創刊200号記念号、CGWORLD.jpのリニューアル、電子書籍化、CGWORLD大賞の新設など、新トピックが目白押しだった2015年のCGWORLD。編集長の沼倉有人に1年間を振り返りつつ、2016年の抱負を聞いた。
創刊200号を契機にWEBメディアが本格始動した2015年
ーー2015年もいよいよ押し迫ってきましたが、今年はどんな年でしたか?
沼倉有人(以下、沼倉):去年の後半から仕込んできたことが、いろいろと形になっていって、例年以上に広がりが出た年だったと思います。これまでは職人的に雑誌編集だけをやっていればいいという雰囲気が、ずっと残っていたんですよ。ただ、それだけだと先細りになることは、目に見えていますよね。それがようやく、今年の後半になって本誌・WEBメディア・イベントという3本柱が確立し、相互連携できるようになってきました。
ーーきっかけはありましたか?
沼倉:創刊200号(4月号)が大きかったですね。これに向けて一つの盛り上げをつくろうと、昨年の秋から準備を始めていました。表紙をテライユキで描きおろしたり、過去のふり返りを誌面で行ったり・・・。『CGWORLD PARTY』などの開催や読者からの意見も多かった電子書籍化(現在はiOS Newsstandのみ)もしました。ただ、記念号を出しておしまい、という風にならないように気をつけました。
▲CGWORLD創刊200号記念サイト(http://cgworld.jp/special/200th/)
ーー具体的にはどんなことですか?
沼倉:大きかったのがCGWORLD.jpのリニューアルで、200号にあわせて2月に行いました。もともとCGWORLD.jpは2010年からスタートし、PV数は微増ではありますが一応右肩上がりで増え続けていました。ただ、まだまだ読者の皆さんが定期的に見ていただけるようなWEBメディアとしてはほど遠かったです。そこで、200号に合わせてリニューアルを行いました。しかし、リニューアル後も記事の本数を思うように増やすことが雑誌と兼務しているとなかなか難しく...それで、今年の9月から僕がWEBの編集をメインで見ることで現在は月に25本〜30本程度(ニュース記事以外)の記事を配信することができています。
ーー確かに、CGWORLD.jpの記事が多くなりましたね。イベントレポートなども多く掲載されるようにもなりました。
沼倉:弊社ではCGツールなどの販売を行っている関係上、さまざまなイベントやセミナーを行っています。それとは別に、CGWORLDでも学生向けの「CGWORLD Entry Live」、クリエイター向けの「CGWORLDクリエイティブカンファレンス」、より幅広い層に向けた「ニコニコ生放送『CGWORLD CHANNEL』」などを行っています。ただ、これまでは個別にやっていた印象が強かったんですよね。これがWEBでイベントレポートを掲載することで、一体感が出てきました。
ーーなるほど。
沼倉:これらのイベントは編集部ではなくマーケティング担当が中心に進めています。その結果、連携が深まって、より立体的な動きができるようになりました。雑誌もイベントも、どちらも単発のものじゃないですか。それに対してWEBメディアは日刊ベースのものですよね。そのためWEBが接着剤となって、双方で交流が深まり、新しいことができるようになってきたんです。
本誌とWEBメディア、求められる記事傾向の違い
ーーCGWORLD大賞もその一つですね。
沼倉:まさにそうですね。もともとCGWORLD大賞は自分が5ー6年くらい温めていましたが、どのように進めればいいか悩んでいました。それがマーケティングの方から、学生向けフリーペーパーの「CG WORLD entry」向けに、2015年に活躍したクリエイターや優れた作品を紹介したいという企画が上がってきたんです。
▲CGWORLD大賞2015特設ページ(http://cgworld.jp/special/award2015/)
ーーそうだったんですか。
沼倉:はい。自分の背中を押されたような感じです。CGWORLDにとっても、今年は創刊200号を出版したメモリアルイヤーですし、今しかないだろうと。それで全体の企画として実施することになりました。幸い業界としても温かく迎えていただき、安堵しました。顕彰したいと言っても、迷惑ですといわれないか、正直不安だったんですよ。
ーーまさに、点が線でつながったわけですね。
沼倉:そうですね。出版社にとってWEBメディアは長く、雑誌のおまけ的な存在だったと思うんですよ。それが今では、雑誌もWEBもイベントも並列で、トータルでプロデュースしていく時代です。CGWORLDは雑誌が母体で、これをないがしろにするつもりはまったくありませんが、位置づけが変わってきたということですね。
ーー求められる記事の違いなどはありますか?
