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デジタル作画も導入! STUDIO4℃が描く映画『海獣の子供』におけるこだわりの画づくり

デジタル作画も導入! STUDIO4℃が描く映画『海獣の子供』におけるこだわりの画づくり

6月7日(金)に公開されるSTUDIO4℃制作の映画『海獣の子供』。原作漫画の雰囲気をいかに映像化するかにこだわられた本作では、一部でCLIP STUDIO PAINTを中心としたデジタル作画を導入している。そこで今回は、デジタル作画のメリットを活かした制作について話を聞いた。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 250(2019年6月号)からの転載となります。

TEXT_草皆 健太郎BOW
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

映画『海獣の子供』6月7日(金)全国ロードショー
原作:五十嵐 大介『海獣の子供』(小学館 IKKICOMIX刊)/監督:渡辺 歩/音楽:久石 譲/キャラクターデザイン・総作画監督・演出:小西賢一/美術監督:木村真二/CGI監督:秋本賢一郎/色彩設計:伊東美由樹/音響監督:笠松広司/プロデューサー:田中栄子
主題歌:米津玄師『海の幽霊』(ソニー・ミュージックレーベルズ)
アニメーション制作:STUDIO4℃
製作:「海獣の子供」製作委員会
配給:東宝映像事業部
www.kaijunokodomo.com
Twitter:@kaiju_no_kodomo
©2019 五十嵐大介・小学館/「海獣の子供」製作委員会

STUDIO4℃が満を持して贈り出す、映画『海獣の子供』

漫画家 五十嵐大介氏が描く海洋冒険物語『海獣の子供』が、STUDIO4℃によって映画化される。約4年の歳月をかけてつくられた本作は、原作漫画の世界観や雰囲気を忠実に再現した美しい映画だ。原作漫画は独特なタッチで、中毒性の高さがあり、それゆえに「原作のタッチを再現するために、総作画監督補佐の板垣彰子さんや総作画監督の小西賢一さんは苦労していました」と、制作の天田直也氏は話す。

もともと本作ではデジタル作画の導入予定はなく、制作が始まった2014年当時は「そろそろデジタル作画がくるかな?」くらいの状況で、通常のフローが組まれた。キャリア11年の板垣氏は「学生時代からEasyToonや『うごくメモ帳』(DS)で簡単なアニメをつくっていたので、ずっとデジタル作画に興味がありました。『海獣の子供』に携わり始めた頃、CLIP STUDIO PAINT(以下、CSP)にアニメーション機能が搭載されて、作品で使ってみることにしたんです。小西さんは柔軟に受け容れてくれて、CG作品の監督経験のある渡辺 歩監督も"やってみていいよ"と言ってくれました」と語る。まずはやってみて、問題があれば都度修正をくり返したそうだ。

本作の原画は66名、内デジタル作画は11名で、動画はのべ100名近くが参加し、デジタル作画は3名ほど。チェックは紙がほとんどだったが、小西氏は3Dモデルの監修や、デジタル素材に対してデジタル作画で修正を入れるなどしていたという。作業環境は、Wacom Cintiq 13HDを使用していたが、A4サイズを等倍表示できるWacom Cintiq Pro 16が出たところで乗り換えている。「デジタル作画は板タブレットで描き始めました。ラフは板タブレットでも良いですが、繊細に描く際や、動画的に細かく動かすとき、清書作業などは液晶タブレットの方が描きやすかったです」と板垣氏。なお、PCに関してはほぼ全て天田氏が組んでいる。スペックは必要最小限からはじめ、必要に応じてメモリなどを増やしているそうだ。

ソフトはCSPをメインに、動画検査などでは直感的に扱えるTVPaint Animation(以下、TVP)も用いられている。本作独特の線のニュアンスを再現する場合、TVPも相性が良かったそうだ。一方CSPは機能が多く、日本語での情報も豊富で、プレビュー時に修正したい場合に止めた画に描き加えることが可能(TVPはプレビューして止めるとスタートしたコマに戻ってしまう)というメリットがあるという。さらにCLIP STUDIO TABMATEを使うことで、より効率的にデジタル作画作業を進められる(板垣氏談)とのこと。

