6月7日(金)より全国上映中のアニメーション映画『海獣の子供』。漫画家・五十嵐大介氏の初長編にして、多くのファンをもつ大人気作だが、独特のタッチから映像化は困難と目されてきた。そんな前評判を覆し、長編アニメーションとして新たな命を吹き込んだのがSTUDIO4℃だ。映画『鉄コン筋クリート』(2006)などエキセントリックな話題作を多く手がけてきた同スタジオにとっても、本作はひと筋縄ではいかなかったようだ。

その苦難の道のりはCGWORLD vol.251の連載「アニメCGの現場」でもお伝えしたが、本誌だけではデザイナーたちの想いの全ては伝えきれない! ......ということで、劇場公開を迎えた本作を祝して、作品を支えたCGデザイナーたちによる特別座談会を開催した。その模様を全3回にわたってお届けする。第1回となる今回のテーマは「海の生き物=海洋生物」。鮮やかな模様の魚や小魚の群れ、そしてザトウクジラ......。裏の主人公とも言える彼らの制作には、どのような秘密が隠されているのか。CGWORLD.jpだけの特別なメイキング映像も満載! お見逃しなく!!

TEXT_野澤 慧 / Satoshi Nozawa
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

映画『海獣の子供』6月7日(金)全国ロードショー
原作:五十嵐 大介『海獣の子供』(小学館 IKKICOMIX刊)/監督:渡辺 歩/音楽:久石 譲/キャラクターデザイン・総作画監督・演出:小西賢一/美術監督:木村真二/CGI監督:秋本賢一郎/色彩設計:伊東美由樹/音響監督:笠松広司/プロデューサー:田中栄子
主題歌:米津玄師『海の幽霊』(ソニー・ミュージックレーベルズ)
アニメーション制作:STUDIO4℃
製作:「海獣の子供」製作委員会
配給:東宝映像事業部
www.kaijunokodomo.com
Twitter:@kaiju_no_kodomo
©2019 五十嵐大介・小学館/「海獣の子供」製作委員会

海洋生物~「生命」を生み出すデザイナーたちの試行錯誤〜

CGIディレクター・秋本賢一郎氏(以下:秋本):本作ではCGの海洋生物が40種類以上登場します。手に寄ってくる魚とか、人間のキャラクターと一緒に泳いでまわりをまわる海洋生物に関しては作画で、後ろの賑やかしとか、作画がまったくないシーンで大量に魚がいる場合はCGを用いました。

左から、CGIデザイナー・平原貫人氏、CGIデザイナー・中島隆紀氏、CGIデザイナー・Alex BOIL氏、CGアニメーター・平野浩太郎氏、CGIアーティスト・稲葉 昌也氏、CGIディレク ター・秋本賢一郎氏、CGIデザイナー・海老原 優氏。以上、STUDIO4℃ www.studio4c.co.jp

CGIデザイナー・海老原 優氏(以下、海老原):例えば、海と空がジュゴンと一緒に泳いでいるシーンでは、海と空とジュゴンは作画で、まわりを泳いでいる魚はCGで、という感じですね。

秋本:2人がジュゴンと楽しそうに泳いでいるシーンのジュゴンをCGで描くのは時間がかかりそうだったので、スケジュール的に作画が良いと判断しました。CGの作業は、まず3Dモデルをつくることになりますが、その半分以上を海老原さんが担当しています。

海老原:キイロハギから始めて、15体以上は作成しました。

秋本:新入社員として入ってから、ずっと魚ばかりつくってもらって......。

海老原:入社したときは、まさかこんなに魚をつくることになるとは思っていなかったです(苦笑)。

秋本:彼は『ベルセルク』が好きで、映画版をSTUDIO4℃が制作していたので続編をつくれると思って入ってきたのに、えんえんと魚をモデリングさせられて......想いが顔に出ていましたね。

海老原:おかげで、魚の種類に詳しくなりましたよ!