沼倉:雑誌は有償コンテンツなので、解説記事やTIPSなど、CG制作の実務に直接役立つ要素が必用です。一方でCGにはアニメ・映画・ゲーム・CMと、さまざまな業界に浸透していく自由さがあります。個人的には内容に変化があっておもしろいんですが、読者クラスターが固定しない悩ましさもあります。
ーーWEBメディアについてはどうでしょうか?
沼倉:WEBメディアは無償コンテンツなので、本誌でもれた内容や、インタビューなどの深掘り記事が可能です。掲載タイミングの重要さも実感しました。2015年一番多く見られた記事が「スクープ!日本のVFXを新たなステージへ導くのか、『GAMERA』(ガメラ生誕50周年記念映像)で石井克人監督がめざすもの」なのですが、幸いにも記者発表の直後に掲載することができて、PVが突出しました。
ーー雑誌からの転載記事も人気がありますね。
沼倉:そうなんですよ。「映画『バクマン。』(VFX制作:ピクチャーエレメントほか)」は好例で、本誌207号(11月号)からの転載記事ですが、非常によく読まれました。こんなふうに雑誌で良記事を作れば、ネットを使って、より多くの人に届けられることがわかりました。
ーー取材時点(12月16日)で週間ランキング1位が「求人記事」というのも驚きです。
沼倉:「キャラクターバルーン・エアー着ぐるみのピア21がデジタル3D課の造形スタッフを募集」ですね。これもCGWORLDならではだと思います。まさかバルーン・エアーのデザインがCGで行われていて、ゲーム業界出身のクリエイターが携わっているなんて、普通は思いませんよね。求人記事の枠を越えて、読み物としてもおもしろい内容になっています。
質を担保しながら領域を広げていきたい
ーーイベントに話を移すと、今年は沼倉さん自身がトークライブの司会をされるなど、前に立って話される機会が増えましたね。
沼倉:本当は裏方に徹したいんですけど、そうも言っていられなくて(笑)。CGWORLD entry Liveやニコ生などの機会が増えました。編集部でもそうした行為を促しています。
ーーイベントの効果をどのように感じられていますか?
沼倉:CGWORLD entry Liveをやっていて良かったのは、学生から「業界の入り方が具体的にわかるようになった」と言われた時ですね。学校の先生方や親御さんの中には、まだまだCGアーティストという職業観が確立されていない方も多いと思うんですよ。そうした意識改革の一つになればいいなと思っています。今後はCGファンの開拓にもつながればいいですね。
ーーCGWORLDクリエイティブカンファレンスも、今年で5回目になりました。
沼倉:毎年秋口に開催しており、年々参加者が増えています。アニメ、映画、CM、ゲームなど、CGの領域はどんどん広がっています。ところが、これらを俯瞰する業界横断的なカンファレンスって、これまでなかったんですよ。さまざまな分野で活躍されているクリエイターの方を一堂に招いて、知見を共有したり、新しい出会いが生まれたり、そうした場に今後もしていきたいですね。
ーーニコニコ生放送も続いていますね。
沼倉:毎月、本誌の発売日付近に行っています。講演と違って視聴者の反応がリアルタイムで見られるところがいいですね。ニコ生ファンの中にはTVを見るような感じで番組を見ている人が一定層います。より幅広い層の人にCGの魅力が伝わる一助になればいいなと思っています。
ーーそれでは最後に2016年にむけての抱負を聞かせてください。
沼倉:本誌・WEBメディア・イベントと、それぞれでクオリティを下げることなく、取り扱う範囲をどんどん広げていければと思っています。2016年1月号(2015年12月10日発売)のデジタル作画はその一つですし、最近では漫画でもメカ物などでCGの活用が見られますよね。その上で、自分たちが作った記事やコンテンツを、できるだけ多くの人に見てもらえるような取り組みをしていきたいと思っています。
TEXT_小野憲史
PHOTO_弘田充