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No.005:岩手大学 理工学部 今野研究室

No.005:岩手大学 理工学部 今野研究室

本連載では、アカデミックの世界に属してCG・映像関連の研究に携わる人々の姿をインダストリーの世界に属する人々に紹介していく。第5回では、石器や土器などの考古遺物の計測、解析をCGで支援する岩手大学の今野晃市教授に自身の研究室について語っていただいた。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 244(2018年12月号)掲載の「ACADEMIC meets INDUSTRY 岩手大学 理工学部 今野研究室」を再編集したものです。

TEXT_今野晃市 / Konno Kouichi(岩手大学)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
取材協力_芸術科学会

企業での研究開発の後、大学へ移動

岩手大学の今野晃市です。1985年から15年間企業で3Dモデリングに関する研究開発を行い、2001年4月から岩手大学に勤務しています。私は企業と大学の両方に概ね同じ年数在籍してきたので、大学と産業界の連携促進のお手伝いができる本企画に参加でき大変嬉しいです。

  • 今野晃市
    岩手大学 理工学部 システム創成工学科 教授
    博士(工学)
    専門分野:CG(主に形状モデリング)、情報考古学
    gmhost.lk.cis.iwate-u.ac.jp


私は大学で情報工学を学び、企業では機械系のCAD/CAMシステムの核となるモデリングカーネルの研究開発を行いました。勤務先の企業は、研究成果を短期間で製品に直結できる体制で、研究開発から商品化・保守サポートまでを一貫して行なっていました。そこでは自分の研究成果がベースとなった機能を実装したソフトウェアを、お客様に使っていただけることに大きなやりがいを感じていました。一方で、製品のリリース後は自由な研究の割合が下がっていきました。もともと、商品化などの業務より研究活動を中心とした仕事をしたかったのに加え、学生の教育に興味があったため、大学への移動を決めました。

現在は理工学部 システム創成工学科 知能・メディア情報コースに所属しており、大学院では総合科学研究科 理工学専攻デザイン・メディア工学コース(修士課程)と、理工学研究科 デザイン・メディア工学専攻(博士課程)の指導を担当しています。本コース(専攻)は、工学と芸術工学の2つの学位を授与できる、国立大学としては珍しいコース(専攻)です。学部生は主に情報(メディア)系ですが、大学院には情報系、環境系、芸術系の3分野の学生が在籍し、融合教育を行なっています。また本コース(専攻)には留学生が多く在籍していることも特徴で、学生の40〜50%は留学生となっています。

本研究室は、私が岩手大学に赴任した2001年4月に開設されました。研究テーマをどうするか模索していた最初の頃、後に岩手大学発のベンチャー企業であるラングを起業した先生から3D技術を買われ、同社の起業プロジェクトに参加したのが考古学との付き合いの始まりでした。ラングのメインの業務は、考古遺物の計測と計測点群を用いた発掘調査報告用の情報作成で、私が企業で扱ってきたテーマとはまったく別の内容でした。しかし研究の幅を広げる良い機会だと思い、すぐ研究を開始しました。前述したラングの創業者のひとりで現在の社長は、日本旧石器学会日本考古学協会日本情報考古学会などで活動している考古学者であり、ビジネスマンでもあります。互いの知識や技術、考え方を理解し、自分の専門分野に翻訳できると、互いの研究の幅が広がり、学際的な研究ができます。考古学分野にCG技術を持ち込んだときの検証が容易なのは、近くにラングがあるからこそだと考えています。

現在ラングとは石器接合に関する技術を共同研究しており、アプリケーションの開発と実用化を目指しています。その一環で特許[1]も取得しました。さらに、私が勤務していた3次元データの軽量化技術をもつラティス・テクノロジーや、アルプスカンパニー[2]とも共同研究を行なってきました。研究成果を製品化する、あるいはユーザーのニーズを課題として研究を行い、成果を製品に還元するというのは私が企業で行なってきた活動そのものですが、大学と企業との共同研究として実施する場合は、緩めの関係を構築し、例えば年単位くらいの長期的な活動計画を話し合うことが、連携を長続きさせるコツだと思います。それぞれの成果を共有し、より高度な成果を生み出せることが産学連携の最大のメリットですが、組織が別ということは活動予算をどうするかが課題になります。関係を継続することで、行政からの予算獲得もやりやすくなると思われます。

