本連載では、アカデミックの世界に属してCG・映像関連の研究に携わる人々の姿をインダストリーの世界に属する人々に紹介していく。第7回では、CG・可視化を専門とし、実世界以上の魅力と価値をもつ仮想世界の創造を目指す慶應義塾大学の藤代一成教授に自身の研究室について語っていただいた。
※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 247(2019年3月号)掲載の「ACADEMIC meets INDUSTRY 慶應義塾大学 理工学部 情報工学科 藤代研究室」を再編集したものです。
TEXT_藤代一成 / Issei Fujishiro(慶應義塾大学)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
取材協力_芸術科学会
▲藤代研究室の紹介映像
CG・可視化を専門とし、国内外の学会運営、学術誌編集などに携わる
慶應義塾大学の藤代一成です。1985年に大規模数値計算分野で修士号を取得した後、直ちに東京大学 理学部 情報科学科國井利泰研究室の助手に着任したのがCG研究との出会いでした。恩師の國井先生は、CG InternationalやPacific Graphics、Cyberworldsなどの国際会議の創設や、The Visual Computer誌、Computer Animation and Virtual Worlds誌などの専門国際学術誌の創刊でも知られる、CGの黎明期を代表する国際的研究者です。私は、助手を務めながら3年半後に東京大学から論文博士を取得した後、筑波大学、お茶の水女子大学(ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校客員を含む)、東北大学を経て、2009年から現職に就きました。現在、CGおよび可視化を専門としています。
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藤代一成
慶應義塾大学 理工学部 情報工学科 教授
理学博士
専門分野:形状表現とモデリングパラダイム、応用可視化設計とライフサイクル管理、多感覚情報呈示による知的環境メディア
fj.ics.keio.ac.jp
恩師の影響からか、国内外の学会運営は私のこれまでの活動を大きく特徴づけています。可視化分野の三大国際会議に数えられるIEEE VIS(SciVis)やIEEE PacificVisの常任運営委員を継続する一方、2013年以降だけでも計21件の関連国際会議の大会委員長・プログラム委員長を引き受けてきました。その中には、Cyberworlds 2013/2019、ACM VRCAI(Virtual Reality Continuum and its Applications in Industry)2014/2015、CG International 2017、IEEE VIS 2018/2019も含まれます。
また、CG分野最古の専門誌として知られるElsevier Computers & Graphics(2003~2013)、ACM TOGに並ぶ学術誌IEEE TVCG(Transactions on Visualization and Computer Graphics、1999~2003、2018~)、そしてElsevierの新雑誌Journal of Visual Informatics(2016~)のAssociate Editorを兼務してきました。さらに国内では、芸術科学会副会長(2012~2014)、画像電子学会会長(2016~2017)、日本工学会理事(2017~)、日本学術会議連携会員(2017~)、可視化情報学会副会長(2019~)などの役職を仰せつかってきました。CG-ARTS(公益財団法人 画像情報教育振興協会)では、現行のテキスト『コンピュータグラフィックス』(初版:2004、新版:2015)と『ビジュアル情報処理』(初版:2004、新版:2017)を編集委員長の立場で編纂すると共に、評議員(2011~)を務めてきました。
国内外の他大学からの進学者も受け入れる一方で、留学する学生も
慶應義塾大学 理工学部は、藤原工業大学を祖とし、2019年で創立80周年を迎えました(慶應義塾は161年目)。現在は11学科から構成され、約4千名の学部生が在籍しています。1・2年次は横浜市港北区にある日吉キャンパスで他学部の学生と共に過ごし、3年次からは隣接する理工学部独自の矢上キャンパスに居を移します。その8割近くが大学院へ進学し、博士後期課程も含めると約2千名近くの大学院生が集います。他大学からの進学者も多数受け入れ、国際色も極めて豊かです。専任教員も3百名弱を擁することから、きめ細やかな教育研究体制を保っています。