秋本筑波大学にも研究協力をお願いしました。そこで、12種類の泳ぎ方があると知って、それに沿ってリグを入れてもらっています。

海老原:魚によって可動部分がちがうんです。骨の構造をネットで検索して、どういう形になっているか見ながらつくっていきました。今では、骨の形を見れば、だいたいどこが可動するかわかるまでになりました。


  • ツバメウオの3Dモデル。左がアニメーションモデルで、右がローモデル

  • ツバメウオのセットアップ。ローモデル(右)では動いても見えないヒレや口などは骨を抜いてシンプルにしている

CGIデザイナー・Alex BOIL氏(以下、BOIL): 今はYouTubeとかで手軽に動画を見られるので、すごくラッキーな時代だなって感じます。映画『ライオン・キング』(1994)のアニメーターは本物を見て描いたと聞きました。それはそれですごいことですけど、いつでも手軽に見られるという点では、便利な世の中になったなと。

秋本:われわれも水族館に行って、実物の海洋生物を見ました。

CGアニメーター・平野浩太郎氏(以下、平野):行きましたね。ただ、僕の担当したヴィーナス(※)だけは実物を見られていないんです。

※:劇中で象徴的な存在のザトウクジラ

BOIL:クジラを実際に見るのは難しいですよね。

平野:ホエールウォッチングでもなかなか見られないくらいですから......。ジンベエザメなら、子どもの頃に海遊館で実物を見た記憶があるんですけど。そこでザトウクジラはYouTubeなどの映像を観て作業しました。

海老原:エイとかライオンフィッシュミノカサゴもつくられていましたよね?

平野:つくりましたね。エイとかは口のまわりが難しくて。どんな構造になっているのかよくわかりませんでした。図鑑を見ても、見たい部分が見られるわけではないので、結局それも映像をひたすら探して、見て、モデリングしています。

BOIL:ネイチャー系のドキュメンタリーとかの映像も大量に見ました。

平野:僕は映画『オーシャンズ』(2010)をめちゃくちゃ観ました。もう何回観たかわからないくらいですよ。

秋本:でも、そういう映像を観ると大体打ちのめされちゃって......。イルカが気持ち良い動きをするなぁとか。

平野:そりゃ実写映像は「現実世界のシミュレーション結果」ですからね(笑)。自分も実写映像を見て、8Kどころじゃない無限ピクセルのすごさに打ちのめされました。今回はテクスチャが特徴的ということもあったので。

秋本:原作の雰囲気を出すために、テクスチャにタッチを描き込んでいますよね。

海老原:描き込んだテクスチャをベースモデルに使って、さらにAfter Effectsで加工しています。

平野:テクスチャを工夫することで、『海獣の子供』らしいオリジナルの魚たちが生まれました!

秋本:テクスチャは基本的に4Kで描いていて、ザトウクジラに関してはそれこそ8Kのものもありましたね。

平野:正直、8Kの恩恵はそれほど受けられなかったです......。8Kだと結構寄ることができるので、恩恵を受けているといえば受けているんですけど。ほかにしなければいけないことがいろいろありすぎて、8Kがどうでもよくなっていきました......(笑)。

海老原:ザトウクジラは大変そうでしたね......。原作漫画を読んで「原作ならこう描くかな」とテクスチャを描いてみたんですが、原作は漫画表現だから成り立っているというところもあって、そのまま描いたテクスチャを魚に貼り付けると上手くいかなかったんです。

秋本:原作の情報量だと多すぎてしまうこともあって、奥の方でCGの魚が泳いでいるときに、テクスチャが過密な感じに見えてしまうんですよね。

平野:ライオンフィッシュミノカサゴも、群れの中だとサイズは小さいのに、テクスチャの情報量が多すぎて潰れがちで、ほぼ使えませんでした。単品で見るとラスボス感があってカッコ良いんですけどね。

秋本:原作の雰囲気とCGアニメとしてのバランスをとるために、描いては消してと繰り返し描きました。


  • ライオンフィッシュミノカサゴの設定画(仮色)

  • CGによるライオンフィッシュミノカサゴ(本番色)

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魚群~CGの強みを活かしたCGでしか描けない迫力の映像を創生する~

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魚群~CGの強みを活かしたCGでしか描けない迫力の映像を創生する~

BOIL:冒頭の安海琉花が水族館で巨大水槽を見上げるところの魚群はCGでつくっています。

秋本:大量に出てくる魚を、1匹1匹手で描いていくのは厳しいですからね。

CGIデザイナー・平原貫人氏(以下、平原):特に、魚群みたいなものはCGでやるしかないと思います。

秋本:Alex(BOIL)さんはフランスから来て、面接をしたときに、今こういうプロジェクトがあると『海獣の子供』のことを話したら「がんばります」と言ってくれました。実際に入社してチームに参加してくれたときには、原作も読んでくれて、すっかり作品が好きになっていましたよね。

BOIL:そうですね! 魚群の制作は初めてだったので、入社後にイチから勉強し始めました。あのシーンはいくつかの魚群を、レイアウトの軌道に合わせてアニメーションさせています。それぞれの魚群の泳ぎ方は、実はアニメーションをループさせていて、MayaのnParticleのInstancerという機能でコントロールしました。

