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『海獣の子供』監督&CGI監督が語る、作画とCGを組み合わせたアニメーションのつくり方~あにつく2019(1)

『海獣の子供』監督&CGI監督が語る、作画とCGを組み合わせたアニメーションのつくり方~あにつく2019(1)

9月28日(土)、秋葉原のUDX GALLERYにて、アニメ制作技術に関する総合イベント「あにつく 2019」が開催された。今年の基調講演では6月公開の映画『海獣の子供』から渡辺 歩監督と秋本賢一郎CGI監督が登壇。同作の制作秘話から業界志望者に向けたメッセージまで、多岐に渡った講演の内容をレポートする。

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TEXT&PHOTO_高橋克則 / Takahashi Katsunori
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

【6.7公開】 『海獣の子供』 予告2(『Children of the Sea』 Official trailer 2 )

<1>リアルだと感じられるCGを求めて

はじめに司会進行を務めた松澤千晶アナウンサーから、アニメーション業界に入ったきっかけについての質問があった。渡辺 歩監督(以下、渡辺監督)はひとくちには言えないと悩みながら、高校生のときに『風の谷のナウシカ』を観て「こんな作品をつくってみたい」という欲求が生まれたとふり返った。

一方、秋本賢一郎CGI監督(秋本氏)は「今まで言えなかったのですが......」と前置きをしつつ、渡辺監督が参加していた『ドラえもん』が大好きだったと告白。前職はゲーム会社に所属していたが、映像の仕事を任されたことでアニメをつくりたくなり、アニメ業界に飛び込んだという。「まさか渡辺さんと仕事をするとは思ってもいなかったです」と話す秋本氏に対して、渡辺監督は「初めて聞いたよ」と驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべた。

右から渡辺 歩監督、秋本賢一郎CGI監督、松澤千晶アナウンサー

その2人が監督・CGI監督の立場で映像化に挑んだ『海獣の子供』は、五十嵐大介が手がけたマンガが原作。圧倒的な画力と繊細な描写で高い評価を得ており、第38回日本漫画家協会賞優秀賞や第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞など数々の賞に輝いた。

当初、同作のアニメ化が動いていると知った渡辺監督は、「何て無謀なことを......」と思ったと告白。原作がもつ膨大な情報量をアニメで表現するのは途方もない挑戦だと感じたそうだ。その一方、五十嵐作品のファンでもあったため、「他人の手に渡って悔しい思いをするのなら」との気持ちが生じ、困難がまち受けていることを承知でオファーを引き受けた。

映像化にあたって大きな鍵になったのは、キャラクターデザイン・総作画監督・演出の3役を務めたアニメーター・小西賢一氏の存在だ。渡辺監督とは『ドラえもん のび太の恐竜2006』やTVアニメ『謎の彼女X』などでタッグを組んでおり、「原作の有機的な表現を小西さんは好むだろう」との確信があった。

だが最初の2~3年は、小西氏が求めるクオリティのCGに達することができなかったと秋本氏は語る。小西氏がCG班に渡したメモには「手描き作画の魅力をしっかりと感じさせることが大目標」など、膨大な数のコメントが書き込まれており、その高い要求に対してどう応えていくのかをひとつひとつ考えていったそうだ。

小西賢一総作監監督によるメモ

これまで秋本氏が関わったタイトルでは、作画を補強する用途でCGを使うことが多かったが、『海獣の子供』ではCGが見せ場となるカットも多数含まれており、そのことも作業のハードルを上げる一因だった。例えば魚群が動き回るシーンは、魚のひとつひとつを手で描くことはできないため、CGがなければ実現不可能だ。それゆえにCGの出来不出来がシーンの印象まで決めてしまう。

渡辺監督からは「魚群をひとつの意思をもった生物のように描いてほしい」というリクエストがあったものの、魚の不規則な動きをCGで表現するのは難しい。筑波大学に協力を仰ぎ、魚の泳ぎが12種類に分類できることを教えてもらうなど、様々なアプローチから研究を重ねた。

