>   >  日本にフルCGアニメは根付くのか?:第 4 回:勝間田具治(アニメーション監督・演出家)
第 4 回:勝間田具治(アニメーション監督・演出家)

第 4 回:勝間田具治(アニメーション監督・演出家)

どんな様式であっても基本はドラマを演出すること〜現役最高齢の演出家からみた 3DCG

野口:フル3DCGアニメーションに対してどのような印象をお持ちですか?

勝間田:やはり、ただフォトリアルに仕上げただけでは面白くはならないだろうね。この前、『アシュラ』(2012) の試写を見せてもらったけど、ストーリーとしてもアニメーションの動きとしても凄くよくできていたよ。さとうけいいち 監督 は巨匠になるんじゃないかな。

野口:なるほど。

勝間田:『アシュラ』は原作漫画を読んで、ストーリーや絵柄的にも実写には不向きだし、アクション的には作画よりも 3DCG に向いていると思っていたんだ。今回の CG 版の『アシュラ』を観たら、イマジネーションがアニメの感覚で広がっていくように感じて「これはいいな」と素直に感心したよ。

野口:それは、3DCG アニメーション制作に携わる身として嬉しいです。先日調べてみたのですが、日本でフル CG アニメーションが制作されるようになって15年ぐらい経つのですが、これまでなかなか産業としても文化としても発展できずにいました。ですが、ここに来てようやく、次のステージへと発展できる兆しを感じるのでよりいっそう頑張りたいところです。

勝間田:フルCGアニメも、2D アニメで相応の実績を持つ演出家が立つようになれば変わると思うけどね。

野口:残念ながら、これまではなかなか来てくれなかったのです。やはり、2D 出身の方々は作画アニメーションがお好きなのでしょうか?

勝間田:2D アニメと同時に、子どもの頃から漫画を通してそうしたルックに慣れ親しんでいることはあるかもしれないね。だけど、演出家は常に新しい表現を追い求めているから単にこれまで知る機会が少なかったということだけじゃないのかな。『アシュラ』みたいな作品を観て、僕みたいに触発される演出家は必ず出てくるはずだよ。

勝間田氏ポートレイト6

 

野口:21世紀に入り、アニメの作り方が変わってきたなと感じることはありますか?

勝間田:制作技術とレイアウトのクオリティは目覚ましく発展したと思うよ。ただ、逆に悪くなったと感じるのは、"ドラマが描けていない作品が増えた" ことだなあ。例えば、主人公がイジメを受けたとする。主人公の悲しみをセリフ1つ2つで表すのは当たり前だけど、そうした描写から1〜2秒で直ぐに次の展開に繋いでしまう(主人公の悲しみや悩みが描ききれていない)といった具合に、さっきも話した "間" が描けていない作品が増えてしまった。テンポ優先になっちゃってるんだよね。

野口:なるほど。ドラマツルギー(起承転結や人物設定など、ドラマを描く上で原則となる作法)を踏まえていないということですね。

勝間田:そうだね。ただしアニメーションの場合、基本はしっかりとドラマを描くことであることは実写と変わりはないけれど、アニメーターの素養がある人が演出した方がいいと思うね。それで成功したのが、宮ちゃん(宮崎 駿 監督のこと)なわけだから。そうした意味でも、CG 畑の人はアニメーションを勉強して、作画アニメの人たちは 3DCG を勉強するべきだよ。東映の京都と大泉がお互いのノウハウを学んでいったようにね。

野口:おっしゃる通りです。この連載でもよく話題に上るのですが、もっと 3DCG 制作者と作画スタッフとの交流が深まるといいのですが。

勝間田:必ず増えてくると思うよ。3DCG はカメラワークの自由度が大きいから、三角演出との相性も良いはず。だから僕も CG アニメを覚えたいと思っているんだ。

野口:ぜひ。最後に勝間田さんが演出される上で大切にされていることを教えていただけますか?

勝間田:ひとりの人間としての自分ならではの信念、テーマだよね。商業制作の場合、ほとんどのプロジェクトが原作付きなわけだけど、そうした中で演出家としての個性をどれだけ出せるのか、自分なりのスタイルをどう見せるかということにはこだわっているよ。

野口:なるほど。確かに技術や制作手法は移り変わっていきますし、流行りを追うだけではそのトレンドが終わったときにキャリアも尽きてしまう恐れがありますよね。自分独自のスタイルというものは一朝一夕に出来上がるものではありません。そうした意味でも勝間田さんのキャリアをお聞きして 継続は力なり だなと改めて実感しました。今日はありがとうございました!

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INTERVIEWER_野口光一(東映アニメーション
EDIT_林 伸彦(モーションビッツ)、沼倉有人(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充
LOCATION_更科(大泉学園)

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