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No.005:岩手大学 理工学部 今野研究室

No.005:岩手大学 理工学部 今野研究室

RESEARCH 1:計測点群を用いた石器接合アルゴリズム

・研究目的

本研究の目的は、出土した石器を計測した点群を用いて、接合資料を作成する方法をユーザーに提示することです。出土した石器は、洗浄、母岩分類(材質などに基づいた分類)などを経て、材質・色・模様などを手がかりに面同士を接合していきます。石器をジグソーパズルのピースと考え、隣り合う(すなわち面が合わさる)ピースを探索することが課題となります。ジグソーパズルとは異なり、石器接合では必要な全てのピースが出土するとは限らないので、「もうこれ以上接合しない」という判断が非常に難しいといわれています。本研究では、ある遺跡から出土した石器だけでなく、近隣の遺跡から出土した石器を含む膨大な数の石器を全てテストできるようなしくみも検討しています。

石器のマッチングは、剥離面と呼ばれる面単位で行います。本研究では剥離面の形状の一致度を算出して、最も一致度の高い面同士を接合します。また一般的に複数の母岩が混在した状態で接合が行われるので、本研究ではその状況を想定し、複数のグループの石器を混在させた状態で、接合資料生成が可能かどうかを検証しました。


・主な先行研究

破片を計測して組み立てる研究はいくつか行われています。Huangらは、破壊された塑像を組み立てるために、隣接する破片を探索する方法を提案しています[1]。またBrownらは破壊されたフレスコ壁を復元するために、Huangらの方法を応用し、隣接する破片を探索する方法を提案しています[2]。これらの方法では、破片の断面形状に激しい凹凸がある場合を想定し、変化の具合を手がかりにマッチングしています。一方、石器剥離面は面形状が滑らかで変化が少ないため、前述の手法を適用することは困難です。


・研究内容

本研究では石器を3次元計測した点群を用いて、次のながれで隣接剥離面探索と隣接剥離面の3次元空間姿勢を算出しています[3]。

【1】石器点群軽量化
【2】稜線抽出
【3】剥離面認識
【4】隣接剥離面検出と空間姿勢算出
【5】剥離面再構築

【1】、【4】、【5】は、本手法の中核を成すアルゴリズムになっています。【1】の石器点群軽量化では、【4】の隣接剥離面検出の精度を向上できるような軽量化手法[4]を用いています。また【4】では、剥離面同士の幾何学的な一致度を、距離と剥離面の面積を考慮して算出する新しい評価法を開発・導入しています。さらに【5】は、2つの石器を接合することによって現れる剥離面をその都度認識することで、複数の石器にまたがる複合的な剥離面を処理できるようになっています。これまで石器接合を自動化した例はほとんどなく、考古学者からもおおいに期待されている技術です。

▲【左列】石器(模造品)を接合したもの/【右列】本研究室による【左列】の接合結果


▲【左】2つの石器の接合例。モデル1(薄い緑色)とモデル2(濃い緑色)を接合しました/【右】【左】の接合では、モデル1のV1とモデル2のV2、およびモデル1のV3とモデル2のV4が接合箇所の境界線の端点になります。接合の結果、青色の線で囲まれた剥離面が再構築されています。赤色はモデル1、黄色はモデル2の剥離面だった部分です


▲3つの石器を接合し、剥離面を再構築しています。黄色の線は、再構築された剥離面の境界線を表しています


・制作現場での実用の可能性

本研究成果は特許化(特許第6319679号)されており、共同研究しているラングと共に実用化を目指しています。実用化するためには、接合された情報を解析して、実際の石器を接合する手順を抽出した後、ユーザーにわかりやすく提示する必要があると考えています。

・今後の課題

本研究では剥離面の一致度に基づいてマッチングする手法を採用していますが、剥離面が部分的に一致している場合や、一致している面積が非常に小さい場合にも正しい結果が得られるように、アルゴリズムを拡張していく必要があると考えています。


・参考文献

[1]Q.Huang, S.Flory, N.Gelfand, M.Hofer, H.Pottmann, "Reassembling Fractured Objects by Geometric Matching", ACM SIGGRAPH 2006, pp.569-578, 2006.
[2]B.J.Brown, C.Tolerfranklin, D.Nehab, M.Burns, D.Dobkin, "A System for High-Volume Acquisition and Matching of Fresco Fragments : Reassembling Theran Wall Paintings", ACM TOG, Vol.27, No.3, pp.84:1-84:9, 2008.
[3]千田あゆみ, 松山克胤, 千葉史, 今野晃市 : 接合資料作成のための計測点群による高速な隣接剥離面探索手法, 芸術科学会論文誌, Vol.13, No.2, pp.107-115, 2014, 芸術科学会論文賞受賞.
[4]X. Yang, K. Matsuyama, K. Konno, Y. Tokuyama : A Feature Preserving Simplification of Point Cloud by Using Clustering Approach Based on Mean Curvature, The Journal of Art and Science, Vol.14, No.4, pp.117-128, 2015.


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