秋本:3Dモデルを使ったパラパラアニメみたいなイメージで、泳ぎのアニメーションのループを何パターンかをつくって、それをnParticleでランダムに当てはめる感じですよね。

BOIL:泳ぎ方だけでなくて、デフォーマという機能で、3Dモデルの魚の形も歪みをつけています。

秋本:ただ泳ぐだけでは硬いので、ブヨブヨと太ったり痩せたり、伸びたり縮んだり、させているんですよね。

BOIL:そうです。クラゲなどでも同じように大きさをアニメーションさせて、柔らかい感じを表現しました。

平野:作画だと1枚1枚描いているから、作画の人もぶよぶよさせたいと思っているわけじゃないでしょうけど、1フレームごとに絵が更新されているのが生きているような感じがするんだろうなと。CGは綺麗にレンダリングできてしまうので、それをあえてどれだけ崩していくかポイントです。

秋本:さらに、今回はラフの画に厳密に合わせなくてはならなかったので、Instancerのパスを何本もつくって、強引に合わせてもらいました。

BOIL:大変でした......(笑)。後は、冒頭の水槽のシーンで、海(キャラクター)を魚群が追いかけるカットは、手描きの線とパーティクルのハイブリッドで、そこも苦労しました。

秋本:パーティクルだけでは足りないので、パーティクルでコントロールする魚群に加えて、手描きの線や1匹1匹アニメ-ションをつけているCGの魚も混ぜています。

BOIL:1匹ずつアニメーションをつくっていくのは大変ですが、やはりそういう魚が混ざっている方が自然に見えますね。

平野:本当にパーティクルの魚群は大活躍です! 使っているカット数で言ったら、100カットくらいあるかもしれないですね。

秋本:最後の大詰めのシーンでは30カットくらいありますし、途中の魚が移動し始めたカットや、要所要所で画に迫力をプラスしてくれています。もっと手軽にじゃないですけど、誰もが使えたらと思うのですが......。

CGIデザイナー・中島隆紀氏(以下、中島):みんなAlex(BOIL)さんほどは上手く使えないですね(汗)。

秋本:Alex(BOIL)さんは魚群マスターです(笑)。

BOIL:やっぱり作画の方が良いのかなと思うこともありますが、自分でも良くできたと思います!

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ヴィーナス~ザトウクジラのアニメーションを極める〜

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ヴィーナス~ザトウクジラのアニメーションを極める〜

秋本:ヴィーナス(ザトウクジラ)を描くにあたって、テクスチャの質感と、躍動感のある動きを両立させるため、CGと作画のハイブリットで挑みました。本作でCGが採用された理由のひとつは、ここにあります。

平野:作品の中で、影の主人公的な重要なキャラクターだったこともありますが、通常のCGのつくり方ではヴィーナスを描くことは無理でしたね。

海老原:ヴィーナス以外の他の魚たちは、骨に合わせてボーンを入れていくという、セオリー通りのやり方でつくっています。ヴィーナスも当初は同じようにセットアップされていました。

秋本:平野さんには、ヴィーナスのアニメーションをつける段階からチームに参加してもらったので、入ったときにはセットアップが終わっている状態でしたね。

平野:基本的に作画アニメにおけるCGは、手描きで描かれたラフなレイアウト、つまり「こう動かしてください」という大まかな指示があって、それに合わせていきます。

秋本:CGを手描きの絵と厳密に合わせるということは、相当難しいことなんです。通常の作品であれば多少ズレていても大丈夫ですが、今回の作品は絶対に合わせなければなりませんでした。

平野:ラフレイアウトの線をそのまま使う勢いで、作画監督の線は絶対という感じでした。ただ、作画の絵とCGなので、通常のやり方をしていたらまず合いません。そこで、腹部や顔などの本当のクジラにはありえないところにも骨を入れて、ラフのシルエットにピッタリと合わせられるセットアップをつくることにしました。

BOIL:どのカットにも自由自在に合わせられるセットアップですか?

平野:いえ、ひとつのセットアップで全てのシルエットに対応するのは不可能なので、カットごとにアニメーションを付けやすいセットアップを考えて組みました。

カットごとに組まれたヴィーナスのセットアップの一部

海老原:テクスチャでも、苦労されていましたよね。

平野:そうですね......。お腹に人型の模様をもつヴィーナスは、その人型も絶対にラフに合わせないといけませんでした。テクスチャは1枚しかないんですけど、ラフで描かれた人型はカットごとに形のバランスが変わっているので、そのままだと合うはずがないんです(苦笑)。

秋本:3Dモデルのシルエットを合わせるだけでも大変な作業なのに、加えて模様まで合わせないといけないのは本当に大変そうでしたね。

平野:MayaのSOuPというプラグインを使って、テクスチャをその場で動かせるように工夫することで、何とか乗り切りました。知り合いのCG屋と話していると「とんでもないですね」と驚かれますよ(笑)。

秋本:この作品は異端ですからね!