▲藤代研究室の集合写真。2018年11月末に撮影。2018年度後期は、OB研究員2名、博士後期課程大学院生5名、修士課程大学院生9名、学部4年生7名が所属しており、国内外の他大学からの進学者も受け入れています
本研究室は情報工学科にある19の研究室のひとつで、スタート以来すでに丸10年が経とうとしています。2018年度後期は、OB研究員2名に加え、博士後期課程大学院生5名(エコール・セントラル ナント校、ブリュッセル自由大学出身者各1名)、修士課程大学院生9名(天津大学出身者1名)、学部4年生7名(北京航空航天大学出身者1名)からなる合計21名の学生が所属しています。本学が2011年に開始した博士課程教育リーディングプログラム オールラウンド型「超成熟社会発展のサイエンス」に通算5名のResearch Assistant(参加学生)を送り出し(塾内最多)、すでにカリフォルニア大学ディビス校、ユタ大学、IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)へ半年間の留学を経験している大学院生もいます。また現在、共同研究を実施するため、2年間の予定でハーバード大学に留学中の大学院生も在籍しています。
Fakeに肯定的な意義と役割を与える
“Fake”という英単語はもっぱら「偽物」という後ろ向きのニュアンスで使われることが多いと思います。しかしWiktionary英語版を紐解くと、本来は“to give better appearance through artificial means”(人工的な手段で、見映えを良くする)という意味合いをもっていることがわかります。さらに驚くことに、心理学者の三浦佳世先生(元九州大学教授)によれば、“Fake”や“Fiction”は、“Fact”という英単語と「つくる(=Make)」という点で同根なのだそうです。高度なCGが創り出す“Fake”(視覚的人工物)は、実世界以上に魅力的かつ価値あるものに仕立てられるはず。言い換えれば、“Fake”に肯定的な意義と役割を与えることが本研究室の旗標です。
本研究室内は現在、テーマごとに学年を縦断する形で次の6つのチームに分かれており、共同研究プロジェクトは必ずどこかのチームが主たる役割を担う階層的ストラクチャをもっています。
・適応的表示系(Adaptive Display)
・モデリングパラダイム(Modeling Paradigm)
・実世界モデリング(Reality Modeling)
・バーチャルヒューマン(Virtual Human)
・情報可視化(Information Visualization)
・天文可視化(Astrophysical Visualization)
このうち、適応的表示系と実世界モデリングの研究事例は後掲するので、残り4チームの最近の代表的な事例をひとつずつ挙げておきます。
モデリングパラダイムの研究事例
モデリングパラダイムでは、旧来の方式に囚われず、対象ごとに効率的かつ効果的なモデリングを可能にする計算原理とその処理インターフェイスを考案してきました。Swellart[1]は、切り抜いた図案をメッシュに分解し、任意形状の枠内でセルを膨張させる単純な変形操作をくり返すだけで、巧みなグラフィカルデザインを可能にするシステムです。最新版では、セルごとの硬さや膨張限界のしきい値を対話的に設定するだけで、半自動的に硬貨や家紋、ラテアート風のデザインを誰でも簡単に出力できる機能が提供されています。
[1]湯浅海貴, 中山雅紀, 藤代一成: 「Swellart: 制約付き膨張によるスケッチベースのデフォルメデザイン」, 芸術科学会論文誌, 16巻4号102-109頁, 2017年11月, www.art-science.org/journal/v16n4/index.html
▲Swellartによるグラフィカルデザインの実行例。切り抜いた図案をメッシュに分解し、任意形状の枠内で変形操作しています
[[SplitPage]]バーチャルヒューマンの研究事例
FIST[2][3]は、バーチャルヒューマンの部位の中でも特に誘目性の高い手に注目し、その力感を表現するため、実際の骨格のCTデータに加えて、腱や筋肉、血管、皮膚のような内部組織を陰的にモデリングすることで、Leap Motionでキャプチャした手の姿勢に合わせ、典型的なPC環境でも対話的なフレームレートで、表面に浮き出る内部組織の構造を写実的に表現することに成功したシステムです。
