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No.007:慶應義塾大学 理工学部 藤代研究室

No.007:慶應義塾大学 理工学部 藤代研究室

本連載では、アカデミックの世界に属してCG・映像関連の研究に携わる人々の姿をインダストリーの世界に属する人々に紹介していく。第7回では、CG・可視化を専門とし、実世界以上の魅力と価値をもつ仮想世界の創造を目指す慶應義塾大学の藤代一成教授に自身の研究室について語っていただいた。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 247(2019年3月号)掲載の「ACADEMIC meets INDUSTRY 慶應義塾大学 理工学部 情報工学科 藤代研究室」を再編集したものです。

TEXT_藤代一成 / Issei Fujishiro(慶應義塾大学)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
取材協力_芸術科学会

▲藤代研究室の紹介映像

CG・可視化を専門とし、国内外の学会運営、学術誌編集などに携わる

慶應義塾大学の藤代一成です。1985年に大規模数値計算分野で修士号を取得した後、直ちに東京大学 理学部 情報科学科國井利泰研究室の助手に着任したのがCG研究との出会いでした。恩師の國井先生は、CG InternationalPacific GraphicsCyberworldsなどの国際会議の創設や、The Visual Computer誌Computer Animation and Virtual Worlds誌などの専門国際学術誌の創刊でも知られる、CGの黎明期を代表する国際的研究者です。私は、助手を務めながら3年半後に東京大学から論文博士を取得した後、筑波大学お茶の水女子大学ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校客員を含む)、東北大学を経て、2009年から現職に就きました。現在、CGおよび可視化を専門としています。

  • 藤代一成
    慶應義塾大学 理工学部 情報工学科 教授
    理学博士
    専門分野:形状表現とモデリングパラダイム、応用可視化設計とライフサイクル管理、多感覚情報呈示による知的環境メディア
    fj.ics.keio.ac.jp


恩師の影響からか、国内外の学会運営は私のこれまでの活動を大きく特徴づけています。可視化分野の三大国際会議に数えられるIEEE VIS(SciVis)やIEEE PacificVisの常任運営委員を継続する一方、2013年以降だけでも計21件の関連国際会議の大会委員長・プログラム委員長を引き受けてきました。その中には、Cyberworlds 2013/2019、ACM VRCAI(Virtual Reality Continuum and its Applications in Industry)2014/2015、CG International 2017、IEEE VIS 2018/2019も含まれます。

また、CG分野最古の専門誌として知られるElsevier Computers & Graphics(2003~2013)、ACM TOGに並ぶ学術誌IEEE TVCG(Transactions on Visualization and Computer Graphics、1999~2003、2018~)、そしてElsevierの新雑誌Journal of Visual Informatics(2016~)のAssociate Editorを兼務してきました。さらに国内では、芸術科学会副会長(2012~2014)、画像電子学会会長(2016~2017)、日本工学会理事(2017~)、日本学術会議連携会員(2017~)、可視化情報学会副会長(2019~)などの役職を仰せつかってきました。CG-ARTS(公益財団法人 画像情報教育振興協会)では、現行のテキスト『コンピュータグラフィックス』(初版:2004、新版:2015)と『ビジュアル情報処理』(初版:2004、新版:2017)を編集委員長の立場で編纂すると共に、評議員(2011~)を務めてきました。

国内外の他大学からの進学者も受け入れる一方で、留学する学生も

慶應義塾大学 理工学部は、藤原工業大学を祖とし、2019年で創立80周年を迎えました(慶應義塾は161年目)。現在は11学科から構成され、約4千名の学部生が在籍しています。1・2年次は横浜市港北区にある日吉キャンパスで他学部の学生と共に過ごし、3年次からは隣接する理工学部独自の矢上キャンパスに居を移します。その8割近くが大学院へ進学し、博士後期課程も含めると約2千名近くの大学院生が集います。他大学からの進学者も多数受け入れ、国際色も極めて豊かです。専任教員も3百名弱を擁することから、きめ細やかな教育研究体制を保っています。

▲藤代研究室の集合写真。2018年11月末に撮影。2018年度後期は、OB研究員2名、博士後期課程大学院生5名、修士課程大学院生9名、学部4年生7名が所属しており、国内外の他大学からの進学者も受け入れています


本研究室は情報工学科にある19の研究室のひとつで、スタート以来すでに丸10年が経とうとしています。2018年度後期は、OB研究員2名に加え、博士後期課程大学院生5名(エコール・セントラル ナント校、ブリュッセル自由大学出身者各1名)、修士課程大学院生9名(天津大学出身者1名)、学部4年生7名(北京航空航天大学出身者1名)からなる合計21名の学生が所属しています。本学が2011年に開始した博士課程教育リーディングプログラム オールラウンド型「超成熟社会発展のサイエンス」に通算5名のResearch Assistant(参加学生)を送り出し(塾内最多)、すでにカリフォルニア大学ディビス校ユタ大学IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)へ半年間の留学を経験している大学院生もいます。また現在、共同研究を実施するため、2年間の予定でハーバード大学に留学中の大学院生も在籍しています。

Fakeに肯定的な意義と役割を与える

“Fake”という英単語はもっぱら「偽物」という後ろ向きのニュアンスで使われることが多いと思います。しかしWiktionary英語版を紐解くと、本来は“to give better appearance through artificial means”(人工的な手段で、見映えを良くする)という意味合いをもっていることがわかります。さらに驚くことに、心理学者の三浦佳世先生(元九州大学教授)によれば、“Fake”や“Fiction”は、“Fact”という英単語と「つくる(=Make)」という点で同根なのだそうです。高度なCGが創り出す“Fake”(視覚的人工物)は、実世界以上に魅力的かつ価値あるものに仕立てられるはず。言い換えれば、“Fake”に肯定的な意義と役割を与えることが本研究室の旗標です。

本研究室内は現在、テーマごとに学年を縦断する形で次の6つのチームに分かれており、共同研究プロジェクトは必ずどこかのチームが主たる役割を担う階層的ストラクチャをもっています。

・適応的表示系(Adaptive Display)
・モデリングパラダイム(Modeling Paradigm)
・実世界モデリング(Reality Modeling)
・バーチャルヒューマン(Virtual Human)
・情報可視化(Information Visualization)
・天文可視化(Astrophysical Visualization)

このうち、適応的表示系と実世界モデリングの研究事例は後掲するので、残り4チームの最近の代表的な事例をひとつずつ挙げておきます。

モデリングパラダイムの研究事例

モデリングパラダイムでは、旧来の方式に囚われず、対象ごとに効率的かつ効果的なモデリングを可能にする計算原理とその処理インターフェイスを考案してきました。Swellart[1]は、切り抜いた図案をメッシュに分解し、任意形状の枠内でセルを膨張させる単純な変形操作をくり返すだけで、巧みなグラフィカルデザインを可能にするシステムです。最新版では、セルごとの硬さや膨張限界のしきい値を対話的に設定するだけで、半自動的に硬貨や家紋、ラテアート風のデザインを誰でも簡単に出力できる機能が提供されています。

[1]湯浅海貴, 中山雅紀, 藤代一成: 「Swellart: 制約付き膨張によるスケッチベースのデフォルメデザイン」, 芸術科学会論文誌, 16巻4号102-109頁, 2017年11月, www.art-science.org/journal/v16n4/index.html

▲Swellartによるグラフィカルデザインの実行例。切り抜いた図案をメッシュに分解し、任意形状の枠内で変形操作しています

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バーチャルヒューマンの研究事例

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