平野:この作品は、とにかくCGを否定されまくったようなところがありました。総作画監督の小西賢一さんはバリバリの作画の方で、CGを嫌いとは言わないけど、作画に求める厳しさをCGにも求めていると感じましたね。

秋本:作画がすごいクオリティなので、CGのアニメーションのレベルが足りていないなら作画で描くというところまでいって、ギリギリのところでジャッジをもらいCGにさせてもらった、というところも多々あります。ヴィーナスも、後もうちょっとのところで作画になりそうでした。

平野:3Dモデルを動かしたときに「プラスチックの人形が動いているみたい」とか、よく言われたんです。でも、僕ら自身もCGくさいと感じていたところもあったので、そういうものを完全になくすことをマストに、ひたすら向き合いました。

秋本:ヴィーナスに関しては、ほとんどレンダリングせずに、プレイブラストで対応したのは驚きましたね。

平野:そうなんですよ! だから、After Effectsで加工しまくっています(笑)。どうしてプレイブラストかと言うのにも、こだわりがありまして。作画のアニメーターさんたちは、少し描いてはパラパラ漫画のようにして動きを確認しているじゃないですか。でも、CGは作業中の画面とレンダリング結果が結構ちがうんですよ。

CGIデザイナー・稲葉昌也氏(以下、稲葉):確かにそうですね。

平野:レンダリングしてみないと結果がわからないCGと、描いたものが結果という作画のスピードとの差が、アニメをつくる上で、CGと作画とのクオリティの差に関係しているんじゃないかなと思うんです。作画のアニメーターさんたちは、ラフから形を整えていって、その過程でアニメーションが研ぎ澄まされていくんですが、CGアニメーターは動きをつくってレンダリングして結果を見るまで何時間もかかって、時間的に妥協しないといけない部分があります。

BOIL:スーパーモンスターマシンを積むしかないですね。

平野:CGは何回もつくってやり直さないと、作画アニメのクオリティには達しないので、結果が比較的早く出るプレイブラストを使いました。

秋本:ただ、プレイブラストはラインが出ていないので、そのラインを手で描く作業が増えますよね。

平野:でも、1枚1枚ラインを描いていくことで見えてくるものがありました。その「ライン」で修正ができる点はメリットだと思います。

BOIL:魚群でも1匹1匹ラインを描いて調整していくと、良くなる感覚がありました。

平野:描くと自分の気もちも乗りますよね。そのスピード感は、CGで思い通りにならずに試行錯誤しているときと比べると、ちょっとずつでもゴールに近づいている感じがありました。ラインを手で描くのに2〜3日かかりましたが、最高のレンダリングになったと思えば「良し」です。

海老原:ビューポートの性能が上がったおかげで、ブレイブラストの結果がレンダリング結果とそんなに遜色ないということも後押しになりましたね。

平野:ここは良いけどここはちょっと......ってなったときに、シミュレーションは毎回全てを計算するので、ちがう問題が発生することがあるんですよね。作画だと良いところを残して悪いところを修正できますけど。

海老原:平野さんに直してもらったところも、そんなことがありましたよね。

平野:そうそう。海老原さんの指導をしていたときに、すごく気になる大きなミスと、簡単に直せるけど気になる小さなミスという、2つのミスを見つけたんです。

海老原:そのリテイクのときに、簡単に直せそうなものをその場で直していただいたんですが、そうしたら、すごく気になっていた大きなミスが、気にならなくなって。

平野:アニメーションって連続性なんですよね。

BOIL:パーティクルも手軽にはコントロールできないので、監督に「ここをこうしたい」と言われても、そこだけ直すのはちょっと難しい......。そこでMayaのMASHとかも試したんですけど、なかなかコントロールしにくくて。最終的にnParticleで調整しました。

秋本:結局シンプルじゃないとリテイク対応は難しいんですよね。

平野:『海獣の子供』はリテイクも厳しくて、動かざること山のごとしって感じでチエックに出してもなかなか「Yes」と言ってもらえませんでした。大変でしたけど、だからこそやりがいがあったし、完成して映像を観て、ここまでできたんだと幸せでしたね。