[2]中田聖人, 藤代一成: 「FIST: 準解剖学的構造をもつ手の陰的モデリング」, 画像電子学会誌, 48巻4号506-515頁, 2019年10月
[3]Masato Nakada, Hélène Ballet, Issei Fujishiro: "FIST: A fast, implicit model of the human hand with semi-anatomical structures", in Proceedings of SIGGRAPH Asia 2018 Technical Briefs, Article No. 34, Tokyo, December 2018[DOI: 10.1145/3283254.3283280]
▲FIST(Fast, Implicit model with Semi-anatomical sTructures)による手の対話的アニメーションの様子
情報可視化の研究事例
TideGrapher[4]は、ラグビーの試合のながれを視覚的に分析し、勝敗の分かれ目となったキープレイを発見する情報可視化システムです。東京オリンピックを間近に控え、リアルスポーツの深部に誰もが切り込めるようなアプリはことさら魅力的に映るのではないでしょうか。
[4]Yusuke Ishikawa, Issei Fujishiro: "TideGrapher: Visual analytics of tactical situations for rugby matches", Journal of Visual Informatics, Vol. 2, No. 1, pp. 60-70, March 2018[DOI: 10.1016/j.visinf.2018.04.007]
▲ラグビーの試合のながれを視覚的に分析し、勝敗の分かれ目となったキープレイを発見するTideGrapherのインターフェイス
天文可視化の研究事例
aflak[5]は、大規模なマルチスペクトル観測データから銀河や天体の構造を視覚的に把握するため、新たに開発しているオープンソースの天文可視化環境です。こちらは、京都大学、広島大学、東京工科大学との共同研究開発プロジェクトで、コードはGitHubで無償公開されています(github.com/aflak-vis/aflak)。
[5]Malik Olivier Boussejra, Kazuya Matsubayashi, Yuriko Takeshima, Shunya Takekawa, Rikuo Uchiki, Makoto Uemura, Issei Fujishiro: "aflak: Visual programming environment enabling end-to-end provenance management for the analysis of astronomical datasets", Journal of Visual Informatics, Vol. 3, No. 1, pp. 1-8, March 2019[doi: 10.1016/j.visinf.2019.03.001]
▲aflak(Advanced Framework for Learning Astrophysical Knowledge/aflakはアラビア語で「天体」の意)によるビジュアルプログラミングの実行例
修了生・卒業生の約3割はゲーム系企業に毎年度就職
主要なプロジェクトは、公的資金、特に科学研究費補助金に頼るケースがほとんどです。この10年間に、私が代表者の研究課題に限っても、新学術領域計画研究1件、基盤研究(A)2件、基盤研究(B)1件、挑戦的研究(開拓)1件、挑戦的研究(萌芽)4件が採択され、山梨大学、会津大学、豊橋技術科学大学、東北大学などとも共同研究を推進してきました。また、Microsoft Research Asia COREプログラムにも2度採択されています(2011、2018)。
本研究室のユニークな試みとして、大学院生有志を、デジタル・フロンティア、J CUBE、スクウェア・エニックス、バンダイナムコスタジオなどの名だたる映像制作会社・ゲーム会社に長期インターンとして採用していただき、現場のニーズに合わせた技術開発の実際を体験させています。その甲斐もあり、修了生・卒業生は、有力IT・メディア系企業に加え、カプコン、コーエーテクモゲームス、Cygames、スクウェア・エニックス、ソニー・インタラクティブエンタテインメント、任天堂、ハル研究所などのゲーム系企業にも約3割が毎年度就職しています。
