日本クリエイター育成協会(会長:佐野浩章/ツェナネットワークス)は2月15日(月)から17日(水)までの3日間、学生が制作したゲームの発表展示会「Creator Conference for Students(CCS)2016」を開催した。残念ながら最優秀賞は「該当者なし」だったが、音楽ゲーム『TAKTRHYTHM』(太田情報商科専門学校/Project Takt)と脱力系ゲームの『WAU(ワウ)』(名古屋工学院専門学校/Sprout)が優秀賞に輝いた。

▲7校135名が参加したCCS2016の発表会

  • ▲TAKTRHYTHM(太田情報商科専門学校/Project Takt)

  • ▲WAU(名古屋工学院専門学校/Sprout)

同協会はゲームクリエイターの育成を目的として産学連携で運営されている任意団体で、ゲーム会社19社、学校5校、準会員校7校から構成されている。CCSは同協会が受け皿となり、平成20年度から形を変えながら実施されている文科省委託事業だ。今年度は初日に学生向け講演会、二日目に全29タイトルが並んだ学生作品の展示会、三日目には7校135名が参加する発表会が行われ、企業審査員を前に10作品のプレゼンテーションが行われた。

▲協会参加企業の9社が審査員を務めた

発表会で特筆すべきは、腕の動きをLeap Motionを用いた音楽ゲーム「TAKTRHYTHM」の高評価だ。ゲームに加えて譜面エディタも独自に作成。優秀賞に加えて、参加者の投票で決まるオーディエンス賞と企業賞(グリー賞/クリプトン・フューチャー・メディア賞)をあわせて4冠に輝いた。開発チームからは「楽しみながら作ったゲームが、実際に遊んでもらえて評価されたことが、とても嬉しい」「展示会でいただいた改善案をもとにパワーアップさせたい」などのコメントが聞かれた。

※Leap Motion・・・手のジェスチャーによって操作できるデバイス(https://www.leapmotion.com/?lang=jp

▲ジェスチャーでゲームを操作しながらプレゼン

▲楽曲を選択してゲームをプレイ。譜面エディットも作った。

もっとも、協会会長の佐野浩章氏(ツェナネットワークス)は「最優秀賞が出なかった意味を改めてかみしめて欲しい」と総評を述べた。佐野氏は「主催者側では『伝える』ことを最大のテーマに設定した」と語り、学生が自分たちで作ったゲームの価値を、自分たちの手でどの程度周囲に伝えられるかに注目したと述べた。しかし、総合的にみて最優秀賞に値するタイトルが本当にあるか考えたとき、厳しい評価にならざるを得なかったという。

▲日本クリエイター育成協会 会長 佐野浩章氏(ツェナネットワークス)

ただしこれは佐野氏によると、学校側が学生に対してきちんと指導をしてこなかった点も否定できないという。その上で学生に対して、これからもっと勉強して人に伝える努力を続けて欲しいと激励するとともに、学校に戻ったら、ここで学んだことを友人に伝えて、全体でレベルを上げていって欲しいと呼びかけた。また発表会に出席した教員に対しても、来年にむけてより精進して欲しいと補足した。

▶︎次ページ:受賞作品の紹介︎ [[SplitPage]]

受賞作品の紹介(カッコ内は学校名/チーム名)

最優秀賞
該当者なし

優秀賞
TAKTRHYTHM(太田情報商科専門学校/Project Takt)
WAU(ワウ)(名古屋工学院専門学校/Sprout)

▲左:TAKTRHYTHMチーム 右:WAUチーム

プレゼンテーション賞
PROJECT STINGER(ECCコンピュータ専門学校/藤原重工)

オーディエンス賞
TAKTRHYTHM(太田情報商科専門学校/Project Takt)

企業賞
・ボーンデジタル賞



天パでもいいんだ!(新潟コンピュータ専門学校/平田澪礼)

・アールインフィニティ賞



さんすうブロック(新潟コンピュータ専門学校/髙野倭)

・トライクレッシェンド賞



PROJECT STINGER(ECCコンピュータ専門学校/藤原重工、教員代理受賞)

・ツェナネットワーク賞



すしいくさ(ECCコンピュータ専門学校/寿GAMES)

・ネクセンス賞



EdiTube(名古屋工学院専門学校/かもしか製作所)

・グリー賞



TAKTRHYTHM(太田情報商科専門学校/Project Takt)

・クリプトンフューチャーメディア賞



TAKTRHYTHM(太田情報商科専門学校/Project Takt)

・DeNA賞


Underling(早稲田文理専門学校/Wisteria forest side street)

・スマイルブーム賞



WAU(ワウ)(名古屋工学院専門学校/Sprout)

CCSではゲーム開発を学ぶ学生の発表の場として「学生ゲーム投稿サイト」を運営しており、ここへの投稿がCCS2016のエントリーとなる。特に本年度はエントリーの全作品でゲームの紹介動画が投稿され、より手軽に内容を理解することができるようになった。その後、展示会でのゲームプレイと、発表会のプレゼン内容を総合的に審査して各賞を決定。プレゼン時間は各チーム8分に制限され、ここでも「伝える工夫」が促されていた。