取材後記

第1回でお届けするのはここまで。最新のCG技術を用いながら、最終的には1コマ1コマ進めていく地道な作業工程には驚かされた。しかし、実際の魚と同じように泳ぎ、それに合わせて柔らかに揺れる身体をもつ3Dモデルを見ていると、まるで本当に生きているかのような錯覚に陥る。とすれば、制作工程はさながら、生命を生み出す過程だろうか。本物と造り物の境界があやふやになるような感覚は、この作品全体にも言える。独特なタッチの作風にもかかわらず、いつの間にか映像世界に惹き込まれている。単に「観る」ではなく「体感」する作品だ。ぜひ大きなスクリーンで、海の生き物たちの営みを体感してほしい。

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スペシャルメイキング

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スペシャルメイキング

■作画と見分けがつかないほど馴染んだCGによる海洋生物

CGで描かれた魚たち

CGの魚と作画を合わせた状態

完成映像。このように作画と密に絡むシーンでは、CG側が作画に寄せることで違和感をなくしている。「これでOKだけどもっとやれるよね? という感じで何度もリテイクされながら、1カットずつ進めていきました」(秋本氏)。丁寧につくられた海洋生物は、こうして比べて見ても、作画とCGをハッキリとは見分けられないほどだ

■途方もない手間がかけられたヴィーナスのカット


  • 【1】作画LO

  • 【2】作画のラフ原画


  • 【3】【2】をCLIP STUDIO PAINTでクリンナップしたもの

  • 【4】プレイブラストの出力結果



  • 【5】【6】AEでの調整作業前後。AEの「ゆがみエフェクト」を用いて、作画LOのシルエットに合わせる等の微調整を、1コマ1コマで行なっていく


  • 【7】プレイブラストではラインが出ないため、【6】に合わせてCLIP STUDIO PAINTでラインを描く

  • 【8】CGのヴィーナス、作画の水、背景の素組み

【9】完成画

ヴィーナスを構成している素材を紹介する。


  • 【1】カラー

  • 【2】Z深度(奥行きの程度を黒の濃淡で表している素材)


  • 【3】ライン

  • 【4】タッチ


  • 【5】絵画のようなタッチ(Video Gogh)

  • 【6】ノイズ


  • 【7】【8】【9】ノーマルマップ3種類


  • 【10】オクルージョン

  • 【11】蛇腹のテクスチャ

メイキング動画。これだけの手間がかけられたからこそ、視聴者に強烈な印象を残すシーンとなった

■パーティクルで制御された魚群①

CGの技術が存分に発揮されたイワシの魚群を紹介する。

魚のベースアニメーション

【1】イワシのループアニメーションモデル。MayaのnParticleのInstancerという機能で制御されている。単純に泳がせるだけでなく、パーティクルのデフォーマという機能で、身体の太さや長さを同時に変化させ、生物らしい柔らかな印象を与えられるように工夫された。このようなループアニメーションを何パターンか作成し、ランダムに使用している


  • 【2】作画LO

  • 【3】パーティクルのInstancerのパス。このシーンでは、約15本ものパーティクルがつくられた。【2】の作画LOに合わせるために、複数のCurve Flowを作成してアニメーションさせている。それぞれのパーティクルの色は、それぞれ別のCurve Flowだ。このシーンでは、約15本のパーティクルがつくられている


  • 【4】インスタンス後。イワシに置き換えられた

  • 【5】完成画。作画と比べても、遜色のないハイクオリティな魚群となった

魚群が使われた冒頭シーンのブレイクダウン

■パーティクルで制御された魚群②

海を魚群が追いかけるカットを紹介する。


  • 【1】作画LO

  • 【2】作画LOの通りにCurve Flowを作成し、このCurve Flowに沿ってパーティクルがながれていく。Curve FlowのCurveとFlowのControl_curveをアニメーションした。異なるCurve Flowごとに、パーティクルの色が分かれている


  • 【3】インスタンス後。パーティクルを魚に置き換えた状態で、魚群の動きの軌道がわかる

  • 【4】作画LOの形に合わせるために、作画マスクでInstancerのパス(軌道)を調整した。さらに、目立つ魚は作画LO通りに3Dモデルを貼り込んでいる。また、魚感が足りないときは、魚群が泳いでいるところにCGの魚の連番素材(2D状態のもの)を出し、コンポジットで追加して対応しているとのこと


  • 【5】Instancerと魚の3Dモデル、そして作画のパス

  • 【6】完成画

NGとなった魚群の例

作画による、魚群の参考アニメーション

完成までのブレイクダウン

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