過去10年間(2009~2018年度)の業績は、学術誌論文30編、国際会議録論文51編、国際会議ポスター論文15編、国内会議録論文(査読有)24編、国際会議発表24件、国内会議発表169件、書籍15冊、総説26編です。主な掲載雑誌は、IEEE TVCG、Computer Graphics Forum、Computers & Graphics、The Visual Computer、画像電子学会誌、芸術科学会論文誌、映像情報メディア学会誌、情報処理学会論文誌、電子情報通信学会論文誌(D)ならびに英文誌です。またSIGGRAPH、SIGGRAPH Asia、Eurographics、Cyberworlds、ACM VRCAI、CG International、IEEE VIS、IEEE PacificVis、EuroVis、IEVC、NICOGRAPH Internationalなどの国際会議でも発表を行なってきました。国内では、Visual Computing、NICOGRAPH、Expressive Japan(映像表現・芸術科学フォーラム)、情報処理学会CGVI研究会・全国大会などで恒常的に発表しています。
受賞歴は、学生と合わせ、国内外で計60件です。主要なものを列挙すれば、Cyberworlds 2015とVRCAI 2015でBest Paper Award(First Place)、Cyberworlds 2016でBest Short Paper Award、Asian Digital Modeling Contest 2017でGrand Prizeを受賞。国内では、芸術科学会国際CG大賞最優秀賞(2010)、画像電子学会最優秀論文賞(2016)、芸術科学会第16回CG Japan Award(2017)を受賞しています。
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適応的表示系の研究事例
アナモルフォシス裸眼立体視
RESEARCH 1:アナモルフォシス裸眼立体視
・研究目的
適応的表示系プロジェクトでは、マルチモーダルセンシング-知的計算―適応的レンダリングの最新技術を擁する人間中心のサイクル処理(Human-in-the-Loop)をフレームワークとする知的環境メディア(SAM:Smart Ambient Media)[1]の原理に則った適応的表示系を数多く提案・開発してきました。SAMは、昨今注目されているSociety 5.0の中核を担うと期待されるサイバー・フィジカル・システム(CPS)のコンセプトとも完全に符合しています。ここで紹介するアナモルフォシス裸眼立体視[2]は、近年のSAM研究開発の代表的な成果のひとつです。
▲知的環境メディア(SAM)のフレームワーク
・先行研究
ホログラフィに代表されるようなハードウェアの描像原理を刷新することで発展してきた既存の立体視システムは、生成映像の品質を向上させにくいという課題が残されています。
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▲SIGGRAPH 2011 Emerging Technologiesで展示発表したレーザプラズマ方式の空中ディスプレイ - 例えば、SIGGRAPH 2011 Emerging Technologiesで展示発表したレーザプラズマ方式の空中ディスプレイ[3]は、強力な赤外パルスレーザを用いて、空中の任意位置にプラズマ発光体の点列を生成できる裸眼式の3次元ディスプレイです。人間の残像効果を利用してポイントクラウドを360度の視点から同時に認識させることが可能ですが、発表の時点では毎秒5千点をベクタースキャンするのが精一杯でした。
物体表面の特徴量を参照して、ポイントの密度や明度をソフトウェア制御することによって、限られた表示資源の制約内で物体の特徴を最大限引き出した描画を目指すリソースアウェア・レンダリング手法[4]を利用しても、普及解像度が4Kに迫ろうとするラスターディスプレイと比べた場合、その表示精度は明らかに見劣りします。
・原理と手法
とある朝のTV番組で紹介された、アーティスト永井秀幸氏による、壁に立てかけてL字状に開いたスケッチブックに描かれた作品群を見て、私は釘付けになりました。それらは共通して、制作時から特定の位置(スイートスポット)に視点を固定して、滑らかにつながるように画用紙ごとに表示対象を変形し、陰影付けを施しているため、同じ視点から鑑賞した際、対象が紙面からポップアップするように見えるのです。これを可能にしているのは、アナモルフォシス(anamorphosis)と呼ばれる、ルネサンス期から絵画や建築に利用されてきた古典的視覚デザイン技法です。