[1]特許第6319679号,「閉領域同士の隣接面を探索する探索プログラム及び装置」
[2]タイヤ空気圧モニタリングシステム, 特願2009−438, 「3次元データ処理装置及び該装置を内蔵したタイヤ情報監視システム」

考古遺物の計測、解析をCGで支援

2018年9月現在、本研究室には学部学生5名、交換留学生3名、修士課程6名(うち留学生3名)、博士課程3名(うち留学生3名)、ポスドク1名が配属されています。留学生は主に、中国、モンゴルから受け入れています。本研究室で博士の学位を取得した修了生が、帰国して大学教員となり、彼らの推薦する留学生を受け入れることが多いです。修了生からの推薦なので、身元もしっかりしており、安心して受け入れています。

私自身の学位論文は、3次元形状の外形を表す曲線メッシュ上で、隣り合う面同士を滑らかに接続できる曲面表現と、曲面同士を接続するためのアルゴリズムに関するものです。この研究は理論研究で、はまれば楽しいのですが、数学的なバックグラウンドを多く必要とします。基礎の部分の修得に時間がかかるため、博士課程へ進学しない学生にはおすすめしていません。しかし、この技術は3DCGの基盤となる技術で、点群処理や、計測システムの内部設計・開発に非常に役立っています。本研究室の主な研究テーマと研究概要は下記の3つです。


【1】石器計測と接合処理

石器は、母岩と呼ばれる原石を打ち欠き、破片を取り出し、その破片の形を調整して制作したツールです。主に黒曜石などが材料として用いられています。打製石器を制作する過程では、破片が多く飛び散りますので、遺跡からは飛び散った破片が発掘されるわけです。

発掘された破片を集め、組み立てることで接合資料と呼ばれる資料が作成されます。接合資料は破片を3次元的に組み立てるので、ジグソーパズルの3次元版と言え、組み立てには試行錯誤を伴います。これをコンピュータで支援するアルゴリズム開発や、システム構築をしています。

▲【左】石器(模造品)を接合したもの/【右】本研究室が開発した石器接合アルゴリズムによる【左】の接合結果。研究の詳細は、本記事の3ページ目で紹介しています


【2】土器復元と接合用インターフェイス

土器は、祭事用あるいは日常生活の煮炊きなどで使われたものが出土します。石器と異なり、多くの場合、土器は破壊された状態で出土します。手動による土器の組み立ては、石器接合資料の作成とは異なり、組み立てる過程で表面の模様や特徴的な形状などが現れてくるので、ある意味楽しいと考えます。この研究では、ユーザーの楽しみを損なわずに、試行錯誤による土器片の破損などを回避できるシステム開発を目指しています。


【3】点群処理基盤アルゴリズム

形状表面を表す点群は、レーザー計測や写真計測などで得られます。市販の計測装置は大量にある対象物を計測することが少し苦手なので、ラングと共同で、大量に出土した考古遺物を効率良く計測する「多方向大量同時計測装置」を開発しました。この装置は実務で稼動しており、業務の合間に実験用の点群を計測したりしています。

▲本研究室が開発した多方向大量同時計測装置。研究の詳細は、本記事の4ページ目で紹介しています


最近は、モンゴルの文化財のひとつである、ザナバザル制作の仏像を計測し、形状解析を実施しています。解析は、モンゴル国立大学のエンフバヤル先生(本研究室の修了生)との共同プロジェクトで、日本・モンゴル工業系高等教育支援事業と、日本学術振興会の二国間交流事業の支援で行なっています。

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