魚の動き方の分類

さらに魚群はパーティクルだけでコントロールするのではなく、群れから遅れそうになったり、別の方向へ進んでいたりと、イレギュラーな動きをする魚を手付けで加えている。人間がリアルだと感じる表現は、必ずしも現実に即した動きをしている訳ではなく、むしろリアルすぎると不自然に見えてしまうこともある。そこで小西氏が描いた躍動感のあるイワシの動きを参考にして、あえて体を伸び縮みさせるような手法も採り入れた。手描きアニメのテクニックも導入することで、良い感じの"いい加減さ"を目指したのだ。

魚群のスケッチ

魚群

渡辺監督は波についても「実写のような波ではなく生き物らしく描きたかった」とコメント。東映動画やテレコム・アニメーションフィルムで活躍したアニメーター・大塚康生氏の名前を挙げて、先達たちが追求してきた表現から得たものもあったと話す。

CG班もアニメーションが好きなスタッフが揃っており、昔のアニメのデザイン化された波の表現なども研究していたという。その中で『海獣の子供』の世界観にマッチする手描きとフォトリアルの中間となる波を生み出していった。

秋本氏はそのような表現が実現できたのは、小西氏をはじめとするアニメーターや美術、色彩など各セクションのスタッフと一緒に仕事をして、様々な刺激を得られたからだと話す。渡辺監督も「CGは物理的な入力に従って動いているので、こちら側も教わることが多かった」とスタッフ同士で切磋琢磨していた現場だったと語り、今後のアニメ業界について「CGだから作画だからではなく、お互いの感覚を融合させて、つくりたい画面を目指すことによって、より高い到達点までたどり着けるのではないか」と展望を述べた。

<2>感性を磨いて、もち続けることが大事

『海獣の子供』のビジュアルを生み出す上で、どのようなやり取りをしていたのかという質問では、渡辺監督は「原作の絵が最大公約数として存在したので、そこから想起したことであれば共有しやすかった」とコメント。「あとはプラスアルファをどうするかで、僕は皆の良いところを煽るだけです」と自由な方針だったと明かす。

手前の魚はセル、後ろは3DCG

それに対して秋本氏は「"好きにつくっていいよ"と言われると燃える」とコメント。様々な表現を求めるチャレンジ精神は、今回の現場を経験したことでより一層培われたそうだ。

同作の制作は、企画段階を含めると6年という長期間に及んだ。渡辺監督は「作業期間が長いとどうしても現場が停滞する時期が出てくる」としながらも、「最後は愚直にやること。それに尽きるような気がします」と作品に対峙する姿勢が重要だと語る。『海獣の子供』の表現に驚いた海外メディアからは「『白蛇伝』(1958)の頃とどうちがうのか?」といった質問を受けたこともあったが、そういう意味では「基本的なところは同じかもしれない」と笑顔を見せた。

最後に秋本氏は『海獣の子供』について「アニメーションをつくるのは本当に大変だなとつくづく思ったが、そういった苦労によってでき上がった作品は一朝一夕に超えられるものではない。ものづくりの神髄に触れることができたので、今後もそういった現場が増えていけばいいなと思っています」。

渡辺監督はアニメ業界を目指す若者に向けて「僕らが10代だった頃に比べれば、今ははるかにツールや環境が揃っています。感性を磨いて、もち続けていることが大事です」とメッセージを伝える。続けて「僕らが今回つくったものもアニメの一端、映画の端くれです。本当に様々なものを出せるということが、アニメの成熟に繋がってくると思います」と多様性の大切さを説いてイベントは幕を閉じた。

基調講演の中で渡辺監督は「夢はオリジナルをつくること」だと打ち明け、「チャンスがあれば1本だけでもいいからつくりたい」と話していた。そして挑戦しているという点においては、会場にいるアニメ業界志望者も同志だとして、熱い言葉を贈っている姿が印象的だった。今後はどのような作品を手がけていくのか。ますます期待が膨らむ基調講演となった。

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