▲永井秀幸氏の作品例。【左】は視点をスイートスポットに合わせているため、自然なポップアップ感が得られていますが、【右】のように変化させた視点位置からでは同様の視覚的効果は得られません
この3Dトリックアートがもつヒトの心理(知的計算の原理)の利用可能性に触発され、スケッチブックを2枚の狭額縁ディスプレイモニタに置き換え、さらに汎用Webカメラを利用して非接触に検知したユーザー視線の情報を獲得(センシング)し、新たなスイートスポットに合わせて上記の変形と陰影付けをリアルタイムに調整(適応的レンダリング)していけば、運動視差による増強効果が発生し、ラスターディスプレイと同等の解像度で裸眼立体視を可能にする、個人向けSAMを手軽に構築できるのではないかという基本アイデアを得ました。
複数枚の大型スクリーンを、ユーザーを取り囲むように配置し、背面投影により没入的な立体映像を提示するシステムの代表例としてはCAVEが有名です。しかし、その立体視の原理は、アクティブシャッター式グラスを同期させることによる両眼視差です。しかも、広視野の仮想空間を矩形状に近似投影するにあたって、スクリーン間の境界は障害となります。実際、その付近ではユーザーが知覚する奥行き情報の誤差が相対的に増加するという研究報告も知られています。
一方、提案手法ではモニタの境界をむしろ積極的に利用し、ユーザーに2枚のディスプレイが壁と床の役割を担っているとあらかじめ意識させています。この前提に立って、ユーザー視点から見て絶えずディスプレイ間の表示を滑らかにつなぎ、3次元物体が床と壁に落とす影を主な手がかりとして、裸眼であっても観察対象に対するユーザーの奥行き知覚がより増強されるような心理的描画のアプローチをとっていることに本手法の新規性があります。
▲アナモルフォシス裸眼立体視の原理。リアルタイム顔追跡から得られる視点位置に合わせて再投影をくり返すことにより、運動視差による奥行き感が発生します。スポットライトレンダリングは、描画対象への視覚的注意を増強することに役立っています
・実用化に向けて
試験的システムでは、24インチクラスの汎用モニタを用いています。実際に表示された投影像を観察する複数名の視線を計測したところ、モニタの額縁のような環境因子よりも表示物体の表面をなぞる傾向がより強く見られました。これは実際にポップアップ効果を観察者が心理的に得ている証拠です。
▲【左】本手法による裸眼立体視像/【右】視線追跡実験の様子
本手法は、折り畳める2画面のゲーム機やスマホ上で手軽な立体視を提供する点で有効に働くであろうと考えています。しかし、表示空間が小さい場合には両眼視差の影響が無視できなくなり、アナモルフォシスの単眼性を損ねかねない問題点が残されています。利き目検出などによるスイートスポットの較正といった対応策の検討が待たれます。
・参考文献
[1]藤代一成: 「知的環境メディア」(講座), 画像電子学会誌, 46巻4号585-589頁, 2017年10月
[2]井阪建, 藤代一成: 「L字型表示面を用いた錯視による裸眼立体映像生成」(動画付き研究速報), 映像情報メディア学会誌, 70巻6号J143-J146頁, 2016年5月(同誌, 73巻1号J108-J112頁, 2019年1月に〈研究ハイライト〉として再掲)
[3]Hidei Kimura, Akira Asano, Issei Fujishiro, Ayaka Nakatani, Hayato Watanabe: "True 3D Display", in Proceedings of ACM SIGGRAPH 2011 Emerging Technologies, Article No. 20, Vancouver, August 2011[DOI: 10.1145/2048259.2048279]
[4]中谷 文香, 藤代 一成, 石川 尋代, 斎藤 英雄: 「レーザプラズマ式3次元ディスプレイのための物体の表面特徴量を用いたリソースアウェア・レンダリング」, 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 17巻4号419-428頁, 2012年12月
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実世界モデリングの研究事例
粒子ベース流体モデリングの高度化
RESEARCH 2:粒子ベース流体モデリングの高度化
・研究目的
