Cygamesが開発・運営しているソーシャルゲーム『グランブルーファンタジー』。その美しく繊細なデザインワークは、アートデザイナーの皆葉英夫氏と、同社所属のデザイナーたちが中心となって手がけている。その1人であるYUTA氏に話を伺った。

学生のうちにしっかり基礎体力を付けてほしい

YUTA氏が初めてデッサンを体験したのは、高校入学後に所属した美術部だった。「顧問の先生は古風な具象画を好む実力主義の方で、部員は60人くらいいました。本気で絵を描きたい人が何割かいたおかげで、石膏像のデッサンも体験できたりと、恵まれた環境でした」。次第に美術への関心が深まっていったYUTA氏は、美術大学受験を決意し、美術予備校に通い始めた。

「美術部のデッサンだけでは限界があったので、より本格的なトレーニングができる予備校にも通ったのです」。通算で2年以上予備校に通い、1年間の浪人時代には1日12時間以上デッサンや油画を描いていたという。「"一日中描かないと合格できない"と予備校の先生におどされ、ひたすら基礎練習を繰り返す日々でした(苦笑)。毎日ヘトヘトに疲れましたが、楽しかったです。科学や数学の勉強が苦手だった自分にとって、美術は唯一の輝く道しるべでした」。

この時に培ったデッサン力が、今の仕事の"基礎体力"になっているとYUTA氏は語る。「デッサンは、アスリートにとっての筋トレのようなものです。筋トレを怠れば、途中で息切れして遠くまで走れません。時間のある学生のうちに、しっかり基礎体力を付けることをお勧めします」。

1:楽しんで続けられる練習方法を見つける

デッサン力は、長い期間をかけて地道に身に付けていくものだ。前述の通り、YUTA氏の場合は学生時代に2年以上の期間を費やしている。「予備校などに通って専門の先生に習うことが、デッサン力を上げる一番の近道です。忙しいなどの理由で通えないなら、デッサンの教本をひたすら模写して、慣れてきたら独自にモチーフを設定してみると良いでしょう」。ただし、中にはデッサンに対するモチベーションがわかない人もいるだろう。その場合は、マンガを描いてみてはどうかとYUTA氏は続ける。

「人体や背景など、様々なモチーフを描けないとマンガになりません。準商業レベルのマンガが描けるようになる頃には、自ずとデッサン力が身に付いているでしょう。自分が楽しんで続けられる練習方法を見つけて、諦めずに続けることが大切です」。

美術予備校時代には、レンガ、金属球、紐、自分の手など、様々なモチーフのデッサンを経験したが、とりわけ苦労したのは石膏像だったとYUTA氏はふり返る。<左>はモリエール、<右>はマルスの石膏像のデッサンで、どちらもYUTA氏が予備校時代に描いたものだ。「美術大学の受験生にとってはお馴染みのモチーフなので、似ていなければ直ぐにわかってしまいます」

2:たゆまぬ練習で画力を上げ続ける

立体把握力、質感表現力、遠近法(パース)など、デッサンを通して学べることは数多くある。YUTA氏の場合、特に質感表現のノウハウが今の仕事に活かされているという。「『グランブルーファンタジー』には、数多くのクリーチャーが登場します。爬虫類のようなウロコ、鳥のような羽毛、肉食獣のような毛並みなど、様々な質感を描き分ける必要があるので"デッサンや油画をやっておいて良かった!"と感じることが多いですね」。

さらにYUTA氏は、現在も絵の練習を続けているという。「仕事が終わった後、毎晩自宅で人体のクロッキーを20~50体ほど描いています。人体を描く機会はすごく多いので、人体の知識が深まるほどに良い仕事ができるようになります」。





これらは、YUTA氏が描いた『グランブルーファンタジー』に登場するクリーチャーたちだ。デッサンを通して学んだ立体把握力、質感表現力、遠近法(パース)などが存分に活かされている。「美術大学では人体や動物をモチーフにした油画を描いていました。当時はリアルで肉感的な作風を好んでいましたが、今の仕事で同じような絵を描いてしまうとグロテスクになるので、ユーザーが好むソフトな表現へと頭のなかで変換してから描いています」

3:自分の絵を人に見せ批評を聞く

美術大学で仲の良かった友人がゲーム業界を目指していたことがきっかけで、ゲーム業界に興味をもったというYUTA氏。精力的に油画を描く一方で、ゲーム業界に就職するための試行錯誤もしていたとふり返る。「油画の学生の何割かは毎年ゲーム業界を目指していました。でも、油画一直線でほかのことに対するアンテナが低すぎると、ゲーム会社の方々に振り向いてもらえないのです」。そのためYUTA氏は、イラスト投稿サイトpixivで、世の中の流行を知る努力をしたそうだ。

「大学の教授から評価されていた当時の作風の絵では、pixivのランキングは上がらなかったのです。ランキング上位作品のポップな作風を分析して、それを真似た絵を描くほどに評価が上がっていきました」。この経験を通して、需要と供給の関係性を学んだとYUTA氏はふり返る。「自分の絵が人からどう見られているのか、知る努力をした方が良いですね。人の批評を聞くことで、さらに上手くなれます」。

YUTA氏が担当するクリーチャーのなかには、このような巨大な幽霊船も含まれる。「奥行きを想定して破綻のないパースを付けないと、大きさが伝わりません。デッサン力の有る無しは、絵のクオリティに直結します」

INTERVIEW_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充