず、コンピュータサイエンスは研究と実用が近い関係性にあり、民間企業でも盛んに研究開発が行われています。そのような中で、大学で行う研究の存在意義は、民間企業では応用に直結しないなどの理由で追究されないことの多い、純粋な学術的興味による基礎研究への貢献だと考えます。

また、インターネットの普及により、情報は世界中にすぐに伝わるようになりました。そのため、世界中の研究者に伝わるように研究を発表することが重要であると考えており、日本語だけによる発信は、より多くの人に知ってもらえる機会を逃していると言えます。

このような理由から、私の研究室では、学生に国際学会や英語論文での発表を推奨しています。私のWebサイトでは、前述のような研究成果の発表や、大学院進学、研究室についての私の考え方をまとめた資料を公開しており、私の研究室の学生だけでなく、大学院進学を考えている学生が広く参考にしているようです。

学術的興味から始めた研究でも最終的には企業で直接役に立つ

本研究室では、民間企業との共同研究も多数行なっています。これまでの共同研究先は、Samsung、Disney、ニコン、デジタル・フロンティア、トライエース、Autodesk、Facebookなどで、それぞれの企業の研究者と共同し、研究を行なってきました。研究は、学術的興味から始めることが多いですが、それでも、最終的に企業で直接役に立つような成果が得られることがあります。例えば、直接の共同研究ではありませんが、これまでの研究成果は、レンダラのRenderManなどをはじめ、映像産業で使われています[1]。特定の応用を起点としないがために、多くの問題に適用可能な成果が得られることも多く、結果として様々な応用ができ、幅広い用途で役に立つというのが、基礎研究の魅力だと考えています。

[1]PxrVCMPxrUPBP

シャボン膜の動きのシミュレーション

▲本研究はレンダリングの研究ではありませんが、微分幾何学のGeometric flowという考えと、シャボン膜の動きを初めて結びつけたもので、本研究室のCGに対する数学的アプローチを表す研究のひとつです。本研究の詳細は、こちらをご覧ください

分光反射率の再現

▲本研究では、三原色の反射率から分光反射率(光の波長ごとの反射率)を再現しました。【上】【中】従来の方法(Smits、Meng et al.)では実在する材質の分光反射率を再現できず、結果として微妙な色の誤差が出ますが、【下】提案手法では、三原色と測定された分光反射率との間の数学的関係を初めて導き出し、その再現に成功しました。本研究の詳細は、こちらをご覧ください

分野を超えた知識の融合がCGの研究の魅力

卒業生の進路は、ゲーム会社や企業の研究所、海外の大学の研究員などがあります。明確にやりたいことが決まっている人が多いため、自ずとCGに関わる就職先を選ぶ人が多いように思います。前述したように国際色豊かな研究室ということもあり、国内での就職にこだわらない学生も多くいます。また、インターンシップなども推奨しており、共同研究先の企業や海外大学にインターンシップに行くケースも多くあります。インターンシップと言っても、日本で主流の数日から1週間の体験型のものではなく、数ヶ月の期間で、かつ実務に関わり、給与も出るようなものを考えており、そのようなかたちでのインターンシップを、企業と共同で設定してもらうこともあります。

CGの研究の魅力はいろいろありますが、特に、分野を超えた知識の融合が魅力的だと考えています。例えば、後述する研究は、一見すると関係ない統計計算とレンダリングを結びつけるもので、どちらかの分野に留まるだけでは生まれなかった成果だと思います。ほかの分野の研究者のもつ知見が、CGの画期的な成果に結びつくことは珍しくありませんし、CGの分野でよく知られた手法が、ほかの分野でも有効なケースも多くあると考えています。ある意味で、誰でも自分の強みを活かしてCGの研究に関われるとも言えると思いますので、そういった研究に興味のある学生や企業の方には、ぜひ研究室訪問などを通して魅力を知ってもらえればと思います。


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