実世界モデリングプロジェクトでは、複雑な構造や挙動を示す実世界の物象を選び、それを効率的かつ効果的にビジュアルシミュレーションする手法を模索してきました。なかでも流体は、映像やゲーム制作の現場に欠かすことのできない普遍的な対象として、研究室創設以来継続的に採り上げてきた題材のひとつです。基礎となる粒子ベース近似スキームは、火炎や砂塵、雪、血液、塗料などの具体的な対象ごとに柔軟に選択してきましたが、ここでは物理的妥当性と計算しやすさがバランスしたSPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法に限定して、その代表的な高度化の成果をお見せします。
・高速化と安定化
プリビズでの利用を考えるとき、流体シミュレーションの高速化は必須の達成項目のひとつです。まず、ろうそくやバーナーのような、日常的に目にすることの多い、安定的に形成される比較的小規模な火炎の再現に主眼を置いたリアルタイムSPHソルバを実現しました[1]。ここでは、支配方程式であるナビエ・ストークス方程式の外力として、シンプルな化学反応モデルから発生した熱による浮力項を加えているのが特徴です。すなわち、提案ソルバは既存のSPHコードとも十分な互換性を保持しているため、より多元的な物理シミュレーションを一元的に管理することができるようになります。また、火炎の周辺に粒子が集中するように効果的にリサンプリングすることで計算コストを大幅に抑えています。
粘性流体を数値的に安定してシミュレーションするために、陽解法による粘性積分を用いると時間幅が厳しく制限され、極端に長い計算時間が必要となってしまいます。そのような制限を打開するため、ポジションベース拘束を用いた粘性流体SPHシミュレーション法を提案しました[2]。この拘束を管理することによって、物質の弾性変形が生成できるだけでなく、物質の相転移が熱伝導により生じる物性の変化も取り扱うことができるようになりました[2]。
▲熱した粘性流を傾いた冷板に流すシミュレーションの連続体ビュー。【下段】は粒子ビュー。各粒子の色は温度を表しています。重力に従って坂を下るほど板の表面で冷やされて粘性が上昇し、流れが淀んでいく様子がわかります
さらに、陰解法による粘性積分により、粘性流特有のバックリングやコイリングといった現象を安定的に再現することにも成功しています[3]。
▲【左】陰解法によるSPHスキームによる粘性流特有のバックリング現象の再現。右上は、対応する粒子ビュー/【右】同じくコイリング現象の再現
・物理的忠実性の再現
上記の拘束は、体積保存性を考慮した粘弾性体のビジュアルシミュレーションの実現[4]にも役立ちました。
▲粘弾性体の初期状態【左】から水平板を垂直に下ろしたとき、シェイプマッチングとの組合せによる従来法の結果【中】と異なり、提案手法によるシミュレーション【右】では水平方向に潰れて延びることで、体積保存性を実現している様子がわかります
一方、ウォータークラウン現象や、平板に打ちまかれる塗料、水溜まりに落ちる雨のような日常的なシーンで、跳ね返った飛沫が織り成す複雑なテクスチャを再現することは、液体だけをモデリングの対象とする従来のSPH法では不可能でした。ところが、比較的近年の物理実験により、目に見えない空気層の存在がこの副次的な飛沫生成に大きな役割を果たしていることがわかったのです。そこで、空気分子からの圧力も考慮に加えたSPH近似を考案し、これらの現象をシンプルに再現することに成功しました[5]。
▲空気層の存在を考慮したSPH近似によって表現した、打ちまかれた塗料がつくり出すパターン。平板に衝突した後、周囲にフィンガー状に延びていく副次飛沫まで再現しています
・監督可能性
プリビズでの利用時に必要となるもうひとつの重要な性質は、監督可能性(directability)です。粒子ベース流体シミュレーションの実行に必要な多数の制御パラメータ値を適正化する作業は膨大な手間を要します。極論すれば、コードの開発者しかパラメータを調整できない可能性すらあるのです。
これを解決するアプローチとして、まず対象の対話的制御を目的とした仮想粒子の導入が挙げられます。例えば、戦闘シーンで頻出する流血のビジュアルシミュレーション[6]においては、出血量や血圧の変化を考慮したin-vivo粒子や、傷口から外界に流出して、皮膚に吸着して伝い、筋状の血痕を構成するflow粒子、凝固した血液成分を表現するadhered粒子に加えて、物理法則を無視してもディレクターがほしい位置に血痕を誘引する働きをするguiding粒子を設けて、監督可能性を緩やかに実現しています。
▲3箇所の傷口からの流血シミュレーション。特にタトゥーを跨がないような血痕パターンに誘う緑色のguiding粒子をストローク指定しています