アニメ制作はスタッフ数が多く、学習コストもかかるため、一斉にデジタル作画へ切り替えるわけにはいかないが、STUDIO4℃では希望者には環境を整えるようにしているという。デジタル作画に前向きな姿勢はさすがである。

『海獣の子供』の制作におけるデジタル作画の活用

本作は総数約1,500カットのうち、140カットほどで何かしからデジタル作画が入っている。その大半はラフ原画で使われているそうだ。また、15カットほどは原画から動画までフルデジタルで仕上げたという。まだ全てのカットをデジタルで......とはいかないまでも、徐々にデジタル作画が浸透し始めているという印象を受けた。

初めて観た特報映像から、前面に押し出された画の力を感じた筆者は、画の密度も、惹きつけられるアニメーションも、相当濃い作品になっており、正直、作画事例を見て「これがホントに動いちゃうの......!?」と思ってしまったほど。そこで、具体的なデジタル作画の例をいくつか紹介しよう。

デジタル作画を用いたカットについて「ハンドボール部の部活のシーンでは、カメラワークも同時に見るために、ラフ原画をデジタル作画で描きました」と、板垣氏。当該シーンはカメラワークも激しく、モブキャラクターも多かったので、修正が容易なデジタル作画は重宝したそうだ。素材を撮影に出したときも、作画側でカメラワークが付けてあるとニュアンスが伝わりやすい。

また、本作ではモブに対してもある程度の描き込みが要求され、微妙な位置にもかなり厳しいチェックが入ったという。デジタル作画であれば、描き込んだ素材の位置調整もしやすいため、人間のキャラクターはもちろん、イルカやシャチなど世界中の海洋生物が集まってくるカットなど、モブシーンの多くでデジタル作画が用いられたそうだ。「紙で描いてもらったすごく引きのカットの原画があって、モブキャラクターが細かいので拡大作画で対応していたのですが、モブをバラして描くと全体像がわかりにくくなってしまいました。そこで、一度スキャンしてデジタル作画で修正することで、全体を見ながら作業ができました」(板垣氏)。

修正に関しては、最後の最後まで小西氏による修正が施されている。ものによっては、二値化される前のラインのタッチを再現したブラシを使いつつ、撮影後の素材に対して直接加筆しているそうだ。「画づくりに最後まで粘れたのは、デジタルの恩恵があったと思います」(板垣氏)。

デジタル作画を導入してみて「カメラワークも含めて、プレビューができるのが良いですね。細かい調整や修正ができることも魅力です。ブラシを上手く使えば、エフェクトの幅も広がるかもしれません。一方で、まだルールがゆるいことは弱点です。デジタル作画ができるアニメーターの人数も少なく、大勢でやるときは課題が多いと感じます」と板垣氏は話す。本作でデジタル作画のカットは1割にも満たないが、それでも今後を踏まえて、現場からの要望があれば採用していく方針だそうだ。

取材を通して、デジタル作画は少しずつ浸透しているが、まだまだ旧体制と入れ替わるには時間がかかる印象をもった。しかし板垣氏の話を聞いて、少しずつ世代が交代され、新たな技術も普及してきていると感じる。様々な作品の中で、本作は新しい表現手法を示した作品なのだと思う。アナログとデジタルが融合する本作を劇場で観るのがとても楽しみだ。

作画作業の様子。液晶ペンタブレットも16インチあると作画時に窮屈さもなく、かつ動画机に置いてアナログのように描けるので快適だそうだ。また、左手にはCLIP STUDIO TABMATEを装備。必要なショートカットを登録している。例えばページ送りを登録してコマを前後に移動させて加筆修正を加えるなどの使い方をしているそうだ。以前はキーボードのショートカットを使っていたそうだが、現在はTABMATEを愛用しているとのこと。「Bluetoothになってケーブルの煩わしさからも解放されました」(板垣氏)

板垣氏のTABMATEの設定。参考にしていただきたい

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POINT 01 原作の雰囲気を意識した画づくり

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