全エントリー作品はこちら(http://ccs.gamelearning.jp/tag/ccs2016/

▲学生ゲーム投稿サイト(http://ccs.gamelearning.jp/

▶︎次ページ:発表会プレゼン作品10タイトル︎ [[SplitPage]]

発表会プレゼン作品10タイトル

01 クリスタル・リキャプチャー(穴吹コンピュータカレッジ)

6人のヒーローを操作して、奪われたクリスタルを取り戻す3Dアクションシューティング。スキルポイントでお気に入りヒーローを強化しながら、全てのクリスタル保護をめざしていく。クリスタルの力を活用する特殊なショットも放てる。


02 WAU(ワウ)(名古屋工学院専門学校)

スマートデバイス向けのリズムアクションで、画面を上下にスワイプして波形の高低を操作し、タップで合いの手を入れていく。ヘタウマ感あふれるグラフィックやサウンドが魅力の脱力系ゲームだ。


03 EdiTube (名古屋工学院専門学校)

ユーチューバーなど、ゲームのプレイ動画の投稿者の気分が味わえるアクションパズル。横スクロールの2Dステージが縦に分割されており、一つひとつをパズルのピースに見立てて、キャラクターがステージをクリアできるように組み変えていく。


04 たんぽぽの逃飛行(太田情報商科専門学校)

風の妖精を操り、綿毛に掴まった小人を仲間の待つ花畑へ送り届ける風力アクションゲーム。綿毛を直接操作することはできず、風を起こして移動させる点がポイント。スタミナ切れやカラスなどから守りつつ、花畑をめざしていく。


05 TAKTRHYTHM(太田情報商科専門学校)

入力デバイスにLeap Motionを用いたリズムアクション。手の動きで入力することで、入力方向を上下左右の4方向に拡張。ラインに沿って手を動かすなど入力方法もバリエーションを加えた。ボカロ曲なども使用されている。


06 Project Stinger(ECCコンピュータ専門学校)

ステージクリア型の3Dアクションゲーム。プレイヤーはロボットを暴走させ、街を混乱に陥れた「赤い機体」を倒すため、ウェポンチェンジやコアメモリシステムを駆使して敵を倒していく。


07 SEEKERS(ECCコンピュータ専門学校)

制限時間内に他のプレイヤーよりも多くのクリスタルポイントを集めることが目的の4人対戦アクション。ステージに散らばるクリスタルを集めるだけでなく、相手を倒してポイントを獲得することもできる。


08 すしいくさ(ECCコンピュータ専門学校)

寿司屋が舞台の4人対戦アクションゲーム。それぞれ性能の違ういくら、いなり、まぐろ、えびのキャラクターを操作して、しゃりをとりあって握り寿司になるとポイントゲット。相手を倒すことでもポイントが得られる。


09 Unity トレジャーハント(国際電子ビジネス専門学校)

探索型3Dアクションゲーム。Unityちゃんを操作して敵を倒したり、フィールドを探索してお宝を集めていく。近接攻撃のモーションや、敵を倒したときのエフェクトなどが美麗に作られている。


10 Underling(早稲田文理専門学校)

リアルタイムストラテジー風味の音楽ゲーム。魔王の城に四方から攻め込んでくる勇者達をタイミング良くクリックして倒しつつ、音楽を奏でていく。時折巨大モンスターも登場するが、マウスの長押しで倒せる。


プレゼン内容は各チームとも洗練されており、事前の練習が想像された。しかし、事前にアップロードされたゲーム動画を再生するだけで、ゲームのデモが行われなかったチームもみられた。また、原稿を読み上げるだけのプレゼンが行われたチームがあったのも残念だった。審査員からのコメントもプレゼンの方法についての指摘が多く、ゲームを作ることにくわえて、魅力を伝えることの重要性が強調されていた。

発表会では協会事務局長の丸山一彦氏(早稲田文理専門学校)から本事業の説明も行われた。丸山氏はCCSが国の支援で行われている点を強調し、文科省の委託事業の中には、専門学校のカリキュラムをチェックする項目がある点にも触れた。そして、その成果を担保するためにも、卒業後にゲーム業界の中核的存在として活躍して欲しいと呼びかけた。「ゲーム会社に就職して活躍し、ぜひ後輩にハッパをかけにきてください」(丸山氏)

▲日本クリエイター育成協会 事務局長 丸山一彦氏(早稲田文理専門学校)

▲文科省の委託事業について

実際、展示会で出展された29作品をみると、最も多くのタイトルを出展した名古屋工学院専門学校(9作品)から、最も少なかった早稲田文理専門学校(1作品)まで、ばらつきがみられた。開発ツールもVisual StudioでそろえたECCコンピュータ専門学校と穴吹コンピュータカレッジ、UnityやUnrealEngin4などバラエティにとんだ名古屋工学院専門学校など、学校ごとに特色がみられた。

※一覧はこちら(http://goo.gl/SBE9qS

ゲーム業界で求められる人材が高度化・専門化している一方で、企業側の新人育成という点においては課題も多くある。そのため、産学連携による人材育成の必要性はますます高まっており、こうした中でCCS2016はたしかな歩みが感じられたイベントとなった。学生向けのゲーム投稿サイトで交流機会を提供しながら、実際の発表会に繋げていくという点でもユニークだ。次年度以降の取り組みについても期待をよせていきたい。

TEXT&PHOTO_小野憲史