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▲Leap Motionを利用し、複数のハンドジェスチャーのコマンドを対話的に発行し、流体の動きを直接制御できます - また、流体シミュレーションおよび流体制御に用いるパラメータ調整を、特定のモーションデータに対応させた直接操作によって直感的に行う試みも進めています[7]。そこではLeap Motionを使い、両手のモーションデータを取得後、特定のモーションデータをジェスチャーとして識別し、3次元空間内でジェスチャーに応じた流体シミュレーションを実行します。
これにより、数値流体力学の詳細な知識を必要とせず、3次元流体の形状を意のままに制御することが可能となりました。これはResearch 1で紹介したSAMの原理の応用にほかなりません。
・参考文献
[1]間淵聡, 藤代一成, 大野義夫: 「SPHベースリアルタイム火炎シミュレーション」, 情報処理学会論文誌, 52巻10号2965-2972頁, 2011年10月
[2]Tetsuya Takahashi, Tomoyuki Nishita, Issei Fujishiro: "Fast simulation of viscous fluids with elasticity and thermal conductivity using position-based dynamics", Computers & Graphics, Vol. 43, pp. 21-30, July 2014[DOI: 10.1016/j.cag.2014.06.002]
[3]Tetsuya Takahashi, Yoshinori Dobashi, Issei Fujishiro, Tomoyuki Nishita, Ming C. Lin: "Implicit formulation for SPH-based viscous fluids", Computer Graphics Forum (Proceedings of Eurographics 2015), Vol. 34, No. 2, pp. 493-502, May 2015[DOI: 10.1111/cgf.12578]
[4]Tetsuya Takahashi, Yoshinori Dobashi, Issei Fujishiro, Tomoyuki Nishita: "Volume preserving viscoelastic fluids with large deformations using position-based velocity corrections", The Visual Computer, Vol. 32, No. 1, pp. 57-66, January 2016[DOI: 10.1007/s00371-014-1055-x]
[5]Kazuhide Ueda, Issei Fujishiro: "Splashing liquids with ambient gas pressure", in Proceedings of ACM SIGGRAPH Asia 2014 Technical Briefs, Article No. 6, Shenzhen, December 2014[DOI: 10.1145/2669024.2669036]
[6]Kazuhide Ueda, Issei Fujishiro: "Adsorptive SPH for directable bleeding simulation", in Proceedings of ACM VRCAI 2015, pp. 9-16, Kobe, October 2015[DOI: 10.1145/2817675.2817684]
[7]早川雄登, 藤代一成: 「直接操作による3D流体シミュレーションの制御」, 情報処理学会CGVI研究会研究報告, 2017-CG-168-24, 2017年11月
info.
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月刊CGWORLD + digital video vol.247(2019年3月号)
第1特集:『ReVdol!』(リブドル!)
第2特集:3Dエフェクト最新事情
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:144
発売日:2019年2月9日
cgworld.jp/magazine/cgw247.html